2-12 「褒賞」
30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。
〈茉莉花視点〉
ーオリガ王国 オリガ王城 謁見の間
私達3人はマスグレイブ帝国からオリガ王城に戻った後、そのまま謁見の間へと通された。
「おぉ黒騎士殿!良くぞ戻られた!」
「黒騎士様っ!」
玉座に座った国王と、後ろの扉から駆けて来たアマルティア姫が迎えてくれた。
「予想以上に早かったが...して...首尾はどうだ...?」
国王が神妙な面持ちで問い掛けてくる。
「帝国への潜入は成功し、ヘンペル法務官と”話し合う”事が出来た。帝国が愚かで無ければ、8日程で停戦の為の特使が来るだろう。」
「何と...あのヘンペル法務官に面通りが叶うとは...一体どの様な手を?」
「面通りなどまどろっこしい事はしていない。ヘンペル法務官の自室へ直接潜入した。」
「自室まで潜入だ...と...!?ヘンペル法務官と言えば軍の重要人物...生半可な警備では無いと思うが...貴殿らはそれを掻い潜ったのか...。」
国王は額に汗を浮かばせながら、私とヤスを交互に見て、ゆっくりと立ち上がった。
「此度の貴殿の八面六臂の活躍、誠に見事であった。オリガ王国国王ガルブレイス=オリガとして礼を言う。」
すると国王は私に向かって浅く頭を下げる。
こ、国王が頭を下げる何て...余っ程だよね...。
いつの間にか駆け付けたブルーノさんは後ろを向いて、見てないフリをしてる。忠義心の厚い人だ...。
「そして、コレは褒賞だ。」
すると後に控えていた侍女が白い重そうな袋を私の方へ持ってくる。金貨袋だろう。
「王よ...今回我は金銭を受け取るつもりは無い。
それにこの状況だ...。新たな人材を雇うにしても先立つものが必要であろう。」
「黒騎士殿...っ!しかし、これだけの働きをしたにも関わらず何も褒賞を渡さないと言うのは...。」
侍女が困った様に国王の方を見る。
「いや、その代わり一つ欲しい許可がある。」
「皆まで言うな。その事については分かっている。」
え?今までのやり取りだけで私の欲しいものが何か分かるの?
「アマルティア...来なさい。」
国王はアマルティア姫を手招きする。
「はい...。」
アマルティア姫が国王の横で顔を赤らめながら恥ずかしそうに私を見つめている。
「我が娘、アマルティアとの結婚を認めよう!」
そっちかぁぁぁ!!!
ヤスに忠告されてたやつだ...。
しかし、オリガ王国とはこの先も付き合って行きたいし、私も勘違いさせちゃった見たいだし、迂闊には断れない...。
ここは目的を話して向こうに諦めてもらおう。
「我は世界の戦争を止めるという大義がある故、今は結婚をする気は無い。すまないが保留とさせて欲しい。」
「何っ?オリガ王国を救ってくれたのはアマルティアや権力の為では無かったのか?
何と無欲な男だ...!
そして世界の為に戦争を止めるだと...貴殿の志は真に壮大だな...!」
何か勝手に国王が過大解釈してるよ...。
本当は元の世界に戻る為に...私利私欲の為何だけどね。
「黒騎士様の高潔な御意思は理解致しました。
わたくしアマルティアは、いつまでもお待ちしております!」
駄目だぁ!何か逆効果になっちゃった...。
「しかし...我は姫にも勝っておらず、姿も見せていない。姫も決断するのは時期尚早では無いのか?」
「そんな事はありません。わたくしはヴァルターに敗れ、そのヴァルターを破った黒騎士様はわたくしよりも強いのは明白ですわ!
それにわたくしは黒騎士様の強さ、お優しさ、志に惚れました。黒騎士様がどんなお姿、種族であっても愛して見せますっ!」
アマルティア姫は顔を真っ赤にしながら、でも力強く言い放った。
ヤスの方を見ると「やっちまったなぁ。」と言った表情を向けてくる。
「黒騎士殿心配には及ばん。種族の事を気にしているのであろうが、我が国は種族に対しての差別は他国に比べ低い。例え貴殿がドワーフであっても、姫との結婚は変わらず認めよう。
それにだ...アマルティアがこんなにも貴殿の事を好いておるのだ。これを認めなければアマルティアは国を出て駆け落ちでもしかねん。」
国王はそう言ってアマルティア姫の方に視線を送る。
アマルティア姫は恥ずかしそうに顔を伏せる。
うーんこれはもう最後の手段しかない...!
