暗躍するは外道か、鬼畜か
随分遅れてしまいました、申し訳ないですm(_ _)m
サッドウォーも近日投稿予定です。二話ですが(結局また一からやり直し)
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西暦2000年9月15日午後15時過ぎに、事件は起こった。
一人の母親から『息子が変な男に連れ去られた』、という旨の通報がありその女性の居宅まで駆けつけた。
話を伺うと、十二単のような着物姿の男が突然部屋にあがりこみ自分の子供を抱きかかえていったらしい。
最初は抵抗してたみたいだが、男の手から火が出てきてその恐怖から動けなくなったとの事。
俺と巴の次の仕事はその男の行方と身柄の拘束、もしくは討伐だった。
しかし、巴の方は早々にやる気を失くして各方面に遊び歩いているみたいだ。
さすがに一人だと危険すぎるので今回は、同僚である風魔 蒼龍とそのパートナーである因幡 幸太郎の二人に協力を依頼した。
そして現在、9月22日の朝から俺達三人は男の特徴を頼りに情報収集をしていた。
昼食を取ろうと近くのレストランに寄り、レストラン内で蒼龍が今朝集めた情報を纏めてくれた。
「───着物姿の男は、どうやらシングルマザー、もしくはシングルファーザーという環境の子供達を優先して誘拐しているみたいだな。
未解決事件の資料の中に幾つか同じ内容の事件があった。
......犯人はおそらく外道だろう。それもとびきり悪臭がするな」
自分の赤い髪の毛を指で巻きながら淡々と行う蒼龍。
蒼龍の赤い瞳からは、犯人を絶対に捕まえるという意思が強く伝わってくる。
蒼龍自身も、一児の父ということもあるのだろう。
愛しい我が子を誘拐されて、不安に駆られる親達を一刻も早く安心してやりたいと、そして子供達を誘拐している犯人を絶対に許さないとその瞳から伝わってくる。
しかし、
「死んでるだろうね、その子供。
外道が子供誘拐してやることなんて二つさ」
蒼龍とは違って少し冷めた目で幸太郎がため息混じりに不吉なことを言った。
外道が子供を連れ攫って、やること。それは生贄のための材料として扱うか。それとも後身を育てるため、記憶を消して一から育てるかの二つだ。
......間が空きすぎてしまった。おそらく、子供の安否は絶望的なものだろう。
幸太郎はかなり冷たい。だから、もう結果は見えてきってしまっているこの事件にはあまり乗り気ではないのだろう。
しかし、辞退しようにも相方がそれは許さないと察している。
「......まだだ。まだ犯人が半端な術者で、両者の行動に手間取っている、なんて可能性もある。その可能性を棄ててたまるか」
「...君はそう言うと思ってたよ、蒼龍。
しかし、追うにも手掛かりが少なすぎる。君はどうやって犯人を特定するんだい?」
蒼龍を試すように幸太郎が問う。
小麦色の瞳はうっすらと期待で光っていた。
対する蒼龍は、答えるのが苦しそうであった。
蒼龍の言ってることは感情論。だからこそ、手段なんてこれからしか考えれない。
その場で思い浮かぶ、という期待が籠っている幸太郎の視線に蒼龍は苦しそうにしていた。
しかし、蒼龍は何か閃いたのか目を大きく見開き、幸太郎に視線を返した。
「───たった今、思い浮かんだ。先ず、事件が起こった場所だが......」
「そう、思い浮かんだんだね。
さすが暑苦しくて、それでも聡く、疾いのが取り柄の蒼龍だよ。
だからこそ、僕は君を選んだんだ」
活き活きとした蒼龍の姿に、嬉しそうに幸太郎が微笑んだのだった。
信頼し合えるパートナーってのはこういうもんなんだろうなと思う。
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一方、未音とは別行動という名のサボりを行っている巴はと言うとゲームセンターの中で格闘ゲームの台に座って遊んでいた。
ゲームの腕はかなりあるだけに、勝ちが続き巴は満足している最中だった。
「大したことねぇなぁ、どいつもこいつもさぁ!!
