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結火の部屋  作者: ミツラ
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馬渕

 馬渕琴美三十七才、六年前三十一歳で結婚し専業主婦をしている。大手上場企業に勤める夫は、部長で人並み以上の給料をもらっている。

 夕方まだ五時だというのに、雨が降っているので暗くなってきている。駅が近づくにつれ雑居ビルの明るい看板が多くなり渋滞してきた。静かな車内には、バッハのカンタータが流れている。助手席には、まだ三歳になったばかりの、長男健太が眠っていた。

 健太の寝顔を見ていると突然涙があふれて来て止まらなくなった。慌ててティッシュで涙をふく。

 一時間程前の事を思い出していた。

「自閉症ですね」

 医師がそう告げると、頭の中が真っ白になった。

 健太はおとなしい子であった。ほとんどしゃべらないし、話しかけても返事はない。健太の笑っている顔は見た事がなかった。ひょっとしてと覚悟はしていたつもりだったが、医師から告げられるとそのショックは大きかった。

(ああ、これからどうすればいいんだろう。彼が死ぬまで一生面倒をみることになるんだろうか、夫はどう思うだろう、どう言おうか、いろんな思いがぐるぐると頭の中を駆け巡る)

「あれ、一方通行か」

 ナビを見ていたつもりだったが、土地勘のない場所で家とは反対の方向へ向かっている。信号で止まると、『結火の部屋』という看板を見つけた。なぜかすごく気になったので、近くに車を止めると、健太を連れてビルに入って行った。

 部屋に入ると着物の女性が現れて、健太の方を見ると、

「お子さんの事ですね、こちらへどうぞ」

 そういって中へ案内し、琴美と健太は並んで座り、着物の女性と正対した。健太は瞬きもせず女性の方をじっと見ている。

「私は、結火といいます。あなたのお子さんは、あなたのもとに生まれることを選びました。なぜそうなったのかお教えしましょう。目を閉じてください」

 そう言うと結火は、琴美の手を握った。


 一八九四年(明治二十七年)十一月十日、金州、旅順攻略に向かった第二軍の補給船が花園口から西30kmの地点に停泊し、弾薬、糧食の揚陸を始めた。

 坂口達造は、二十歳になって徴兵され、訓練もそこそこに大陸に降り立ち、陸揚げに汗を流していた。

 隣で作業している新兵に話しかける。

「俺たちは幸運だったな、補給なら敵と戦うこともないだろう」

 男が答える。

「ああ、こんなところで死にたくないからな」

 補給部隊七百名余りは、弾薬などは荷車に積み糧食は主に背負ったが、馬が数頭しかおらず、当初荷車は兵が引いたため一日に僅かの距離しか進めなかった。その後、村々で馬を徴発しながら進むことで徐々に早く進む事が出来るようになった。

 金州城に近付いた一行は異様な匂いに気付いた。匂いはだんだん強くなり、手拭いをマスク代わりにしても耐えきれなくなって、あちこちで兵たちが嘔吐を始めた。近付いてみると、中国人の捕虜が大きな穴をあちこちに掘り、死体を投げ入れていた。

 穴の中で折り重なる死体は、手足が無かったり、顔が潰れていたりと不完全なものが多いが、凄い数だ。何十人、いや、百人は下らないかもしれない。そんな穴があちこちにある。

 達造は、小隊長に聞く。

「これは、皆中国人でしょうか」

「我が方にほとんど被害は無かったと聞いているので、そうだろう」

 十一月十六日、金州城に着いたが、第二軍は十四日に旅順へ向かって進軍していたため、補給部隊もすぐ後を追った。

 十一月二十二日、旅順郊外に駐屯する第二軍に合流した。この時旅順要塞は、第二軍によって既に攻略されており、市街に逃げ込んだ中国兵を掃討する作戦を行っていた。

 補給任務を終え、休んでいる達造たちに招集がかかった。

「お前たちは、荷車を曳いて市街に入り、兵の死体を集めてこい」

 第二軍は、民家を虱潰しに回り、逃げ込んだ中国兵をせん滅しようとしていた。

 達造たちが荷車を曳いて町に入って行くと、人気が無くがらんとした通りに、冷たい風が吹いている。数人ずつに分かれて路地に入って行き、最初の民家の扉を開けると達造は腰を抜かした。