「分かった...そこまで言うのであれば我が姿を見せよう。国王とアマルティア姫そしてブルーノ騎士団長のみで個室を用意願いたい。」
素直に私が女である事を見せてアマルティア姫には諦めてもらおう。
「分かった。では貴殿の客間へ行くとしよう。」
そしてヤスを含む5人で私達の客間へと移動した。
ーオリガ王国 オリガ王城 客間
国王が人払いをし、客間の扉の鍵を閉める。
「人払いは済んだ。部屋には近付くなと厳命も下した。」
私は兜に手を掛け、ゆっくりと脱いでいく。
「なっ!」
「そんな...!」
「黒騎士殿...!?」
ヤス以外の3人が驚愕の声をあげる。
「ジャスミンと申します。先ずは不敬な態度を取り申し訳ありませんでした。この姿や言動では国の命運を握る作戦遂行の承認を得られないと思い、姿を隠しておりました。」
そう言って私は国王の前で跪く。
「黒騎士殿の正体はこんな10歳にも満たない子供だったとは...。」
これでも私の記憶だと10歳位なんだよ...。
どうもこの世界だと日本人は幼く見えるらしい...。
「これで分かって頂けたと思います...。」
そして私はアマルティア姫の言葉を待つ。
「保留と言う意味は分かりました...。まさかあの様な大魔導師がこの様な幼い方とは驚いてしまいましたが、私の気持ちに変わりはありません。」
あるぇ?な、何で変わらないの?幼いとかそう言う問題じゃなくて、私はどう見ても女だよ?
女同士何だから、結婚出来ないでしょ?
ふとヤスの方を見ると、苦笑いしているので小声で聞いてみる。
(どういう事?何か知ってるの?)
(やっぱり知らなかったのか...この世界じゃ同性の結婚は認められている。遠い昔王族同士でしか結婚が許されない時代に女しか世継ぎが産まれず、女同士の王族で結婚して子を成したそうだ。)
処女懐妊!?そんな事が本当にあるの?
いやここは私の知ってる世界じゃ無いんだ...私の世界の常識は通用しないんだ。
うーん、アマルティア姫の真っ直ぐな瞳を見ていたら今更「知りませんでした。てへっ☆」とは言い出せない空気だ...。
”保留”にはなったんだし...取り敢えず話題を変えよう。
「あ、あの国王様。さっきの褒賞の件で、一つ確認したい事があります。この国では奴隷は認められているのですか?」
「オリガ王国では禁止されている。だが...実際は一部で奴隷販売の組織がある事が分かっている。」
なるほど...だとするとリョーリカの街で見た人身売買は完全に違法と...。
「でしたら、私にその組織及び関わる者を壊滅させる権利を与えてくれませんか?」
「それは構わないが...何故そんな事の許可をわざわざとるのだ?勝手にやったとしても、奴隷販売は極刑だ。貴殿を責めるものは誰も居ないだろう。」
国王は首を傾げながら聞いてくる。
「理由は二つです。
一つ目は捕まった奴隷など巻き込まれた者に、私が王の命で動いている事が分かればすぐに安心するでしょう。
二つ目はブルーノ騎士団長のお気待ちです。本来であれば騎士団が先陣を切って粛清する事ですが、私の行動はその面目を潰しかねない。
しかし、今のこの状況であれば、騎士団は治安の回復と兵の補填等を優先しなければいけません。とても奴隷販売の組織を粛清する余裕は無いかと...。」
「黒騎士殿っ!そなたの配慮...痛み入る!しかし、それは気にしないでくれ。部下を失い陛下を危険に晒し、自分も死にかけた。今の自分には既に失って困るような面目は無い。
有難くその申し出を受けさせて貰いたい。」
ブルーノさんが涙を浮かべて私に対して頭を下げてくる。
この人はこんな見た目の私にも敬意を払ってくれているのだ。やはりこの人には私の正体を打ち明けて正解だった。
「黒騎士殿、そなたは本当に正義感が強いのだな。
あい分かった。であれば、臨時のオリガ王国騎士団章を渡そう。それがあれば、国民はおろか、騎士団員や憲兵にも融通が聞くだろう。
まぁスタンプを初め、貴殿をぞんざいに扱う兵は我が国にはおらんと思うがな。」
そう言うと国王はニヤリと笑った。
「それはそうです。黒騎士殿は我が国の英雄ですから。」
ブルーノさんも国王に続けて笑を見せる。
「御配慮ありがとうございます。そして私の事は内密にお願いします。」
「あぁ、もちろんだ。」
国王が深く頷いた。
これで私は奴隷販売組織を壊滅させるための免罪符と信頼出来る後ろ盾を手に入れた。
しかし、この時の私は今回先送りにしたアマルティア姫との”結婚保留”を後になって後悔する事を今は未だ知らなかった...。
やっと百合ハーレム”一人目”です。サブタイに銘打っていましたが、遅くなりました...。これから加速するのでご容赦願います。
次回アマルティア姫回です。




