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第12話 元矢と譲


 ※ハーフタイム、宝星ベンチは後半からのゲームプランを話し合う。


--------------------------------


ハーフタイム……第2Qと第3Qの間の10分間の休憩。


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「成瀬のヤツ、去年より、一段と力をつけてやがる!」


「うーん、あれは止めるの難しいねー」


 譲のオフェンス、ディフェンス両方で圧倒されている、泰山と亮が改めて、譲の

実力を認める。


「でも、あれほどの実力者がなぜ、白鳥に?」


「確かに、もっと強豪のチームに行ってもよかったのに」


 全国クラスの実力者ながら、全国大会に出場したことのない白鳥学園に所属して

いる譲に、勇士と奏は疑問を抱いた。

 そして、その問いに猪本監督が答える。


「成瀬は、中学時代は全国大会に出場するチームのエースだった。だが、我の強す

ぎる性格で、オフェンスでは自分が一番シュートを打たないと気が済まず、ディフ

ェンスではヘルプディフェンスをサボりがちで、チームを崩壊させかねないとして

、強豪高校からのスカウトは全く来なかった」


「なるほど……」


 猪本監督の説明に納得する奏。


「でも、今は、ヘルプディフェンスもしっかりしてるし、献身的なプレーをしてい

ますよね?」


「うむ、それは、来栖の存在が大きいのだろう」


 今度は、勇士の質問に答える猪本監督。




=============================


 今から二年前。譲は、唯一スカウトが来た、白鳥学園高校に入学することになっ

た。


 大方の強豪校の予想通り、譲はその我の強さを見せていた。


「おいおい、ボールは全部、俺に渡せよ。お前らより、俺の方が格上なんだからよ

ぉ」


 横暴な譲に、白鳥バスケ部員のほとんどが譲のことを嫌っていたが、そのバスケ

センスは圧倒的に部内で一番だったため、誰も文句を言えなかった。


 だが、そこに元矢が一石を投じた。


「成瀬君、バスケットボールは、一人でプレーすることはできないのですよ。チー

ムプレーを大事にしていきましょう」


「あぁ、誰だ、このメガネ野郎? お前みたいなチビが粋がってんじゃねぇよ」


 忠告をしてきた元矢の前に立ち、20㎝以上ある身長差で、上から見下ろし、威

圧する譲。


「チビでも、上手くチームプレーをすれば、勝つことができますよ」


「無理だな、お前みたいなチビが何人束になっても、俺一人で戦った方が勝てるに

決まってるだろ?」


「では、試してみますか?」


「上等だ!」


 威圧的な譲に一歩も引かない元矢。

 

