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Decision ―軌跡―

 次回でプロローグが終わると宣言しましたが、戦闘が伸びてしまったのでやっぱり終わりませんでした。今度こそ次回でプロローグが終わります。


 私は村人や自警団の人と共に、フロハ村が存在している山の斜面を下りながら避難していた。


 ゴオオォォ……!


突然発生した嵐によって、光を閉ざされた薄暗い空の下、何度も大きな風の音が響く。きっとまだフロハ村でマオを始めとした勇者たちがゼファロスと戦っているんだ。


 そう私が思っていると、甲高い鳴き声が空に響いた。鳴き声だけならさっきから聞こえていた、けどこれは悲鳴に近い。それからほどなくして何かが地面に落ちる音と、地震のような衝撃が遅れてやって来る。


 ズドオオオオォォォォンッ!


 大きな音と地響きは二回起こった。きっとゼファロスが地上に落ちたんだ……!

 私と同じ考えだったのか、周りの自警団のメンバーが部隊長の人に指示を仰いでいる。


「ラガルド副隊長、今の音近いですよ!?」

「ああ……皆さん! 慌てずに、そして落ち着いて避難してください!」


 不安そうに山を見上げたり、音が聞こえた先を見つめる村人に丁寧に声をかけていく部隊長さん、けどその彼の顔には他の村人たちと同じように不安の色が見え隠れしている。

 当然だ。ここにいる人たちは私以外全員あの村が故郷、或いは帰る場所なんだと、私は改めて感じていた。




   ♦︎




 ゼファロスが地上へと落下しているころ、マオはフロハ村へと迫りくる竜巻の前に立ちはだかっていた。神の力によって生み出された魔力(エレメント)の嵐に、既に何人もの勇者たちが飲まれている……その現実を直視しながらも、しかしマオは一歩も引かなかった。


 それは引くわけには行かないという意志と、神の一撃でさえ聖剣(プリズムブレード)ならば防ぎきれるという信頼があったからだ。


「行くよ、聖剣(プリズムブレード)……!」


 答えることはないその相方に声をかけてから、マオは前回同様に『暴風壁(ストームウォール)』を発生させて竜巻の中を目指してまっすぐ突っ込む。


 ただし迂回する時間を惜しんで発動した前回と違い、今回は明確に竜巻の中へと潜るために発動した。竜巻の中では魔力(エレメント)を秘めた真空波が飛び交っていた。そのすべてを暴風壁(ストームウォール)で防ぎきりながら、マオは竜巻の中心へとたどり着いた。


 突っ込んでからここまでおよそ十秒弱という速さで到達したものの、嵐はフロハ村へと刻一刻と迫っていた。マオが聖剣の円形(サークル)部分に手を当て風属性の魔力(エレメント)を注ぎ込むと、そのうちに刻まれた五つのダイヤの一つが緑の光を放った。


 聖剣の刀身に緑の風属性の魔力(エレメント)で形成された風が纏わせると、マオは左に回転して発生している竜巻の中心でその逆――右に回転しながら、風の魔力(エレメント)を周囲に解き放った。マオを中心にして放たれた魔力(エレメント)は、無数の風の刃で形成された小さな竜巻になる。


 右に回転する巨大な竜巻と、その中心で左に回転する竜巻……二つの竜巻を互いの魔力(エレメント)ぶつけ合いながら消滅させようとしたのだ。質量や魔力(エレメント)が多いゼファロスの竜巻の方が有利であったが、それでも内部に発生した強い歪みによってその勢いは大きく削られていた。


 マオは再び風属性の魔力(エレメント)を聖剣に集約させると、今度は竜巻の外目掛けて縦に聖剣を振って風の刃を放ち、勢いが薄れ始めていた巨大な竜巻を強引に切り裂いた。



 マオが最も警戒していたのは前回と同じようにこの竜巻を何発も連続で放つこと。故にマオはゼファロスが追撃を行うよりも先に、翼を固めて地上へと落としたのだ。



 自身の周囲で風の魔力(エレメント)が霧散する中、マオは一瞬フロハ村へと視線を向けた。村には風の刃によって発生した亀裂やクレーターがいたるところに散見され、何枚ものゼファロスの羽が地面に勇者の亡骸もろとも突き刺さっている。


