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Gene ―子供―

 やっと序章が終わりました。この世界における主人公の扱いは今回がデフォルトです。そんなにしつこく描写はしないと思いますが。


 フロハ村が存在していた山から飛び出したマオは、私たちの前方の視界に映らない森の中へと加速していた。


 そこからわずかな間を置いたあと、私たちに差し込んでいた太陽の光が一瞬だけ大きな影に遮られ、何かが落ちる音がすぐそばで聞こえた。


「ま、まさかこっちに来たのか…!?」


 うろたえる村人たちの不安は的中した。ゼファロスは、私たちの目の前にそびえ立っていた木々よりも高くその首を伸ばして、自分を吹っ飛ばした張本人のマオを睨みつけていた。


 視線の先で上空に飛んでいたマオは、片手を私たちの前方に倒れていたゼファロスへと向けると、紫の煙のようなものを発射した。


 あれも魔法かな……?


 切迫した状況とは裏腹にそんなことを考えていた私の周りで、村人たちは大いにざわめいていた。


「お、おい! 今のって――!?」

「闇属性魔法!?」

「な、なんと禍々しい……!」

「不吉だ……まさか、奴が元凶なんじゃ!?」


 え? なにこの反応……?


(どうしてみんな、そんな怖い目をするの……?)


 それは巨大な化け物と戦っている勇者を応援するでもなく、圧倒的な力を見て戦慄しているでもなく、まるで汚らわしい……或いはおぞましいものでも見ているかのような目だった。


 私はあの目を知っている。自分たちと違うと思った相手を見る目だ。元の世界の人間たち(アイツら)が私や母さんを見ていた目だ――!


 そうして困惑している私や村人たちの頭上を、五つの色と強い金の光が射した。空中で何かが浮かび上がると、そこからマオがものすごい勢いでゼファロス目掛けて飛び出した。


 マオが聖剣をゼファロスへ振るうと、まるで爆発でも起こしたかのような轟音とともに、強い爆風が発生した。


「うっ……!」


 私を含めて、この場にいた全員が両手で顔を抑えたり、しゃがんで吹き飛ばされないように姿勢を保っていた。


 しばらくすると風は治まった。顔を上げた私たちの視界の先にゼファロスの姿はなく、数十メートルほど先の木々が倒壊していた。


 気づけば私は走り出していた。マオが心配だったのか、本当に神を殺したのか知りたかったのか、それとも『あの目』をしていた村人たちから離れたかったのか、その全てなのか……それは私自身にもわからなかった。




   ♦︎




 無事だった木の間を走り抜けた私の目の前には、大きなクレーターが出来ていた。辺りには黒い焔が何箇所か立ち昇っていた……勢いを見る限り、しばらくすれば自然と消えそう。


 クレーターの中央……ほどほどに深いその真ん中には、緑と黒の巨大な水晶が落ちていて、その前にグレーのコートを着込んでいたマオが立っていた。


 マオが聖剣を押し当てると水晶は砕け散り、破片は真っ黒なチリへと変わった。チリとなった水晶は突如吹いた強い風に流されて行き、クレーターの中にはマオだけが残された。


 クレーターの端とマオのちょうど真ん中の位置に立った私は、マオに声をかけるべきか悩んだ。今のマオの後ろ姿は、自分の出自や闇属性魔法を話すときと同じように、どこか寂しかった。そんな彼に、私は一体なんて声をかければいいんだろう……。


「とんでもない事をしてくれおったな……!」


 私の後ろ――クレーターの端に村長さんが立っていた……いや、彼だけじゃない。一緒に逃げていた村人たち全員がクレーターに沿って立っていた。


「今の魔法は闇属性魔法の影蝕(えいしょく)……見間違えるはずもないわ。十数年間前、ワシらの同胞たちを何十人も死へと追いやった、あの忌々しい魔法!! 闇属性魔法を使えるだけでも充分淘汰されるべき存在……じゃが貴様はそれ以上の存在! そうであろう!?」

「…………」



 なに……なんの話? 闇属性魔法が使えるだけで淘汰? しかも何十人も殺した?


 人が変わったように叫ぶ村長さんと、特に反論をする様子さえ見せないマオ……その真ん中で、私は訳もわからず混乱していた。


「ちょ……ちょっと待ってよ! さっきから聞いてれば、なんで貴方マオを責めてるの? マオはフロハ村や貴方たちを守ろうとして――」


 弁論しようとして叫んでいた私を遮って、村長さんは当たり前のように口を開いた。


「娘さん、アンタは騙されておるんじゃ! 闇属性魔法を扱えると言うことはすなわち『闇に魅入られし才能を持っている』ことに他ならん! 少なくともこの大陸では不吉の象徴なんじゃ! そして、あの影蝕は魔族クラスでしか扱えん! その男は闇に魅入られた以前の問題なのじゃ!!」


 ――――はあ? なにを……本気で言ってるのこの人は? 闇に魅入られたって……そんなの貴方たちの勝手な想像でしょ!?


 ハラワタが煮えくりかえるような感覚を覚えた私は声を荒げて反論しようとした。けど、そんな私の肩に手が置かれた。慌てて振り向くと、すぐ後ろにマオが立っていて、肩に手を置きながら村の人たちにまっすぐ視線を合わせていた。


「反論はしませんよ、貴方の言う通りです。だって僕は…………魔王の息子ですから」


 ――――――え?


