3-22 「クリスティーナの願い」
クリスティーナの突然の”お願い”からです。
ー宗教国家エピクロス エピクロス城 謁見の間
クリス姉ちゃんの突然の発言に場の空気は凍り付く。
それはそうだろう...エピクロスは中立を謳っており、傭兵を毛嫌いしているのだ。
そして、暫しの時間が経ち、アリス教皇が場の静寂を破る。
「あ、あなた...一体自分が何を言っているか分かっているの...?
中立国家のエピクロスに...戦争国家に加担する傭兵団の施設を作るなんて...世迷いごとを...。」
アリス教皇が眉に皺を寄せながらクリス姉ちゃんに話す。
「教皇。それは違います。
”黒の大剣”は戦争に加担するものではありません。
現に教皇が調停人を務められた帝国とオリガ王国の停戦も、”黒の大剣”の黒騎士によるものです。」
クリス姉ちゃんの突然の”黒騎士ヨイショ”が始まった。
「黒騎士にそんな力があるのかしら?
背も小さくて、特に力がある様には見えなかったけど。」
するとそこでさっきから黙っていたディオティマ大司教が口を挟む。
「教皇。お言葉ですが...。
”黒の大剣”はあの”白銀の報復者”が属する傭兵団です。
私は彼女を護衛として、道中共にすることがあったのですが、彼女は敬虔なアポス教の信徒で、強い正義感の持ち主でした。
そしてそんな彼女が尊敬する”黒の大剣”のリーダーである黒騎士は悪い人物では無いかと考えます...。」
「ふーん...あの”白銀の報復者”が属する傭兵団だったのね。」
先程とは違って”白銀の報復者”の名前を聞いた途端アリス教皇の表情が幾分か和らぐ。
え?誰なの”白銀の報復者”って...?そんな人内に居たっけ?
メンバーはまだ私とヤスとソフィしか...って彼女って言ってるって事はソフィか!
何だか知らないけどソフィはしっかり”活躍”してくれてるみたいね。
「教皇。それに今回のスライム討伐は、黒騎士の協力無しでは成し遂げられませんでした!」
クリス姉ちゃんがディオティマ大司教の思わぬ援護射撃に乗っかる様に、追撃の”黒騎士ヨイショ”をする。
「協力?何の事かしら?奴は迷宮には入れない筈だけど?」
みんなの啓蒙活動のお陰で、アリス教皇の黒騎士の呼び方が”ゴキブリ野郎”から”奴”にジョグ〇ス進化してるっ!
「1つはここに居るジャスミンです。
黒騎士はA級トレジャーハンター並の...いえそれ以上の腕を持った彼女の腕を見抜き、私に紹介してくれました。」
え?私!?
急にクリス姉ちゃんに呼ばれて思わずビクリとしてしまう。
「ふーん。まぁ確かに想像以上に迷宮の踏破が早く、私も驚いたわ。
それがジャスミン。トレジャーハンターである貴方の功績と言う訳ね。」
アリス教皇が私を見下ろす。
何故かその瞳はどこか艶っぽいのは気の所為だろうか...?
「2つ目は黒騎士は私に武器の援助をしてくれました。
その甲斐あり、私達はスライム数十匹を倒す事が出来たのです。」
クリス姉ちゃんが曇の無い眼で真っ直ぐにアリス教皇を見詰める。
「......。
今回の踏破に彼の恩恵が大きかった事は分かったわ。
だけど今回の件は、クリスティーナ、貴方に頼んで、貴方が成し遂げた事よ。
だから、例えそれが貴方のどんな人脈を使って、貴方が成し遂げたとしても、それは貴方自身の実績よ。
そう言う訳だから、私は実績を示した貴方自身の願いを叶えるべきだわ。
だから、貴方自身の願いを聞かせて頂戴。」
そう言ってアリス教皇は玉座に座り直し、足を組み替える。
流石世界最大にして唯一の宗教アポス教のトップ。独自の哲学を持ち、一向に引かない。
そしてこれには流石のクリス姉ちゃんも言葉が出て来ない様だった。
「っ...!ですが教皇!私は...」
「今日はもう遅いわ。
部屋を用意してあるから、一晩ゆっくり考えなさい。貴方自身の願いを...。
後、貴方。ジャスミンは私に着いてらっしゃい。」
「わ、私ですか...!?」
突然のご指名に一瞬慌ててしまう。
クリス姉ちゃんの方を見ると、軽く頷いていた。
驚きながらも私はアリス教皇の後に着いていった。
ー宗教国家エピクロス エピクロス城 アリス教皇の自室
アリス教皇の部屋へと招かれ、入室する。
中は清潔で上品だが、華美と言う訳ではなく、好感が持てた。
「で、アリス教皇...私に何の御用でしょうか?」
「ふふふ...貴方、気が早いのね?」
アリス教皇はそう言うと部屋にある装飾が施された椅子に優雅に座る。
「す、すいません...。」
私は思わず畏まる。
「ふふふ...別に責めている訳ではないわ。貴方にはお願いしたい事があるのよ。」
「お願いですか?」
「貴方は有能なトレジャーハンターなのよね?」
「有能かどうか分かりませんが、解錠は得意です。」
「ふふ...過度な謙遜は身を滅ぼすわよ?
迷宮探査の前に見せて貰ったから分かるわ。
あれは素人の私から見ても素晴らしい手際だったわ。」
アリス教皇はそう言いながら私に微笑む。
話してみて確信したけど、アリス教皇は黒騎士の格好をしている時の私や男の人に対する態度と、女の人に対しての態度が全然違う...。
「ありがとうございます...。それでお願いと言うのは解錠の事でしょうか?」
「もぉ...せっかちさんねぇ?
まぁそうよ。
貴方にはコレの解錠をお願いしたいの。」
そう言うとアリス教皇は立ち上がり、躊躇なくスカートを捲り上げる。
女の子同士とは言え、余りにも無防備過ぎないだろうか?
アリス教皇が腰までスカートをたくし上げると、そこにはまだあどけなさの残る少女には似つかわしくない”黒い金属の板”が現れる。
て、貞操帯!?
「鍵を亡くしちゃったのよね。」
またも急展開です。
次回水曜予定ですが...それまでに頑張ってもう一話挟めたら...。
感想の方ありがとうございます!
やはり感想が一番嬉しいですね。