次やりたいやついるかー? 相手にしてやんぜー!!」
調子に乗って周囲の人を煽り、相手を途絶えさせまいとする巴。
しかし、そんな巴に天罰が下るように次の対戦相手には手も足も出せずに勝ち越されてしまった。
あまりの唐突すぎる完敗に巴は呆気に取られたが直ぐに怒りで感情が沸騰してしまう。
多少の暴力なら揉み消せるから問題ない、そう邪な考えが働き巴は前の筐体にいる対戦相手を殴ろうと拳を握った。
しかし、その考えは直ぐに消されてしまった。
巴の対戦相手は視線を釘付けにされてしまう程の美女であった。
......しかし、それが理由ではない。
巴は人としては最底辺の人間性だ。美女だろうが関係なしに殴るし、寧ろそれよりも酷い目に遭わす。
なら何故、巴の怒りは掻き消されたのか。それは───
「......久し振りね、この強姦魔」
「お前......二年前に犯してやって以来、音沙汰無かったからアイツと一緒に死んだと思ってたのに......生きてたのかよ光」
死んだと思っていた、自身の黒歴史との再会による衝撃で消し飛ばされてしまったからである。
生きていても会いたくはなかった、というのが巴の本心。
だが、その甘栗のように綺麗な色をした髪を腰まで伸ばし、可愛いというよりも美しいと形容すべきその顔立ちを見れば紛れもなく本物であると納得するしかなかった。
自身の現在の立場上、マスコミにでも告げ口をされてしまえばドン底へとまっしぐらなのは巴からすれば明白だった。
であればこそ、
「ちょっと場所変えよーよ。
ほら、トモくんとの事でも謝りたいことはあるわけだしさ、な?」
場所を変えて、絶対に告げ口をさせないように徹底的に陵辱をしようと光、と呼んだ女性の手を引く。
自己保身の為ならば、更に汚れを生み出す。それが巴の処世術のようなものだった。
しかし、彼女からすればその考えはお見通しである。
一度被害に遭っているのだから、当然だろう。
巴の手を思い切り振り払い、服の襟を掴んで顔を近づけ、光が巴に耳打ちする。
「......貴方、今ここで社会的に死ぬか私に大人しく従うか。
───どっちか選びなさい」
「─────」
巴にとってこの言葉は何よりの機会だった。
隙を見て彼女をねじ伏せ、目論見を果たすことが出来る可能性が出来たから。
巴は内心でほくそ笑み、外見では縋るように恐怖した顔を見せて光にすがりついて見せた。
まるで餌を求める空腹の犬のように。しかし、いつでも寝首を搔く機会を伺うその性根はハイエナ同然に。
涙を垂らし、勢いよく言葉を並べて巴は謝罪の言葉を光に投げた。
「あぁ、分かった何でもする。
あの時はホントごめん、お前の青春を奪っちまってさ、嫌だったよな。でもあれはオレはお前が好きなあまりしちまった、所謂行き過ぎた結果ってワケでさ。
......いや、こんなのは言い訳に過ぎないか。
今のオレにはただ謝ることしか出来ない。
ホント、ホントにごめんよ光......どうかこんなオレを許して欲しいんだ、お願いだ。
許されるためならオレ、何でも言うこと聞くよ。ホラ、早く言ってくれよ」
「......ホント、気に食わないヤツね。
貴方の仲間にはこの情報を伝えるのはやめなさい、子供攫いの外道のアジトの場所はここよ。
......一人で、そいつを殺して」
淡々と、けれども恨み節はありありと篭った、暗雲のようなくらい瞳で光が巴に無茶難題を出す。
しかし、巴からすればこの状況は本人の非常に前向きな思考もあり、チャンスであった。
(......バカが、んな情報を言っちまったらお前が犯人と関連してるってのは一目瞭然の事。
この事をお偉方にチクっちまえばいいだけだ)
「いいよ、受けるさ光。お前がそれで許してくれるってんなら俺は喜んでさ、その要求を呑むよ」
「そう、嬉しいわ。さすが────人間のクズね巴は」
忌々しげに巴を睨め付けながら、光は襟元を握っていた拳をそっと緩くした。
緩くされ、皺が寄った襟元を正しながら巴は出口の方へと向かい、ゲームセンターを後にする。
向かう途中に、服の胸ポケットに小さなメモの切れ端が中に入っていたのに気付き、知らぬ間に光が外道の住処を書いて仕込んだのだと悟った。
飛び付いて引き受けたものの、かなり危険度の高いことに気付いて後悔し、外へ出た巴は大きく息を吐き出し、
「......風俗行こ、まずはそっからだな」
と、現状を逃げるように足早にピンク街へと向かうのだった。
未音、蒼龍、幸太郎の三人は真面目に捜査に取り組んでいるのに対して巴は真面目にサボり続けた罰が当たった。しかし、それを気にするほど巴は真っ当な人間性を持ってはいない。
