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鬼ノ物語  作者: 桜野ヒロ
1/2

その青年、人に育てられた鬼である

悲哀なる口づけ、その前日譚的なのです。

青年未音の活躍をご期待ください。

 炎の檻が東京・渋谷区を覆う。

 あまりの熱さで頭がイカれそうになる。

 そんな中でも俺は、残った気力を絞って一体、また一体と奴らを狩る。

 何もかもを拾えなかった、その贖いが同胞を殺すことだったから。

 思えば、これまでどれくらい大切な存在を守れなかっただろうか。


「......まぁ、思い返すのは後にするか。

 今は仕事を終わらせよう。俺の、最期の仕事を」


 刃こぼれした刀の柄を強く握り、俺は同胞達を睨んだ。


「生憎と、タダで死んでやるほど俺は聖人君子では無いんでな。

 死にたいやつ纏めて来やがれ......一瞬で片付けてやらぁ!!」


 同胞達の輪の中に飛び込む。

 ふと、■■■の事が脳裏に浮かんだ。

 あぁ、アイツはこの結末を予想していたのだろうか。

 だから、俺を引き留めて─────



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



未音(みおと)、朝だぜ?」

 

「───もうか!? すまない巴、急いで準備する」


 安ホテルの一室で、同僚の麻上(あさがみ) (ともえ)に朝を知らされ急いで起き上がる。

 俺と巴は、ある人物の捜査が仕事だった。

 その人物の名前は入江(いりえ) 純忠(すみただ)

 麻薬の密売をしている疑いがある為、捜査中の男だ。

 俺の仕事、というのは簡単に言うと警察だ。

 しかし、俺の所属している課は警察の中でも独立している組織だった。

 昔、人が魔術だの呪術だのを使っている者が多くにいた時代に生み出された人より身体能力が遥かに優れた存在である『鬼』、人権が認められ今でも生きている彼らは、その優れた力に溺れ犯罪を犯してしまうケースが多々ある。

 そういった鬼たち......『悪鬼』に加えて、昔から細々と続いている呪術使いの中でも犯罪を犯す者、通称『外道』を捜査、及び交戦して殺害、又は拘束をする、それが主な仕事内容だ。

 その課の名は『亜人対策課』、通常の警察とは違い、特殊な訓練を受けて悪鬼と外道に最低限太刀打ち出来るようになった組織である。


「なぁ、未音。ホントに入江ってヤツが麻薬密売人ってのはほぼ確実だろうけどさ......ホントに悪鬼達の犯罪組織、『羅生門組』との構成員と麻薬の取引なんてしてんの?」


 更衣している最中、ふと巴は今回の仕事に対して不満を吐露した。

 いつもの事だった。巴が仕事に対して不満を吐露することなんて。

 だから、いつも通りに俺は決まって言う言葉を口に出した。


「さぁな、あくまでも噂に過ぎない。

 だがその噂一つを見過ごしてたら、後に大事件に繋がる恐れがある。

 そういった可能性の芽を潰す事も仕事のひとつだろう?」


「オレはね、有名な悪鬼を殺して英雄扱いされて周りからチヤホヤされたいの。

 こんなしょーもない、地道な捜査なんて飽きたの。

 ......どうせ、羅生門組なんかとの繋がりなんてないだろうしさ、もうそういう結果だったってコトにしよーぜ?」


「駄々をこねるな、俺達はもう酒を飲める歳なんだ。

 地道な仕事だってことはもう、訓練生時代の時に分かってたことだろ?」


 巴の駄々を一蹴すると同時に、身支度を済ませ終える。

 思い通りにならなくて、腹を立てた巴が


「鬼のクセにいい気になりやがって......低脳生物が」


 と潜めた声で俺を罵倒した。

 まぁ、もう此奴とは付き合いが長いんでこんな罵倒なんか慣れてしまったが。

 結局、巴は渋々と仕事に参加することにしたらしく俺の後ろを着いて歩いた。

 どうせ、職務怠慢した所で逆効果だと悟ったのだろう。

 遅れて巴が身支度を済ませて、俺達は安ホテルを後にして入江の住んでるアパートまで移動することにした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 古びたアパート、その一室の中では受話器を片手に入江 純忠が焦りを抱いた表情で助けを乞うていた。