「なんと……!」

「ま、魔王の息子だと!?」

「やっぱりあの化け物を引き連れて来たのはお前か!」

「勇者たちも自警団のみんなも、ドサクサに紛れてお前が殺したんじゃないのか!?」

「自作自演だったんだろ!? 俺たちをいいように騙して!」


 呆然としたように立ち尽くす中、村人たちは次々にマオへと罵倒を浴びせていた。


(――――ああ、そう言うことだったんだ……)


 闇属性魔法の話、出自に関わることを話す時のマオのあの表情はそう言うことだったんだ。


 親が魔王で、この世界を滅ぼそうとした……それでも彼はあんなに真っ直ぐに生きていけたんだ。そう思うと、私は自分の親や環境がひどくちっぽけに感じた。


 立ちすくんで納得していた私を他所に、村人たちの罵倒はヒートアップしていく。


「私たちの村を返してよ!」

「この悪魔が! どれだけの人間が死んだと思ってる!?」

「やはりシン様の弟子というのは嘘だったか、外道め!」

「地獄に堕ちろ!」


 村人の一人が投げつけたトマトのようなものがマオの右側の頭部に当たり、そこから血のような赤い液体が流れ始める。


 マオは髪の先からポタポタと地面に汁を垂らしながら、しかし何時ものように笑顔を浮かべた。


「ええ、僕も次の行き先に向かう所ですから……。あ、でも支度だけしていっても良いですか? 終わったらすぐ出ますから」


 そう告げるマオの前で村人たちは一斉に顔を見合わせていたけど、やがて村長が露骨に嫌そうな顔を浮かべながら渋々といった具合に承諾していた。


 元からこの世界に居場所がない私は、この人たちの場所に残る……そんな気には到底なれなかった……。




   ♦︎




 山の麓の仮設施設――局地的地震や豪雨で村から避難することを想定して作られた、いくつかの山小屋――その中の一家で身支度を済ませたマオは、ドアを開けて外に出た。


 辺りには誰もいない……訳ではなかった。小屋や置かれていたゴミ箱の影、小屋の中の窓から顔を覗かせている村人たちがチラホラと見受けられた。


 外でマオを見ているのは、避難誘導していた自警団や大人の男たちで、その手には木の棒やクワ、剣といった即席で用意した武器が握られていた。


 どこか悲しそうな、しかし薄く笑いながらマオは仮設施設の門へと歩いていく。何件かの家を通り過ぎたあたりで、隠れていた住人数名が小屋から出てきたり、ジリジリと詰め寄ってくるのを背後に感じながら、マオは施設出て行こうとした。


「マオ、待って! ちょっと待って!!」


 そんな彼に自分から声をかける人物がが居た。その声の主に心当たりがあった。数日前に湖であった、あの少女だ。


「シオン? どうしたの?」


 手に大きめの荷物を持ちながら自分を追ってきたシオンに、目を丸くしながら思わず問うマオ。


「私も行く。迷惑かもしれないし、足引っ張っちゃうかもしれないけど……邪魔だと思ったら次の村にでも置いていってくれていいから。」

「え? で、でも僕は魔王の息子なんだよ? それにここに居た方が――」


 自分と一緒にいたら彼女は傷ついてしまう。そう思ってここに留まることを進めるマオの言葉を、シオンは声を大きくしてさえぎった。


「魔王の息子とか関係ない! マオはマオでしょ!? マオはここにいるみんなの為に戦ったの、私は知ってるんだから。それを親のせいで、やってもないのに理不尽に怒りをぶつけられる方がおかしいの!」


 あえて村中に聞こえる大きな声で叫んだシオン。そんな彼女に後ろの村人が怒声を上げる。


「なんだと小娘が! 何も知らないくせに!」

「お前も悪魔の仲間か!」

「この村から出て行け! 魔王の信者め!」


 村人の叫びを聴きながら、シオンは施設の方へと振り返って目一杯叫ぶ。


「こっちから願い下げよ! 私はあなたたちみたいな、恩知らずで薄情な連中の元になんて居たくないわ!!」


 言い終えるとシオンはフンッ、と言って正面を向いて歩き始める。呆然と立って村人たちとシオンの背を交互に見ていたマオは、さきほどと違って小さく笑顔を浮かべてシオンの背中を急いで追いかける。


 シオンの隣に並び立ってから、マオは彼女へ視線を向けて口を開く。感謝と、心からの言葉を彼女へと送りながら。


「えっと、その…………ありがとうシオン。こんな僕を信じてくれて。」

「良いよ、こっちも迷惑かけちゃうかもしれないし。それに私、言語スキルをエンチャントされてるんでしょ? ならマオが居なくなっちゃうと困るし。」

「あっ! そっか、そうだったね。ははは……」


 談笑しながら門をくぐった二人の少年と少女は、怒りに近い感情を向けている村人たちのいる仮設施設を後にした……。

「よくわからない押しの弱い主人公」と、「勝気気味な押しの強いヒロイン兼もう一人の主人公」


 二人のコンセプトはこんな感じです。ヒロインの方は一昔前に流行った暴力系ヒロインよりマイルドです。多分。

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