第三話 ツイて無かった
フライハイトはあっという間に一人にされてしまった。
「さて……どうしようか。」
今までは父の旅について行くばかりだった。
「どこに」、「なにをしに」、「いつまでいるのか」を
自分で決めるのは、これが初めてだ。
旅というのは手段であり、目指すべき目的が必要だ。
◇
「案外、思いつかないもんだな…」
俺は、生まれた時から親が旅をしていたから
「旅をすること」が日常となり、目的など考えていなかったらしい。
こうして一人になってみて、初めて自覚することになるとは。
「父さんは、何を目的に旅をしていたのかな…」
ぼぅっとそんなことを考えていると グゥ~ と腹の虫が鳴いた。
「ハハッ 最初の目的は飯探しかな。」
とはいえ、ここを動くにしても、地図が無いと始まらない。
俺は、父から譲り受けたアタッシュケースを開く。
ただの鞄ではない。母が構築した異空間へと続いている。
◇ ◇
書斎兼寝室として使っている部屋以外にも部屋が存在する。
今回、用があるのは倉庫だ。
外で活動する際、出来るだけ身軽になれるようにと作られた。
ただ、俺の場合は「父さんが持っていればいいや」という理由で
最低限必要なものも倉庫に入れてあったりする。
これからは自分で持ち歩かなければならない訳だ。
地図を開く。とは言っても自分たちが行ったことのある場所の
おおよその位置関係と地形を自分たちで描いたお手製である。
自分の記憶にないところも多く、そこは父のものを模写した。
ここから近くに森林地帯があるようだ。
魚が釣れる川や海の方が、労力少なく食事にありつけたのに
と思いながらも、俺は森に向かうことにする。
異空間を出る。
何のことは無い。周囲を見渡せば遠くとはいえ森が見えた。
父なら地図などなくても当たりをつけられただろう。
◇ ◇ ◇
結局、森に着いたのは陽が傾いてからだった。
時間はかかったがフライハイトも旅人。体力には自信がある。
が、しかし空腹で頭が回らなくなっているのを感じる。
後から考えてみれば、よく魔物に遭遇しなかったものだ。
ツイている。
立ち並ぶ木々、これらも食えればいいなぁ などと、
普段は考えもしないことを思ってしまう。
錬金術の初歩、「解析」の陣を描く。
錬金術とは、その名の通り金を作りだすことを目指して編み出された。
正確には、酸化しやすい金属を酸化しにくい金属(最たるものが金。)
に構造を作りかえるのだが、「まずはそれぞれの構造上の違いを知ろう」
と作られたのが「解析」の陣である。
成り立ちはどうあれ、
フライハイトが金を作るためにそれを使ったことは無い。
ただの習慣として、初めて訪れた場所の目につくものを
「解析」しておきたいだけなのだが…。
「ねえ、あなた。そこで何をしているの?」
…前言撤回。ツイて無かった。
森の方、少し離れたところから一人、
こちらを窺う亜人の女の子が居た。
ヒロイン登場。
でも話のボルテージが低い。反省です…。
でも、フライハイトのビギナーでおぼつかない感じとか、
格上で比べるべくもない父親と自分を比べてしまう感じも
書きたかったんです。 難しい…。