「お願いします......ヤツらに尻尾を掴まれそうでして......次は倍の金を用意しますんで、ヤツらを殺っちまって下さい」


 今月だけの収入ならばその倍の額には届かないだろう。

 しかし、入江はいざと言う時の為に密かに金を蓄え、すぐに出せるように準備をしていたのだ。

 通話相手は少しの間、沈黙を保った後に、


『分かった。今回だけは助けてやる』


 と、了承した後すぐに電話を切った。

 嬉しい運びに、入江は気味悪くほくそ笑んだ。

 そして、ボロボロの畳の上に寝そべりながら独り言を呟いた。


「へへ、亜人対策課共め......今に見てろよ。

 テメェらの御相手様は羅生門組の幹部......三次(みよし) 虎鉄(こてつ)さんだ.....ビビるだろうな~~~。

 まさか、まさかの相手が大物中の大物なんだからさ」


 断末魔を期待しながら、入江は吉報を心待ちにするのだった───。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 入江のアパートまで向かう道中、巴がコンビニに寄りたいと言ったため、ひとまずにコンビニ寄ることにした。

 コンビニに着いた瞬間にトイレへと駆け込んだ様を見るに、腹痛だったのだろう。

 巴のトイレが終わるまでの間、俺は同居人の千種(ちぐさ)(かえで)に今日も帰れそうにないとメールを送ることにした。

 楓とは高校の同級生で、彼女の妹と少し縁があった。

 しかし、楓の妹は彼女の両親と共に事件に巻き込まれて亡くなった。

 ......その辺は、また別の機会にでも。

 楓にメールを送信し終え、少しコンビニの中で待つことにする。

 数分経ち、巴がようやくトイレから出てきたと思えばすぐに雑誌コーナーにまで足を運ぶと週間雑誌を手に取り立ち読みをし始めた。

 ......勤務中だというのに、何やってるんだコイツは。


「巴。なにやってんだよ、早く入江のアパートまで行くぞ」


「何言ってんだよ未音。今日が火曜日なのがわりーよ。

 トイレ行ってさ、用を足してたら思い出したわけよ、今日がこの雑誌の発売日ってさ。

 しかも好きだった漫画の最終回なんだよ最終回。最終回なんだからさ、職務怠慢くらい見逃せよ」


「見逃せるわけないだろ」


 ......ダメだ、今のコイツは銅像のように不動の存在と化してしまっている......!!