 竜巻からの被害は免れた。しかしその竜巻への対策を行っているうちに、数多くの勇者たちの命が失われていた。


 その現実を目の当たりにしたマオは歯を食いしばり、聖剣を強く握りしめる。


「――ッ!」


 しかし感傷に浸っている余裕はない。動きを止めたとは言え、まだゼファロスは地上で生きている。


 後ろ髪に引かれる思いを振り切りながら、マオは地上でようやくといった様子で起き上がったゼファロスへと加速した。



 これまでゼファロスは攻撃を行うとき、翼を煽っていた。風の刃、羽の弾幕、そして竜巻を起こして発生させる嵐……その全てが翼を起点としていた。


 そしてその翼は今、聖剣から放たれた魔力(エレメント)を帯びた土によって固められ、その土も同じく魔力(エレメント)を帯びた火によって硬質化している。


 たとえ神の力を持ってしても、聖剣の力とそこに魔力(エレメント)を注ぎ込む担い手をそう易々と突破出来ない。


 自身の力はともかく、そう判断したマオは加速しながら円形(サークル)へと手を伸ばした。



 それは完全に油断だった。



 ヴェアアアァァッ!


 ゼファロスは空から近づいてくるマオに気付いたのか、自身の頭部を地面へと向けながら大きく鳴き声を響かせる。


 それは雄叫びか、威嚇か……どちらにせよ抵抗出来ないゼファロスへと向かうマオの前で、ゼファロスは翼を広げて胸を反らし、大きく頭部をもたげた。


 人の動きで例えるならば、それはまるで深呼吸のよう。その動きにマオが気づいた時には、ゼファロスは次に取るであろう行動に移った。



 ゴアアアアァァァ!!



 ゼファロスの口から甲高い声と緑の強烈な光が漏れ出したと思った時には、その口から渦巻き状の風の奔流がマオと背後のフロハ村へと発射された。


「しまっ――」


 一瞬の出来事を前に、マオはほんの僅かな時間の中で発動可能な様々な魔法やスキルを総動員して発動する。


 『詠唱破棄(リサイトスルー)』を使用した上で、

 強度に優れた土の壁を貼る『岩山鋼壁(ロック・ディフェンス)

 水のドームを貼って衝撃を和らげる『広域水層(アクア・ドーム)


 その二つの防御用魔法を、さきに発動したままだった『暴風壁(ストームウォール)』と共に併用し、三重に展開した上で聖剣を構えて防御に徹する。……攻撃魔法で反らそうにも、あの奔流は防ぎきれない。


 発動仕切った直後、音速で放たれた奔流がマオの防御魔法に直撃した。


「――――ッアアアアァ!!」


 風の奔流に押し返される中、マオの目の前の防御魔法が次々と突破されかけていた。風は弱まり、土にはヒビが入り、水も吹き飛ばされていき、マオの身体はフロハ村へと押し返された。


 風の奔流はマオもろともフロハ村の存在する崖の中腹に命中、そこを起点として爆発したかのように頂上から中腹までが吹き飛んだ……。




   ♦︎




「一体なにが起こったんだ……?」

「わ、わかんねぇよ……」


 村に残っていた勇者や自警団の目の前で、巨大な化け物が上空から放った竜巻が突如として消えた。

 しかも空に居たはずの化け物や戦っていた勇者の姿はなく、そこには暗雲が立ち込める空だけが広がっていた。


 実際にはゼファロスの脚と本体が地面へと落下したのだが、迫り来る竜巻の荒ぶる風の音と恐怖によって、村にいた人物は誰一人としてそのことに気づいていない。


「とにかく、今は俺たちが逃げるのが先決だ」

「そうだ。あんな化け物はギルドの騎士団にでも任せればいいんだ!」


 勇者たちが皆口々にそう言い始めると、我先にとフロハ村の出口を目指そうとした。先に逃げた何人かにはすぐに追いつくだろう。そんな考えを誰もが抱いていた。


 だが先頭を走っていた勇者が村の門を通り過ぎようとした時、崖の下から再びあの鳴き声が響き渡った。


 ヴェアアアァァッ!


