4-19 「ブラックハルコン」
遅くなりました。
少し長くなり校正に時間を取られました。
ーマルブランシュ王国 首都オーベル マルブランシュ城 大部屋
「アントワーヌ!アレを持って参れっ!」
国王の命令でアントワーヌが足をもつれさせつつ奥の風呂敷を捲る。
そこには真っ黒いインゴットがこじんまりと積まれていた。
アレは何...?オリハルコンな...の...?
オリハルコンは本来金色だ。まぁ私がさっき取り出した『必然のナイフ』は”武具錬成”で色を弄って黒くしているけど...。
見た所量は少なそうだが今は差が20ポイントしかない。品質が1kg1ポイントだったとして、たった20kgで逆転されてしまうのだ...。
アントワーヌが台車で丁寧に運んで来た黒いオリハルコンを見てコハクの目の色が変わる。
「あらぁ!コレはブラックハルコンじゃないっ!コレは凄いわねぇ...。
コレなら...そうね...1kg10ポイントを付けてもいいわぁ。」
コハクはうっとりとしながらその”ブラックハルコン”を見詰める。
1kg10ポイント!?
10倍!?そんなバラエティーのクイズ番組の最終問題じゃあるまいし...。
かつてF1でも最終戦のポイントが2倍になるとか言うおかしなルールが出来たけど、2014年の1回で即撤廃されたと言うのに...。
ともかくこれでライプニッツとオリハルコンを溶かしていた謎は解けたわね。
帝国一と言われる腕利きの鍛冶師ライプニッツにブラックハルコンを作らせていたって所でしょう...。
「くっくっくっ...!そうか...つまりは...えっと...幾つになるんだ?」
アレ?シモン大将計算が苦手っぽい...。まぁ見るからに脳筋って感じだもんねぇ。
「えっと...ブラックハルコンは25kg用意出来たので250ポイント。合計でこちら側は1100ポイントとなります。
相手は870ポイントですので大きく離せたかと...。」
アントワーヌが先程と違い落ち着いた様子で答える。
「はっはっはっ!圧倒的じゃないか、我が軍は!」
シモンがこの後長女に殺され兼ねない死亡フラグを立てているが確かにこれはヤバイ。
現にヤスやクリス姉ちゃん達も狼狽の色を隠せておらず、それはマルブランシュ陣営にも伝わっていた。
「これで終いだな...。」
よし、このタイミングね...。
「そろそろこちらの手の内も分かった筈だ。
最初に話した追加ルールの件了承して貰おうか。」
「追加ルール...?敗者が勝者に見せた分のオリハルコンを渡すと言う物か?
こちらが帝国のオリハルコンに手を付けているのを見て、こちら側を降ろす作戦か?
はっ!見え透いておるわ!その様なハッタリ通用せぬ。
それはお主の仲間にもしっかりと演技指導してから使うのだな。そちらがもうこれ以上オリハルコンを待っていない事は、お主の仲間の表情を見れば分かる。」
「で、了承するのか?しないのか?」
私が国王に答えの催促をするとヤスが会話に入って来る。
(ま、待て!黒騎士!
お前は武具錬成をさっき使ったからもう今日は使えない筈だ。
何もこっちのオリハルコンまで失う事は無い。
この勝負に負けたとしても手元間にはオリハルコンが残るんだ。また別の機会を伺おう。)
「くっくっ...!何だ仲間割れか?
だが、確かに落ちている金を拾わない手は無いか...。
そこまで言うのであればその追加ルール飲んでやろう。」
「その言葉...忘れるなよ。」
ヤスがあちゃーと言った表情で眉間に手を当てて頭を垂れる。
「ふっ...くどい。敗者は全てのオリハルコンを勝者に渡す。貴様も忘れるなよ?」
国王はニヤリと笑みを浮かべ威圧的な態度で言う。
これで言質は取れた。
後は武具錬成でアレを作るだけだ!
私は今日初めての”武具錬成”を起動する。
「な...何故!?何故貴様がそれを持っているのだっ!?」
国王は私が錬成したブラックハルコンを見て驚愕の声をあげる。
そしてすぐ側でヤスも驚いて耳打ちして来る。
(おいおいおい、どう言う事だよっ!さっき”武具錬成”で皮袋から追加のオリハルコンのナイフ35kgを出してたじゃねーか!何でまだ”武具錬成”が出来るんだよっ!)
ヤスの疑問も分かる。
何故なら私はヤス達も騙していたのだから...。
いや厳密には嘘は言っていないから、ヤス達が勝手に勘違いしたと言う事になるか...。
タネはこうだ。
私はこの1週間、起きていられる限界のオリハルコン25kgを毎日錬成し続け、175kg350ポイント分のオリハルコンを錬成した。
そしてそれとは別に毎日寝る前に5kgづつ追加のオリハルコンを錬成していたのだ。
あくまで25kgは起きていられる限界であって、意識を失って眠っても良いなら本当の限界は1日30kgなのだ。
そして当日その余剰分のオリハルコン35kgをアイテムボックスに入れておき、ヤス達にはその場で錬成した様に見せ、”武具錬成”を温存したのだ。
そしてヤス達にもこの事を教えなかった理由。それは...国王に”マウンティング”させる為だ。
”マウンティング”とは会話や交渉において相手よりも上に立とうとする事を表す言葉だ。
国王に”マウンティング”させたかった理由としては、人は緊張している時は慎重に物事を進めるが、自分が思う様に事が進んでいる時には注意力が散漫になり易いのだ。
特に国王は”マウンティング”時にその傾向が見られ、最初に会った時も、”契約”の事を聞き、ソフィの動揺を見て、一気に緊張の糸が解けていた。
そして今回も国王は本来ならばそんなリスクを取る必要も無い筈なのに、軽率に判断し”追加ルール”をのんでしまったのだ。
私はヤスに一通り説明し、ブラックハルコンのインゴット25kgを中央の絨毯の上に置く。
って、重っ!
分割して置いてるとは言え、幼女の私に金属の塊は重すぎて思わずバランスを崩しそうになる。
「25kgのブラックハルコンだ。これで250ポイント...つまり1120ポイントだ。」
私は”武具錬成”の眠さとブラックハルコンの重さで転けそうになるのを何とか堪え、国王に言い放つ。
「ば、馬鹿を言えっ!本物の筈が無いだろう!何処かで情報が手に入れて作った偽物に決まっているっ!ワシは騙されんぞっ!コハクっ!早く鑑定し、コイツを始末しろっ!」
国王が悪態をつきコハクに命令する。
「あらぁ?何でマスターでも無いあなたが私に命令を出しているのかしらぁ?
しかも、私のマスターに向かって...。」
そう言うとコハクは私の肩に手を回し、撓垂れ掛かる。
「このブラックハルコンは本物よ。品質にも問題なく1kg10ポイントよ。
あなた達のポイントは1100ポイント。つまりあなた達の負けよぉ。」
国王は崩れ落ち、アントワーヌは大量の汗を噴出し倒れる。
シモンは地団駄を踏んで、勲章の様な物を床に叩きつける。
勝った...。勝ったわ...!
私は”武具錬成”の疲れからか寄り添うコハクを抱き締める様な形で床に崩れ落ちる。
何やかんやで長くなってしまいましたが、もう少しだけマルブランシュ王国編は続きます。
次回月曜投稿予定です。




