1-4 「クリス姉ちゃん」
30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。
ーオリガ王国 リョーリカの街 宿屋 翠星亭
んーっ!!
朝、思いっ切り伸びをする。
若さ故か、もう足腰が全く痛くない!
素晴らしきかな若い身体!ビバ幼女!
さてと、今日は一つ錬成して、街を見て回ろう。
昨日は疲れてそんな余裕は無かったからね。
先ずは鉄製のククリナイフを錬成する予定だ。
武具錬成を起動。
形状を...よし、今回は少し拘ってみよう!
柄の部分に透かし彫りを入れて...波紋は乱刃。
刀身の地の部分には、アール・ヌーヴォー様式の花柄の彫刻をあしらって...。
さらに鞘の部分にはルネッサンス・リバイバル風の天使の彫刻を施して...。
よし、出来た!
『 粛然悚然なるククリナイフ』
攻撃力+24
様々な芸術性を取り入れた粛然悚然としたククリナイフ。装飾もさる事ながら、その美しい波紋は見る者を魅了する。
柄の部分に透かし彫りが施されている為、武器としての強度は低い。
製作者︰マツリカ=スドウ
何か凄そうなのが出来上がった...!
どの程度の値段になるのか確認する為に売る予定何だけど、何か売るのが勿体ないなぁ、まぁミラーナイフもあるし...ね。
私は早速これを持って武具屋へと向かう。
今度は村人の服を着ていく。
武具屋へ来た理由は、市場調査が目的だ。
この世界での武具の種類、性能を確認しておかないとね。
ーオリガ王国 リョーリカの街 武具屋
武具屋の中を見渡すと、様々な武具が並べられており、中央にスキンヘッドの筋骨隆々の髭親父が腕を組んで仁王立ちしていた。
ひっ...!こわっ!
私は髭親父の視線をスルーする様に店内の商品を見渡しながら、目ぼしい武具を鑑定していく。
『銅の棍棒 』
攻撃力+45
『鉄のショートソード』
攻撃力+60
『皮の鎧』
防御力+30
『 鉄の盾』
防御力+80
そして中央、髭親父の後ろの壁に掛かっている一際目立つショートソード。
『 フレアバゼラード』
攻撃力+150(火)
刀身に火魔法フレアを内蔵した魔剣。その炎は相手の鎧ごと燃やし尽くす。
製作者︰ジイド
攻撃力がミラーダガー10本分だ!
はは...何か不安になって来た...。私の錬成した武器何か売れるのかな...。
昨日は武器としてじゃなく、金塊として売れたに過ぎないのよね...。
ヤキモキしていると、髭親父に声をかけられた。
「どうした嬢ちゃん?何か用か?」
「あの...このナイフを売りたいんですが...。見てもらえますか?」
そう言って、ククリナイフを渡す。
髭親父はククリナイフを手に取ると、ドゥルーズさんの使っていたものと似たモノクルで鑑定しだした。
このモノクルで鑑定するのが主流なのだろうか?
「ほぅ。こいつは見事な装飾だが、大した攻撃力は無いようだなぁ...。」
するとそこで店の扉が開き、冒険者風の金髪の女性が入ってくる。
「すまんが嬢ちゃん、これは買い取れない事も無いが...まぁ2000ロアってところだな...。」
今の宿1泊分!?それは厳しい...。
「えぇ!そ、そうですか...うーん、それはちょっと安過ぎる様な...。」
「ちょっと!店長、女の子虐めちゃ駄目よ!」
するとさっきの金髪の冒険者風の女性が話に入って来た。
そして、どうやら私とは違う種族の様だ...。私達平たい胸族とは。
「いやいやクリス、別にいじめてる訳じゃねーよ。嬢ちゃんがこのナイフを売りたいって言うんだが、ウチじゃああんまり高く買ってやれんもんでなぁ。」
髭親父がククリナイフを指差して、弁解する。
「!!ちょっと何このナイフ!凄い!こんなの見た事ないわ!これが2000ロア?このナイフの良さが分からないなんて、いよいよ頭まで筋肉になっちゃったんじゃない?」
「なんだとーっ!でもな鑑定はしたが攻撃力は大した事ねーんだ。」
「あなたこんなとこで売る事は無いは、私がもっと高くで買い取ってあげる!」
そこで突然私に話が振られた。
「は...はぁ。それは助かりますが...。」
そう言って髭親父の方を見る。流石にお店の中で勝手に売買するのはマナー違反だよね?
