3-19 「フレアリング」
そろそろ迷宮回も終盤です。
色々久し振りに使用するスキルが出て来ます...。
ー宗教国家エピクロス 首都ラミア郊外 鍵の迷宮
私達は鍵の迷宮の8階層までやって来た。
8階層も7階層と同様にゴブリンが出現する。
が、本気を出した”黄昏の輝き”の敵ではなかった。
そして、そのまま苦戦すること無く、9階層へとやって来る。9階層は事前情報では、脅威度特A級であるスライムが出現する。
特A級と言えば第5階層のイフリートが思い起こされる。
あんなレベルの敵が複数出ると考えると、恐ろしい...。私達は今までよりも更に慎重に進んだ。
暫く進むと人影が見え、向こうから声を掛けられる。
「あんた達は...”黄昏の輝き”の...。
すまないが止血剤を持ってないか...?」
その男の右腕は付け根から切り取られた様に鎧ごと消失しており、付け根からは血が滴り落ち、男の足元に血溜まりを作っていた。
「私の魔法ではこの傷は...。クリスお願い出来ますか?」
男の傷の具合を見たシルヴィアさんは、クリス姉ちゃんに声を掛ける。
「うん、分かったわ!任せて。」
『エクスヒール!』
クリス姉ちゃんが呪文を唱えると隻腕の男の腕が見る見る内に再生する。
「な、なんだこりゃ!?
う、腕が...!俺の腕が生えてきやがった!」
男は生えてきた腕をマジマジと見つめながら、驚愕の声を上げる。
「あぁ、すまない自己紹介が遅れた。
俺はA級冒険者のエッジワースだ。スライムと戦闘になって、何とか倒したものの...見ての通り腕と...仲間を失った...。」
エッジワースさんは重々しく言葉を紡ぐ。
A級冒険者ですらそこまでの代償を払わないとスライムは倒せないんだ...。
「で、礼だが、さっきコイツを手に入れたから、貰ってくれ。
まぁ、腕1本の礼に釣り合わないかも知れねぇが...。」
そう言って、エッジワースさんは鍵のかかった魔法の小箱をクリス姉ちゃんに渡してくる。
「あっ...じゃあジャスミン解錠お願いっ!」
エッジワースさんに魔法の小箱を渡された側から、クリス姉ちゃんは私に渡してくる。
「うん、了解。」
これはチャンスだ。
対スライム戦は避けられないし、ちょっと保険をかけておきたい。
私は魔法の小箱を”武具錬成”で開け、皆からは見えない様に中身を確認する。
中には鈍色のシンプルな指輪が入っており、それに直ぐに『アイテム鑑定』を使用する。
『トーチの指輪』
鉄製の指輪。
念じると支援魔法『トーチ』を発動するマジックアイテム。
使用回数︰20回
製作者︰不明
うーん、微妙だ...。
『トーチ』ならシルヴィアさんが使えるし、初級魔法だから、大して魔力も消費しない。初級冒険者向けのハズレアイテムだろう。
そしてヤスからの話で聞いた通り、魔法を発動するタイプのマジックアイテムには”使用回数”が設定されていた。
私は『トーチの指輪』をポケットにしまい、”武具錬成”を起動する。
形状”ウェーブリング状で中央に赤い宝石が入った”、
材質”銀”の
重量”普通”
特性”念じると対象に『フレア』を発動”を持った
武具”指輪”を
出現方法”目の前の魔法の小箱の中に出現”
属性”パーマネント”
そして、私は何事も無かったかの様に魔法の小箱から、すり替えた『フレアリング』を取り出す。
「わぁ!綺麗な指輪っ!」
「凄い解錠スピードだな...。
実は仲間のトレジャーハンターには解錠出来なかったから、地上に戻ってから売り捌こうとしてたんだが...。
だが良かった。開けれる人が居て。俺達には小綺麗な魔法の箱の価値しか無かったからな。」
エッジワースさんが私を見ながら驚き、話し始める。
「で、どんな効果があるの?」
クリス姉ちゃんが興味深そうに私に聞いてくる。
「えっと、ちょっと待って...うーんと...『フレア』って魔法が使えるマジックアイテムみたい。」
私は皆には事前に『アイテム鑑定』が使えると話している。トレジャーハンターの必須スキルらしく、特に私が使えても問題ないと判断したのだ。
「ちょっと...『フレア』ですか...!?」
後ろの方で見ていた、シルヴィアさんが珍しく大きな声を上げる。
「上級魔法が内蔵されたマジックアイテム何て本当にあったんだ...私も初めて見たよ...。」
クリス姉ちゃんが驚く。
「いや、『フレア』は流石に間違いじゃないか...?」
エッジワースさんが否定する。
どうやらとんでもないものを創ってしまった様だ...。
で、結局試して見ることになったので、9階層を徘徊し、魔物を探す事にした。
元々の目的もスライムの討伐なので、目的も違えていない。
暫く探索していると、黒い瘴気を溢れさせた禍々しい水溜まりの様なものを見つける。
「スライムよっ!!」
皆の顔が一瞬にして強ばる。
私のイメージしてた青い奴と違う...。
確かにあれはやばい...何というか近付いてはいけないオーラを漂わせている。
クリス姉ちゃんが私があげた”クリストフォルス”に持ち替えて、指示を出す。
「先ずはジャスミン、さっきの指輪を使ってみて。それと決して前に出ない事!
シルヴィアは、支援魔法が途切れない様にかけ続けて!」
私は指輪を前に出し、念じる。
するとスライムに向かって熱線が照射され、収束した魔力が次々に爆発し、大轟音と共に辺り一面が火の海となる。
「ちょっ...何て威力なの...。」
クリス姉ちゃんも驚愕していた。
「確かに『フレア』みたいだが...何て出鱈目な威力の『フレア』だ...。」
エッジワースさんが呆れながら呟く。
え...?
イフリートが放ったものよりも威力が高い様に見えるけど...。
...あっ!そう言う事か...!
そう言えば、イフリートの放った『フレア』はその大半を完全魔法耐性を持つ不可視の盾で防いだ残り火だ。
つまり、何も無い状態だと、コレが私に向かって降り注いでた訳ね...。
私が想像して身震いしていると、『フレア』で発生した爆煙の中から、黒い影が飛び出す。
「まだ終わってないぞっ!」
そう言ってロビラさんが前に出る。
どうやら、あれだけの爆発でもスライムは死んでいないらしい...。
〈捕捉〉
”マジックアイテム”はアイテムに魔力を込めて作られており、込めた魔力が無くなれば使えなくなる為、使用回数が決まっている。但し、魔力を持たなくても使用可能。
”魔剣”(1ー4で出て来た『フレアバゼラード』など)はその都度使用者が魔力を込めて発動させる為、剣が折れない限り、使用回数は無い。但し、本家の『フレア』程の威力は無く、魔力を持たない茉莉花などは扱えない。
その他気になる事、あれば感想まで。
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次回土曜日投稿予定です。




