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3-26 「想い人」

 アリス教皇への”お願い”リベンジ回です。

ー宗教国家エピクロス エピクロス城 謁見の間


 クリス姉ちゃんの部屋での話し合い後、私達は再びアリス教皇に呼ばれ、謁見の間へと来ていた。


「さて、クリスティーナ。貴方自身(・・・・)の願いは決まったかしら?」


 アリス教皇は玉座で手に顎を置きながらクリス姉ちゃんに問う。

 昨日と違う点はいつもよりも少しアリス教皇の表情が明るい事とアリス教皇の横に昨日は居なかった法衣を身に纏った金髪の少女が居る事だった。


「はい。ここエピクロスに私の(・・)所属する傭兵団”黒の大剣”の活動拠点及びその為の施設を譲渡して下さい!」


 クリス姉ちゃんが胸を張り、再びアリス教皇にお願いをする。

 だけど、今度はある部分が大きく違う。これはクリス姉ちゃん自身(・・)の所属する傭兵団の話なのだ。


「はぁ...。」


 アリス教皇は大きく溜息をつく。

 周りの空気は凍りつき、謁見の間は静寂に包まれる。

 そして、その静寂はアリス教皇自身により破られる。


「まさか貴方自身が傭兵になるとはね...。そこまでの決意があるのなら私からは何も言わないわ。

 貴方が傭兵になってまでも成し遂げたい何かがあるのね。」


「はい。この世界の戦争を止めて見せます。」


 アリス教皇はじっとクリス姉ちゃんの瞳を見詰め、軽く頷いてからクリス姉ちゃんに問う。


「...そう。一つだけ質問いいかしら?」


「はっ。何なりと。」


「何が貴方を決心させ...いや、そんなものは貴方の話を聞いていれば分かるわね。

 ”黒騎士”とは一体貴方にとってどんな存在なのかしら?」


「”黒騎士”は...私にとって命の恩人で、世界平和と言う同じ意思を持つ同志で...

 想い人(・・・)です!」


 クリス姉ちゃんが少し顔を赤らめてアリス教皇を真っ直ぐ見詰めて宣言する。

 何だか私まで恥ずかしくなって来たよ...。

 でも最後のは不味いんじゃ...。

 私の額を嫌な汗が伝う。


「ふっ...。クリスティーナ。貴方は本当に正直なのね。

 こんな場面で”好きな人の為に”何て言ったら、一時の心の迷いで国を預けられるものか、と言われてしまうわよ?」


 確かにアリス教皇の言う通りだ。

 その理由は不味い...。同じ意思を持つ同志で止めておくべきだった。

 私は思わず跪きながらアリス教皇の顔色を伺う。

 しかし、アリス教皇の表情は呆れているかと思いきや、微笑んでいた。


「ふふふ。だからこそ貴方は好きよ。そして信じられるわ。

 それに”好きな人の為”と言う動機は、別に私は悪い事だとは思わないわ。好き、嫌いと言う感情は、とても純粋で嘘の無い気持ちよ。


 分かりました。クリスティーナ。貴方の(・・・)所属する傭兵団”黒の大剣”にこのエピクロスに活動拠点となる施設を与えましょう。」


 流石クリス姉ちゃんだ。

 ただ真っ直ぐ、愚直に、正直に、何にも曲げられず、曲げる事もせず、自らの意思を通してしまったのだ。

 目先の心理学や哲学に踊らされてしまった自分を恥じているとアリス教皇が話を続ける。



「ところで、貴方達に合わせたい人物がいるのよ。

 テレス枢機卿(すうききょう)。こちらに。」


 アリス教皇が名前を呼ぶと、先程の法衣を身に纏った金髪の少女が前へ出る。


「お初にお目にかかります。私はアポス教の枢機卿を拝命しておりますテレス=アテナイと言います。

 この度は()を救って頂き誠にありがとうございます。」


 するとテレスさんは深々と頭を下げる。

 枢機卿と言えばこの教団のトップ2、アリス教皇の次に偉い人だよね...?

 その人が冒険者の私達に頭を下げるって...それに()ってどういう意味だろう?


「テレスは私の妹なのよ。

 そして、昨日まで死を待つしかない重病だったの。

 それを救ってくれた貴方達”黄昏の輝き”にお礼を言いたかったのよ。

 本当にありがとう。」


 まさかのアリス教皇も頭を下げる。

 これには流石に他の司祭達も慌て始める。


「えっと...アリス教皇それはどういう意味でしょうか?」


 クリス姉ちゃんも状況が掴めないのかアリス教皇に質問する。


「貴方にお願いしたあの”スライムの核”と言うのはテレスの病を治す薬だったのよ。

 その方法しか無いと医師に聞いた時は...テレスはもう...。

 でも、貴方達が...核を...!」


「お姉様...。」


 涙ぐむアリス教皇をテレスさんが抱き締める。

 あのアリス教皇が涙を...!

 それ程までに妹のテレスさんを大切に想っていたのだろう...。


 こうして私達はアリス教皇とテレス枢機卿の厚い感謝で送られながら、エピクロス城を後にする。



 帰り際にアリス教皇に呼び止められて、()への入居を再度求められたが、丁重にお断りしておいた。

 アリス教皇は「あら、残念。」と意外にもあっさりとしていたが、「でもクリスティーナには想い人が居るのに...。」と意味深なセリフと共に昨日のお礼だと言って高級そうな木箱を渡された。


 今回は後々重要な伏線散布回です。

 後で読み返すと色々と発見があると思います。


〈捕捉〉

 スライムの核の依頼は、国のNo2が死の危機に晒されていると言う事を隠す為にクリスにしか知らせていませんでした。(分かる人には”スライムの核を求める事”の真意が分かるので)

 

 総合評価1000pt達成です。

 ブクマ&評価ありがとうございました!励みになりますっ!


 次回水曜投稿予定です。

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