 譲と、元矢を中心としたチームが、前半と後半、10分間の紅白戦を行うことに

した。


 譲は、適当に四人を選び、元矢は、背の低く、アウトサイドシュートやディフェ

ンスの上手い選手を選んだ。


 序盤から譲は、ほとんど一人でシュートを打ち、大量得点していく。


 対する元矢チームは、3ポイント主体のオフェンスで、大量得点している譲に、

点差を離されず、ついていく。


 後半から元矢チームは、一人で攻めてくる譲に対して、ダブルチーム、ときには

トリプルチームで、譲を抑えようとする。


 少し、譲の得点力が弱まるが、それでも得点を重ねていった。


 後半、残り15秒、1点差で譲チームがリードしていて、元矢とスイッチした譲

が対峙する。


 元矢は、右ドライブで譲を抜き去ろうとする。


 当然、譲も元矢を止めようと正面に入ろうとする。


 突如、ドリブルから急停止してシュートモーションに入る元矢に、譲はブロック

しようと大きくジャンプする。


 だが、それは※ポンプフェイクで、大きくジャンプした譲にぶつかりながら、も

う一度、元矢はシュートモーションに入り、ファウルを貰う。


-----------------------------------


ポンプフェイク……ボールを上げてすぐ、下に下げるフェイク。


-----------------------------------



「くっそ! せこい真似しやがって!」


「せこくないですよ。成瀬君はブロックしようと、飛びすぎるのでそれを利用させ

てもらったまでです」


 悔しがる譲に、元矢は得意気な表情を浮かべる。


 フリースローを2本貰った元矢は、2本とも決めきり、元矢チームの1点リード

に切り替わる。


 残り時間7秒、譲はローポストでポストアップしてボールを貰い、自分のマーク

マンを背面で押し込んでいく。


 譲のマークマンは、フィジカルの強い譲に為す術なく、譲はターンアラウンドシ

ュートを放とうとゴールリングに振り返る。


 振り返ろうとした瞬間、ダブルチームにきた元矢に、持っていたボールをスティ

ールされ、ゲーム終了のブザーが鳴る。


「ちくしょー! 俺がこんなチビに負けるだと!」


 大声で苛立ちを見せる譲に、元矢がゆっくりと歩み寄る。


「いったでしょう? バスケは一人ではできません」


「うるせぇ!!」


「けれど、トリプルチームをされても得点できるあなたのバスケットのセンスは本

物です。チームプレイを出来るようになれば、あなたも、このチームも最強になれ

ると思います。チームのためにバスケをやってみませんか?」


 そう言って、元矢は譲に手を差し伸べる。


 譲は一つ、大きく息を吐き、頭を掻いたあと、その手を強く掴む。


「俺がいなきゃ、こんなチーム勝てっこねぇからな、少しは手を貸してやるよ」


「ありがとうございます……あの、握力が強すぎて手が痛いです……」


「あぁ、お前は力が弱すぎんだよ、もっと筋トレでもしとけ!」


 それから、チームのためにプレーするようになった譲は、三回戦止まりだった白

鳥学園を、決勝トーナメントまで導くエース選手になっていった。


==========================




「そんな過去があったのか」


 譲の過去を聞いた勇士が、驚きの表情を浮かべる。


「来栖さんも、よく成瀬さんを制御できましたね」


「来栖も、有望な選手で、強豪校からのスカウトされていたが、成瀬が白鳥に来る

と聞いて、同じ高校に進学することを決めてたそうだ」


「そこまで、成瀬さんの才能を高く評価していたんですね」


 譲のために、強豪校の推薦を蹴った元矢に奏は感嘆の声を上げる。


「とにかく、第3クォーターからは成瀬はもちろん、来栖も何か仕掛けてくるかもしれな

いから、警戒していけ」


「はい!」


「メンバーは、スターターに一度戻すぞ」


 宝星は、メンバーをスターターに戻し、第3Qに挑む。

 白鳥は、SGとPFを控えの選手で第3Qに挑む。


    宝星            白鳥


 PG 小野弓弦       PG 来栖元矢

 SG 笠原勇士       SG 綾瀬宗介

 SF 山崎攻        SF 磯貝秀和

 PF 葉隠錬水       PF 玉城孝四郎

 C  大川泰山       C  成瀬譲


 まずは、白鳥からのオフェンス。

 ボールコントロールする元矢の左側に、英和がスクリーンを掛けに来る。


 スクリーンを使って左側にドリブルをする元矢に、攻がスイッチしてディフェン

スにつこうとするが、急に元矢がミドルジャンパーを放ち得点を決める。


「ちっ、態勢が整う前にシュートを打ちやがったか」


 ディフェンがスイッチする瞬間を狙って、シュートを決めた元矢の上手さに、攻

が舌打ちをする。


 弓弦が、勇士の3ポイントで点差を縮めようとパス出す機会を伺うが、宗介のデ

ィフェンスに中々パスを出す隙がない。


 仕方なくエースの攻にボールを託す。


 左ウィングでボールを貰った攻が、ジャブステップで相手のディフェンスの動き

を伺う。ゆっくりと左手でドリブルを一つ突いた瞬間、プルアップの3ポイントを

打ち、決める。


「最高! こっからは俺の時間だぜ!」


 前半、ファウルトラブルで出場時間を制限されていて、フラストレーションの溜

まっていた攻が、見事な3ポイントを決めて、飛び跳ねて喜びを表現する。


「さすがですねぇ、山崎さん……」


 元矢が鋭い目線で、攻を見ながら独り言を呟く。


 ローポストでポストアップした譲が、ターンアラウンドシュートで簡単に点数を

取り返す。


「お前じゃ、俺の相手になんねぇよ」


「ぐぬぬぬ……」


 譲の挑発に、頭に血が上る泰山。


 泰山も同じ形でポストアップして、ターンアラウンドシュートを放つも、完全に

読まれていた譲に、ブロックされる。


 ブロックされ、弾かれたボールを勇士がキャッチして、ディフェンスがペイント

エリアでボールを持った勇士を止めようと集まると、勇士は左コーナーで待機して

いた錬水にパスを出し、錬水が3ポイントを決める。


「いいぞ勇士! 冷静だったな……泰山も勇士を見習え」


「ぬぅー……」


「ありがとう、勇士君!」


「ナイスシュートです!」


 冷静さに欠ける泰山を弓弦が叱りつけ、勇士と錬水は互いに称え合う。


 ペネトレイトしてディフェンスを引き付け、元矢が第3クォーターから出てきた、玉城孝四郎たまきこうしろうにキックアウトして、孝四郎が3ポイントを打つが、シュートは外れ、泰山がリバウンドを取る。


