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4-22 「犯人ではなく、名探偵ヤス」

 すいません少し遅れてしまいました。

 少し長めです。

ー宗教国家エピクロス 首都ラミア 黒の大剣拠点 茉莉花の部屋


 シルヴィアさんによって操作系魔法が解かれたマルクスから聞いた事の顛末をまとめるとこうだ。


 マルクスは転生後その転移能力を活かしスパイ活動を行い、軍事国家である帝国の戦争を失敗させて、徐々に国力を奪う行動を行っていたそうだ。

 そしてそのスパイ活動を通じて知り合ったのが帝国宮廷魔導師であるアルバートだった。

 アルバートは同じく転生者で、この異世界で初めて同郷(・・)の人間を見つけた事もあり、気を許したマルクスはまんまとアルバートの操作系魔法にかかってしまう。


 その後身体を乗っ取られたマルクスは、自分の身体を人質にされ、今までとは逆に帝国の有利になる様にこき使われ、今回も帝国の為(・・・・)に敵対するマルブランシュ王国の古代兵器(コハク)と黒の大剣をぶつけ、同士討ちさせるのが狙いだったそうだ。

 しかし、アルバートの思惑と違ったのはコハクを破壊する事が出来ず、あまつさえコハクが私の仲間になってしまった事だった。

 帝国に対する脅威度が跳ね上がってしまった黒騎士(わたし)を、アルバートの操作系魔法で操ったマルクスを使い消そうとしたのだった。


 因みに操作系魔法と言っても常時操作出来る訳ではなく、1日15分程が限界らしい。

 しかし15分もあれば、自害する事や社会的に終わらせる(・・・・・)事は十分に可能で、マルクスにとっては十分過ぎる恐怖であり、アルバートの傀儡と化すのは無理も無い話だった。 


「信じて貰えないかも知れないけど...。これがこの世界に来てからの事の顛末さ。」


 マルクスは理路整然とした話ぶりで語る。

 念の為、『審判の剣(ジャッジメントソード)』で確認したが全て本当の事だった。


「嘘は無い様だな...。分かった信じよう。

 ()も良いな?」


 私が判定を下すと、黒の大剣のメンバーも安堵の表情を浮かべる。

 マルクスは一緒に戦い、食事を共にした仲間だ...。出来れば()したくはないのだろう...。


「黒騎士様がそう仰るのなら私に異存はありません。

 しかし、一点疑問が...。

 何故ヤスは黒騎士様の部屋でマルクスを待ち構えて居たのでしょうか?その理由によっては...ギルティ...。」


 確かに今回ヤスが居なければ私は恐らく死んでいた。それは確かだけど...ヤスは何故都合良く私の部屋に忍び込んでいたのか...? 


「確かにそうよ!女の子の部屋に夜中に忍び込んでいたって事!?」


 クリス姉ちゃんも声をあげてヤスを非難する。


「ちょ、ちょっと待て!俺は黒騎士を実際にこうして黒騎士の命を護ってるんだぞ?

 皆して何だその目は...!」


 ソフィの投げかけられた疑問により、突如ヤスに訝しげな視線が集中する。

 それもそうだ。ヤスは女の子の部屋に深夜に忍び込んでいたのだ。普通に考えて怖過ぎる...。


「それは多分ヤスが僕が裏切り者だって気付いていた(・・・・・・)からだと思うよ...。」


 慌てるヤスを庇う様にマルクスが話に割り込む。


「ヤス。どうなの...?」


 クリス姉ちゃんがヤスに詰め寄る。


「...あぁ、そうだ。信じたく無かったがな...。

 だが、まぁ...操られていたのなら納得だ。」


 ヤス曰く。

 ヤスが最初に感じた違和感はマルクスが私達をマルブランシュ王国の領地内に転移させた時らしい。

 確かに転移させた場所は戦場で、いきなり戦闘となった。

 そしてその後マルクスはクリス姉ちゃん達を連れて戦場に戻って来たのだが、それは5分程後の事だった。

 しかし、それは遠くの転移は5分程クーリングタイムがあるからとマルクスは言っていたからだけど...。

 

「で、クーリングタイムについてだが...。俺はそれにも違和感を感じていた。

 アポステリオスから貰った俺達の能力は、強力な力を使うと眠気や意識を失う事はあってもクーリングタイムってのは聞いた事が無い。

 それにそもそも過度な能力は最初から設定出来なかった筈だ。」


 ヤスが珍しく難しい顔をしながら話す。

 確かにヤスの言う通り私も”武具錬成”を使っていくと眠くなり、最終的には意識を失ってしまう。

 そして能力選択時も無理な設定を組み込もうとすると決定ボタンが押せない仕様になっていた。


「マルクスは5分のクーリングタイムが必要と言い、実際にクリス達を連れて来たのは5分程してからだった。これは良い。

 だが、クリス達の所に転移した後直ぐに転移したらしいな。

 これっておかしいだろう?」


「え?どう言う事よ?5分って言うのなら5分であってるでしょう?」


 クリス姉ちゃんがヤスに最もな疑問を投げかける。


「俺が引っ掛かったのはその5分間の使い方だ。

 もう一度まとめるぞ?

 マルクスは俺達と別れた後直ぐに拠点に転移した。

 そしてクリス達の目の前に現れた後、マルクスは直ぐに戦場に転移した。

 マルクスの転移にタイムラグが無い事は最初に依頼を持ち込んだ時に見ている。

 つまり、何が言いたいかって言うと。

 この通りに転移していたら5分掛からないって事だ。」


「あっ...!確かにそうね!」


 クリス姉ちゃんが納得した様で首を縦に何度も振る。


「という事は、マルクスはこのルートで転移していない事を示しているんだ。

 で、ここからは今だから確信を持って言える結果論になっちまうが...。

 恐らくマルクスがあの時の空白の5分間で転移して寄り道していた場所は...ここ(・・)だ...。」


 ヤスが部屋の床を指差して示す。


「壁や屋根がある所では転移出来ないってのは恐らく嘘で、マルクスは俺達と戦場で別れた後直ぐに誰も居ない拠点の中に転移し、黒騎士の部屋に侵入。

 この目的は今回の通り、黒騎士を暗殺する為にログを残して置いたんだろう。

 で、その後、黒騎士の部屋から転移し、あたかも戦場から戻って来たかの様に装い拠点の外で待機しているクリス達を迎えに行ったってとこだろう。」


「......お見事としか言い様がないよ。」


 マルクスがゆっくりと感心した様に頷く。

 マルクスが頷いた瞬間、ヤスに向けられた懐疑的な視線は一転し、感心の目に変わる。

 

 こうしてヤスの名推理でマルクスもといアルバートの暗殺計画は阻止され。

 ヤス自身の容疑も晴れた。


「で、これからどうする?マルクスには俺が責任を持って黒の大剣の”アッシー”として働かせるが...。」


「決まっている。帝国に行き、アルバートを討つ。」


 同じ転生者なのに戦争を終わらせたがらない理由は分からないが、直接手を下さず他人の意志を捻じ曲げて人殺しをさせる様な...そんな奴は許せない...!


 この章の最初の方にばらまいた伏線回収で、少し分かり辛かったかも知れませんが...。

 次回土曜投稿予定です。

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