第9話 女の戦い、茜VSジェニファー
ゴールデンウィーク最終日、部活が休みの勇士は茜に呼ばれ、公園のストリート
バスケのコートにやって来た。
「休みの日までバスケするなんて、よっぽどのバスケ馬鹿だな」
「呼ばれてノコノコやって来るお前もな」
「まぁ、そうかもな」
お互いのバスケ好きさに顔を見合わせて苦笑いする。
「じゃあ、軽くアップでもしますか」
「そうだな」
そう言って二人はストレッチをしてから軽くシュートを打ち始めた。
二人のシュートが交互に綺麗に入っていく。
茜も勇士と同じく、チームではシューターの役割を担い、全国でも通用するレベ
ルの選手だ。
アップが終わり二人は昔からよくやっているゲームを始める。
「じゃあ、いつものゲームやろうぜ!」
「あぁ、女だからって容赦しないぞ!」
「手加減なんかしたことないだろうが!」
二人がよくやっているゲームとは、左右のコーナー、ウィング、トップの3ポイ
ントラインからそれぞれ2本のシュートを放ち、多くシュートを入れた方の勝ちと
いうルールだ。
ジャンケンで茜が勝ち先攻を取る。
まずは右コーナーからシュートを放つ。女子選手は両手でシュートを打つ選手が
多いが茜は、男子のように片手でシュートを放ち1本目、2本目のシュートを鮮や
かに決める。
「よし!」
「やるな!」
綺麗に2本のシュートを沈めた茜は、得意げの表情でガッツポーズをする。
続いて右ウィングからシュートを放つ。1本目は外れ2本目のシュートは決めき
る。
「くぅー、1本外したか!」
「大丈夫か? 俺は全部決めるぜ」
「うるせーよ!」
シュートを外して悔しがる茜を勇士が煽って揺さぶろうとする。
そして、トップからのシュートは1本決め、左ウィングからのシュートは1本決
め、左コーナーのシュートを2本決め、合計7本のシュートを決めた。
「7本かー、まぁまぁってとこだな」
「勝ったな、サクッと決めるか!」
続いては勇士のターン。茜と同じく右コーナーから始め右ウィングまでの4本の
シュートを全て決めるきる。
「へ、へー、中々やるじゃん……」
「こっからが本番だぜ!」
明らかに焦りが表情に浮かぶ茜に、勇士は余裕の表情だ。
その後の勇士のシュートは、最後の1本以外全て決め、合計9本のシュートを決
めて茜に勝利した。
「クソー! 3回勝った方が勝ちだからもう一回!」
「おいおい、いつから3回勝負になったんだよ!」
「大体こうゆうのは3回勝負って相場が決まってんだよ!」
「どこの相場だよ!」
負けず嫌いな茜は急遽、3回勝負にルールを変更して勇士に再び勝負を挑む。
勇士も呆れながらも茜の勝負を受けることにする。
2回戦目は勇士が8本、茜が9本のシュートを決め、茜が勝利する。
「ふっふ、これが私の実力!」
「くっ、次だ!」
勇士もヒートアップしてきた3回戦目。勇士が8本、茜が6本のシュートを決め
、勇士が勝利する。
「どうした、それがお前の実力か?」
「貴様ぁ!!」
勇士の挑発に口調が荒くなる茜。
4回戦目の先攻、茜のシュートは9本決めきる。
「私に勝つには全部のシュートを決めないと勝てない、勇士に決めきれるかな?」
「集中しろ・・・・・雑音は耳に入れるな・・・・・」
「誰が雑音だ!」
集中力を高める勇士の4回目、10本のシュートを全て決めきり茜に勝利した。
「ばかな……全部決めるなんて……」
「見たか! 俺のシュート力!」
「くそー! 次は1対1で勝負だ!」
「まだ勝負するのかよ……」
茜の往生際の悪さに引き気味の勇士。
そんな二人の所に見知った顔の女の子が近づいて来る。
「待ってくだサイ! 早いデス!」
「ジェニファーさん!?」
「ん、ユーシ! 奇遇デスね!」
勇士たちの所にやって来たのは、大きな犬を連れたジェニファーだった。
