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Another ―魔王の子―

 令和になったので初投稿します。


 いわゆる主人公最強のハーレム系になりますが、全体的に胸糞要素のある作風なので注意です。

 また、本作は主人公とヒロインのダブル主人公形式になります。


  それは、きっと運命だったんだろう。



「この子は…俺が預かる。」


 今でも鮮明に浮かび上がるその光景は、きっと何千年経とうと色あせることがない……確信を持ってそう言える。




そう言って、1人の男が仲間に説得していた。

仲間の1人が声を荒げ、男の胸倉を掴みながら抗議する。



「ふざけるな……こいつを一体なんだと思ってる!?」

「魔王の子だ。だがそれがどうした? この子が一体何をした? 何故命を奪われなければならない!?」



  男は仲間の腕を乱暴に振り払った。

  両者の口調は徐々にヒートアップしていく。



「魔王の息子というだけで充分だ!!」

「それこそふざけるな! 例えどんな理由があろうと、罪のない命を奪っていい筈がない!」



  言葉でわかり合おうとするのをやめたのだろう、2人の男は相手と…つい先程まで肩を並べて、共に巨悪と戦った戦友と相見えていた。


 互いにその手に武器を握って、相手の出方を伺う。

  先程まで2人を抑えようとしていた他の仲間たちも、すぐに今の彼らを止めることはできないと判断した。



  一体どれほどの時が過ぎただろう。ほんの一瞬の出来事は、この場にいる者の感覚を引き延ばしていた


  しかしその一瞬も、すぐに終わりを迎えた。


  両者は全く同じタイミングで、自分の得物を握って全力で駆けた。


  得物から溢れ出る大規模な魔力がぶつかり合い、魔力の奔流を起こした。



 そこで少年の――世界を滅亡へと誘おうとした魔王の息子の意識は途絶えた……。




   ♦︎




 2019年 4月30日 日本


 日本の元号の一つ、平成……その最後の日


 すでに周囲は暗く、月が空に昇っていた。

月の光が街を照らす中、1人の少女が全力で駆けていた。


 夜も遅く学校もとっくに終わっているにも関わらず、少女は制服のままだった。


 少女の名は【神木 紫苑(かみき しおん)】 16歳の、何処にでもいる普通の女子高生だ。

 ただ一つ、父親が殺人を犯したことを除けば…






 (ふざけないでよ。)


『お前みたいな人殺しのガキがいたらこっちに迷惑かかるんだよ!』

『えっと…神木さん? 悪いんだけどさぁ、他の生徒に近づかないでくれる? ホラ君の親、殺人犯でしょ? 他の生徒の親御さんがうるさくて…。』


 ふざけないでよ! 私だって、好きであんな奴の子供になったつもりなんてないのに!!


『なんだお前! 父親が出所して、わざわざ会いに来てやったのになんだその態度は!? あぁ!?』

『ごめんなさい……ごめんなさい……ちゃんと、ちゃんと躾けますから……』


 どれだけ我慢したか、どれだけ耐えてきたか! 今まで必死に父親(アイツ)との関係を隠して、今日まで日陰の道を歩んで来たのに……!