「おぅ、ならこれはクリスに買ってもらえ!はいはい、客じゃ無いならとっとと出てってくれ!」
髭親父は手をヒラヒラとさせながらそう言う。
「言われなくても行きますよーだ!さ、こんなむさ苦しいとこじゃなくて、私の宿屋の食堂にでも行くわよ!」
クリスさんに手を引かれ宿屋へと向かう。
「そう言えばまだあなたの名前を聞いて無かったわ!私はクリスティーナ。皆からはクリスって呼ばれてるわ。あなたは?」
マツリカはまずいよね...これからも事あるごとに私の錬成武器を鑑定されると出て来る訳だし...。
マツリカ...茉莉花...。
「私はジャスミンです。」
「ジャスミンかぁ。いい名前ね!」
クリスさんはニコリと元気な笑をこちらに向けて来る。とても元気いっぱいで、爽やかな人だなぁ。
そして暫く自己紹介がてら、たわいも無い話をしているとクリスさんの宿泊している着いた。
ーオリガ王国 リョーリカの街 宿屋 翠星亭
「あれ?ここって...?」
「私が今泊まっている宿よ!」
「えっ、そうなんですか?私もここに泊まってます!昨日からですけど。」
「なーんだ、そうだったんだ!暫く宜しくね!」
そうして宿屋の食堂の椅子に腰掛け、ククリナイフを机の上に置く。
「はぁーやっぱり、凄い繊細な彫刻ねぇー。惚れ惚れしちゃう!特にここの透かし何て、いったいどうなってるの?」
「そう、そこは拘りのポイント何です!こっちの鞘を嵌めた時にその透かしとピッタリと合うように出来ているんですよ!」
自分の趣味を分かってもらえる人が居るのは素晴らしい!
「えっ...。拘りって、これジャスミンが作ったの!?」
しまった...!口が滑った...!
「いえいえ...まさかぁ。私がデザインしたのを知り合いの鍛冶屋さんに作って貰ったんですよ。」
「あぁそうなんだ。でも凄いわね!こんなのをデザインしちゃうなんて。それにそんな知り合いも居るなんて凄いよ!だってこんなの作れるのって国宝級の鍛冶師並だよ!」
「ははは...。」
危ない危ない。武具屋のリアクションがイマイチだったから分かんなかったけど、このククリナイフってそんな位置付けだったんだ...。
「何だか凄く気に入って貰えて嬉しいので、これはお譲りしますよ。別に特に高価な材料を使っている訳では無いので。」
大金は昨日手に入れたしね。
「いやいやいやいや、そんなのタダで何て貰えないよ!この作品には沢山の意匠とアイデアが詰ってる。そんなものをタダで貰ったら、鍛冶師さんにもジャスミンにも失礼だよ。」
「そうですか...うーん、そのクリスさんって冒険者何ですよね?」
「うん、そうよ!」
「魔法とかって使えたりしますか?」
「うん、使えるわよ!」
クリスさんが腰に手を当てて自信ありげに答える。
「じゃあ、それを見せてもらえませんか?」
「え?そんなのでいいの?全然釣り合わないと思うけど...。」
「いいえ、そんな事はありません。クリスさんだって魔法を使える様になるまで沢山の努力をしてきたんですよね?それを何の対価も無く、タダで見せてもらうのは失礼ですよ!」
私はクリスさんのさっきの言葉を返す。
「ははは、そうだね。私が最初に信念を押し付けたのに、私がその信念を受け入れないのは卑怯だよね。って、ジャスミンって何歳なの?何だか私一瞬年上と喋ってるのかと錯覚しちゃったよ...。」
「10歳です!」
多分。
その後、すっかり打ち解けた私達は、魔法の実演は明日にして、今日はクリスさんの案内で生活用品を買うのを手伝って貰った。
2、3時間街をぶらつき、粗方の生活用品を買い、宿屋に戻って来る。
「今日は本当にありがとうございました!」
「んーん、全然いいのよ!私もすっごく楽しかった。宿や街で見掛けたら声掛けてね!」
クリスさんは本当に親切にしてくれる。
でもこの親切心はどこから来るのか私にも身に覚えがあった。
うん、これは一人っ子もしくは末っ子特有の”アレ”よね?
「また明日ね!クリス姉ちゃん!!」
「!!...うん!また明日ねっ!」
クリス姉ちゃんはニヤニヤしながら、大きく手を振って来た。
私は小さく振り返し、宿の自室へと戻って行った。
次回もクリス姉ちゃん回が続きます。