 その声を聞くと、逃げようとした勇者たちの何人かが足を止めた。


「う、嘘だろ!? まだ居るのかよ!?」

「関係あるか! 俺たちはもうずらからせてもらうからな!」


 歩みを止めず、吐き捨てるようにだれかが叫ぶと同時に、今度は甲高い声と風が強く吹く音が聞こえた。


 ゴアアアアァァァ!!


「い、一体今度は何だ――」


 最後尾を走っていた自警団の隊長は、今まで聞いた中でも特に違和感があるその声と音に疑問を感じて、僅かにその歩みを止めた。


 音の先――崖の方へと視線を移そうと意識と視線をそちらへと向けた。


 その直後、自警団の隊長を始めとした山に残っていた者たちの意識――そして命は、激しい風の中へと消えていった……。




   ♦︎



 避難していた私が山のふもとにたどり着いたのと、ゼファロスの鳴き声が聞こえるのは同時だった。


 ガアアアアアアァァァァン!!


 そしてその鳴き声からわずかな間をおいて、今度はさっきまで私がいた山の頂上辺りが大きな音と共に吹き飛んでいた。


「な……ば、爆発?」


 マオは無事なの!? 他の勇者たちは!?

 私が彼らの身を案じている中、周りの人たちは皆ショックを受けていた。


「あぁ……俺たちの村が……!」

「嘘だ! 俺は信じねぇぞ! きっと何かの悪い夢だ!」

「いい加減にしなさいよ、見たでしょ今の! さっき……山の半分より上がみんな……飛んでいったでしょ……!」


 訳もわからないまま村を追われ、それでもいつか戻れると信じていたのに、その希望を呆気なく奪われる……私は彼らになんて声をかければいいのか分からず、その場で黙って立ち尽くすしか出来なかった。


「怒りじゃ……我らは神の怒りに……(やしろ)様の怒りに触れてしもうたのじゃ!」


 私の背後で呆然と村があった場所を見上げていた村長さんが、杖を落としながらヨロヨロと山へと歩き出したと思うと前に倒れ込んで膝をついてた。


「そ、村長! 大丈夫ですか!?」

「ワシはいい……それよりも皆、崇めたてまつれい! (やしろ)様が、山の主人が帰られたのだぞ!」


 村長の言葉を聞いて、彼と同じようにおじいさんやおばあさんたちと言った年長者がこうべを垂れる。私や他の若い人たちは困惑しているばかりだ。


「何言ってるんですか村長! アレじゃみんな死んで……貴方のご子息だって!」

「分かっておるわそんなこと! じゃが……じゃがなぁ!!」


 声を上げた部隊長にそう言うと、村長さんは両手を地面に着けて崩れて落ちる。


 村長さんや村の人たちと同じように絶望しかけていた私の目線は、数刻前までフロハ村があった場所へと向けられていた。


(あの神はマオにも……もう誰にも倒せないの……?)


 そう私が思った瞬間だった。


 消しとばされていた山の一番上――中腹だった場所から、突如として光が漏れ出した。


「あれは……?」


 赤、青、黄、緑、橙……五色の光がそれぞれ真っ直ぐに空へと伸びていた。その光が収束していったと思うと、山から少し大きな土煙が立ち込めた。


 そしてその中から一つの影が煙の尾を引きながら、ここから少し離れた場所目掛けて突っ込んで行った。


 ほんの一瞬、煙が晴れてその中に居た人物の姿があらわになった。灰色のコートに黒のズボン……それは間違いなく、私がこの世界で初めて会った少年だった。


「マオ……!」


 死者が多く出ているだろうこの状況で、私は不思議なあの少年の勝利を祈るしか出来なかった……。




   ♦︎




 辺りに勇者の亡骸や身につけていた物が散らばっている崩れた山の断面……荒野の墓場の中で、たった一人起き上がったマオは模倣スキル『疾走(アクセル)』と『飛行(フライ)』を発動した。

 奔流を放ち、地上でこちらを見上げていたゼファロスの頭部へと一直線に突っ込むと、マオは両手で持った聖剣でその頭部を強く叩き斬った。


 ドオオォォォォン!!


