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2-10 「軍法会議」

 30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。

ーマスグレイブ帝国 帝都デスハイム


 帝都デスハイムの街づくりはオリガ王国に比べ先進的で、建築技術の高さが伺われた。

 雑貨屋や衣服店に興味を惹かれたが、今はそんな暇はない為、真っ直ぐにマスグレイブ城へと向かう。





ーマスグレイブ帝国 マスグレイブ城


 マスグレイブ城に着くと、門の守衛らしき兵が二人程立っていたが、怪しい黒騎士ルックにも関わらず例の如く”素通り”した。


 城内はオリガ城とは比べ物にならない程、広く複雑だったが、ヤスが過去に忍び込んだ事があるらしく、スイスイと目的の場所へと辿り着く。


 今回の目的は、”交渉”だ。

 いきなり皇帝に会いに行くのは帝国への刺激が強過ぎて、心象を悪くしかねない。

 その為、軍の上の方の人が集まる、会議室が今回の最初の目的の場所だ。


 大会議室の豪華な扉を”素通り”し、中に入ると、丁度軍法会議が催されていた。


 




〈グスタフ視点〉

ーマスグレイブ帝国 マスグレイブ城 大会議室


 私は今、人生最大の修羅場に立たされている。


 今まで私は帝国軍人として順風満帆なエリート街道を歩いて来た。

 そして今回の戦争もその街道を彩る”糧”に過ぎないと...そう思っていた。

 全てはあの黒騎士に狂わされた。

 が、黒騎士に対して恨みや、怒りなどは一切湧いてこない。何故なら”アレ”は、”戦ってはいけないもの”、”触れてはいけないもの”その類なのだ。


 が、今回ハイデガーの策略により、私の敢闘精神を疑われ、この様な軍法会議が開かれている。


「...であるからして、グスタフは傭兵一人に怯え、前線指揮官である私の制止を振り切り、勝手に兵を引き上げたのであります!」


 ハイデガーの長い申し開きが終わった。

 好き放題言ってくれる!

 自分だって黒騎士にヒビりまくってただろうが!


「ふむ...分かった。が、しかし、何故兵は前線指揮官であるお前の判断では無く、グスタフの指示を受け入れたのだ?」


 ヘンペル法務官がハイデガーに疑問を呈する。


「そ、それは...場が混乱しており...兵が正しい判断を出来なかった...と...思われます...。」


「場が混乱していた?ならばそれはハイデガー貴様の指揮が悪かったのではないのか?

 それを見兼ねた副官のグスタフが指示を出したのではないか?」


「い、いえ...私は的確な指示を出しましたが...」


「ほう。貴様の的確(・・)な指示でグスタフ以外の帝国騎士19名を失ったのか?」


「そ、それは...。」


 ハイデガーが滝の様な汗をかきながら言葉を詰まらせる。


「グスタフよ、発言を許可する。我が質問に答えよ。

 貴様が撤退を指揮したと言うのは本当か?」


「仰る通りです。」


「で、その理由はその傭兵...黒騎士だったか?

 その黒騎士に怯え、戦線を放棄したのか?」


 よし、もうこれが最後のチャンスだ!

 この返答何如により、私の帝国騎士生命が決まる。絶対にミスは許されないぞ...!


「いいえ、違います。ただ最初に申し上げておきたいのですが、これは私の保身の為では無いということをご留意頂きたい!」


『 敵前逃亡だろう?』

『 奴は何を言っているのだ?』


 傍聴席から野次が聞こえる。


「私が撤退した理由は、祖国...帝国の為であります!」


『 何を馬鹿なっ!』

『 どうゆう事だ?』


 またもザワつく傍聴席。


「それはどういう事だ?」


 顎の立派な髭を整えながら、ヘンペル法務官は訝しげに聞いてくる。


「黒騎士の”未知の魔法”により我が部下9名の騎馬隊は...一分も経たずに倒されました。」


『そんな馬鹿なっ!? 』

『黒騎士は馬にも乗っていない歩兵なのだろう? 』


 素っ頓狂な声を上げる傍聴席。


「その”未知の魔法”と言うのは?」


 傍聴席のザワめきの中、割って入ったのは宮廷魔導師のアルバート殿だった。

 アルバート殿は一年程前に帝国に突如現れ、その類い稀なる魔法の才により、半年で宮廷魔導師にまで上り詰めた猛者だ。

 皇帝からの信頼も厚く、ありとあらゆる魔法を使える事から、”万物の賢者アルバート”の二つ名も下賜された程の方だ。

 ここは何としても味方になって貰はねばっ!


「地面から光で出来た大きな剣や槍を出す魔法です。

 とんでもない速さで出現し、非常に貫通力が高く、鋼鉄製の鎧では防げませんでした。」


「......そんな魔法は存在しません。」


 そ、そんな...アルバート殿に一蹴されてしまった...。

 アルバート殿でも知らない魔法とは...。


「賢者アルバート様が無いというのだから、グスタフの嘘に違いない!」


 ここぞとばかりにハイデガーが割り込んでくる。

 あの野郎っ!


「いえ...そんな魔法は存在しないと言っただけで、魔法以外の可能性はあります。」


 アルバート殿がハイデガーを窘める様に言う。

 これは軌道修正した方が良さそうだ。


「これは失礼致しました。素人が勝手な憶測を...。

 戦場で戦った者が目撃したのは、魔法に類する”未知の術”でした。

 そして、その術を戦場で唯一(・・)受けて生き残った私が、恥を覚悟で生還し、帝国に伝える事こそが帝国臣民としての誇り高き使命という考えに至った為、撤退を選択致しましたっ!!!」


 どうだ!撤退の理由を個人の命や戦果が理由では無く、国の為と大きな話に持っていき、撤退”作戦”では無く、”使命”と置き換えてやったぞ!



「ふむ...賢者アルバート殿も知らぬ魔法とは異なる”未知の術”か...。

 確かに今回の件は、それ位の事が無ければ、説明がつかん。魔導兵含む、300以上の帝国兵を注ぎ込んで、オリガ王国相手にその半数以上を失うなどと

言う説明がな...。

 その黒騎士とやらの詳細も気になる。ハイデガー及びグスタフは今回の撤退の責任は不問とし、黒騎士調査隊を結成し、その指揮にあたれ!」


 ヘンペル法務官の”ありがたい”裁定が下された。


「ハッ!承知致しました!」


 やった!耐え忍んだ!!

 今後も黒騎士と関わら無いといけないのは宜しくないが、敵前逃亡は死罪、文句は言ってられない。


 そして、軍法会議はお開きとなり、人々が退出しだした。


 次回ヘンペル執務官との”話合い”です。

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