5-1 「それぞれの日常」
遅くなりました。
その分長めなので許して下さい。
〈ラピシュリー視点〉
ー魔族支配地域 魔王城 玉座の間
「鬼灯ちゃん...!どうして私は連れて行ってくれないの!?」
血の様に赤い2本の角を持った12歳程の見目麗しい人鬼族の少女に問い掛ける。
理由は薄々気付いていても感情として直接問わざるを得なかったのだ。
鬼灯ちゃんは私の顔と魔王城の窓からの景色を交互に見て逡巡した後、私の質問に答える。
「これは魔族の興廃を懸けた一戦。
だが、だからといってこの城を空ける訳にはいかぬ...。だからこそラピにはこの城を守護して欲しいのじゃ。」
「私も...鬼灯ちゃんの為に戦いたいよ...!」
「分かってくれラピ...。人族の中にはまだ見ぬ強者がおるかもしれぬ。大切なお前を戦場で失う訳には...。」
鬼灯ちゃんは少し困った様な表情を見せた後、その玉の様な漆黒の瞳で私を見詰め、諭す様に言う。
私には分かっていた。城の守護何てのは建前だって言う事を。
私には鬼灯ちゃんの横に並んで戦う様な実力は無い...。
でも、それでも...好きな人を見送る事しか出来ないと言う事実が、私の心臓を火で炙る様にチリチリと焦がす。
「でも、エデルちゃんも一緒に行くんでしょ?だったらわた...んっ...!」
私が言葉を言い切る前に鬼灯ちゃんが私の唇を鬼灯ちゃんの唇で塞ぐ。
突然の事に驚くが、すぐに力を抜き鬼灯ちゃんに身を任せる。
ずるいよ...こんな事...されたら...何も言えないよっ...。
数分の甘い時間が過ぎ、それは扉の外からの声で終了を迎える。
「鬼姫様。ブリュンシュテラー、ソシテエデルガルトデス。」
「入れ。」
鬼灯ちゃんが返事をすると、ゆっくりと重厚な扉が開き、人型の大きな金属の人形のブリュンシュテラーことテラーちゃんと金髪をツインテールに結ったエデルガルトことエデルちゃんが王座の間へと入室する。
エデルちゃんは不死族のヴァンパイアで、ちんちくりんの私と違って各部の寸法が総じて大きかった...。
そしてテラーちゃんは鋼魔族で、鋼魔族特有の全身金属鎧を身に付けた重戦士だ。
だが、その中身はこの世の者とは思えない様な美しい銀髪の美少女だ。
でも、胸は私が勝っている...はずだ...!
「進軍ノ準備ガ整イマシタ。」
テラーちゃんは鬼灯ちゃんの前へと来ると片膝をつき、無機質な声色で鬼灯ちゃんに報告する。
「ご苦労。」
鬼灯ちゃんは満足そうに軽く頷く。
そしてさっきからエデルちゃんが私を観察する様に凝視して来る。
「エデルちゃん何...?」
「何かありましたの...?顔が赤いですわ...。」
流石エデルちゃんはこういう所は鋭い。
隠す必要も無いので、私は素直に答える。
「へへぇ、鬼灯ちゃんにキスして貰っちゃった!」
「なっ...!ズルいですわ!
お姉様もそう言う事は戦争が終わるまでは無しと言っていたのではなくて!?」
エデルちゃんが目の色を変えて鬼灯ちゃんの目の前に乗り出して問いただす。
「エデルよ落ち着くのじゃ。ラピはここに残らせる。暫しの別れの挨拶の様なもんじゃ。」
「そ、そう言う事でしたら...。
まぁ、でも私はその分、人族の国でお姉様にいっぱい可愛がって貰いますわ!」
「エデルちゃんこそズルいっ!やっぱり私も人族の国に行くっ!」
すると暫く黙っていたテラーちゃんが口を開き、大きな声をあげる。
「オ前達。遊ビデハ無イノダゾ!」
「ふぅ...やれやれ...。これから人族と全面戦争だと言うのに緊張感が無いのぉ...。」
鬼灯ちゃんは私とエデルちゃんを交互に見て、呆れた様に言う。
〈茉莉花視点〉
ー宗教国家エピクロス 首都ラミア 黒の大剣拠点 広間
帝国との件は無事決着がつき、この世界の戦争は見る見るうちに減少していった。
今はこの世界始まって以来のスローライフを満喫していた。
いつもの様に黒の大剣のメンバーで朝食を摂っているとコハクが遅れて広間へとやって来る。
「あらぁ?まだ皆食事中なのぉ?」
コハクは見た目はこんなのだが、兵器なので当然ながら食事は普通の食べ物を食べず、私が武具錬成で創り出したオリハルコンを食べている。
「コハクはもう食べたのか?」
ヤスが硬いパンをスープに浸しながらコハクに問う。
「えぇ。マスターの硬くて黒光りするものを頂いたわ。おっきくて顎が外れるかと思ったわぁ。」
......誤解が無い様に説明させて欲しい。
コハクは契約後、私の事をマスターと呼ぶ様になった。
