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2-13 「独白」

 30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。

〈アマルティア姫視点〉

ー回想


 初めてお見かけしたのは王城の演習場でした。

 こちらを観察する様な視線を感じ振り向くと、漆黒の鎧を着込んだ傭兵の方がわたくしの方を見ていました。

 その時の印象は...正直少し怖かったのを覚えています。


 しかし、その印象は二目見た時わたくしの中でガラリと変わりました。

 わたくしが傭兵の方々に駄目元で呼びかけた時に真っ先に駆け付けてくれたのが黒騎士様だったのです。

 その時は「あぁ、何て愛国心の高い方何でしょう...!」と思っていました。


 しかし、その印象もまた次にお会いした時に一新するのです。

 それは謁見の間での出来事です。


 わたくしは自分の人生の中で”一番屈辱的で幸せなこの日”を生涯忘れる事は無いでしょう。


 ヴァルター=フォン=ゲゼル。


 わたくしは剣術の師であるブルーノ以外に初めて負けました。

 この男は剣で私に叶わないと判断すると、お父様がわたくしの背になる様に陣取り風魔法を放って来たのです。

 わたくしは避ける事が出来ずに風魔法でバランスを崩し、その隙を突かれヴァルターに一閃を受けてしまいました。


 ヴァルターは決闘の前にわたくしに宣言しました。

 わたくしが負けたらわたくしはヴァルターの奴隷となる事、但しその場合はお父様の命は助けてやると。

 わたくしが奴隷となった後に従順に従わせる為の人質と言う事なのでしょう。

 わたくしは帝国に連れていかれ慰み物にされてしまうのだと覚悟しました。


 しかし、その覚悟はその後のヴァルターの発言で浅はかだったと知るのです。


「先ずは見せ付けるように、この場で服を脱いでいけ。父親に成長したお前の姿を見てもらうんだ...!」


 わたくしは頭を鈍器で殴られた様な衝撃を受けました。この様な下品でおぞましい行為に...。


 しかし、お父様を殺すと脅されると頭が真っ白になり何も考えられず、怖ず怖ずと衣服を脱いでいくしかありませんでした。


 それは甲冑とドレスを脱ぎ、下着に手を掛けた時でした。突然扉が開けられたと思ったら黒騎士様が入って来たのです。


 わたくしは黒騎士様に肌を晒す恥ずかしさと、ヴァルターの機嫌を損ねないかと言う恐怖でパニックになりましたが、何とか黒騎士様に思い止まって貰おうと必死に制止しました。


 しかし、黒騎士様は私のすぐ側まで近付くと、何と純白のドレスを着せてくれたのです。

 そのドレスはくすみ一つ無く、王族のわたくしですら触った事が無いとても滑らかな材質で出来ていました。まさにお伽噺に出てくる様な”魔法のドレス”でした。


 そして黒騎士様は皆の前で言ったのです。


「アマルティア姫はこの国の姫だ。気高く輝く純白の装いこそ相応しい。この様に辱めるものでは無い。」


 その時わたくしは気付きました。

 演習場でのわたくしの呼びかけに真っ先に駆け付けてくれたのは、”国の為”では無く、”わたしくしの為”だったのだと。


 わたくしは王族です。恋愛結婚が出来るとは最初から思っていません。

 でも、国の為の政略結婚となるのならばせめて、わたくしよりも強いこの国を守れる”武人”に夫になって欲しいと思い、お父様に条件(わがまま)を言いました。


 しかし、これはまさに子供の頃に今は亡きお母様に読んで頂いたお伽噺に出てくる様なロマンチックなプロポーズでした。

 わたくしは舞い上がりました。

 しかし、すぐに気付かされました。わたくしは”奴隷”である事を...。


 それでもヴァルターに果敢に立ち向かうと黒騎士様は宣言してくれました。

 しかし、ヴァルターは曲がりなりにも帝国騎士、さらには詠唱省略魔法が使える為、とても傭兵では勝ち目はありません。

 わたくしは折角の初めてのこの気持ちを死という絶望の色で染められる恐怖で、泣き出しそうになりました。


 しかし、黒騎士様はそんなヴァルターを見た事も無い詠唱省略魔法の一撃で倒したのです。

 奴隷と言う灰色の未来を黒騎士様の”光の剣”で貫き、わたくしとお父様の命を救ってくれたのです。


 しかも、それだけではありません、黒騎士様はブルーノやハンナの命も救ってくれ、さらにガレノスの野望までもその白き正義の剣で打ち砕いたのです。


 本当にわたくしは黒騎士様に感謝してもしきれません。

 しかし、それはわたくしだけではありませんでした。


 黒騎士様が帝国へと旅立った後、わたくしはブルーノや兵達と騎士団の再編等について議論していた時でした。

 南門の兵達は挙って黒騎士様を讃え、敬っていました。

 その事からも黒騎士様は身分や地位に対して分け隔てなく接し、裏表の無い性格が伺われました。


 黒騎士様が帝国から戻り、その正体が少女だったと分かった時、わたくしは一瞬驚いたと同時に一抹の”安堵”を感じました。


 演習場の隻眼の男、ヴァルター、ガレノス...わたくしの周りに集まってくる男の方はとても夫としたくない方達ばかりでした。

 こう男性の”欲に駆られた醜い部分”を立て続けに見せられた為、少し男性不信に陥っていたのです。


 そこで黒騎士様に出会い、黒騎士様の正体を知り、わたくしは気付いたのです。


『 黒騎士様が”男性”だから好きになったのでは無く、”黒騎士様”だから好きになったのだと。』


 わたくしは黒騎士様が”男性”だから恋をする訳では無いのです。生まれて初めての恋だからこそ、わたくしはこの気持ちに正直に向き合いたいと決意しました。





────わたくしは黒騎士様を”性別”に関わらず愛します。


 次回からは戦争から離れ、”奴隷解放”の話に入ります。

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