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4-9 「フードと羽根耳」

 シルヴィア回の続きです。

ーマルブランシュ王国 首都オーベル 防具店


「いらっしゃい。防具をお探しかい?」


 防具店の中に入ると初老の親切そうなおばさんが迎えたくれた。


「はい。ちょっと派手にやってしまって...。」


 シルヴィアさんが自分の服を見ながらおばさんに言う。


「どう言った種類の防具が希望だい?」


「魔法耐性のあるフード付きのローブありませんか?」


 シルヴィアさんが希望を述べる。


「うーん生憎数少ないオリハルコン関連の装備は軍に徴発されちまってねぇ...。

 今売ってるのはミスリル系の装備しか無いねぇ...。」


 おばさんがため息混じりに言う。


 オリハルコン関連の装備を軍が徴発?恐らくコハク絡みの話だろう...。


「...そうですか。ミスリル系のローブを見せて貰えますか?」


「ミスリル系のローブだと...コレなんてどうだい?

 ミスリルを繊維状にして編み込んだ特注品だよ。

 ただしフードは付いてないがねぇ...。」


 そう言いながらおばさんは『ミスリル繊維のローブ』をシルヴィアさんに手渡す。

 ”アイテム鑑定”を使ったがかなり良い物の様だ。


「確かに良いものの様ですが...フードが無いので...。」


 シルヴィアさんが薄緑の髪をクルクルと弄りながら困り顔をする。


「シルヴィー。」


 そこで私はシルヴィアさんに声を掛ける。


「はい。何ですか?」


「どうしてもフードが無いと駄目か?」


「め、目立つので...それに...き、気味悪がられるので...。」


 やっぱり父親の反応がトラウマになってるのね...。


「店主。羽根耳族の耳が気味悪いか?」


 シルヴィアさんが少しビクッと反応する。


「いやぁ、別に何とも思わないねぇ。マルブランシュには羽根耳族の村がいくつもあるし、そこまで珍しい種族では無いよ。」


 おばさんがケロッとして答える。


 やっぱりそうだ...。

 私もこの街に入って羽根耳族をチラホラと見掛け街に溶け込んでいたので、羽根耳族が特異な存在とはとても思えなかったのだ。

 確かに武具錬成で解決できるかも知れないが、それじゃあその場凌(しの)ぎにしかならない。

 シルヴィアさんの今後の事も考えたら、”フードを取る勇気”も大事なんじゃ無いかと思った。


「シルヴィー。無理にとは言わないが、羽根耳を出してもいいんじゃないか?」


「で、でも...他の人の目が...。」


 シルヴィアさんはおばさんの言葉に安心したのか、先程までよりも柔らかな表情になっている。

 

 これはもう一息だ。


「シルヴィーの羽根耳は気味悪く何て無いし、可愛いと思うぞ。」


「っ...!ほ、本当ですか?」


 シルヴィアさんが目を見開き、驚いた様子で聞いて来る。


「我は嘘は言わぬ。」


「あっ...ありがとうございます...。」


 シルヴィアさんは顔を真っ赤にして俯く。


「それにもし、他の者がシルヴィーを差別する様な事があれば我に言え。

 我がシルヴィーを全力で守ってやる。

 何せ同じ家に住むシルヴィーはもう家族(・・)の様なものだからな。」


 私はシルヴィアさんが安心出来る様にあえて家族と言う言葉を強調した。

 シルヴィアさんは幼い頃から本当の意味の家族を知らない。家族ってのはもっと助け合って一緒に困難だとか苦労を分かち合うものだ。

 だからきっと”黒の大剣”の皆ならそれが出来る筈だ...!


「か、家族(・・)...ですか...?」


「あぁ、家族(・・)だ。シルヴィーさえ嫌じゃなければ、そう思って貰っても構わない。」


「いえっ、嫌なんて...。

 で、でもジャズさんにはクリスが居るんじゃ...?」

 

 シルヴィアさんは首をブンブンと振りながら否定し、何故かクリス姉ちゃんの名前を出す。


 もしかしてシルヴィアさんは遠慮してるのかな?


「クリスも勿論家族だ。だがシルヴィーが遠慮する事は無い。

 遠慮しなくて良いのも家族だ。」


 別に家族に人数制限は無いし、それに遠慮だってする必要は無い。

 きっと実家では肩身の狭い思いをして来たシルヴィアさんにとってはそれは分からない感覚なのかも知れない。

 でも、だからこそ遠慮しないで欲しい。


「ほ、本当に私()良いんですか...?」


「あぁ。遠慮するな。」


 そうだよ!シルヴィアさんはもう一人じゃないんだよ!


「よ、宜しくお願いします...!」


 するとシルヴィアさんはペコリと頭を下げる。


「お前さん達や...見せ付けるのは良いがそれ買ってくれるのかい?」


 するとおばさんが微笑ましい笑顔をこちらには向けながら話に割り込む。


 何か変な勘違いをされている様だ...。


「あ、す、すいません!か、買いますっ!」


 シルヴィアさんは顔を赤くしながら慌てて手に持っていた『ミスリル繊維のローブ』をカウンターに置いて、貨幣を取り出す。

 貨幣は既に両替していたマルブランシュ硬貨で払っていた。


 おばさんに見送られ、私達は防具店を後にする。







ーマルブランシュ王国 首都オーベル 市場


 シルヴィアさんは恐る恐ると言った感じで防具店の外に出る。

 防具店に入る前とは違い、可愛い羽根耳はローブで隠される事無く、露出(・・)していた。

 最初は周りを気にしながらビクビクしていたが、少し経つと慣れてきたのか顔は何処か晴れやかで嬉しそうだった。


 そして暫く歩いているとシルヴィアさんに声を掛けられる。


「ジャズさん。あの...て...手を繋いでも...いいですか?」


 シルヴィアさんが顔を真っ赤にして訪ねる。


 あれ?慣れた様に思えたけど、まだ不安だったかな?


 私は何も言わずにそっと手甲を差し出す。


「ジャズさんは凄いです...。」


「何がだ?」


「フードの無い街の景色がこんなに明るくてキラキラしている事を教えてくれて、家族にもなってくれました...。」


 シルヴィアさんはゆっくりと街を歩きながら、一つ一つ噛み締める様に言葉を紡ぐ。

 歩く度にシルヴィアさんの羽根耳がぴょこぴょこと揺れて、とても可愛いい。


「それに...。」


 シルヴィアさんが話の途中で急に立ち止まり、私を見詰めて来る。

 手を繋いでいた為、私もつられて立ち止まり、シルヴィアさんに視線を合わせる。


「...初めて男の人を好きになりました。」


 次回はクリス、ソフィ、コハクの組をクリス視点で水曜投稿予定です。


〈補足〉

 もう大分昔の話なので忘れているかも知れませんが、1-12のシルヴィア初登場回で今回のフードの件に少し触れていましたので、気になる方は参照願います。

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