2-16 「キラーマシン」
今月は毎日投稿予定です。
今回、次回の話には特に残酷な表現及び、NTR、過度なルサンチマン的な感情表現を含みます。苦手な方は本編のストーリー進行上影響ありませんので飛ばして頂いても構いません。
〈 ソフィ視点〉
ーオリガ王国 とある田舎街
父と母はとても優しく、私は何不自由無く育てられた。思えばそれが”幸せ”と言うものだったのだろう。
しかし、”不幸”というものを知らなかった私はその何気無い平凡な日常が”幸せ”だと言うことを知らなかった。
そして、その”幸せ”は唐突に終わりを告げる。
ある冷え込みが厳しい夜だった。
ベッドで父と母の間で眠りに使うと意識を手放しかけた時、外の馬が突然鳴き声を上げ目が覚める。
こんな時間に誰か来たのか?と父がカンテラに火を灯し外の様子を見ようとした時、突然のガラスの割れる音で私は身体を強ばらせた。
────盗賊の襲撃だった。
これは捕まった後分かったことだが、村の殆どの家族が攫われており、かなり規模の大きい襲撃の様だった。
盗賊に捕まり、荷馬車で箱詰めにされ運ばれた。
荷馬車の中で父様が仕切りに”大丈夫。大丈夫。”と私に言い聞かせていたのが今も記憶に鮮明に残っている。
ーオリガ王国 とある施設
どこかの施設に着くとすぐに奴隷商人に引き渡された。
そこで知ったのは、”無力感”と”絶望”、そして”生きる意味”だった。
まず私達家族だけは、他の村の人とは違い奴隷商人の書斎の様な所に連れていかれた。
そこで私はまず、自分が如何に”無力”であるかと言うことを知った。
書斎では厭らしい笑を浮かべた、奴隷商人が座っており、値踏みする様に私達家族を品定めた。
そこで父様と私の前で、母様が奴隷商人に犯された。
幼い私には何をしているのか分からなかったが、母様の拒絶の仕方と父様の私には見せたことも無い憎しみの表情から、それが人の尊厳を踏み躙るような絶対に許してはいけない行為なのだと言う事は理解出来た。
そこで父様は立ち上がり、手枷を嵌められている為に足を縺れさせながら、奴隷商人へと走っていく。
が、数歩走った所で”何か”に突き飛ばされる。
「父様っ!」
するとそこには全身黒い服を身にまとった背の高い男が現れた。
扉は閉まっている為、今現れたのではなく、気配を決してずっと部屋の隅にいたのだろう。
暫くすると母様は抵抗しなくなり、仕切りに床に倒れている父様を宥めるような口調で、父様を気遣っていた。
行為を受けているのは母様なのに、一番苦しそうにしているのは父様で、それを見て一番楽しそうにしているのは奴隷商人だった。
父様は、仕切りに「ゴメンな。ゴメンな...。」と呟いていた。
その時の私には、なぜ父様が謝っているのか理解出来なかった。謝らなければいけないのはこの奴隷商人なのに。
ただ私の中で無力感だけが募っていった。
父様でも手が出ないのだ。非力な私はアポステリオス様にお祈りする事しか出来なかった。
次の日から私達家族はバラバラに牢屋に入れられた。
穴を掘って逃亡を防止する為か、壁はとても硬い石で出来ていた。実際に出された食器で掘ってみたが、食器の方が削れた。
暫く牢屋で無為に時間を過ごすと、看守が出ろと首で合図を送る。抵抗しても暴力を振るわれるだけなので素直に従う。
看守の後ろに付いていくと、小綺麗な部屋の前に案内される。
部屋の前には私と似たような年齢の村の女の子が並んでいた。同じ村だが話した事は無く、何度か見たことがある程度だ。
看守曰く、私は毎日この部屋で躾を受けさせられる様だ。前の女の子はその順番待ちだろうか?