 しかし、こんなところで油売ってる余裕はない。

 こうなれば、無理矢理にでも引っ張るしか───と、いきなり巴が俺を呼んだ。


「未音ー」


「なんだよ巴、いきなり呼んで」


 巴の声に反応すると、すぐに巴が外に向かって指を差した。

 指差した先には───見慣れない大男がいた。

 見慣れはしてない。しかし、見たこと(・・・・)はある。

 目元にある痛々しい切り傷、漆黒といえるほど黒に染った服装。

 間違いない、ヤツは羅生門組幹部。

 そして数々の悪鬼、又は外道を亜人対策課から守っているその手の者たちにとっては盾、守護者のような存在。


「三次......虎鉄!!」


 身構えて、三次の襲撃に備える。

 巴は三次のことなんて気にせず、俺の隣で雑誌を読んでいる。数は多い方がいいかもしれないが巴が前へ出ても意味が無い。

 どちらかと言うと巴は奇襲が向いてるタイプで、本人もそれを自覚している。

 なので、基本は俺が前へ出て敵を惹き付けて、巴に不意打ちによるトドメをささせているのが悪鬼戦での立ち回りだ。

 亜人対策課は、相手が相手な為特別に帯刀を許されている。

 しかし、今の俺はその刀を持ち合わせてない。

 私服姿で捜査を行う場合、事前に許可必要で、許可が降りてない時は帯刀する事は許されないからだ。

 怪しまれないように私服での捜査が仇となってしまったが、幸いな事に俺は鬼だ。

 向こうが武器を使おうがある程度は戦える。


「巴はここで待機して増援を呼んでくれ。時間はしっかりと稼ぐよ」


「雑誌読み終わったらなー。てか、アイツ変なコスプレしてんなーって思ったけど悪鬼?」


「あぁ、それも手強いやつだ。

 いつも通り、殺した際には手柄はお前に九割くれてやるからしっかりと仕事をしくれよ」


 はいなー、と気の抜けた声での巴の返事を聞き、俺は走ってコンビニから出て、三次の前に立つ。

 何もしてこないってのには少し......いや、かなり違和感を感じるが気にする暇は無い。

 仕掛けてこないならこっちが行くまでだ───!!


「来ないならコッチから行くぜ、三次虎鉄───」


 脚の全てをフルに稼働させて三次との距離を詰める。

 そうして漸く三次が動き始めた。


「フン───」


 よくある正面からの正拳突き。

 ......銃や短刀といった武器を出さないのは何故だ? 素手で戦う鬼とは聞いていないが......それでも、コイツは人の腹なら容易に風穴を空けれそうなほど太く逞しい腕をしている。

 つまり、武器が無くとも戦うことは出来る、ということか。

 俺の顔面に狙って伸びてくる腕をギリギリの間で避けようと首を僅かに傾げる。


「かかったなアホが!! 喰らえ、鉛玉の味をな!!」


 しかし、狙っていたのかもう片方の腕の袖から拳銃を取り出し、俺の懐に銃口を当てる。

 三次は引き金を下ろし俺の腹部に、鉛玉を叩き込んだ───



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 同時刻、亜人対策課事務室。

 巴が丁度、増援を呼ぶ為に亜人対策課に電話を掛けていた時だった。

 巴は、未音に増援を、と頼まれていたが乗り気ではなかった。

 増援を呼べば、自分の手柄は殆ど取られてしまうからだ。

 せっかくの大物だから自分でトドメをさして、周囲から興味を持たれたいという巴の浅ましい欲望が必死に増援を断れ、と祈っていたのだった。


『お待たせ致しました。麻上 巴巡査』


「あ、ハイハーイありがとね事務の芝ちゃん。

 で、どうよ? 増援来てくれんの?」


『この場にいる職員達での協議の結果ですが───残念ながら、増援は不要との事になりました』


 祈りが通じて、巴は内心ガッツポーズを決めた。

 巴は次に、未音が三次をかなり消耗させるまでの時間を稼ごうと事務員の女性に色々と前々から抱いていた疑問を訊ねようと画策した。

 少し胡散臭い、苛立った口調を巴が意識しながら口を開いた。


「───なんで不要なの? こっちは武器が無いんだよ?」


「麻上 巴巡査と、(みなもと) 未音(みおと)巡査のコンビ時の戦闘スタイル、そして個々の情報からの結果です。

 麻上巡査は、不意打ちを得意とした戦闘。そして源巡査は自身の天性とも言える身体能力と、養子先の源家によって仕込まれた鬼狩りの技術。

 以上の要素が、今回の相手である三次 虎鉄を上回ると予想されたためです」


「えぇっと......源家?

 確か、羅生門組の頭領に数年前に一族が惨殺されたんだよね?

 てかさ、なんで鬼なのに鬼狩りの一族の養子先に貰われたわけ?」


「はい、源家は大正の時代からの鬼狩りの一族です。

 平安にも源 頼光といった鬼狩りの武士がいましたが......決して血縁ではないです。

 ですが、本来の源家が滅亡して以降、新たに有名な鬼狩り一族として台頭することとなった煌月家と肩を並べる程には短い間で強大な一族となりました。

 そこの当時の当主様が、とある鬼の一族の逃走作戦の際に、まだ赤子だった源巡査を保護したのです」


「とある一族?」


 続きを求めるように、巴が訊ねる。

 少し渋った女性事務員だったが、許可が降りたのか、巴の疑問に答えた。


「はい、とある一族です。

 その一族は─────」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「─────は?