 耳と鼻を削がれた生首がテーブルの上に置いてありこっちを見ている。服装を見るとどう見ても兵隊では無い。

 達造は驚いて小隊長に聞く。

「こ、これは、兵じゃないですね、これは犯罪じゃないですか」

「こいつらは便衣兵だ。気にするな」

 達造は釈然としなかったが、民家から死体を集め荷車に積む。ところが、数は少ないものの女、子供も殺されている。

 これはいくらなんでも!

 そう思って周りを見渡したが、皆無表情で死体を積んでいる。

(ああ、これは不可抗力で死んだんだな、事故だ、そういう事にしよう)

 達造は、感情を無理やり押し殺して考えることを止めた。死体を黙々と荷車に積みこんで市外に掘られた穴の中に投げ込んだ。


 達造は、三年の期間を持って退役し家に帰っていた。二つ離れた妹は、達造が兵役の間に嫁に行っており、今は両親と三人だけとなっている。

 縁側に座り、庭の方を見ているが焦点が定まっていない。帰って来てから、無口になりあまり笑わなくなった達造に、両親も心配していた。

 夏が近づいて雨が続いていた、今は止んでいるが蛙がどこかで鳴き始めたのでまた降り始めるのだろう。

 あれは、夢だったのだろうか、この静かな田舎の風景とあまりにもかけ離れた世界で、そんな気もする。

 夜寝ている時に、死体の積みあがった光景が甦ってきて目が覚める。そんなときには、あの嫌なにおいが甦って来る。あの死体のにおいは、帰りの船でもしていた。服に着いているのか匂ってみるがよく分からない。きっと鼻の奥に厚くこびりついて一生とれないのだろう。

 そんな様子を心配した両親は、知り合いの寺に達造をしばらく預けることにした。


 悌運寺(ていうんじ)は、人里から離れた山の中腹にある。千年以上の歴史があり、最盛期の鎌倉時代には、二十人以上の修行僧がいたが、今は、住職と三人の弟子が修行に励んでいる。住職は、略白(りゃくはく)といい年齢は五十を回って、僅かに伸びた頭髪はほとんど白い。

 達造は、言われるがまま、修行僧について同じように修行生活を始めた。

 朝四時に起きてすぐに勤行を行なってから、座禅を始める。夜が明けるにつれて、まず烏が泣き始める。その後、雀が鳴き始め、油蝉の声がうるさくなってきた頃に座禅は終わる。その後、食事の準備に取り掛かるが、質素な内容で、玄米ご飯に、味噌汁、漬物、あとは、畑で採れた野菜ぐらいだ。

 その後は、掃除を二時間もかけて隅々まで行なった後、作務や托鉢を夕方まで行い。勤行後夕食となるが、朝食の残りで済ます。その後、座禅をして一日が終わる。

 これ以外に、葬式や、法事などの他、月二回、全行程20Km程の山道を歩いて、山の祠を回っている。

 すべての事が修行のため、必要なこと以外は無言で過ごしているが、作務の合間などの休憩時間には、自由な会話をしていた。


 この日達造は、畑で雑草を抜いていた。一緒に作業していた修行僧の一人、南済(なんざい)が、井戸水を汲んで来て、休んでいる達造に渡す。

「ありがとうございます」

 真夏なので、いくらでも入っていく。

 南済が話しかける。

「ここに来てもう二週間になりますが、慣れましたか」

 達造は、ここに来てからの事を振り返る。やはり、座禅の時や、夜寝ている時など、中国での事が甦って来るが前よりずいぶんいい、林の中を流れる風で心が浄化されていくようだ。

