3-4 「ハジメテ」
アリス教皇に”ゴキブリ野郎”と罵られた黒騎士。文字通りゴキブリ並の好感度で宗教国家エピクロスとのコネを結べるのか!?
ー宗教国家エピクロス エピクロス城
(ゴ...ゴキブリ...野郎...。)
私はアリス教皇の罵声に思わず絶句してしまい、何も言葉を返せずにいた。
そして固まっていると背後からクリス姉ちゃんに声を掛けられる。
「あちゃーっ、間に合わなかったか...止めようと思ったんだけどなぁ...。
あのね...アリス教皇は大の男嫌いなのよ。だから今みたいに見知らぬ男が近付いたり、声を掛けたりすると酷い罵声を浴びせられのよ...。」
なるほど...そう言う事だったんだ。
しかし、それにしても精神衛生上宜しくないな...。
「分かった?ゴキブリ野郎の分際で気安く私に話し掛けないで頂戴!」
アリス教皇はそう言い放つと「ふんっ!」と言って腕を組んでそっぽを向いた。
これはどうやら黒騎士として近付くのは難易度が高そうだ...。
「初めましてアリス教皇。私はクリスティーナと言います。以後お見知りおきを!」
クリス姉ちゃんはそう言うとアリス教皇の前で跪いた。
「あらぁ、貴方が清輝のクリスティーナね。中々可愛いわねぇ?
それに、いいタイミングだわ。腕の立つ冒険者に頼みたい事があるのよ。今から私の部屋にいらっしゃいな。」
アリス教皇は先程までの私への態度が嘘の様にご機嫌で、クリス姉ちゃんを連れて食事会の部屋から出て行った。
な...何なの...あの教皇...。
私はアリス教皇の余りの変わり身に唖然とした。
「ふっ...戦上手の黒騎士と言えど、鉄槌処女アリスの扱いは不得手か?」
私が不貞腐れているとヘーゲル皇帝に声を掛けられる。
その側ではヘンペル法務官達が冷や汗を流しながら、おどおどしてこちらの様子を伺っている。どうやら切断したオリハルコンをきっちり”鑑定”した様だ。
それにしてもヒビり過ぎだ。
「どうやらその様だ...。」
「ヘンペルから聞いたが、そなたはオリガ王国と契約を結んでいる訳ではない様だな。」
「あぁ、そうだ。」
「ならば何故オリガ王国の側に立つ?」
「我は別にオリガ王国の側に立っている訳では無い。我は安寧を愛する国の味方であり、それを脅かす国の敵だ。」
「分からんな。そなたの力を持ってすれば大国との高待遇での契約や重用も可能であろう?」
「黒騎士様は誰よりも正義感が強くて欲がない、お優しい方なのです。」
するとそこでアマルティア姫が私達の話に割り込んで来た。
「アマルティア姫か...そうか...なるほどな。合点がいった。
黒騎士よ今度ゆっくりと話そうではないか。マスグレイブ城に来られよ、歓待しよう。」
「あぁ、近いうちにまた行かして貰おう。」
「今度は堂々と正門から入られよ。家臣が怖がるのでな。」
ヘーゲル皇帝はヘンペル法務官の方を見ながら、冗談ぽく口の端を吊り上げた。
話し合いで解決するに越した事はない、罠の可能性もあるがこの世界の戦争を終わらせる為には、いつかは帝国との交渉が必要になるだろう。
”融和”となる事を祈るばかりだが...。
ー宗教国家エピクロス エピクロス城 個室
食事会が終わり、オリガ国王の護衛が終わると用意された個室へと向かう。
私は食事会の間は夕食を食べれなかったので、部屋へと運んで貰った。せっかくの絢爛豪華な食事だ。是非とも味わわなければ!
私が豪華な食事に舌鼓を打っていると、自室の扉がノックされる。
「ジャズ。私よ、クリスよ!開けて。」
扉を開けるとクリス姉ちゃんが立っていた。
お酒を呑んでいるのか少し頬に紅が差している。
「ちょっとジャズに話があるの。」
クリス姉ちゃんはそう前置きをし、部屋のベッドに腰掛ける。
よし、これはチャンスだ!この個室でなら人の目が気にせず、やっとクリス姉ちゃんに正体を明かせる。
「「あの...」」
正体を明かす為に話を切り出そうとした時だった。クリス姉ちゃんとタイミングが被って気まずい感じになる。
「あ...えっと...ジャズから言いなよ!」
クリス姉ちゃんに先鋒を譲られる。
と言うかクリス姉ちゃんがさっきから何か変だ。やたらと視線をキョロキョロと彷徨わせてるし、普段はハキハキ喋るのに今は何だかシャッキリとしない。
うーん、クリス姉ちゃんが何の話をするのか気になってきた...。ここは適当な話をして、先にクリス姉ちゃんの話を聞いてから、正体を明かそう。
「実は以前帝国に乗り込んだ時に、ヘンペル法務官が戦争を続けるつもりだったから少し脅したんだが、そのせいかさっき会った時かなり怯えられていた。」
────話題に窮した時に、自分の友人の秘密を暴露しない者は極めて稀である。
ニーチェの言葉だが確かに人間の本質を言及している。ヘンペル法務官は”友人”では無いけど...。
「あのヘンペル法務官が!?流石ジャズね!」
クリス姉ちゃんは驚いたが、私を見てうんうんと納得した様に頷いた。
「あ...で、私の話なんだけど...。ジャズって私の事どう思う...?」
「どうと言われてもな...どういう意味だ?」
「うーん、その...外見...とか?」
そりゃあ勿論美人で、背が高くて、スタイルが良くて、胸が大きくて...orz
何だか泣けて来た...。
「世辞抜きで美しいと思う。男が放っておかないだろう。」
「っ...!あ、ありがとう!」
クリス姉ちゃんは顔を真っ赤にして俯く。
暫くそのまま俯き、意を決した様に真剣な眼差してで私を見つめる。
「マリーとジャスミンの事は本当にありがとう。ジャズ...貴方が居なければ二人とも死んでいたかもしれない。
で、前に言ったよね?お礼をさせてって。」
「あぁ、覚えている。だが、気にするな。気持ちだけ貰っておこう。」
「駄目だよ...。それじゃ私の気が済まないよ。
で、お礼何だけど...ジャズが私の事美しいって言ってくれて本当に安心した。」
そう言ってクリス姉ちゃんはベッドから立ち上がり、首に巻いたリボンを外す。
そして重力に従うままに、クリス姉ちゃんの豊満な胸が揺れる...ちきせう。
「だからね...。貰って...私のハジメテ...。」
いつも、読んでいただきありがとうございます。
次回は金曜日に投稿予定です。