その女の子と小声で話し、聞くところによると、私達は他の労働奴隷と違い”貴族向けの愛玩用”なのだそうだ。
その為に本来奴隷には不要なテーブルマナーや礼儀作法を学び、貴族に高値で売るそうだ。
次の日以降、何度か廊下で母様とすれ違う事が出来たが、目は虚ろで、呼び掛けてもこっちを見ようとはしてくれなかった。
母様を呼び掛けた時、当然看守にお腹を強く蹴られた。
だがそれでも呼び掛け続けた。
蹴られ過ぎて血の痰が出た。
数日が過ぎ、父様の訃報が届いた。
躾の部屋で待っている女の子から聞いた話によると、逃げ出そうとした所を看守に捕まり殺されたそうだ。
私は躾中に涙が溢れ、躾の教官に酷く折檻された。
これで私の希望は母様しかいなくなってしまったが、前に見た母様の状況から考えて、母様は既にこの状況から脱する事を諦めているだろう。
もう母様にも父様にも頼れない。
自分一人で生きて行かなければならないのだ。
この日私は初めて”絶望”を経験した。
次の日から私は生き方を変えた。
何故なら奴隷商人の部屋で父様が繰り返した「ゴメンな。ゴメンな...。」の意味が分かったからだ。
あれは”奴隷商人を殺す力が無くてゴメンな”という意味だと理解した。
父様には力が無かった。もちろん私にはもっと無い。力を付けて奴隷商人を殺さなければいけない。
私は逃げ出した父様とは違う、何が何でも抗って見せる。
私の”生きる意味”は奴隷商人を殺し、私と家族の仇を討ち、この地獄から抜け出す事なのだ。
その日から私は考え、この施設の人々を観察することを徹底した。
父様を殴った黒服の様にどうやったら気配を消せるのか、奴隷商人に近づくにはどうしたらいいか、あの分厚い脂肪をどうやったら切り裂けるのかを。
その日の夕食、私が牢屋で食べるのを看守が珍しく見ていた。
いつもなら食事を置いたら直ぐに立ち去るので不思議に思っていた。
しかし、早く食べないと看守の気分が変わって、取り上げられてしまうかもしれないと思い、急いで食べた。
なぜなら、その日の夕食は珍しく、お肉だった。
お肉が出されるのは奴隷になって初めての事だった。
しかし、贅沢は言っていられないが肉は硬く、ただ焼いただけで、余り美味しいものでは無かった。
食事が終わると、厭らしい笑を浮かべ看守が話しかけてきた。
「どうだ肉は美味かったか?」
「美味しかったです...。」
ここで不味かったなどと言っても得になる事は無い。
「そうか!そりゃあお父さんも喜んでるだろう!娘に食ってもらえてなっ!」
どうやらあの硬い肉は父様だった様だ。
だが不思議と悲しい気持ちにはならず、父様の身体が私の”力”になるのだと思い、更に私の決意を強固にしていった。
「あんまり驚かないな?だが覚えておけ、お前も逃げようとすればこうなるぞっ!」
どうやら逃亡防止の為にこの様な狂宴を演じている様だ。
こいつも殺そう。
黒服の男を観察していると、彼は常に周りを警戒し、特殊な歩き方をしており、ものを掴む時も決して両手を使うことは無かった。
そしてその動きは俊敏で、どんな姿勢からも直ぐに拳を放てるような、隙の無い構えだった。
この男は参考になる。
しかし駄目だ。この男がそばに居る時は、私が奴隷商人に近づく事は絶対に出来ない。殺るならばこの男がいない時しかない。
奴隷商人と二人きりになる状況を作る為、私は必死に従順に見せ、躾を覚えていった。
毎日躾や雑用の合間をぬって、私は鍛錬と神様へのお祈りだけは欠かさず毎日行った。
足や手の指の筋力を鍛えるトレーニングや、バランスを保つ為の体幹トレーニングを行った。
そして、何度も奴隷商人の殺し方のシュミレーションを行った。
後揃えなければいけないのは、得物だ。
次回もソフィ追憶編が続きます。




