1-7 「冒険者登録と試験官の憂鬱」
ブクマ&評価頂いた方、ありがとうございます!お陰様で異世界転生部門でデイリー14位、ウィークリー53位に入る事が出来ました!
30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。
ーオリガ王国 リョーリカの街 冒険者ギルド
バジョットさんと一緒に修練場から出て、受付の緑髪のお姉さんのところに戻って来る。
「あ、模擬戦終わったのね。以外に早かったわね。これで懲りたでしょ?もっと大きくなって、実力を付けてから来る事ね。」
「え?いやあの合格って言われましたけど...。」
そこで私は一緒に付いてきたバジョットさんの方を見る。
「は?え?」
「その通りだ。こいつは合格だ。」
バジョットさんが私から目を逸らして淡々と言う。
「え?どうゆう事?」
「合格みたいなので今度こそ登録をお願いします!」
緑髪のお姉さんは納得いかないといった感じで首を捻っていたが、直ぐに切り替えて登録手続きに入る。
「...分かったわ。まずは改めて、私は冒険者ギルドの素材買取とアイテム販売をやってるミルよ。今回は乗り掛けた船だし、登録業務もこのまま代行するわ。じゃあまずはギルドカードを作成するからいくつか質問に答えて。」
「分かりました。」
「まずは名前と希望クラスをこの中から選んで。クラスはパーティ専用クエストなどで、パーティを組んでもらう際の参考にする為よ。」
そう言うとミルさんは1枚のクラスが書いた板を私の前に置いた。
「名前はジャスミンです。クラスは...トレジャーハンターでお願いします。」
バジョットさんが「剣士じゃねぇーのかよ!」とツッコミを入れているが聞こえない振りをする。
クラスの話はクリス姉ちゃんから色々と聞いており、その中で私にピッタリだと思ったのがトレジャーハンターだった。
このクラスは主にダンジョンなどの宝箱や罠を解除したり、遠距離攻撃で仲間をサポートしたりするクラスだ。
前衛で戦わなくていい上に、宝箱の鍵は”そう言う形状にダガーを作ればいい”ので、何も問題は無い。
「っと、はい登録出来たわよ。失くさない様に気を付けてね。」
そう言って専用の魔道具の様な物にギルドカードを置いた後、私に手渡す。
表面にはこの世界の言語で、ジャスミンとE級という文字が表示されていた。
「冒険者のランクは6段階あって、登録時はE級、次にD級~A級と上がって、さらにその上に特A級というランクが世界に数人存在するけど、これはギルドで認定されるランクでは無く、A級の冒険者の中から国毎に直接指定されるランクよ。
またA級までの昇級は通常依頼の達成や、常駐の討伐クエストの成果によりギルドから通知されるわ。
それとクエストについてだけど、入口入って直ぐの掲示板に張り出されているからこの後見てみて。通常クエストは2つまで同時に受けれるわ。
でも常駐の討伐クエストと採取クエストは、特に受けたりする必要は無くて、討伐部位もしくは採取アイテムを私まで持って来てくれたら換金するわ。」
ミルさんにレクチャーを受け、早速掲示板でクエストを確認する。
私が受けれる通常クエストは...っと。うーん、Eだと通常クエストは採取クエストのみね。
掲示板に貼り出された紙にはクエスト内容と常駐の採取クエストの場合は採取アイテムの特徴と主な採取場所が書かれていた。
取り敢えず最初なので通常クエストは受けず、常駐の採取クエストの採取アイテムの特徴を記憶した。
後は...討伐クエストだけど...このランクだと通常の討伐クエストは受けれないから、常駐の討伐クエスト位ね。
まずはそう...やっぱり定番はゴブリンよねっ!
私は討伐クエストの紙に描かれていたゴブリンのイラストと討伐部位を確認し、ギルドを後にした。
〈 バジョット視点〉
「ギルドの登録試験官をやってみないか?」
そうギルドマスターに言われた時は、安定した収入が入るのは悪くないし、試験官に相応しい実力とギルドマスターに認められたんだと思い、二つ返事で受けた。
だが実際は、冒険者を舐めた大人と子供のお守りだった。最悪だ...。
今日も1人の弱っちい男と、口だけは1人前の男のガキのお守りをした。
最近はどこもかしこも戦争ばかりで、こんな奴らがたくさん流れて来てる。
で、今度は10歳にも満たない、女のガキだ?何の冗談だ。
受付のミルもウンザリしている様で、出来るだけ怖がらせて二度と来ないようにしてくれと念を押された。
言われなくとも仕事はキチッとやるよ。”防疫”をな。
要は俺が雇われたのは、キチッと半端者を叩き返して冒険者の質を落とすなって事だろう。
「お前か?登録試験を受けたいと言うのは?俺は試験官でC級冒険者のバジョットだ。ついてこい。」
修練場に着いてすぐ、いつも通りいきなり模擬戦をやると言ってシミターを抜く。
腕に自信の無い無い奴と子供は大体ここで、逃げ帰る。
が、こいつは素っ頓狂な事を言いやがった。
「えっと...すいません、模擬戦の前に素振りをさせて貰ってもいいですか?」
素振りだぁ?こいつは何を言ってるんだ?
