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第8話 葵とデート


 ゴールデンウィーク残り2日、今日の宝星バスケ部の練習は午前で終了となった。


 先日に続いて昨日は東京の高校と練習試合を行ったため、本日の午後から明日の

丸1日まで、宝星バスケ部は休みとなる。


 勇士は、中学から履き続けていたバスケットシューズを新調するため、葵とバス

ケットボール専門店に足を運んでいた。


 本当は1人で店に行く予定だった勇士だったが、前日に今日の午後の予定につい

て葵にはなすと、「私も行く!」と強制的について来ることになった。


 日本でバスケットボール人気が高まっている今では、東京の至る所にバスケット

ボール専門店がオープンしている。


 その中でも、2人がやって来た店は、2人が小学生の頃から通っている店だ。こ

の店では、国内のメーカーはもちろん、NBAのグッズなど海外の商品も取り扱っ

ている都内でも大型の店舗だ。


 勇士たちは、様々なバスケットシューズが並ぶコーナーで勇士に合うシューズを

選んでいた。その中で葵は1つのバスケットシューズを手に取った。


「このバッシュかっこいい!」


「あぁ、スティーブンのシグネチャーモデルのバッシュか」


「スティーブン?」


「はぁ!? お前、スティーブン知らないのかよ!」


 店内に響く位の大声を上げる勇士に周りの客も2人の方に振り向き、葵は体をビ

クつかせる。


「ゆ、有名な人なの?」


「超有名に決まってるだろ! 元NBA選手で、NBAチャンピオン2回、NBA

ファイナルMVP1回、歴代3ポイント成功数6位、数えきれないほどの栄光を手

にした、歴代トップクラスのシューターだぞ!」


「へ、へぇー、そうなんだ」


 勇士のあまりの圧に一歩後退りする葵。そんな葵をよそに勇士はスティーブンに

ついて熱く語る。


「スティーブンはバスケだけじゃなく、慈善活動にも力を入れていたり、白人にも

関わらず人種差別のない平等な社会にしようと訴えたり、家族も大事にしていて娘

と息子と奥さんのことを一番に考えている素晴らしい人格の持ち主で……」


 それから約30分、勇士はスティーブンについて語っていた。葵は冷めた視線で

勇士を見ているが、当の本人は全く気付いていない。


 そして、ようやく勇士の講釈が終了する。


「てな感じでスティーブンは、鷹峯たかみねと二度目のNBAチャンピオンに輝いたんだ。

少しはスティーブンについてわかったか?」


「はーい……」


「なんだ? つまらなそうに返事して?」


「あんたが長々と喋るからでしょ!」


 勇士の説明してやった感に、イラッときた葵の堪忍袋の緒が切れる。


「それで、このバッシュ買うの!」


「いやぁ、俺は国内メーカーのバッシュしか履いたこと無いし……」


「買わんのかーい!!」


 あんなに語っていにも関わらずスティーブンのバッシュ買わない勇士に、人生で

初めて関西弁でツッコミを入れる。


 初めて見る葵の姿に勇士は気圧される。


「じゃ、じゃあ、俺はいつも履いてるモデルのバッシュ見てくるから」


 そう言って勇士は、その場から逃げるように立ち去った。




 しばらくしてバッシュを買ってきた勇士が葵の元へ帰って来た。


「お待たせ……」


「結局何のバッシュ買ったの……」


 まだ機嫌の悪い葵が一応、勇士に尋ねる。


「いつも履いてるシリーズの最新モデルを……」


「ふーん……」


 聞いておいて興味のない葵はすぐに別の話を振る。


「そんなことより、この後どこか遊びに行かない?」


「そんなことって……」


「何?」


「何でもないです……」


 葵の圧に委縮する勇士。


「どこかって何所にだよ」


「見たい映画あるんだよねー、あと買い物にも行きたい!」


「はぁ……」


「何よ、勇士ってバスケ以外には全然興味ないよね、せっかく女の子とデート出来

るって言うのに」


「デ、デート!?」


 葵の発言に声が上擦ってしまう勇士。


「そうよ、モテない勇士君に仕方なくデートしてあげるんだから」


「お前に言われたくないよ!」


「あら、私って自分で言うのもなんだけど結構モテるんだから!」


「え!? そうなの?」


 衝撃の真実に驚愕する勇士に葵は勝ち誇った表情を浮かべる。


「まだ入学してから1ヶ月しか経ってないのに、3人から告白されたんだから!」


「へ、へぇー、そうなんだ……」