 強く頭部を斬りつける……たったそれだけで、ゼファロスは数十メートルほどの距離を飛んたあと大きな音を立てて地面に背中から倒れ伏した。


 一旦地面に着地したマオは地面を蹴って倒れたゼファロスへと跳躍、その距離を一気に縮める。視界に入ったマオに対し、ゼファロスはクチバシを開けて再び風の奔流を繰り出そうとした。


「やらせるか……!」


 さきほどと違ってチャージがない……威力は少ないが、その分撃つのが早いのだろう。おそらく数秒後には風の奔流が発射される……。


 だが今のマオにはそれだけの時間があれば充分だった。聖剣を右手に持ち、左の手のひらをゼファロスへと向けると、そこから紫の禍々しい煙のような物が発射された。


 今まさに奔流を発射しようとしたゼファロスだったが、そのクチバシの中へ紫の煙が侵入する。


 ゲゲェッガガァァッ!!?


 煙がゼファロスの体内へと入り込むと、そのクチバシから漏れ出していた緑の光が急速に輝きを失っていった。




 マオが発動したのは闇属性魔法の一つ『影蝕(えいしょく)』――効果は至極単純、『相手の魔力(エレメント)を打ち消す』。


 魔王軍に属した魔族たちが、よく使用していた闇属性魔法……これによってこの世界は、初代勇者たちが現れるまでの数年間、魔王軍に対してまともな抵抗が出来なかった。


 通常の人間たち相手ならば当然効果を発揮するが、今マオが相対している、闇属性魔法の瘴気に当てられた神――『堕ちた神々(ネガ・ゴッズ)』相手には少々事情が異なる。


 まず『堕ちた神々(ネガ・ゴッズ)』は、闇属性魔法の瘴気から自身の肉体を形成しており、この世界で誕生した適正者、或いは魔族クラスが放った物であっても、魔法の効果や影響は受け付けない。しかし、マオクラスのレベルで放った場合には、魔力(エレメント)を打ち消すことができる。


 だがこれはプラス効果を発揮するだけではない。形は違えど同じ闇属性魔法を放つことによって、一定時間で『堕ちた神々(ネガ・ゴッズ)』は耐性を獲得、更に吸収してエネルギー源と化すことが出来る。まさに諸刃の剣だった。




 故に、この時点でマオは決意を固めていた。――この一撃で終わりにする……と。


 マオは右手に持っていた聖剣の円形部分へ左手を当てる。すでに聖剣には光が漏れ出していたが、その色は今までのように一色の光ではなく、五つあるダイヤ全てが赤、青、黄、緑、橙に光っており、五色の星を映し出していた。


「聖剣、機導!」


 動きを止めていたゼファロスへと飛びながら、両手で聖剣を縦にまっすぐ構え直して叫んだ。聖剣の円形部分から星を模した五色の魔法陣が浮かび上がり、中央に文字が現れる。


【 Ready? 】


「当然だよ……だから僕はここに居る……!」


 たった一人、幾度も見てきたそのメッセージに答えると、聖剣の五色の光が金色に輝き始める。そしてそこから巨大な光の刀身が形成された。


星の軌跡(スター・トレイル)ッ!!」


 その一撃の名を叫んだマオの周囲に円状に魔法陣が取り囲むと、素早く回転したあとマオへと収束し、加速スキルに匹敵する速度で打ち出した。


「うおおおおぉぉッ!!」


 ヴェアアアァァッ!


 なんとか起き上がり、こちらを見上げて咆哮をあげるゼファロス。今度こそ、それはただの威嚇――否、己の力を示す最期の意地であった。


 そしてゼファロスへと迫った瞬間、マオは光の刀身を纏った聖剣をゼファロスの頭部目掛けて横一閃に斬りつけた……。


小説を書く上で個人的に一番難しいのはストーリーを考えることよりも、ソレを文字に起こすことです。あくまでも個人的にですが。

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