あるのは常に、自分の快楽、又はどうすれば楽に生きれるのかくらい。
そんな彼がなぜ警察組織に入ることが出来たのか。
未音達にとっては最大の謎である───。
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「なに? B地区近辺の事件資料をよこせだと?」
亜人対策課のオフィスの端。
そこではなるべく声を小さくしてとんでもない要求をする蒼龍と、そのとんでもない要求をされた亜人対策課の未音達との同僚である女性の姿が映っていた。
20代の平均身長よりも
蒼龍の後ろには、幸太郎のみ。未音はというと巴を探しに一先ず別行動を取る事にしたのだ。
信じられない要求に眉を顰めて再度問う静香に、蒼龍は何度も頷いた。
「あぁ。最近起きた誘拐事件をピックアップしていきたいんだ。
......それで事件の真相が分かる......と思うんだ」
「断る。なんで私がそんな、上から怒鳴られるような案件をせねばならんのだ。
お前だって分かってるはずだ、こういった個人情報が詰まっているモノを容易に他人に渡すのはご法度ということは。
......いくら犯人がわかる可能性があると言ってもさすがに」
「......なら、こういうのはどうだい?」
二人の間に割って入るように幸太郎が口を開いた。
「静香、仮に君が住民票を渡してくれたら今度、未音と共に外食に行けるよう手配するが?」
「............む、悩ましい条件をつけてくるな......」
───蒼龍達が未音と別行動を取る事にしたのは、これも理由の一つだった。
静香は、ある時をきっかけに未音に好意を抱いている。
それも隠さずに、堂々と本人にも伝えている。
しかし、それが未音にとっては少し苦痛、というべきものだった。
未音は、なるべく大切な人を作ろうとしない。過去の出来事から、それはもう呪いのように徹底していることだ。
なのに、そんなこと知ったことではないと静香は未音の大切な人となろうとしているため、未音にとっては悩ましい種となっている。
幸太郎は、未音がその場にいたら絶対に断固拒否するであろう事を予想し、敢えて未音を野良へ放ったのだ。
幸太郎は実に悪魔的な効率重視の人物である。
静香が少し悩んでいる様子を見て、蒼龍は少し口角を引き攣ってしまう。
「......ホントに悩むのかよ」
仕事熱心な彼女がこうも直ぐに懐柔されかけている現状が、彼女の恋心が少し恐ろく見えてしまったのだ。
(......未音に少しでも好意を抱いてくれる機会、逃したくはないが......。
しかし、さすがに恋心一つでこんな重要な書類を手放していいわけが......)
葛藤する静香。
そんな静香の様子を見て、幸太郎は諦めた......様子などでは一切なく、悪戯がバレるのをまだかまだかと待ち焦がれている子供のような元気な笑みを浮かべた。
「....その様子だとダメみたいだね。分かった、今回は諦めるよ。
少し悔しいが、今回は君の仕事熱心な心の方が上手だったってことだね。
それじゃ、じゃあね静香」
「待て因幡。なぜソレを持ってる?」
大人しく立ち去ろうとする幸太郎の手には、静香がしっかりと隠していたハズの事件資料が握られていた。
いつの間に、と驚きを隠せないでいる静香に幸太郎は、静かに笑みを浮かべ、答えた。
「蒼龍の作った人形を利用して、君の視覚を僕と錯覚させるのは容易いことだよ。ねぇ、蒼龍?」
幸太郎の呼び掛けに、蒼龍は風のような澄ました笑みを浮かばせながら応じる。
「あぁ、流石だぜ幸太郎。これで資料はこっちのもんだ。
さて、後は.........逃げるぞ幸太郎!!」
「鬼ごっこか、小さい時よくやったなぁ。
───まぁ、捕まったらタダじゃ済まないかなり危険な鬼ごっこだけどね!!」
二人は素早く静香から背を向け、一目散に出口に向かって走り出す。
二人を捕まえるべく、少し遅れて静香が二人の後を追いかけた。
鬼気浮かべた形相で静香は二人に怒声を飛ばしながら、必死に追い掛ける。
「待てお前ら、これで何度目だ!!
お前らのせいで上官に怒鳴られるのはいつも私なんだぞ!!」
その様子はまるで般若のようであった。
しかし、二人からすれば静香の般若の如き怖さなど、愛玩犬の可愛らしさと同じようなものである。
あまりの愛らしさ故に、からかおうと幸太郎が後ろに振り返り、静香に油を注いだ。
「そのまま日課にするといいさ。
何度も上官に怒鳴られることによって、悪鬼と戦える度胸が備わってくるかもしれないよ?」
「ストレスで円形脱毛症になるのが先ってオチだろう!?
