第四話 綺麗だ
「あなた、そこで何をしているの?」
や、やってしまった……!
フライハイトは咄嗟の事に頭がフリーズしてしまっていた。
微妙に木々に隠れてしっかり姿は見えないが
警戒されている様子だ。来た方向からして
この森に棲む亜人と見ていいだろう。
まさかこんなところまで亜人が出てくるとは想定外だ。
この森の中に亜人のコミュニティがあるにしても
もっと奥まったところだと思っていた。
加護を受けられなかった人間と違って
多くの仲間が居る亜人は外に出て旅をするものではない、
と父に教わったからだ。
だが、実際にはその亜人に見つかってしまった訳で…。
とりあえず、害を与えるつもりがないことは伝えねば!
「お、俺は怪しい者じゃない。がっ害も与えない!」
……自分が向こうの立場だったら物凄く怪しむ受け答えを
してしまった。テンパらない度胸が欲しい…。
「…?えぇ、あなた人間でしょ?
幼い子供ならともかく、亜人は人間に負けたりしないわよ。
…いくらあたしでも、それくらいは…。」
最後の方は良く聞こえなかったが
危険でないことは伝わったらしい。…弱いおかげで。
「害がないって言うなら、
地面に描いているその模様は何なのか教えてよ。」
模様…「解析」の陣のことだろうか。
「これは錬金術の一つで…」
「…!! あたし見るの初めて!」
なんかすごい食いついてきた。
ていうか、速い。一瞬で距離を詰められた。
これなら確かに、俺など恐くも無いだろう。
しかし、それよりも…
初めて間近でその子を見た。
銀。
犬人…いやどこか凛々しさを感じさせる容姿は
狼人だろうか。
その眼や毛並みは、夕陽を優しく受け止めていた。
「綺麗だ……」
フライハイトは、それ以上の言葉を発することが出来なかった。