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我らが愛しきTS駄エルフ(♂)の旅(旧題:TSエルフ(♂)の異世界見聞録)  作者: 嘉神かろ


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第二十二話 お姉さまセンサーに反応あり!

 意気揚々と道なき道を行くトキワだが、件の渓谷は中々見つからない。

 起伏に富んだ地形が邪魔をして遠くまで見渡せない上に、数メートル進むのにさえ苦労するような場所なのだから、当然だ。


 太陽の位置が変わるにつれて、嫌々付いて来ていたシュアンの表情に光が差す。


「ねえ、トキワくん、これだけ探しても、見つからないんだし、もう、帰ろう?」


 今から帰れば、日が暮れる前に宿に帰れると促すが、トキワは承諾しない。


「暗くなるくらいなら私たち平気でしょ! それより、さっきから私のお姉さまセンサーが反応してるんだよ。目的地は近いよ!」


 なんだそのセンサーは。

 外してしまえ。


「だ、だったら、余計に戻ろう、よぉ……!」


 ほれ、終にはシュアンが涙目になってしまったぞ。

 落ちは見えているのだから、さっさと帰ったらどうだ?


「むむむむ……、こっちかな!」


 こっちかな、じゃない。

 走り出すな。

 九十度近い壁を当たり前のように駆け上がるな。

 重力を無視するな。


 無駄に器用なことをしおって。

 シュアンがどう追いかけようか、思案し始めてしまったではないか。


 ……今のは意図しておらぬぞ。シュアンと思案をかけてなどいない。良いな?


「あった!」


 等と言っている間に、とうとう駄エルフがセイレーンの集落を見つけてしまった。

 どうして本当に見つけられるのか、創造の神に近しい身を以てしても謎である。


 セイレーンたちは渓谷の横穴を利用して暮らしているようで、これまでにあった家らしい家はない。洗濯物やら何やらのおかげでようやく居住地と分かるほどだ。


 その中に、腕の代わりに翼を持った女性たちの姿が。彼女らの足は猛禽類のようで、人間の女性のようにたおやかな上半身とはギャップが激しい。


「はぅっ! 美しいお姉様があんなに!」

「トキワくん?」


 駄エルフよ、シュアンまでお前のような動きをしていたぞ。闇を宿した瞳で垂直の壁を駆け上がる彼女の恐ろしい姿は、是非とも駄エルフにも見て欲しかった。


「ねえ、もう、いいよね? 早く、帰ろ?」


 そうだな。実際、彼女らは危険だ。特にトキワにとっては。

 彼女らばかりがこのような僻地に暮らしている理由でもあるのだが、その歌による魅了は主に、繁殖の為に使われるのだ。


 セイレーン族に男は生まれない。故に多種族の男をさらわなければ子孫を残せない。

 とはいえ彼女らも、他の住民たちから不況を買いすぎては住む場所を追われてしまう。

 そのため彼女らも、相手を選ぶ。妻子や恋人のいる相手は避けるし、観光地で問題を起こしては他の住人の飯の種を奪いかねないのでそちらにもあまり近づかない。


 基本的には、パートナーを持たない住人に了承を取った上で、後腐れ無い関係を求めることで暮らしてきた。


 では、そんな彼女らの集落に外部の人間がふらふらと迷い込んだらどうなるか。


 女であるシュアンは、先ほどの婦人の言うように身ぐるみ剥がされて放り出されるだろう。しかし宿代は先に払ってある上、万が一に備えて多少の金銭は宿に隠してある。

 服を買って町中の雑用のような、簡単な依頼をこなせば、ある程度の資金は稼げる。

 幸いにして魔法という武器もあるため、次の街に行けばランク相応の仕事もできるのであるし。


 一方で、一応は男であるトキワはどうか。

 それはもう、大変なことになる。日本人である君たちの基準であれば、齢十八を超えなければ社会的に見ることを許されない物語になってしまう。


 それはまずい。彼の物語の語り部たる私としては、歓迎できない事態だ。


 それ以上に、彼へ思いを寄せる子犬にとって由々しき事態だ。


 故にシュアンは、どうにかトキワを引き換えさせようとしているわけだが……。


(うぇへへ、クールビューティーなお姉様にセクシーキュートなお姉様、よりどりみどりだなぁ)


 うん、ダメだなこれは。

 表情が緩みっぱなしだ。よだれまで垂らしている。


 シュアン、推奨は思い切り殴って気絶させた上での拉致だ。大丈夫、なんら問題ない。


「な、なんか、天啓が聞こえた、気がする……。本当に、やっちゃって、いいのかな?」


 ああ、いいぞ。

 セイレーンたちに気づかれる前に、ひと思いにやってやれ。

 死ななければ問題ない。ほれ、いけ!


「ごめん、トキ、ワく――」

「うん? シュアンちゃん、どうかした?」


 ぬ、間に合わなかったか。

 耳の良さが徒になったな。シュアンが魅了されてしまった。

 彼女は中世的で可愛らしい顔を朱に染め、目を虚ろに変える。


「あー、魅了受けちゃったかな?」


 まあ、歌の範囲から外れて暫くすれば魅了は解ける。幸いトキワにはまだ聞こえていないようであるし、問題ないだろう。

 流石のトキワも、この状況であれば引き返すは――


「ハッ! これはお姉様に話かけるきっかけになるのでは!?」


 どうしてそうなる。

 いや引き返せ駄エルフ。シュアンを巻き込むな。


「さあシュアンちゃん、案内よろしく!」


 あぁ……。

 シュアンよ、本当にこれでいいのか?

 ついて行く相手を間違えたのではないか?


 まったく、これでは故郷の兄弟たちも報われまい。


 崖をひょいひょい降りていく二人。やはり落ちは、二人揃って身ぐるみを剥がされ、放り出されるとなるか……。


「あ、あの人たちかな?」


 向かう先にいたのは、二人のセイレーン。背の高い方は紫の長髪に同じ色の、猫を思わせる目を持っており、もう一方、トキワたちと同じくらいの背丈の方は金髪金眼の垂れ目だ。二人ともタイプの違う美人で、トキワの目が一層輝く。

 二人が移動を始めた時点で歌うのはやめたらしい。


「ぐふふ……」


 だからその笑い方はどうなのだ。シュアンが真顔になっているぞ。

 ……いや、魅了状態であるよな? 意識殆ど無いのだよな?

 恐れるべきは、恋するシュアンの方な気がしてきたのだが、気のせいであろうか。


 何はともあれ、落ちは見えたな。

 今は正気の駄エルフだが、彼女らの元にたどり着けばもう一度歌を歌われるだろう。


 まあ、死にはしない。健全な少年少女に見せられないアレやコレやが終わった頃に、物語を再開するとする。

 それまでは諸君、茶でも飲みながらゆっくりしてくれ。

 私は私で、本来いるべき場所に顔を出してくる事としよう。


 あぁ、本当に、嘆かわしい限りだ……。



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