そしてコハクの契約内容は私がコハクの食事であるオリハルコンを供給する事で、コハクは私にその古代兵器としての力を私に貸してくれると言うものだ。
その為、今日もコハクには最近のコハクのお気に入りのブラックハルコン製の剣を武具錬成で創って渡したのだ。
ヤスとコハクは反りが合うのか、打ち解けており、ヤスの言葉に反応し、こう言った下ネタで返す事がたまにあるのだ。
「何なら今度本物のブラックハルコンを...」
「...コハクに手を出したら神罰の剣。」
ヤスが何か良からぬ事を言おうとした事を察知し、ソフィが”鉄の掟”を読みあげる。
「...冗談だ。」
こうして黒の大剣の拠点では、和気あいあいとしたいつもの食事風景が繰り広げられていた。
ーマスグレイブ帝国 マスグレイブ城 大会議室
もう1つの日常として、最近は頻繁に帝国にて戦争根絶に関する討議会が行われていた。
「これはこれは...黒騎士様!良くぞいらっしゃいました。」
揉み手で迎えて来るのは、例の一件から心を入れ替えたヘーゲルだった。
長い挨拶や社交辞令を聞き流し、一通りの報告と議論をした後、ヘーゲルから議論のラップアップが行われる。
「...であるからして、マルブランシュと周辺諸国の同盟は不要な軋轢を発生させると考え、黒騎士様の方で動いて頂くのが最良かと考えます。」
「分かった。その件はコチラから釘を指しておこう。」
「ありがとうございますっ!
...所でこの後ですが、別室で席を用意していますので、是非ゆっくりしていって下さいっ!」
ヘーゲルがそう言うと、使用人の男が慌ただしく動き始め、別室へと案内される。
まぁぶっちゃけ戦争根絶と言うのは建前で、実際にはコレ...私へのゴマすりが帝国の目的なのだ。
罠と言う可能性だが...これはもう流石に無いだろう。
あの後、ヘーゲル達には今後の事を考え、マルクスの能力やヤスの能力、そして私の能力の一部を話している。
ヤスとクリスが捕まった時、ヤスは透明化能力で部屋から脱出し、睡眠薬の効果が無くなるのを待ち部屋に戻り、寝たフリをしていたのだが、それら全てを話す必要は無いので細かい事は話をしていない。
しかし、そのチートぶりに度肝を抜かれた様で、報復を恐れ、敵対すのでは無く、味方に付ける事で少しでも帝国の有利になる様に取り計らっているのだ。
現に帝国が従順になってからと言うもの、レールが敷かれた様にスムーズに和平への道が進んでいた。
私が使用人に案内され別室へと赴くと、そこには目鼻立ちの整った大人の女性が2人美しいドレスに身を包んで佇んでいた。
人目で分かる。うん、私とは違う種族だ。
私を見るや2人の女性は深々と一礼し、私の両隣へと座った。
「帝国貴族の中でもよりすぐりを選びました。」
ヘーゲルは自信に満ち溢れた笑みで2人の女性の家柄や魅力などを紹介する。
恭順するならば、無下にするまいと付き合っていたが、女性を政治の道具にする様なこういう行為は少し不快だ。
ここは一言言って止めさせよう。
「...2人共性格も良く。更には、この様に帝国中でもこの様な立派なモノを持つ者は希少で...」
機を見計らっていた私はヘーゲルの言葉を遮る。
「胸が大きい女性の方が希少だと言うのには異を唱えるが...。」
貧乳はステータスだ!希少価値だ!
私は威圧する様にヘーゲルを軽く睨みながら言う。
「これはこれは失礼しました...。黒騎士様は小さい方がお好みでしたか...!
しかし、それはまた奇特な...。政策に関しても、国の大きさで差別はなされない方だとは思っておりましたが...。何と慈悲深い...!」
奇特...。私はピクリと眉を動かす。
奇特とはよく誤解されがちだが、”奇妙で珍しい、変わり者”と言う意味では無い。
本来の意味は”感心な行いをする人”だ。
ヘーゲルはつまり、平たい胸族を哀れんでの行動だと言いたいのだろう。
何?コイツ喧嘩売ってるの???
「...帰る。」
私は殺気を放ちながら、別室のマルクスを呼びつけマスグレイヴ城を後にした。
次回来週土日投稿予定です。
一気に新キャラ増えたので軽く紹介しておきます。
ー簡易新キャラ紹介ー
※年齢は全て見た目
・鬼灯(鬼姫)
人鬼族、黒髪ショート、真っ赤な角、Eカップ、12歳
・ラピシュリー(ラピ)
獣人族、青白い髪ミディアム、うさ耳、Bカップ、14歳
・エデルガルト(エデル)
不死族、金髪ツインテール、犬歯、色白の肌、Dカップ、18歳
・ブリュンシュテラー(テラー)
鋼魔族、銀髪ロング、機械耳、ジト目、色白の肌、Aカップ、14歳