 確かに学校内では群を抜いて美少女な葵だが、幼馴染ということであまりそうい

うことを気にしていなかった勇士は、動揺を隠しきれない。


「そんな私がデートしてあげるんだから、モテない勇士君は感謝しなさい!」


「モテない言うな!」


「本当のことでしょ? ほら、早く行くわよ!」


「ちょっ……」


 それほど乗り気でなかった勇士の手を強引に引いて葵が走り出す。




 それから2人は映画館に行き、葵の見たかった恋愛物の映画を鑑賞した。


 感動して涙を零す葵を横に勇士は興味が沸かず上映時間の半分は寝ていた。


 その後カフェで映画の感想を話し合うも、半分寝ていた勇士は葵と話が噛み合わ

ず、小さな喧嘩が巻き起こっていた。


 そして次は、葵が洋服を買うため2人でアパレルショップにやって来た。

 2種類の洋服でどちらを買うか迷っている葵が勇士に問いかけてきた。


「ねぇ、勇士、どっちの服がいいと思う?」


「どっちでもいいんじゃない?」


「もう! ちゃんと選んでよ! 両方着てみるからちゃんと選んでね!」


 そう言って葵は試着室へ勢いよく入っていった。


 試着室の前で待つ勇士、中から脱衣している葵の服と肌が擦れる音が聞こえてき

て、内心ドキドキする勇士。


 しばらくして葵が試着室のカーテンを開いて出てきた。


「どう? 似合う?」


 葵が最初に着た服は、白いワンピースの服だ。黒く長い髪に白いワンピースが映

え、とても良く似合っていて、勇士も見惚れてしまうほどだ。


「ま、まぁまぁじゃね?」


「本当に? じゃあ、もう一つの服も着てみるね」


 再び試着室に入っていく葵。さっきの洋服は葵にとても似合っていると感じた勇

士だったが、恥ずかしさもあり少しぶっきらぼうに返事をしてしまった。


 そして、次の服を着た葵が試着室から姿を現した。


「ぐふぉ」


「似合う……かな?」


 次に葵が着てきた服は、胸元が大きく開いた黒いセクシーな服だった。あまりの

セクシーさに思わず吹き出してしまう勇士。


「ねぇ、どっちが似合う?」


「ぐぬぬぬぬ……」


 勇士は頭の中で葛藤していた。普通に似合っているなら最初の白いワンピースの

方だ。


しかし、黒いセクシーな服も色々な意味で良い。


 葛藤の末、勇士が出した結論は。


「い、今着ている方かな……」


 勇士も男子だ。スケベ心には勝てなかった。


「ふーん、勇士はこっちの服の方が好きなんだ」


「なんだよ?」


「このスケベ!」


「はぁ!?」


「私は勇士を試したの、ワザと普通の服とセクシーな服を着てどっちを選ぶか」


「何……だと……」


 全ては葵の掌の上で転がされていた。最初から勇士をハメる罠だったのだ。


「最初から白のワンピースしか買う気がなかったから、残念だったわね、スケベの

勇士君」


「くぅー……」


 スケベ心に完全敗北した勇士は何も言い返せなかった。言い返した所でスケベの

一言で論破されてしまうからだ。

 そんな勇士を横目に葵は、満足気な表情で最初に着た洋服を買いにレジに向かっ

て行った。


 洋服を買い終わった葵が勇士の元へ帰って来た。


「さぁ、帰るわよ、スケベ!」


「その呼び方やめろ!」


 そんなやり取りをしながら二人は自分たちの家へと帰って行った。

 恐ら今日の出来事は一生、話のネタにされるだろう。


 電車を乗り継ぎ、ようやく二人は自分たちの町に戻って来た。

 いつもの見慣れた町を歩きながら葵が口を開く。


「あと2週間後にはインターハイ予選かー」


「そうだな」


「多分、レギュラーで出るんだからちゃんと活躍しなさいよ!」


「当たり前だよ!」


 葵の激励に勇士は勢いよく返事をする。

 それからバスケの話をしながら歩いているとすぐに勇士の家の前にたどり着く。


「もう勇士の家に着いちゃったか」


「バスケの話してたらあっという間だったな」


「そうだね、じゃあね勇士、また明後日から!」


「あぁ、じゃあな」


 葵に挨拶をして自分の家に帰宅する勇士。

 帰宅して行く勇士の背中を見つめる葵が、もう一度声をかける。


「勇士!」


「なんだよ?」


「あんまり、過去に囚われないでね……」


「……あぁ」


 元気のない返事をして勇士は自分の家の中へ入って行った。


 心配そうに勇士を見つめていた葵も自分の家へと帰宅して行った。

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