 マジで? 彼奴が?」


『はい、事実です』


 冗談じゃない、機械的で淡々とした口調で答える芝ちゃん。

 そのまま無言で電話を切り、ガラス越しで行われてる戦闘を見る。

 さっき発砲音が聞こえていたが......未音の腹部には|怪我なんてもんは一切無かった《・・・・・・・・・・・・・・》。

 巫山戯てやがる、普通なら血が出るっての。

 思えば、不思議な点が多々あった。

 訓練生時代からアイツは、他の鬼の訓練生達なんかよりも遥かに上回る身体能力と鬼との戦闘技術を持っていた。

 更に言えば、アイツは訓練生を“特例”で入学しているという経歴を持つ。

 そういえば、そんな所に目をつけてオレは、アイツとコンビを組もうと話を持ちかけたんだっけか。

 亜人対策課では、訓練生の時からコンビを組んで模擬戦や、捜査のアレコレを学び、訓練生を卒業した後もパートナーが殉職しない限りはコンビを組み続ける。

 プライドかは知らないが人間は人間同士でコンビを組むヤツらが多かったが結果としては卒業後、そういった奴らは次々に殉職しちまった。


「チックショウ......運がいいのか、悪ぃのかわかんねぇなコレ」


 一人虚しく愚痴を吐く。

 その横には既に、聞いてくれてたやつはいなかったが、それでもいてくれてるような錯覚を覚えて。

 育ちは滅んじまったとはいえ、鬼狩りの専門一族。

 そして、生まれは─────


『────平安時代、有名な悪鬼だった酒呑童子と肩を並べて京都の街を恐怖に陥れた『最悪の童子衆』、その最強の一角......その名を茨木童子。

 源 未音巡査は、その子孫にあたる茨木家の生き残りでもある訳です』


 悪鬼の名家として名を馳せる、茨木家。

 こんな奴とコンビを組んでいたなんて、冗談だと思いたい。

 だが、無情にもこれが現実だっていうのは、本気を出した未音の一撃による風圧で割れたガラスが俺を頬を掠る事で思い知らされた。

 クソが、悪鬼達からも、人間達からも恨みを買われる存在とコンビになっちまったなんて、いつ命を狙われるようになってもおかしくねぇ。

 実にファッキングな運勢だが......よく良く考えれば最高の矛と盾をゲットできたと考えるべきなんだろうな。


「なんて、思い切りのいいこと思えるオレの頭は可笑しいくなっちまってねぇかな?」


 自分の思考にすら愚痴を吐きたくなる。

 こうして、オレは嫉妬で未音にナイフを投げようか頭を回しながら、未音と三次の戦闘を見届けたのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 銃声が、足音賑わう東京の街の一角で鳴り響く。

 銃声を鳴らした張本人である三次は、この戦いは瞬殺で終わったと確信した。

 しかし────


「効かねぇよ、銃撃なんて.........!」


 無傷に加えて、顎に拳を入れられたのを把握しながら宙に浮かんでしまっていた。

 三次は、未音の出自は知らない。

 だからこそ、なぜ無傷だという疑問が頭の中で駆け巡るのだった。


(馬鹿な......気配で奴が鬼というのは分かる。

 ならば、呪術を行使できないから通用する筈だというのに、なぜ通じない!? 皮膚自体がそもそも堅いのか?

 そんな馬鹿なことあるわけがない!!

 ......恐らく、あと一瞬で避けたのだろう。此方の動きを読むとは中々に手強い新米捜査官だ!!)

 

 道路に身体をうちつけるが、すぐに起き上がり追撃を警戒する。

 しかし、未音は余裕を見せてかその場からいっぽも動いておらず、二人は十数メートルまで離れた。

 想定外の力に焦りを隠しながら、三次は未音を賞賛しつつもほんの僅か後ろに下がった。


「───見事な一撃、見事な勘だ。

 しかし!! 武器を持たぬ貴様に、勝ち目などある筈がない!!」


 三次は、胸元のポケットから小瓶を取り出す。

 中にはサーベルのような形をした剣があり、マニキュアか何かを連想させた。

 しかし、三次が瓶を割ると中に入っていた剣が肥大化し、二尺あまりの大きさとなった。

 刃が煌めくのと同時に、三次は未音を睨んだ。


「私の本領は元より剣による戦闘───。

 不意打ちによる銃弾を避けれたのは褒めてやるが、次は外道によって強化されたこの剣が相手だ......。

 ダイヤモンドだろうと切ってみせる剣がなぁ!!」


「そうかよ。どうでもいいからとっととかかってこいよ......!!

