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第3話 勇士の過去


 初めての部活動から一日後の昼休み。


 3時間目頃からお腹をすかしていた勇士は、この時間を心待ちにしていた。

 母親に作ってもらったお弁当を食べようとすると、勇士の元に二人の男子生徒が

やって来た。


「お昼一緒にいいかな?」


 一人は、少し長めの黒髪、整った顔立ちの同じバスケ部で1軍に選ばれた早坂奏

だ。


「お腹減りすぎて死んじゃうよ~」


 もう一人は、同じく1軍に選ばれた宮部亮だ。

 三人とも同じクラスで、同じく1年で1軍に選ばれたもの同士、仲良くしようと

いうことだろう。


「あぁ、もちろんいいよ!」


 断る理由などなく、勇士も当然快諾する。

 お昼ご飯を食べるため勇士の机に自分の椅子を持ってくる奏と亮。

 準備が出来ると即、大きなお弁当を開きご飯を食べる態勢に入る亮。


「いただきまーす」


「ははっ、宮部君は食べるの早いな」


 亮の勢いに思わず微笑する奏。


 お互いまだ自己紹介もしていないことに奏が気づいた。


「あっ、そうえばまだ自己紹介がまだだったね、僕は早坂奏、奏って呼んでくれて

いいよ」


「俺は笠原勇士、俺も勇士でいいよ」


ほへが(俺は)ひはげびょー(宮部亮)びょーべびびごー(亮でいいよー)


「ちゃんと食べてから喋りなよ、亮でいいよね?」


んんっが(わかった)


 食べながら喋る亮に奏は、呆れ顔で首を横に振る。勇士も苦笑いでその光景を

見ている。

 そんな亮を置いて勇士と奏は、バスケの話を始める。


「奏はバスケすごい上手いけど、どこの中学でやってたの?」


「泉ノ山中学。弱小校だから知らないと思うけど」


 肩をすくめながら奏は勇士の質問に答えた。

 確かに泉ノ山中学なんて中学校は勇士には、聞き覚えのなかった。

 弱小校ながら東京都でも強豪校の宝星で、いきなり1軍に入れたことに勇士は、

只々感心していた。


「でも、本当にすごいゲームメイク能力とパスセンスだったよね。あれほどのPG

は中々いないよ!」


「PGとしての仕事をしてるまでだよ」


 照れくさそうに奏が返す。


「勇士の3ポイントシュートも物凄い綺麗で、敵チームなのに見とれそうになった

よ!」


「いやぁ、俺って結構いい時と悪い時の波とかあるし……」


「勇士ってクラッチに弱いの?」


 ずっとお弁当をかきこんでいた亮が急に、勇士と奏の会話に割って入り、勇士の

核心にせまる質問をする。


「亮! お前、急に・・・・・デリカシーなさすぎだぞ!」


 語気を強めて奏が亮を咎める。その声は周りの生徒が勇士たちの方を振り向くほ

どだ。

 亮はそんな早坂に怯まず、いつも通りマイペースに言葉を続けた。


「これから一緒のチームでやってくんだから、そうゆうこと知っとかなくちゃダメ

でしょ? 俺は、東京出身じゃないから勇士のことは、噂程度でしか聞いたことな

いから噂通りかどうかわかんないよー」


「だからってお前な……」


「大丈夫だよ、奏」


 これ以上二人で会話を続けるとヒートアップして大変なことになりそうなので、

勇士が間に割って入る。

 それに、自分の弱点についてはちゃんと言っておいた方がいいという判断だ。


「勇士……」


 奏は心配そうに勇士を見つめる。

 勇士は、大きく息を吸い込み、覚悟を決め自分の口から話すことを決めた。


「恐らく亮の聞いてる噂通りだと思う……俺は、クラッチタイムに極端に弱い」


 勇士が重い口を開く。


 勇士は、小学校の頃から勝負所に弱かった。その弱点があっても、勇士のシュー

ト力は、他の選手にはない才能で、極力、勇士がクラッチタイムでシュートを打つ

ことは避けていた。


 だが中学校、最後の大会の準決勝、その勝負弱さが、さらに悪化することになっ

た。


 第4クォーターの時点で勇士たちの中学は、62-52で10点リードして

いた。


 だが、勇士の※ターンオーバーなどの連続したミスで、残り5分を切った頃には

70-71の1点リードされていた。


 そこから、勇士のディフェンスが緩くなり、やむ負えずシュートを放つも、2本

の3ポイント、2本のフリースローを全て、※エアボールで外してしまう。


 何とか他の味方が、ディフェンスで相手の攻撃を止め、1、2点差で食らいつい

ていった。


----------------------------------------------------------------------------


ターンオーバー……オフェンスのミスで攻守が入れ替わること


エアボール……リング、バックボード、ネットなどの、どこにも触れず外れたシュ

ート


----------------------------------------------------------------------------


 残り10秒ほどで、2点差で負けていた勇士たちのオフェンスとなったが、相変

わらず、相手チームはわざと、勇士のディフェンスを緩くして守っていた。


 味方のPGは、勇士以外のパスコースを探していたが、残り時間僅かの場面で、

相手ディフェンスが気を抜くわけもなく、2点差ということも考えて、3ポイント

が得意でディフェンスの緩い勇士にラストショットを託した。


 結局、勇士のラストショットもエアボールに終わり、そのまま試合終了のブザー

が鳴った。


 ラストショットもエアボールだった勇士は、悲しみの感情すら出てこず、呆然と

立ち尽くすことしかできなかった。


 その後の3位決定戦も接戦となり、クラッチタイムで3ポイントを放った勇士だ

ったが、またもやエアボールとなりそれ以降、ボールを貰ってもパスしかできず、

ベンチへと下げられてしまった。


 準決勝も3位決定戦も自分が決めていればと、真面目で、責任感の強い勇士は、

しばらく自責の念にかられていた。バスケ自体、辞めようとも考えた。


 しかし、小学校の頃からずっと大好きで、全力で取り組んできたバスケを捨てる

ことは出来ず、高校でもバスケ部に入ろうと決意した。


 勇士は思いの丈を二人に話した。


 奏は、自分のことのように苦しそうな表情で勇士の話を聞いていた。

 勇士たちの周りには重い空気が流れている。


 そんな中、亮が口を開く。


「んー、まぁ、バスケは普通に上手いしなんとかなるでしょ。」


 軽く、呑気な口調で亮がいつものように言った。


「お前……適当に言ってないか?」


「本気で言ってるよ~、まぁ、どうしても克服できなかったら、そうゆう場面では

俺が、点数取りまくれば良いし」


 誇らしげに言う亮に、それを見た奏が「やれやれ」といった表情で亮を見る。


(亮なりの励ましなのかな……)


「ありがとう」


「何が?」


 勇士のお礼を聞くと亮は、またお弁当をかきこむ。照れ隠しなのか、さっきより

お弁当食べる速度が早くなる亮に、勇士と奏は、顔を見合わせほほ笑む。


 そんな三人を、密かに見守っていた人物が納得した表情で呟く


「なるほど、そんなことがあったのデスかー」


 その人物は、ジェニファーだった。

 昨日に引き続き、バスケ部に興味がある様子だ。

 



 勇士たちは、色々な話をしながら昼食を食べ終えた。

 あとは、5,6時間目の授業を受け、1軍で初めての部活だ。

 自分の心のモヤモヤを吐き出した勇士は、少し気が楽になった気がして、さらに

放課後の部活動が楽しみになった。


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