「ジェ、ジェニファーさんは何しに来たの?」
「ワタシは、ノブナガの散歩に来ていた所デス!」
「信長?」
「ハイ! ワタシの家の可愛いペットデス!」
そう言ってジェニファーはゴールデンレトリバーのノブナガを勇士に見せる。
美しい毛並みとその姿は、主人のジェニファーに少し似ていると思った勇士だっ
た。
「ユーシはこんな所で何してるんデスか?」
「あぁ、ちょっとバスケを・・・・・」
「オウ! 休みの日も練習をするとは、偉いデス!」
ジェニファーは勇士の頭を犬を甘やかすように撫でる。
「ジェニファーさん、恥ずかしいって!」
「ノー! いい加減ジェニファーってちゃんと呼んで欲しいデス!」
「わかったから撫でるの止めて!」
「ちょっと、いきなり来て何なの!」
急にやってきて勇士にちょっかいを出すジェニファーに茜が怒りを露わにする。
「うーん、同じクラスの……何て名前デスか?」
「市川茜! それより、勇士が嫌がってるから止めなさい」
「そんなことないデス、ユーシは照れ屋なだけデス!」
「何か、空気が不穏だ……」
不穏な空気にどうしていいかわからない勇士。
「勇士は今から私と1対1をするんだから!」
「1on1! ワタシもやりたいデス!」
「なんでアンタが入ってくるのよ!」
「ワタシもユーシと戦ってみたいデス!」
そう言ってジェニファーは、ファイティングポーズをとって、シャドーボクシン
グして臨戦態勢に入る。
「そんなに勇士と戦いたかったら私を倒してからにしなさい!」
「望むところデス!」
「えぇー……」
こうして勇士を置き去りにしてジェニファーと茜の1対1が始まろうとする。
コート上に二人が向かい合う。
「ルールは7点先取で、シュートを決めた時、シュートを外した時、ボールがライ
ンを超えた時に攻守交代、それでいいわね?」
「ドンとこいデス!」
ルールを確認して茜の先攻で1対1が始まる。
(ジェニファー、大丈夫かな?)
茜は全国クラスの選手、素人が勝てるような相手ではなく勇士は内心ジェニファ
ーのことを心配している。
まず、茜がゆっくりと右手でドリブルを突き始める。ジェニファーも腰を落とし
茜のドリブルを警戒するが、突然茜が右から左へクロスオーバーで切り替え、ジェ
ニファーを抜き去り簡単にレイアップシュートを沈める。
「オーマイガッ! 点数を取られてしまいまシタ!」
「相手になんないね!」
悔しがるジェニファーに茜は余裕の表情を浮かべる。
(やっぱり無謀すぎる・・・・・)
予想通りの展開に勇士は、ジェニファーが可哀想になってくる。
次はジェニファーのオフェンスに移る。
ジェニファーもゆっくりと右手でドリブルを突き始める。
無防備にドリブル突くジェニファーに対して容赦なくスティールをしようとボー
ルに手を伸ばす茜だが、ジェニファーはその手を※バックチェンジで避ける。
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バックチェンジ……体の後ろで、左右にボールを切り替えるドリブル
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「なっ!?」
突如ボールが左へ移り、慌てて体を左側へ向けるが、先ほどの茜のようにジェニ
ファーが、クロスオーバーで逆側に切り返し簡単にレイアップシュートを決める。
「ワタシも決め返しました!」
「クソッ!」
「茜より早い……」
今度はシュートを決めたジェニファーがガッツポーズで喜び、茜は悔しそうな表
情を浮かべ、勇士はジェニファーの動きに驚愕する。
「さぁ、次はアカネのオフェンスデス!」
「わかってる!」
ジェニファーのシュートで火が付いた茜が本気モードでオフェンスに入る。
左右にドリブルを突きジェニファーを揺さぶる茜、左から右へレッグスルーをし