「ここは良いところですね」

 達造は、正面の山の上に盛り上がっている真っ白な雲を眺めながらそう答えた。


 今日は初めての山祠(さんし)回りの日だ。早朝、握り飯を作ると直ぐに出発する。裏の山道から略白を先頭に、三人の修行僧と、その後に達造が続く。山の峰々には合計十二の祠があって、不動明王などが祀られており、一つ一つ回って真言を唱える。

 達造は、飛ぶように歩く四人に遅れまいと必死で付いて行ったが、気付くと一人になっていた。

 その時がさがさと音がして、熊笹に覆われた右の斜面から、四,五人の槍をもった雑兵が現れて、道を横切って左の熊笹の中に消えて行った。そして、前方の道の先には、痩せてがりがりの腹だけ出た裸の子供がうずくまっている。近付くと顔を上げて手を差し出してくる。

 突然強く背中を叩かれたと思うと、痩せた子供は消え、略白たちの姿が目に入った。

 略白は、達造の方を見て、

「餓鬼がいたか」

「はい」

 達造がそう答えると、略白は、

「気にするな、心が浄化されると見ることは無くなる」

 そう言うと何事もなかったようにまた歩き始めた。


 一ヶ月ほど経過した頃、達造は剃髪し、楽揃(がくせん)という名を貰って修行僧となった。

 悌運寺では、朝、晩二回それぞれ一時間座禅を行うが、住職も一緒に全員で行うため、座禅の様子を点検したり、警策なども行われていない。また、弟子たちは朝の座禅の後、朝食の準備に取り掛かるが、住職はその間も座禅を行い、たっぷり二時間も座っている。夜も同様に住職だけは二時間座禅している。

 楽揃は座禅が苦痛であった。じっとしている事も苦痛だが、あれこれ考えが浮かんだり消えたりして集中できないし、一時間は長い。

 ここに五年いる南済に聞いてみる。

「南済さんは、座禅は苦痛ではないですか」

「最初は私もそうでした、そのうち慣れますよ」

 この寺では、言葉ではほとんど教えてくれない。とにかく実践する事で学ぶスタイルだ。

「なにかコツみたいなものはありますか」

「呼吸だけに意識を集中するといいですよ」

 それは、初めにも聞いたが、意識していても直ぐに別の事が頭に浮かんでそれが一分と続かない。


 それから三年ほど経過して、楽揃もようやく座禅のコツがつかめてきた。意識を呼吸に集中していくうちに自分の手や足、体の存在が感じられなくなりただ呼吸をしているという感覚だけになる。

 ここにいる楽揃以外の弟子たちは、修行の上僧侶となって、どこかの寺の住職になる事を目指している。一方、住職の略白は、悟りを開くために修行をしている。

 楽揃は悟りについて、住職に聞いてみた。

「悟りとはどのようなものでしょう」

「言葉で説明するのは難しい。例えて言うならば、生まれながらのめくらが、目明きになったというような事であろう」

「住職様は、悟りを開かれたのでしょうか」

「わしは七年前に初信に至った」

「初信とはなんでしょう」

「悟りの第一段階に達したということだ、しかし全部で五二段あるのでまだ先は長い」

「初信となった事がどうしてわかるのでしょう」

「めくらが、目明きになった事に気付かぬものはいないだろう」


 それから二十年ほどが経過した。以前の修行僧はもうとっくに住職として他の寺に行ったが、楽揃はまだこの寺で修行している。高齢となった略白は住職を楽揃に譲り、今は一日中座禅をしている。無言の行をしているわけでもないがもう何日も会話が無い。