 孝四郎も錬水と同じく、PFながら3ポイントを決めれる選手だ。


 またもや、譲がポストアップから、泰山との1対1を始める。


 譲を止めようと、鼻息の荒くなる泰山に、フェイダウェイシュートで、泰山を避

けながらシュートを決める。


「ふぅー」


「ムキー!!」


 シュートを決め、一つ息を吐きながら見下すような視線を送る譲に、さらに頭に

血が上る泰山。


 泰山がやり返そうとまた、ポストアップしてボールを要求するが、弓弦は攻にパ

スを渡し、攻がミドルシュートを決める。


 この直後、宝星がメンバーチェンジを行う。


 OUT 大川泰山 


 IN 宮部亮


「なぜ交代させられたかわかるな?」


「はい……」


 冷静にさせるため交代をさせた猪本監督の意図を察して、泰山はベンチで大人し

く座りこむ。


「タイザン先輩、元気出すデス!」


「うん・・・・・」


 励ますジェニファーに、怒られた後の子供のような返事をする泰山。反省はして

いるようだ。


 第3クォーターの最初と同じように、スクリーンで元矢にスイッチする攻。

 元矢は、※ハーキーで攻を揺さぶってから、プルアップジャンパーを打とうとす

る。


 攻がシュートを止めようと、ブロックするためジャンプするが、それは元矢の得

意なポンプフェイクで、ファウルを誘った。


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ハーキー……細かくステップして、相手を揺さぶるステップ。


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「なぁあああああ!!」


 3つ目のファウルを犯し、大声を上げる攻。


 元矢はニヤリと笑っている。


 フリースローを2本貰った元矢は、きっちりと決めきる。


 今度は、亮がポストアップしてボールを要求する。


 弓弦は、パスを出すのを一瞬ためらったが、亮の自信あり気な表情を見てパスを

出す。


 亮はボールを貰ってすぐ、体を横に向けフックシュートを放つ。咄嗟のシュート

に譲も対応できず、亮のシュートが決まる。


「ほぉ、あのダンクバカと違って、そんな小賢しいシュートができんのか」


「小賢しくないよー」


 軽く挑発する譲に、亮も負けじと返す。


 譲を止めることは難しいが、宝星のオフェンスが乗ってきて、点差を縮めいく。


 勇士も僅かなチャンスで、3ポイントを1本決めた。


 第3クォーター、残り3分49秒、59-64、宝星が点差を5点まで縮めた。


 調子の良い攻が、ドリブルでマークマンを簡単に振り切り、レイアップを決める。


 これで点差は3点差。


「よーし!」


「ナイシュ!」


 攻のシュートにベンチの泰山と葵が、歓声を上げ、攻がベンチに向かってガッツ

ポーズする。


 白鳥は、1分ほど前から交代して出てきた穂高が、攻と対峙する。


 譲がスクリーンを掛けにきて、穂高が攻めやすいようにするが、攻がスクリーン

を掻い潜り、穂高についていく。


 そのまま穂高はレイアップシュートに行こうとしたところ、攻がブロックで止め

にくる。


 しかし、ブロックしにいった攻の手が、穂高の手に当たり、ファウルコールの笛

が吹かれる。


「がっ!!」


「あのバカは……」


 口を大きく開け、呆然とする攻と、頭を抱える猪本監督。


 穂高がフリースローを1本決め、宝星のタイムアウト。


「うーん、山崎は終盤、必要になってくるから下げざる負えんな……」


「すいません・・・・・」


 猪本監督の言葉にガックリと肩を落として落ち込む攻。


「交代する選手だが……篠山を出すぞ」


「俺ですか?」


「うむ、サイズは小さくなるが、今日の篠山のドライブは、上手いこと通用してい

る。ディフェンスでもいい働きをしているのでここは任せたぞ!」


「はい!」


 猪本監督に今日の活躍を評価され、気合の入る武人。


「宮部も良く成瀬と渡り合えてる、第4クォーターまでは頼んだぞ!」


「何分でも行けますよー」


 亮も譲に得点を許しているものの、フックシュートなど技ありのプレーや、リバ

ウンドで大きくチームに貢献している。


 武人が入り、ガード、四人態勢になった宝星は、パスが多く回り、新たなオフェンス

が繰り出されて行って、さらに点差を詰めていった。


 第3Q終了時、68-70で、2点差まで縮めた。


 いよいよ、勝負が決する第4クォーターが始まろうとする。

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