1-3 「金策」
30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。
ーオリガ王国 リョーリカ近郊の林道
林道をひたすら歩き、街に着く。
休み休み歩いたとはいえ、10歳児の体力では徒歩2時間は辛い...。
取り敢えず金策をして、宿でゆっくり休みたいな。
私の知ってる転生系の小説だとさっきのトナ改の皮や角を剥いで冒険者ギルドに持っていって...ってパターン何だろうけど...。
無理だよ!無理!素人の私には皮の剥ぎ方も分かんないし、そもそもグロくて絶対無理だよ!
まぁ金策は既に考えてあるので多分大丈夫。
その辺に歩いている人に訪ねながら、”ある店”に向かった。
途中路地に入り、誰も居ないのを確認して”早着替え”を行う。
”早着替え”と言うのは、今来ている服を掴み、アイテムボックスに入れと念じると同時に、武具錬成で作り出した服を着た状態で出現させる、さっき思いついたテクニックだ。
因みに今着替えた服はこんな感じだ。
『貴族の服』
防御力+7
華やかな刺繍が施された、シルクで出来た純白の服。
製作者︰マツリカ=スドウ
さっき豪華な馬車で通りかかった貴族っぽい雰囲気の人の服を私サイズにアレンジしたものだ。
その他、靴や髪留めも出し、身なりを整えて、”ある店”に入った。
「どうもいらっしゃいませ、ドゥルーズ宝石店へようこそ。ワタクシは店主のドゥルーズです。」
そう言って商人っぽい雰囲気のちょび髭を生やした男の人が挨拶をして来る。
「こちらの短剣を売りたいのだけれど...。」
そう言って慣れた様子でドゥルーズさんに、さっき貴族の服と一緒に作っておいた”金のダガー”を差し出す。
「売却ですね。確認いたしますので、少々お待ちください。」
よし!ちゃんと客として扱って貰っている見たいね!
心の中でガッツポーズをしていると、ドゥルーズさんは何やら宝石の様な石が付いたモノクルを取り出して、金のダガーを細かく観察しだす。
すると、モノクルの宝石の部分から小さな紫の光が溢れ出す。
この金が本物かどうかを確認してるのね。
まぁ当然確認は必要よね...でもこれは正真正銘純度100%の金で出来たダガーだから大丈夫よ!
ん?あれ?何か忘れてる様な?
「お、お客様!この様な物を売却頂いて、本当に宜しいのですか?!20年程宝石商をやらせて頂いておりますが、この様な品質の金は見た事がございません!!製作者のマツリカ=スドウとは何方なのでしょうか?この様なレベルの金を鋳造出来るとなると世界的にも有名な鍛冶屋、いや錬金術師なのかも知れませんが...。」
ドゥルーズさんは興奮しながら捲したてた。
金製品で良く流通しているのが18kで純度75%
高級な金製品が24kで純度99.99%
集積回路などに微量に使われる99.999%の純度の金を作るには法外なコストがかかると聞いたことがある。
が、それをも越える純度100%。
そして、どうやらさっきのモノクルは『 アイテム鑑定』が使える道具だったらしく、製作者もバレてしまった。
やらかしてしまった...。
「失礼ながらご両親には許可を頂いておいでなのでしょうか...?」
私が顔を引き攣らせて黙っていると心配そうにドゥルーズさんが聞いてきた。
んん...売れなくなるのは困る...。
今日の晩御飯と宿が掛かっているのだ。
ここは誤魔化すしか...!
「...両親は死にました。死ぬ間際に家宝のこのダガーを私に託して...。本当は両親が残してくれたこのダガーを売るのは居た堪れないのですが...天国の両親も私の幸せを願って...託してくれたのだと思います...ので...両親の気持ちを汲んで買って頂けたら...と...。うっ...。」
そこで私は顔を伏せる...。
「こ、これは申し訳ありません!
それにそのドレス...そうですね、ご両親もきっと貴方様の幸せを願われていると思います。不躾な事を聞きました。もちろん物が確かなのは鑑定で確認出来ましたので、買わせて頂きます!」
ドゥルーズさんの目がちょっと潤んでいた。
そして私は金貨20枚を手に入れ、ホクホク顔で店を出た。
それにしてもドゥルーズさんは商人にしておくには勿体ない位人が良かった。
別に偽物を売りつけている訳では無いし、両親の話が嘘だとバレたとしてもドゥルーズさんなら「良かった。不幸な女の子は居なかったんだ...。」と言って許してくれそうである。
さらにドゥルーズさんにはお金の事と、この街の事などを色々教えて貰った。
貨幣単位はロアで、通貨価値はそれぞれこの様な感じらしい。
金貨1枚=銀貨10枚=10000ロア
銀貨1枚=銅貨10枚=1000ロア
銅貨1枚=鉄銭10枚=100ロア
鉄銭1枚=10ロア
またこの街はリョーリカと言って、オリガ王国の首都らしい。
隣国のマスグレイブ帝国と比べたら小さい国だけど、商売の自由度が高く、帝国よりも商売がし安いのだそうだ。
と言うのもドゥルーズさんは実際に帝国から引越して来たらしい。
そして、オリガ王国は必要最低限の兵力しか持たない為、冒険者や傭兵の税を安くし、オリガ王国での活動を援助しているそうだ。
うん、小国では良くある話だ。常駐戦力は安心感があるが、反面戦争が無くても維持に莫大なコストがかかる。それなら、傭兵達の税を安くして自国に留まらせて置く方が遥かにコストダウンが図れる。
GDPの20%以上が軍事費の某国とは違う。
そして、私はドゥルーズさんに教えて貰ったオススメの宿屋へと向かった。
宿屋へ向かう途中、裏路地に何やら怪しい二人の人影を見つける。
気付かれないようにそっと覗くと、自分と同じ位の少女がボロ布に包まれ担がれていた。
少女の瞼は閉じており、腕は力無く垂れ下がっている。
「旦那様の興がのってやり過ぎた。また新しいのを頼む。」
そう言ってガタイのいい男が商人風の男に少女を渡す。
「という事は...お楽しみ頂けた様で何よりです。では後日特選品を屋敷の方へお持ち致します。」
商人風...いやおそらく話から奴隷商人なのだろう。
奴隷商人の男は少女を受け取りながら、いやらしい笑みを浮かべた。
奴隷。
この世界には奴隷がいるのね...。
制度として国に認められているのかも知れない...でもこんなモノの様に、壊れたらすぐ新しいものに交換していくっていうのは許せない。
私はフツフツと沸き起こるドス黒いものを感じた。
しかし、今は下手には動けない。
この国の法律も知らないのだ。
それにもう...彼女は手遅れだ。
ドゥルーズさんオススメの宿屋に着くと空腹を感じた為、早目の夕食をとった。
チキンの様なソテーに炒めた野菜、塩のスープ。
まぁ可もなく不可もなくといった感じだ。
ドゥルーズさんが貴族の娘にススメテ来る宿でコレなのだから、これ以上はグレードを落とせないなぁ...。
1泊朝夕食事付きで2000ロア。今の所持金は20万ロアだから100日分かぁ。
まぁ当面は大丈夫ね。
受付でお湯とタオルを貰って、身体を拭きベッドにもたれ掛かる。
はぁー疲れたー!
人生で初めて野生動物と格闘したし、いっぱい歩いたし、貴族の娘を演じたし、奴隷商人で精神的に疲れた。
取り敢えず今日はもうこのまま寝よう。
濃厚な一日に思いを馳せ、私は意識を手放した。
次回はいよいよ新キャラ登場です。