お前はそういう人間だからなぁ幸太郎!!」
「流石に女性に禿げろとは言わないさ、なったら申し訳ないなーと思うだけであって。
......と、そろそろ頃合か。
蒼龍、今だ!!」
幸太郎に合図され、蒼龍は頷き静香の正面を塞ぐように天井から自身の制作した『人形』を出した。
天井が開き、人形が踊るように宙から降ってくる。
和風ホラー映画のワンシーンめいたその光景を目の当たりにしたオフィス内の者は皆、悲鳴をあげた。
その中に、怖いものが苦手な静香が入っているのは当然だった。
少数の者達は少し驚いた程度だったが、叱ろうと二人を捕まえるには遠すぎる距離であった。
......その少数の者達は気付き、不思議に思った。
「......なるほど、あらかじめ逃げれるように小型カメラか使い魔を利用して私達の位置をしっかりと把握していたのか」
「ハハ、やるなあの小僧ども。やっぱりアレか?
あの二人は若いヤツらの中でも結構やる方なのか?」
「そういえば、お前は一昨日まで入院してたからあの二人を見たことないんだったな。
そうだな、あの二人は人間同士のコンビではあるが若手の中でも図太く生き残っているし、俺らオッサンよりも遥かに腕はあるぜ」
「へぇ、ヨシ!!
なら俺たちもあの小僧ら見習って元気に鬼でも退治してくっか!!」
退院したての男は、拳を手のひらで受けて気合いを入れた。
男の気合いの入った一言に感化された他の二人も気合いを入れて、椅子にかけてたスーツを取り勢いよく袖を通すとオフィスの出入口に向かったのだった。
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同日、20時10分。辺りが暗くなり、道には人影が無くなったその頃。
事を終えて、一旦気持ちの整理が終わった巴は後悔するように深く溜息を吐きながらある住宅街を歩いていた。
落ち込んでいる理由は簡単である。単に、光の申し出は受ける必要がなかったのである。
金さえマスコミに幾らか握らせれば黙るだろうし、過去の事を告発されても過去は過去、今は今はとお得意の演技を駆使していかにも反省している風を装えば済むだけの話であったのだ。
最悪だ、となんども内心で嘆き、巴はゆく宛てもなく歩いていた。
そんな巴の耳に、前を歩くカップルの会話が入ってきた。
「ねぇ聞いた? この近く、また子供誘拐されたんだって。
......でさ、これ噂で聞いたんだけど」
声を潜めて片割れの女性がなにか言おうとしていたため、耳を全集中させて、巴が聞き耳を立てた。
棚から牡丹餅とはまさにこういうことかと、巴の機嫌が良くなるのだった。
「犯人って、なんか五芒星? ってのを描くように転々と攫ってんだってー」
しかし、あまり役に立たない情報に巴は再び不機嫌になった。
そして、心黒く彼は腹いせに陵辱してやろうと女の容姿等を確認する。
光に似た、美しいその少女を見て巴は、心が踊った。
泣き顔も、悲痛な叫び声も。
全て、全て彼女に似ている。ならば、かの腹いせは最高に気持ちのいいものとなるのはまず間違いなかった。
彼の、どす黒い心がざわめき機会を伺っているその時、そのカップルの前に、十二単のように着物を厚く着ている痩せこけた男が現れた。
透明人間だとでもいうのか、その男は本当に突然、音もなく現れたのである。
驚きを隠せない巴を他所に、男は女性の方を静かに振り向き───
「誰だ......!
そんな、そんな噂を流した......我が研究の妨害者は!!
誰だ、教えろ......!! 誰だ誰だ誰だ誰だ誰だ誰だぁ!?!?」
「ヒッ......!? あ......っ......が、っう」
怒りに身を任せ、女性の首を掴んだ。
息をすることを許さんと、力を目一杯込め、女性を窒息させようとする。
激しく燃える炎のように、研究者が怒る。
怒り狂う男を前にして、女性は恐怖で染め尽くされた瞳を浮かべ、それでも抵抗しようと呼吸をするべく喘ぐ。
だがその抵抗は虚しく、喉に空気が入らないでいた。
しかし、
「この......ジジィが!!」
「ぬぅ......っ、貴様......!!」
女性の側にいた若い男に呆気なく蹴飛ばされ、着物の男の背が壁に衝突する。
指を鳴らしながら、若い男は着物の男に詰め寄る。
怒気を隠せていない若い男の様子からして、着物の男は最悪、殺されてしまうだろう。
呆気ないな、というのが巴の素直な感想だった。
もし着物の男が呪術師なら今ごろ、女の方を呪術で殺していたはずだろうし、こいつは世間から注目されたいがために変な格好をしている誘拐犯なのだろう、さっきのアレはカラクリがあったのだろうと巴はそう結論づけて、事が荒立たない内に逃げ出そうと足を早めた。
だが、目の前で若い男が急に息苦しそうに悶えている様子を見て、巴の足が止まってしまった。
「う......ぎ、て、めェ.........!?」
「若造が、若造が......!
