無《》情の魔女
人間は好きだ。
「わ、わるいまじょめ! いまからおれがたいじしてやるっ!」
「…………」
刃が私の胸に突き立てられた。偶然、心臓を貫いたらしい。思ったよりも血が溢れた。
「まじょめ、せいかつのうりょくなさすぎだろ!」
「…………」
少年が刺し疲れたところで家に帰ると、着いてきたらしい彼はそう言った。
「まじょめ、みてられねーからそうじもりょうりもしてやったぜ! というかいいかげん、ちまみれのふくをきがえろよ!? なんにちそれきっぱなしなんだよ!」
「…………」
少年が家の家事をし始めた。どうやら、彼もこれからここに住むらしい。
「なあまじょ。おれな、おまえのくびをとってくるまでかえってくるなっていわれてんだ。だから、むらにかえれねぇんだ」
「…………」
よくある口減らしの類だろうと、私は推測した。貧しい村ではたびたびあるということを知っている。
「魔女様! あんた表情変わらなすぎだろ、そんなんじゃ顔が固まっちまうぜ? ほら、解してやるから」
「…………」
私の頬を、少年はいじり始めた。魔女に肉体の劣化は無いので、あまり関係が無い。
「ま、魔女様! お、おおお、俺と、け、けけけ、結婚してくれねぇか!? してください!」
「…………」
少年――だった青年に求婚された。意味が無いので断ると、彼は泣いた。
「魔女様。今後とも、よろしくお願いします――ッ」
「…………」
青年の五回目の求婚。私が受けるまで同じ行為を続けるのだろうと思い、それを受諾した。彼は泣いた。
「魔女様! 魔女狩りの兵隊共がもうそこまで来てる! 早く逃げてくれ!」
「…………」
家に火が放たれた。燃える家屋の中、窓の外を覗き込み青年はそう叫んだ。
「魔女様。なーんてこともありましたね。今じゃすっかり静かですわ。なぜ最初から、この静かな土地に住まわれていなかったんです?」
「…………」
青年――だった壮年は、そう言って笑った。二人分の紅茶を用意しながら。
「魔女様ぁ――っ! ここらで一発、腰の痛みを治す魔法を!」
「…………」
今朝方、腰を寝違えたらしい壮年が、その腰を押さえながら蹲っていた。昔と比べて曲がっているため、負荷がかかっているのだと推測できる。
「魔女様、今年は豊作ですぞ。腕によりをかけますので、今夜はたっぷりとお召し上がりください」
「…………」
壮年――だった老人は、腕をまくりながらそう言った。笑うたびに、目じりの皺が深くなった。
「――魔女、様。こんな老いぼれのため、になど、泣かないで、くだ、さい」
「…………」
病床の老人は、もう長くはないことが明らかだった。――私の目元から、水滴が零れた。
人間は好きだ。
私にも、感情があることを実感させてくれるから。
無《表》情の魔女。End.