あぁ、俺がいきなり真剣を抜いたからビビってるのか。そりぁビビるよなぁ。さっきの登録希望者の男もビビって直ぐに降参って言ってきたからな。
「何を良く分からん事を言っている?あぁ、シミターを見て、怖気付いたのか?多少脅してくれと頼まれたが、何も命までとろうって訳じゃない。」
俺は仕方なく説明してやる。
すると次の瞬間、こいつは鞘に収めた剣をまるで小枝を振り回す様な速さで抜きやがった。
とても子供の筋力で抜ける様な速さじゃねぇ!いや技術によるものなのか?
それにこいつの持ってるこの湾曲した剣は、俺のシミターに似てはいるが見た事が無い。
だが材質は刃の色からして木製では無く、鉄か鋼だろう。それをこんな子供が...。
しかし、驚かされたのはそれだけじゃない。
”素振り”をさせてくれって言ったから、”素振り”に対して注目していたが、こいつの目的はそれじゃなかった...。
突然、離れた所にある修練用の丸太の方から大きな音が鳴ったから、何事かと思い丸太の方を見ると、何とあの太っとい丸太が真っ二つになって転がってやがった!
こいつが見てる先が丸太である事と、タイミングからいってこいつがやったのは間違いないだろう。
「なっ...!い、今、お前何をしたっ!」
咄嗟にそんな言葉しか出なかった。
するとこいつは、剣士ならさも当たり前かの様にその技”剣気”の説明をし始めた。
なんだそれ!?聞いたこともねぇよ!
さらにある程度の剣士ならみんな使えるから、C級冒険者の俺にも通用しないだろうと...馬鹿言うな!あんな技、オリガ王国騎士団長ブルーノでも防ぎ切れないぞ!
俺が呆気に取られてると、こいつはさっきの技よりも強力なものを模擬戦で俺に打ち込んでくると言ってこっちに構えた。
冗談じゃない!こんな事で死んでたまるか!模擬戦は中止だっ!
「ちょ、ちょっと待て!!...あ、アレか?”剣気”か?使えるのか”剣気”を?」
もうヤケ糞だ...!
「何だ、そ、そうか!”剣気”が使えるなら、合格だ!」
これで模擬戦はやらなくていいな。
「あれ?でも模擬戦で、バジョットさんに攻撃をかすらせないと駄目何ですよね?」
おいおいおいおい。そこは流れに乗ってこいよ!
そんな物騒な技を持ってる奴と模擬戦なんてゴメンだ。模擬戦は無しだ!
「ありがとうございます!」
すると、こいつは馬鹿丁寧に頭を下げてきやがった。
ここまでの腕を持ちながら、慢心する事無く大人に対して敬意を払えるのか...大したやつだ。
ただ常識が欠如してそうだが...。
案の定あれだけの剣技がありながら、こいつはトレジャーハンターのクラスを選んでいやがった。
いやもう何も言うまい...剣の実力が無いのに前衛クラスを選択してる奴とパーティを組むのは問題だが、逆なら別に問題にはならねい。
あいつ...ジャスミンが登録を終え去っていった後、俺は修練場に戻ってきていた。
この丸太何て説明するかな...まさか給料天引きとかされないよな!?
丸太の切断面を見てみると、毛羽立ちひとつ無くキレイに切断されていた。
これを5m程離れた所からやったのか...。
俺はシミターの柄を持ち、気合を込め、丸太の残骸に向かって思いっきりシミターを素振りする。
はぁぁぁぁぁーーっ!!!
丸太はピクリとも動かない。
「だよな...?」
今回バジョット視点を追加してみました。特に明記していない場合は主人公(茉莉花)視点です。
次回は初めてのゴブリン狩りです。