この偉大なる呪術師である雷門 道庵になんたる事を......っ!!
許さん、許さんぞ......!!」
鬼気迫る着物の男───呪術師が、自身の名乗りと共に若い男に詰め寄り、腹部を蹴り上げた。
面倒そうなことになり、どうやって逃げようかと考える巴の傍に先程まで呪術師に首を絞められていた女性が駆け寄った。
必死の表情で、女性は巴に助けを求めた。
「け、警察......あ、あの! 警察を!!」
「ウッゼェな......オレはなこの場から逃げてぇんだよ!!
クソ、とっとと離せよこのビッチが!!」
「キャッ!!」
足を振り上げて、女性の手を払う。続けて、女性の腹部を強く蹴り上げた。
巴は、苛々していたのだ。
昼間での会いたくもなかった女性との再会、風俗で指定した女性が対して話が面白くなかったこと、そして今現在起こっている事態に巻き込まれそうになり、怒りが頂点に達したのである。
甘やかされて育ち、我慢を覚えていない巴は愚かにも自身の立場を忘れて、女性に手を挙げてしまったのはいいが、立場を思い出した巴はしまったと一瞬、青ざめる。
巴は舌打ちをして、女性を睨みつけた。
「チッ......蹴っちまったじゃねぇかよこのクソビッチ?
他の奴らにチクりそうだしな......しょうがねぇ」
懐からナイフを取り出す。
殺意を隠さず、巴は女性に近づいていく。
口封じに、女性を殺すつもりなのである。
男は結局、窒息死するだろうからこの光景を目撃しているのは、呪術師と自分だけになる。
ならば、呪術師に罪を押し付けて女性を殺してしまえば自身が民間人に手を挙げた罪は消えると巴は閃き、実践に移そうと体を動かした。
勘づいたのか、女性が後退して巴から距離を置こうとするがすぐに壁に背がぶつかり、行き止まりだと気づいてしまった。
死への恐怖で、女性は必死に首を振り巴に命乞いをする。
「いや......いや、お願いやめて......助けて!!
い、命だけ、命だけは!!」
「怯えた顔、リスみたいに可愛いなぁ。
でもごめんね?
ほらオレ、今すっげぇイラついてるから気晴らしもしたかったの。だからさ、ちょっとだけ付き合ってよ?
───丁度さ、気になってたんだ。死体とヤルの」
女性は怖さを超え、絶望しきった顔を巴に見せた。
勿論、体液によるDNAの検査で巴の犯行だとバレてしまうのでそんな事はしない。
警察組織に金を積めば何とかしてくれるかもしれないが、流石に噂として残り続ける、それは面倒だと巴は考えたのだ。
単に、女性を絶望させた顔のままで殺したかっただけなのである。
迷わず女性の首を深く切り込み、声を出させることはさせず、窒息死を迎えさせた。
巴はチラリと若い男の方へ視線を向ける。
若い男は既に窒息死寸前であった。しかし、呪術師がいないことに気付いた。
焦り、怯える巴の背後から呪術師は声を掛けた。
「気に入った、気に入ったぞ小僧......。
その鬼畜さ残忍さ冷酷さ......我が刃となるには相応しい。どうだ、我の研究の手伝いをしてくれんか?」
「ヒィっ!! って......え?」
表情を転々とさせる巴。
しかし直ぐに巴は、首を縦に振りこくこくと頷いた。
怪しいと思ったが取り敢えずはこの呪術師の誘いに乗ることにしたのである。
呪術師は上機嫌になり、巴に手を伸ばした。
「改めて名乗ろう。
我が名は雷門 道庵。呪術師───巷では外道とかと言われておる。
貴様、名は?」
「あ、麻上 巴......」
「麻上 巴か。これからよろしく頼もう。
そうだ、早速我が居所へ招待しよう。案ずるな、ここから直ぐに行ける」
巴は男の後ろを着いていく中、あることを閃いたのだった───。
二話で終わりそう......終わりそう?
とまぁこの話は置いといて、これ段落開けるのどうしたらいいんですかねー?
追記 秒で出来ました!!()