閑話 「ソフィとハーブクッキー」
バレンタインデーって事と1000PV/日超えを記念して、突発でSS作りました。
1話完結なのでいつもよりちょっと長目です。
これは時間軸的にエピクロス編の茉莉花とヤス、ソフィが別れて行動していた時の話です。
〈ソフィ視点〉
ー宗教国家エピクロス 首都ラミア
ヤスと護衛依頼をこなした後、いつもの宿へと戻る時だった。
「おっ!そう言えばそろそろ”バレンタイン”か。」
唐突にヤスがよく分からない単語を口に出す。
「ばれんたいん?誰?」
「んっ、あぁそっかソフィは知らないよな。俺達の故郷の風習でバレンタインデーって言うイベントがあって、好きな人にチョコレートをプレゼントするって言う日なんだ。」
「ちょこれいと?」
「チョコレートってのは甘いお菓子だ。
おっ!そういやカロリーメイドチョコレート味があったな!」
そう言ってヤスは私に茶色いブロックを渡す。
「ほいっ!これがチョコレート...ではないけど、チョコレート味だ。」
「土の塊...?」
「いやちげーよ!これは茉莉花が能力で創り出したものだから安全だ。」
「お姉様が!?うん、それなら。」
私はヤスから手渡された”茶色いブロック”を口に入れる。
すると芳ばしい香りと甘い味わいが口に広がる。
「美味しい。」
「だろ?」
ヤスが得意げに私に聞いてくる。お姉様がお創りになったモノだから美味しいに決まっている。でもヤスが得意げにするのはおかしい。
「”ちょこれいと”はどうやって作るの?」
「カカオって言うのを使うんだが...俺も詳しくは知らないな。
でも別にチョコレートじゃなくてもお菓子とかでもいいと思うが...。
って渡したい奴でも居るのか?」
「勿論。お姉様に決まってる。」
「あぁ、そうか...うん、まぁそういうのとは違うんだが、まぁいいか。」
ヤスが微妙そうな表情で頷く。何かおかしい?
「じゃあ、ハーブクッキーを作る。クッキーなら昔母様に教えて貰った。」
「そうか、じゃあ頑張ってなぁ。」
面倒事に巻き込まれると思ったのか、そう言うとヤスは手をヒラヒラとさせながら一人で宿の中へと入って行く。別に警戒しなくてもヤスの力を借りず最初から一人で作るつもりだ。
何たってお姉様へのプレゼントなのだからっ!
翌日、今日は護衛依頼は入っていない。
私はヤスに出掛ける旨を伝える為、ヤスの部屋へ顔を出す。
これは私達の決めたルールで、お互いにある程度スケジュールを把握しておかなければ、依頼のタスク管理がやり辛いからだ。
「お?何だ?」
「ちょっとマンネン谷まで出掛けてくる。」
「クッキーを作るんじゃ無かったのか?」
「クッキーを作る為に材料のハーブをマンネン谷まで取りに行って来る。」
「T○KI○かっ!ってそんなの市場で買えばいいだろ?」
またもヤスがよく分からない単語を使う。
「マンネン谷に出現する魔物”マンネンロウ”から採れるローズマリーは、市場に出ている自生ハーブとは香りや効能が別格。」
「そうなのか...?一人で大丈夫か?」
「ヤスが来ても足手まとい。」
「へいへい。まぁ、あんまり無理すんなよ。」
ヤスの潜伏能力は護衛依頼には適任だけど、正面切った戦力としては既に私の方が上だった。本人もその自覚がある様で無理に着いてこようとはしなかった。
ー宗教国家エピクロス マンネン谷
ヤスと別れて、ラミアを出発し、マンネン谷へとやって来る。マンネン谷はラミアからそう離れてはおらず、私の足でもそう時間は掛からない。
私は黒の”必然のナイフ”を逆手に構え、警戒しながら谷を進む。
暫く進むと開けた場所に出る。そこには小さな小川があり、非常に澄んだ水が流れていた。
私は喉を潤そうと小川に近付く。
しかし、警戒は怠らない。
何故ならここに出没すると言われている”マンネンロウ”は水棲生物なのだ。
右手にナイフを構えつつ、左手で水を掬って飲んでいると、清流の中に”黄色の揺らぎ”を感知する。
これは私の能力”精霊の加護”だ。”精霊の加護”が感知したと言う事は水の中に魔力を帯びた何かが居ると言う事だ。
私は警戒を最大限に引き上げる。
すると次の瞬間水の中から緑色の触手が出現する。
私は既に存在を知覚していた為、咄嗟に背後にステップし、危なげなく避けると同時に目の前に伸びた触手をナイフで切り裂く。
”必然のナイフ”は投げナイフだが、オリハルコン製であり、普通に切っても切れ味は抜群だ。
キシャアアアアァァァッッッ!!!!