た途端、フルスピードでゴールにアタックする。
だが、ジェニファーも茜の動きに対応し、茜の正面に入りゴールへのアタックを阻
止する。
「そんな!?」
正面に入られ一旦、後ろへ下がる茜。態勢を整え、最初の攻撃の様にクロスオー
バーで抜き去ろうとするが、左右にボールを切り替える瞬間にジェニファーが手を
伸ばしスティールをする。スティールされたボールは、ラインの外に出る。
「ラインの外に出たのでワタシのオフェンスデス!」
「くっ……」
連続で良いプレーをしたジェニファーは、そのままの勢いのままドリブルを素早
く突き始める。また、茜がやったレッグスルーからフルドライブを真似してゴール
へアタックする。
茜も、ジェニファーのように何とか正面に入るが、その瞬間にジェニファーがスピ
ンムーブで茜を避け、そのままシュートを決める。
「上手い!」
思わず観戦者の勇士が声を上げる。
「そろそろ余裕が無くなってきたんじゃないデスか?」
「まだまだ!」
最初と立場が逆転して、余裕を見せるジェニファーにムキになる茜。
茜はボールを持った瞬間、左へフルドライブする。単純な攻めに簡単に正面に入
り茜のドライブを止めようとするジェニファーだが、茜が急にストップしプルアッ
プジャンパーを放つ。
放たれたシュートは、リムに当たることなく綺麗に決まる。
「やりマスね!」
「こっからが勝負!」
ジェニフェーのオフェンス。丁度トップの3ポイントライン外側でボールを持つ
ジェニファー、茜もジェニファーも全神経を集中させてお互いを見合う。
いきなりジェニファーが、シュートモーションに入る。それに反応して茜は、ボ
ールに手を伸ばしシュートを妨害しようとするが、それはフェイクでジェニファー
は左側にドリブルを突く。
茜もフェイクにジャンプまではせず、完全には引っ掛かってなかったので、ドリ
ブルにすぐさま反応する。
しかし、茜が反応したのを察知すると、ドリブルからステップバックに切り替え
、3ポイントラインまで下がる。
美しいシュートフォームでジェニファーが3ポイントシュートを放つ。
放たれたシュートは、綺麗な回転、美しいアーチを描きゴールネットに吸い込ま
れる。
「これで7点、ワタシの勝ちデス!」
「嘘だ……」
勝利し、飛び跳ねて大喜びするジェニファーに対し茜をガックリと膝を落とす。
「あんな綺麗なシュートが打てるなんて……でも、どこかで見たことあるシュート
の仕方だな……」
いつもは自分のシュートで魅了する側の勇士だが、今日はジェニファーのシュー
トに魅了されたと同時に、そのシュートフォームと技に既視感を覚えていた。
「これでユーシと1対1ができマス!」
「ちょ、ジェニファー!?」
勝利した喜びのまま勇士に抱き着くジェニファー。
茜は、敗北したこととそんな二人に苛立ちを募らせる。
「帰る……」
「えっ!?」
「今日はもう帰る!」
そう言い残して茜は全速力で走り去って行った。
「な、何なんだ、アイツ?」
「ビックリしまシター!」
茜の勢いに驚く二人。
「まぁ、それは置いておいて。ユーシ、ワタシと勝負デス! ……と、言いたい所で
すが、ワタシもそろそろ帰らないとデス!」
「そうなの?」
「ハイ! それではまた明日デス!」
「あ、その前に……」
「何デス?」
「いや、ジェニファーって昔バスケやってたの?」
「ハイ! 小学校から中学校までやってまシタ!」
「だからあんなに上手かったのか」
「褒めてくれてありがとうございマス! それでは今度こそまた明日!」
「また明日」
「行きましょう、ノブナガ!」
ジェニファーは、近くで繋いでいたノブナガを連れて帰宅していった。
「茜もいなくなっちゃったし俺も帰るか……」
勇士も明日からの学校に備えるため自宅へと帰っていった。




