3-24 「エピクロスの庭園」
今回は前半が茉莉花視点、後半がクリス視点です。
〈茉莉花視点〉
ー宗教国家エピクロス エピクロス城 クリスティーナの自室
私はクリス姉ちゃんを”黒の大剣”へと誘っていた。
「え?急にどうしたの?」
クリス姉ちゃんが目を丸くして驚いて聞き返す。
「クリスは以前に、冒険者をやっている理由は”その力で世界中の困っている人々を救う事”だと言っていたな?
”黒の大剣”ならば、その力が存分に振るえるだろう。
そして何より、クリスの力、信念、人徳、それらが欲しい。」
すると何故かいつもフランクなクリス姉ちゃんが敬語で頭を下げる。
「よ、よろしくお願いします...。」
「なら話は早い。
これでさっきの件でアリス教皇の首を縦に振らせるのは容易いだろう。」
「え?どう言う事?」
「アリス教皇はクリス自身の願いを叶えると言ったのだ。
クリス自身が”黒の大剣”の一員であれば、それはクリス自身が所属する組織の事であるから、問題無かろう。」
「あっ...そうか!確かにそうね!」
するとクリス姉ちゃんはふと思い出したかの様に声を上げる。
「あ!ジャズ、ごめん!”黒の大剣”に入るとなると”黄昏の輝き”は解散しないといけなくなるから、明日の朝一でパーティメンバーに話した後に正式に返事をするわ!」
別に私みたいに二足の草鞋を履いてても良いと思うけど、クリス姉ちゃんなりの思いがあるのだろう。ここは黙って肯定しよう。
「あぁ、構わない。」
私はそこでふとアリス教皇の”庭”の話を思い出す。
「ところでクリス。話は変わるが、”庭”について知っているか?」
「庭...って、お城の庭園とかの?」
あぁ、普通そうなるよね...。何て言えば良いんだ...えっと...。
「質問が悪かったな。
アリス教皇の”庭”について知っているか?」
「えっ!?」
するとクリス姉ちゃんは一瞬ビクリと驚き、聞き返す。
「えっと...そのジャズは”庭”に興味がある...の?」
何故かクリス姉ちゃんはもじもじとしながら、こちらを見ずに話す。
「ん...?いや...まぁ、少しな。」
興味が無いのに聞くのもおかしいからね...。
「あっ...あぁ...そ、そ、そうなんだ...!へ、へぇー!あ、別に私は大丈夫!あ、いや大丈夫って言うか...これから勉強するよ!で、でも一番はジャズだから!」
クリス姉ちゃんは突然慌て出して、暑いのか顔をパタパタと手で扇ぎながら話す。
え?”庭”って何なの?教えてグー〇ルっ!
「で、”庭”について教えてくれないか?」
「え、あ、うん、その...私も詳しくは知らないかなぁ...?
でも、アリス教皇が”エピクロスの庭”って言うのを大事にしてるって言うのは聞いた事があるかな...。」
何故に疑問形?って、さっきの慌て様、クリス姉ちゃんは絶対知ってるよね?
あのアリス教皇が大事にしてるものか...何だか想像も付かないけど、きっと碌でもない物に違いないっ!
そして暫くクリス姉ちゃんと雑談をした後、私は部屋を出ようとする。
するとクリス姉ちゃんに呼び止められる。
「あ...ジャズ。今日は...と、と、トイレ!私もトイレに行こうかな?」
またもや何故に疑問形?
〈クリスティーナ視点〉
ー宗教国家エピクロス エピクロス城 クリスティーナの自室
私はジャズに”黒の大剣”への勧誘を受けていた。
「え?急にどうしたの?」
私はジャズの突然の申し出に思わず聞き返す。
するとジャズはいつもの低くカッコイイ声で私に語り掛ける。
「クリスは以前に、冒険者をやっている理由は”その力で世界中の困っている人々を救う事”だと言っていたな?
”黒の大剣”ならば、その力が存分に振るえるだろう。
そして何より、クリスの力、信念、人徳、それらが欲しい。」
クリスが欲しいっ...!
ジャズは他にも色々と言っていた気がするけど、ドキドキという大きい動悸の音に掻き消され、私はそれしか耳に入らなかった。
「よ、よろしくお願いします...。」
私の顔は今変じゃないだろうか...?
恥ずかしい...照れる...でも、嬉しい!
「なら話は早い。
これでさっきの件でアリス教皇の首を縦に振らせるのは容易いだろう。」
「え?どう言う事?」
「アリス教皇はクリス自身の願いを叶えると言ったのだ。
クリス自信が”黒の大剣”の一員であれば、それはクリス自身が所属する組織の事であるから、問題無かろう。」
「あっ...そうか!確かにそうね!」
流石ジャズだ!強いだけじゃなくてこう言う聡明な所も...好きだ...。
きっとこれならアリス教皇も納得してくれるよね。
そしたらこの街でジャズと一緒に暮らせるんだ...!
って、いけない!
浮かれてて肝心な事を忘れてた!
「あ、ジャズ。ごめん!”黒の大剣”に入るとなると”黄昏の輝き”は解散しないといけなくなるから、明日の朝一でパーティメンバーに話した後に正式に返事をするわ!」
ケジメを付けないと...。うん、きっとみんなも理解してくれるわ!
「あぁ、構わない。」
すると、突然思い出したかの様にジャズが”庭”について聞いてくる。
私は最初何の事か分からなくて聞き返してしまうが、ここエピクロスで”庭”と言えばアレの事だよね...。
────『エピクロスの庭園』
それはアリス教皇のお気に入りの女の子を集めた男子禁制の特区だ。
そんな”特区”にジャズは興味があるのか...?
「えっと...そのジャズは”庭”に興味がある...の?」
「ん...?いや...まぁ、少しな。」
やっぱり、興味があるんだ...!
「あっ...あぁ...そ、そ、そうなんだ...!へ、へぇー!あ、別に私は大丈夫!あ、いや大丈夫って言うか...これから勉強するよ!で、でも一番はジャズだから!」
自分でも何を言っているのか分からないけど、ジャズが女の子同士が仲良くしているのを見るのが好きなら、私もそうなれる様に努力しなきゃ!
「で、”庭”について教えてくれないか?」
どうしよう!ジャズってば興味津々!
「え、あ、うん、その...私も詳しくは知らないかなぁ...?
でも、アリス教皇が”エピクロスの庭”って言うのを大事にしてるって言うのは聞いた事があるかな...。」
私は当たり障りの無い様に答えておく。
そして暫くジャズとお喋りして楽しい時間を過ごし、雰囲気が良くなって来たとこで、突然ジャズは部屋を出ようとする。
え?待って!
今日はここにとまっていくんじゃないの!?
「あ...ジャズ。今日は...と、と、トイレ!私もトイレに行こうかな?」
あぁぁぁー!!私のバカー!!
しかも、女の子が男の人にトイレ行くって宣言して...最低だ...。
エピクロスの庭園(園)は哲学用語で、本当に存在しました。本来の意味は全く異なりますが...。(エピクロス先生ゴメンなさい)
ところでエピキュリアンを”快楽主義”と日本の教科書が訳したせいで、かなりエピクロスの思想を誤解している人が多いと思う今日この頃。
次回は水曜更新予定です。




