4-12 「交渉と契約」
今回は茉莉花視点に戻り話が進みます。
〈茉莉花視点〉
ーマルブランシュ王国 首都オーベル マルブランシュ城 城門
翌朝。
私達はそれぞれ装備を整え、宿屋でしっかりと睡眠を取り、マルブランシュ城へと向かった。
私は城の正門に近付くと、守衛の男に声を掛けられる。
「ん?なんだお前達は?これより先は許可を持っている者しか入れんぞ。
許可証を持っているのか?」
「許可証は無い。」
「だったら出直して来るんだなっ!ほらあっち行った!」
そう言うと守衛は手に持った槍の石突で地面を叩き、手を払い除ける仕草をする。
隣にはコハクを連れているのにこの態度は何で...?
「コハクを見ても分からないのか?」
私は守衛にアピールする様にコハクを指さす。
「今度は色仕掛けかっ?俺にそんな手は...ってデカっ!?何だその胸は...!?けしからんっ!けしからんぞっ...!」
守衛はそう言いながらコハクの胸をマジマジと見詰める。
コレだから胸の大きな女が好きな男は...!
って守衛のこの反応...もしかしてコハクを知らない?
有り得ない話じゃない。コハクはマルブランシュ王国の”切り札”とも呼べる存在だ。守衛の様な軍の末端が知らなくても無理は無い。
なら...実力行使だ...!
私はコハクに、『アトミックレイ』を城の横の大木目掛けて撃つ様に言う。
なお、ソフィが食べさせた”黒いナイフ”は私が用意した物だとコハクに言うと、コハクは私にも懐き命令を聞く様になった。
「分かったわぁ。」
コハクはそう言うと目をつぶり、『アトミックレイ』を照射するポーズを取る。
『アトミックレイ!』
するとコハクが放った『アトミックレイ』により、城のすぐ側の大木の幹から上が塵も残さず消え失せる。
「な、な、何だ...アレは...!?」
守衛が槍を落とし、腰を抜かし、戦々恐々と言った感じで言葉を紡ぐ。
「入れぬと言うのであれば、さっきのを今度は城に打ち込む。
城が瓦礫にリフォームされる前に軍の上に話を通して中に入れろ。」
「ひっひぃぃぃっっ...!!!わ、分かりました!す、すぐにっ...!!」
そう言い残すと守衛は足をもつれさせながら全速力で城の中へと入って行く。
暫くすると城の中から大臣の様な位の高そうな男が出て来る。
「何だお前達は...?
な、何故コハクがここに...?南部戦線からの連絡が無いと思ったら...。」
「我々は”黒の大剣”。傭兵団だ。交渉に応じるのであれば、この国と争うつもりは無い。まずは話をしたい。」
「わ、分かった。取り敢えず話を聞こう。着いてきてくれ。」
そう言うと大臣風の男は城の中へと入って行く。
私達は警戒しつつ、それに着いていく。
ーマルブランシュ王国 首都オーベル マルブランシュ城 大部屋
私達は大部屋に着くと椅子に掛ける様に促され、長机に着席する。
そして暫くすると3人の男が大部屋に入って来て、それぞれ自己紹介をする。
先程城門に来た補佐官のアントワーヌ、そして大将のシモン、最後に一番豪華絢爛な服を着ているのが国王ニコラ=ド=マルブランシュ。
コハクと戦闘になった戦場に居た男から得た情報によると、マルブランシュ王国のほぼ3トップが出揃った感じだ。まさか国王までもがいきなり出てくるとは思わなかったけど...。やはりそれだけコハクの重要度は高いのだろう。
「先ずはこの様な姿での非礼を詫びよう。」
私は軽く一礼をし、自分やクリス達の自己紹介をする。
「良い。其れよりも話とは何だ?」
国王が話を急かす。
少し焦っている様だ。
「コハクの事だ。
コハクは我が軍門に降った。
もはやマルブランシュ王国に勝機は無い。大人しく我と協力し、帝国との戦争を終わらせよ。」
国王は眉間にシワを寄せ、暫く考え込む。
隣の補佐官のアントワーヌはメガネを外して、さっきから冷や汗をダラダラとハンカチで拭いている。
そして数秒の沈黙の後、重い口を開ける。
「して...黒騎士よ...。お主は既にコハクと契約を結んだのか?」
契約?
私はなんの事か分からずソフィの方を見ると、珍しくソフィが動揺し、手をワナワナと震わせていた。
「契約?何の事だ...?」
私が言葉を発した瞬間大将のシモンが口を開く。
「くっくっくっ...まさか契約もせずにノコノコとこのマルブランシュ城までやって来たのか?
これは傑作だ...!」
そう言うとシモンは豪快に笑い、自慢の髭を整え始める。
アントワーヌも先程と違い、どこかホットした表情で国王に耳打ちをしている。
「コハクよ。オリハルコンは宝物庫にたんまりと用意しておるぞ。
戦場帰りだ。さぞ腹が空いておろぉ?食いたければそんな所に座って居ないでこっちに来い。」
国王そう言うとアントワーヌがいそいそと立ち上がり、自分の隣の椅子を引いてコハクの方を見詰める。
「あらぁ?まぁそう言う事見たいだから、今回は残念ねぇ。」
するとコハクは立ち上がり、アントワーヌが引いた椅子へとゆっくりと歩いて行く。
シモンと国王が口角を上げニヤリと笑う。
”契約”と言うのは初耳だがこれ位は想定の範囲内だ。
「待てコハク。そんなオリハルコンで満足なのか?」
私はコハクを呼び止めるとコハクは私の言葉にピクリと反応を示して止まった。
ストックが少なくなって来たので、すいませんが週2に戻します。
次回は土曜投稿予定です。