 俺はな、悪鬼が嫌いで嫌いで堪らねぇ。出来れば次の一撃でお前を殺したい程には嫌いだ!!」


「悪人がいる。ならば悪鬼がいていい道理はあるだろう!!

 何を嫌う、同胞だろう!!!!」


 三次が距離を詰めるべく駆ける、駆ける。

 未音の首を照準に定めて、剣を強くにぎりしめる。

 未音は腰を低くし、拳を握りしめた。

 刹那───三次の視界から、未音の姿はいなくなっていた。

 その代わりに、腹部から鋭い痛みが走る。

 あまりの痛みに、思わず三次が下を向くと、未音が腕力で腹を貫いていたのだった。


「───その同胞に、家族を沢山殺された。

 俺の事を虐めてた奴だっていたし怖がってた奴だっていた。けどな、それでも俺は家族の事が好きだった。

 ......恩人の家族も、恩人も悪鬼に殺された。

 好きななる理由なんて......どこにもないだろうがぁ!!」


 残った片方の腕でもう一度、全力で三次の腹を貫く。

 風圧で窓が割れ、車体が僅かに浮かんだ。

 凄まじい一撃に、もう三次の気は失ってしまっていた。

 しかし、それでは満足せんといわんばかりに未音は両手を別々の方向に力を入れ、三次の身体を割いた。


「.........後は入江の逮捕だけだな。もう、一人で行くか」


 入江が逃亡している可能性を危惧し、未音は駆け足で入江の居宅まで向かった─────。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ────入江の捜査は、入江の不審死をもって終了した。

 電話の履歴から、三次の携帯電話の番号が確認され三次が向かった理由は入江の護衛と確定的なものになり、羅生門組と入江が繋がっていたという事実は揺るぎないものとなった。

 羅生門組幹部の撃破に加え、しっかりと予想も的中したことから、俺───ではなく巴は瞬く間に亜人対策課では、期待のエースと持て囃されていた。

 ......まぁ、その実態は巴が大手スポーツメーカーの息子ということもあり、巴が自分の手柄だと嘘を言い張っても機嫌取りの為にそれに合わせてしまっているだけだが。

 まるで、サーカス場のピエロ。劇に出てくる小物役を嬉々として演じる役者さながらだった。


「......しかし、入江の死体......一体どうなってんだよアレ......」


 入江の死体は奇々怪々な事となっていた。

 言葉通り包丁が心臓にのみ刺さっていて、それなのに死因は窒息死という訳の分からない事になっていた。


「考え事?」


「ん、まぁな。ちょっと事件の事で気になったことがあってさ......」


 束の間の休日、リビングで難しい顔になりながら珈琲を飲んでいると、楓に声を掛けられる。

 不可解な殺人事件が起こり、それに頭を悩ませていると彼女は決まって的確なアドバイスを寄越してくれるので、すごい頼りになる存在だ。

 入江の事を説明すると、楓はこくこくと頷いた。


「へぇ、新聞に載ってたヤツね。

 ......すごいよね、心臓にのみ包丁が刺さってて、外傷が無いなんて。どうやったのか気になってきちゃうわ」


「楓はどう思う? 今回の犯人について」


 訊ねると、楓は少し考えてから口を開いた。


「......多分、犯人は狂おうとしてるんじゃないかしら?

 だって、ホントに狂ってるんだったらもっと滅茶苦茶にやるだろうけど、これはさすがに理知的すぎると思うの。

 ......狂ってるやつがやってるんだったら、私の両親と、幸奈のようになってるだろうし」


 暫くの間、静寂が訪れる。

 俺は、手を震わせながら楓から目を逸らしてしまったのだった───。


いかがでしたでしょうか?

今回は区切りたいと思い一話で終わらせましたが、基本は二話構成となります。

それでは次の事件でお会いしましょう

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