 心の中で、私は思いの限り叫ぶ。


 けど……もう今日でその生活とも終わり。


『ま、お前はあの女と同じでそこそこ顔も身体つきも整ってるからな。学校なんて退学させてやるから風俗にでも入れ。……いやいっそ身体を売ったらどうだ?ハハハハハ!』


 そう言って笑う父親(アイツ)の頭を、近くに置いていた置物で思い切り強く殴りつけた。

 生々しい音とアイツの呻き声、母さんの悲鳴を背に受けながら、私は家を飛び出した。


 マンションの階段を勢いよく駆け下りて、そして全力で走り出す。


 行く宛があるわけじゃない、周りに味方なんて誰もいなかった。今までも、そしてこれからも。


 だから、もう終わり。


 仮に死んでしまったなら……いや、死んでいなくても、私は父親(アイツ)と同じ所まで堕ちてしまった。なら、もうこの世にすがる必要なんてない。


 そう悟った私は、まるで導かれるように、直感的に行き先を決めた。 私を見捨て、過去何度もこっちのSOSを踏みにじったあそこ…学校へ。




   ♦︎




 比較的近いこともあってか、学校にはすぐに着いた。校門は当然柵で閉まっていたけど、この程度なら問題ない。

 私は柵の穴に足を引っ掛けて無理矢理よじ登ると、勢いよく向こうの地面へと着地した。


 それから程なくして目的の場所……学校の屋上にたどり着いた。

 屋上への鍵は閉まっていたけれど、よく家の鍵が閉まっていた時に、調べて身につけたピッキングを使ってこじ開けた。


 春にしては涼しい風に吹かれながら、私は屋上のフェンスをよじ登る。そんなに高くないフェンスの先には30センチあるか無いかというスペースがあった。


 私はそこに降りると、改めて下を見下ろした。


 この学校は4階建。それほど高さがあるわけでもないけど、少なくともここから飛び降りれば余程運が良くない限り、まず間違いなく死ぬ。


 私の人生はもう終わった。ならせめて、私のことを虐げ続けた学校の奴らに精一杯の嫌がらせをしてやる……そう決めた。


 折角のゴールデンウィークを、今まで見下していた奴に邪魔された彼らの顔を見れないのはちょっと残念だけど。……でも、後悔はない。


 手に着けていた腕時計を見ると、時刻は零時一分前を刺すところだった。……今飛び降りたら、令和に切り替わるタイミングで死ぬかな?


 そんなことを考えながら小さく笑ってから、私は空を見上げた。空に輝く月や星々が綺麗だった。空をこんなにじっくりと見たのはいつ振りだっけ?


 私は息を吐くと、ほんの少しだけ笑顔を浮かべて真正面を向いた。


 そして両足を端のギリギリまで進めると、そのまま前にもたれかかる様にして、地球の重力に身を捧げた。


 前から風圧がかかる、地面が近づいてくる。


 一瞬のはずのその時間は、私にとっては何十秒にも及ぶかの様に感じた。


 視界の端に何か映った。それは幼い頃の私のように見えた。きっと走馬灯なんだろう、そう思いながら私の身体はさらに加速していく。


 とても幸せな人生なんかじゃなかった。

 生きる価値なんて見つけられなかった。

 私のことをわかってくれる理解者なんて現れなかった。


 そんな絶望しかないこの世界に、私は最後の別れを告げた。


「サヨナラ世界……サヨナラ地球……」


 呟いたとき、すでに私は目を閉じていた。あとは地面に叩きつけられるだけ……


 ――――そのはずだった。




 ほんの僅かに、閉じた瞳の向こうから光が射した気がした。


 きっと気のせいだろう。そう思って気にも留めなかった、次の瞬間……。




 バシャアッ!


 大きな音と水飛沫を立てて、私の身体が水の中へと沈んでいた。


(……え……!? え、なんで!? いやだってここは学校で…?)


 余りにも突然のことにパニックになった私は、死のうとしていたのに手足を動かしてなんとか水上に出ようとした。


 いくら死のうとしてたからって、こんな意味のわからない状況じゃあ死ぬに死ねない……!


 すでに沈んだ時にかなりの水を吸ってしまった私は、息も絶え絶えの状態で僅かに水面から顔を出した。


 私が溺れていたその場所はかなり広い、湖と言ってもいい場所だった。なんとか辺りを見回しても、近くに学校なんてなかった。


 それどころか、周囲に広がるのは生い茂る木々や山、森ばかり……。


 目に映り込んだ光景は、どう見ても見慣れた景色じゃなかった。


 水面から見れたのはそれだけだった。私の息がそれ以上保つことが出来なかったからだ。

 もがく手足の力が失われていき、私は再び水中へと沈んでいく。




(アイツが家に戻ってきて……今までのことに耐えかねて殺そうとして……自殺までしようとしたその果てがコレ……?)


 こんな何処かさえわからない場所で。たった一人、誰にも気づかれることなく惨めに。本当に……私の人生って、最悪だったなぁ……。


 心の中でそう呟いた私の意識は、目的通り闇の中へと沈んでいった。当初の予定とは全く違う形だったけれど。


 けど、意識が途切れる前になにか音が聞こえた気がした。……きっと何かが水に落ちる音だ、さっき私自身が沈んだ時に聞いた。


 そして、意識が完全に消える私が最後に見たのは、少し前方に沈んだらしい何かがこちらにやって来るような光景だった……。


 理解者なんて現れなかった。


 この時までそう考えていた私だったけど、今思い返せば間違いなく言えることがある。


 あれは、きっと運命だったんだろう――って。

 異世界に転移するのはヒロイン側のため、序章の間はほとんどヒロイン目線で物語が進みます。

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