 夕食の後、久しぶりに楽揃が話しかける。

「略白様、最近は一日の大半を座禅して過ごしておられますが」

「無の境地に至るためだ」

 楽揃も座禅中に、全く自分の存在が消えているような瞬間が訪れてくる事がある。しかし、求めようと思うと逃げていく。

 しばらくして、略白は亡くなった。


 山中の寺で、日々修行を行っていくうちに煩悩が消えて行くのを感じる。心に浮かんでくる色々な雑念は、寺の裏にある山道を流れる風に乗って過ぎ去るのを感じる。

 楽揃は略白亡き後、教えを受け継いで多数の修行僧を育てた。自分自身も穏やかで、揺らがない心を手に入れる事が出来た。今では、どんな事があっても平常心でいる事ができる。若い時の戦争での体験を思い出しても心が動揺する事は無い。

 そんな楽揃も、七十六才となり命が尽きようとしていたが、いつものように穏やかなままで死を迎えた。


 死んで幽界に入った達造(楽揃)に守護霊が声をかける。

「まずは、しっかりと人生を送った事を祝福しよう。本来この幽界では、娑婆での色々な不純物を落としてから霊界に向かうが、生前の修行の成果により直ぐに霊界に行く準備出来ているので、直ぐに行こう。」

 そう言うと守護霊は、達造を連れて霊界に向かった。

 霊界に着くと、そこはどこにでもあるような田舎の風景であった。草原があって、森があり、小川が流れて、家がぽつぽつと立っている。

「しばらくこの世界を味わうがいい、何をするのも自由だ」

 そう言うと守護霊は消えた。

 達造はすることが無いので、道を歩いている男に声をかけて見た。

「あの、すいません、ここに来たばかりで勝手がわかりませんので、ここの事を少し教えてもらえませんか」

「この場所は地上と変わりませんよ、しかし、私たち自身は地上にいた時と大きく違います。なにしろ肉体が無いのですから、食事を取る必要もなければ、寝ることも無く、疲れることもありません」

「皆さん何をして過ごしていらっしゃるのでしょう」

「何をしてもかまいませんが、あまり執着しすぎると地獄に行く事になりますから気をつけた方がいいですよ」

 そう言うと男は去って行った。

 達造は、小川の傍に腰をかけて、しばらく眺めていたが、全く変化が無いので直ぐに飽きて、とりあえず座禅をしてみることにした。

 いつものように、静かに座って意識を集中する。すると、周りの音が消えて静かになり心が落ち着く。肉体が無い分何倍も集中できている気がする。

 しばらくして、立ち上がったがどれくらい時間が経過したのか分からない。一時間?、一日?。

 達造は、特にすることも無いので、あちこち歩き回っては座禅をしていた。

 ここでの生活も生前と大きくは変わらない。修行で鍛えられた精神は常に心を平穏に保っている。


 一年、二年、そんな事を続けているところへ守護霊が現れて、

「達造、妹のしのが霊界にやってきたので会いに行くぞ」

 守護霊はそう言うと、達造の手を取って上昇していった。

 やがて、別の場所に着いたがどこか生き生きしている。そして、大きな幸福感が波のように達造に押し寄せて来て圧倒された。

 達造は驚いて守護霊に聞く。

「これは、どうして、こんな幸福感は今まで味わった事がありません」

 守護霊が答える。

「お前がいた場所は、霊界の第一界だ。ここは第二界。努力して霊性が向上したならば、ここ第二界に進む事が出来る。ここは第一界より神により近いため、神の愛を多く受けるゆえに幸福になるのだ。そして、さらにこの上には第三界、第四界と続いている」

 そのとき、守護霊に連れられて、しのがやって来るのが見えた。

 達造は、戦争から帰ってきて直ぐに寺に入ったため、嫁いだ後の事はほとんど知らなかった。

「兄さんお久しぶりです。会えてよかった」

「お前もとうとう身罷ったか。苦しんだのか」

「死んでから分かったのですが、どうやら癌のようでした。でもそんなには苦しみませんでした」

 二人はしばらく、身内の事など懐かしく語り合い、達造は守護霊に連れられて第一界へ帰った。


 第二界から帰ると、第一界がすごく寂しいところに感じる。達造は、第二界のしのと比較して、みすぼらしく感じたので守護霊に聞いた。

「しのは、どれだけ素晴らしい人生を送ったのでしょうか」

「しのは、二十才の時嫁に行き、三人の子供を立派に育てて亡くなったのだ」

「それだけですか」

「そうだ」

 達造は疑問に思った。戦争の間での事は誇れる事は何もないが、寺で修業をした事で精神的に大きく成長した。悟りの境地に達した訳ではないが、平凡に一生を過ごした、しのよりも下とは納得がいかない。