触手を切られた事に怒ったのか、そいつは奇声を上げながら岸へと這い上がって来る。
そいつは全体が無数の緑色の触手で覆われており、中央には赤い単眼が薄らと気味悪く光っていた。間違いなくギルドで聞いた情報通りの魔物”マンネンロウ”だ。
私は早速、弱点であろう赤い目を狙いナイフを放つ。
しかし、ナイフはすんでの所で触手にガードされる。足元に緑の触手が数本千切れてうねうねと蠢く。気持ち悪い。
ギュシャアアアアァァァッッッ!!!!
またも触手を切断され怒ったのかマンネンロウは無数の触手を私目掛けて鞭のように叩き付ける。
しかし、私はそれをヒラリと回避し、バックステップを踏みながら再度触手を切り裂く。
キリが無い...。
やはり、あの赤い目を狙わないとダメだ。
実際に触手でガードした事からもこいつの弱点である事は想像に固くない。
なら...。
私は懐から白い”閃光のナイフ”を取り出し、マンネンロウの足元目掛けて放つ。ローブで視界を塞いでいるにも関わらず、眩い光がチカチカと目に入る。
光が収まり、視界のローブを降ろそうとした瞬間私は足を触手に絡め取られ、マンネンロウの前に宙吊りにされてしまう。
くっ...!何故!?”閃光のナイフ”が効かないっ!
こんな事は初めてだった。
冷静になれ..まずは考えろ...。
触手は両足首と胴体、そして肘に巻き付いているが、腕は動かせる。
ならこのパターンは既にシュミレーション済みだ。
私は腕のリストバンドに仕込んでいた”必然のナイフ”を片腕2本づつ取り出し、腕のスナップだけで両方共放つ。
『全反射!』
ナイフはあらぬ方向に飛んでいくが、直ぐに進行方向を反転させ、マンネンロウに向かって行く。
お姉様から頂いたこの”必然のナイフ”は、”必ず”狙った対象に命中する。それはつまり、軌道修正なんて生易しいものではなく、方向そのものをねじ曲げてしまうのだ。
軌道をねじ曲げられた4本のナイフは、マンネンロウの触手をズタズタに切り裂く。その内何本かが、私を宙吊りにしていた触手を切り裂き、私の拘束が解かれる。
グゥギャシャアアアアァァァッッッ!!!!
辺り一面にマンネンロウの叫び声が響き渡る。
私は地面に着地し、直ぐに懐からナイフを取り出し、構える。
残りは...白2本、黒5本か...。
でも、白はもう意味が無い。
...多分こいつは”視覚を持っていない”。けど、ナイフをガードした事から、”聴覚”や”体温”等で私を捉えている訳でも無い。
そして、全反射は防げ無かった事を考えると、恐らく魔物独自の器官で空気の流れや揺れ等を感じ取っているのだろう。
なら、最近練習していたアレが使えるかもしれない。
私は”必然のナイフ”を2本取り出し、中指と薬指で1本を掴み、もう1本を親指と人差し指で掴む。
そしてそのまま肩を使い、全力でマンネンロウの赤い瞳に向かってナイフを放つ。
『連なる双子!』
私が放ったナイフがマンネンロウに向かって行く、マンネンロウは先程と同じく触手でそれをガードする。
が、先程とは違い触手に埋まった1本目のナイフを後続のナイフが押す様な形で触手の壁の中に杭の様に打ち込まれる。
私は1度に2本のナイフを前後に重ねて同じ軌道で放ったのだ。
ゲルグゥグゥギャシャシャアアアアァァァッッッ!!!!
マンネンロウは今までで一番大きな悲鳴を上げ、その大きな巨躯が地面に崩れ落ちる。
やっと倒せた...。
私はマンネンロウの先端の部分に生えるローズマリーを採取し、宿へと戻る。
宿に着くと、私は早速今回採取して来たローズマリーを事前に買い込んでいた小麦粉等と一緒に魔道具の保管箱に入れた。
後はお姉様が帰って来てから焼くだけ。
あぁそう言えば...触手の粘液でぬるぬるの身体を拭きたい...。
はぁ...またお姉様に身体を拭いて欲しい...。
私は自分の身体を拭きながら、以前にお姉様に身体を拭いてもらった時の事を思い出す。
お姉様の柔らかで細い指が私の身体に直に触れるとお姉様の温もりが伝わり、思わず滾ってしまう。
私はお姉様の事を思い浮かべながら、思わず一人で致してしまった。
「はぁ...お姉様...!早く会いたいです...。」
次回は茉莉花視点に戻って迷宮探索です。
投稿はいつも通り土曜日投稿です。
初めて閑話を入れてみましたが、「閑話をもっと入れて欲しい」、「本編さっさと進めろ」等ご意見あれば感想まで。