「結婚し、子育てをするという事は大変だという事は理解できますが、子育てならば犬猫でもしている事。私は悟りの境地を極めようと何十年も修行し、自分でもずいぶん成長したように思います。それなのに私はより上というのが納得できませんが」

「これはどちらも経験してみないと分からないので、口で説明しただけでは腑に落ちないだろう」

 守護霊は少し考えてから、

「野球に例えると、お前は人並み外れた練習により野球の技術を極めたのだ。しかしそれだけで終わった。しのは、お前よりはるかに野球はへたくそであったが、試合に出て戦った。エラーをして味方に罵倒されながらも頑張った。どんなにへたくそでも試合に出れば記録に残るし評価もできる。ところがお前は試合に出ずに終わったということだ」

 達造は考えているが、いまいち納得できていない。

 守護霊はその様子を見て、

「しのが、どんなつらい思いをして、その結果魂が磨かれたかをいくら説明しても、経験していないので理解するのは難しいだろう。だから、次の人生ではそれを経験してみてはどうだろう」

 達造は真剣な眼差しで守護霊の方を見て、

「分かりました。ぜひお願いします」と答えた。


 結火が手を離すと、琴美は目を開けた。

 しばらくして、琴美は結火に聞く。

「これだけですか」

 自分の前世は分かったが、健太が自分を選んで生まれてきた理由がよく分からない。

 結火が問いかける。

「略白は無の境地に至る事を求めていましたね、無の境地とは何でしょう」

 琴美は、甦った前世の記憶に頼って考える。

「確か、人間の苦しみは煩悩によるという事でした。ですから、私たちは修行で煩悩を一つ一つ落としていき、最終的に無の境地に至る事を目指していました」

 結火は、じっとしている健太を見ながら考えている。

「ところで、あなたのお子さんは感情が乏しいように思えますが」

 琴美は、健太の方を見る。健太は無表情でぼんやりと座っている。

「この子は、感情を表現できないのです。今日、自閉症と言われました」

「私は、仏教の事がよく分かりませんので聞きますが、無の境地とは、感情が無い状態とは違いますか」

「え、じゃあ、この子は無の境地に達しているとおっしゃるんですか、いやそれは全然違うような気がしますが」

 琴美はいろいろと考えを巡らせているうちに、ある考えが浮かんできた。

「ひょっとして、この子は略白様ですか」

 結火は頷く。

「間違いありません。彼は無の境地を極めるために、今世では最初から煩悩の無い状態で生まれる事を望んだのです」

 いろんな考えが浮かんで琴美は混乱した。煩悩が無い状態で生れて悟りを目指す事が出来るのだろうか?、私の所に生まれたのはなぜ?、どう育てるのが正解?

「どうしたらいいのか分かりません。この子の前世を見て貰えますか」

 琴美が、結火に訴える。

「さっき試してみましたが、それは無理でした。彼は完全に心を閉ざしています」

「いったいどうすれば」

「これは、私の個人的な意見ですが、このように心を閉ざしていたのでは、全く修行にはならないでしょう。むしろ、あまりに行きすぎた求道に罰を受けているような気さえします。あなたは今世では、野球の試合に出る事を望んだわけでしょう。でしたら、彼も試合に参加できるよう導いたらいかがでしょうか」

 琴美はしばらく考えていたが、

「なるほど、それが正解かもしれませんね、しかし、あまりにたくさんの情報に今は混乱していますので、よく考えてみます」

 そう言って帰って行った。


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