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2-8 「食事会」

 30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。

ーオリガ王国 オリガ王城 客間


 久し振りのフカフカのベッド。

 やはり王城なだけあり、街の宿屋とは比べ物にならない位質がいい。


 昨日はヤスと能力の確認や”帝国潜入作戦”について綿密に打ち合わせた後、久し振りに日本人と話が出来、お互いに盛り上がって話し込んでて、気付いたら眠っちゃって...。


 え?何でヤスが一緒のベッドで寝てるの...!?

 まさか...嘘っ...!?


 寝ぼけ眼でそんな思考を巡らせていると、ヤスも目覚めた様で声を掛けてきた。


「おぅ、おはよう!

 昨日はありがとなっ!気持ちよかったぞ。」


 な、ななななな...こんないたいけな幼女に何て事を...!

 ヤスはロリコンだったのか!犯人はヤスだったのね!

 いやでもまだ慌てる様な時間じゃない...私の勘違いかもしれないじゃないか...!


「それにしても、意外に上手くてビックリしたよ。」


 憲兵さんこの人ですっ!!スタンプさんはよっ!

 って”上手い”って...20歳の私ですら”経験”した事が無いのに、10歳の私が”上手い”なんて事があるのだろうか...?

 いやいやそんな馬鹿な...。

 

「そ、そうかな?私なんて全然...だよ?」


「いやぁそんな事ないぜ。お前の指圧(・・)すっごい効いたぞ!

 お陰様で棍棒振って疲れた肩がこの通りだ。」


 そう言って肩をグルグル回すヤス。


 ああああぁぁぁぁ!!!そっちかぁぁぁ!!!


「で、でも何でヤスが私のベッドに...?」


「え?何言ってんだ?ここは俺のベッドだろう?

 昨日茉莉花が指圧してくれるって言うから、俺のベッドで指圧を受けてたら気持ち良くて寝ちまって...で、茉莉花もそのまま寝ちまったんだろ?」


 わあああぁぁぁ!そういう事かぁぁぁ!

 私は恥ずかしさの余り、布団の中に潜り込んだ。


「あ、おい?二度寝か?今日から帝国に行くんだろ?」




 私が復活したのはそれから15分後の事だった。

 ”早着替え”を済まし、黒鎧を身に纏い部屋を出ようとした時、扉からノックが聞こえたので、入室を促す。


「おはようございます。朝食の用意が出来ましたので、食堂まで案内させて頂きます。」


 ハンナの朝食の知らせだった。


 私達はハンナに案内され、食堂へと入る。





ーオリガ王国 オリガ王城 食堂


「おぉ、これは黒騎士殿。」


 国王が中央に、その横にアマルティア姫が座っていた。

 私は国王と向かい合わせになる様に座り、ヤスが私の横にアマルティア姫と向かい合わせになる様に座った。


 すると、すぐに食事が机に運ばれて来た。


「今は人手が足りていなくてな...この様な(もてなし)しか出来ぬが、食べてくれ。」


 そう言って国王が促す。

 隣でヤスが心配そうに私を見てくる。

 そう、兜の事だろう...。食事をするなら、兜を脱がないと。

 しかし、それは錬成時に対策済みだ。


「ありがたく、頂こう。

 だが一つ先に非礼を詫びよう。

 我は宗教上の理由により、食事をする時に言葉を発する事が出来ない。その為、すまぬが食事中は何も話せない。」

 

「まぁ、黒騎士()はどういった宗教を信仰なされているのですか?」


 いつの間にか敬称が様になっていた。舐められまいと余りに尊大な態度を取り過ぎたかな...?

 流石に国のお姫様に様付けされるのは、余り心持ちが良くない。

 

 それにしても、この国の宗派もよく分かっていないのに宗教は不味かったかもしれない。

 熱狂的なカトリックの様な宗派だったら話が拗れる。ここは宗教色の薄い、それっぽい話にしておこう。


「宗教と言うのは語弊があるか...これは我の師匠の教えだ。

 我が師匠に日頃から、「隙が出来やすい食事中にこそ気を使い、何時でも呪文が唱えられる様に備えよ」と厳しく言われたのだ。

 ところで、この国の宗教はどういったものなのだ?」


「ふふ...黒騎士様御冗談を...。この国も何も、この世界全てが創造主アポステリオス様を信仰していますわ。

 一部で邪神と呼ばれる世界に混沌を齎す神を信仰している部族が居ると聞きますが...。黒騎士様はもしかしてその...。」


 こんなところで唐突に、アポスじいさんの名前が...!

 そうかこの世界ではあの人は実存する世界の創造主、つまりは神そのものなのだろう。

 ここはノっておかないとまずい予感がする。

 アマルティア姫もかなり不安そうに聞いてきている。


「いや、邪神については聞いた事も無い。私も信仰は勿論アポステリオス様だ。」


「そうですか!それは良かったです。...改宗しなくても良いのですね。」


 アマルティア姫の表情がパアッと明るくなった。

 改宗?やはり、もし私が異教徒だったら異端審問にかけられ非常にめんどくさい事になっていたのね...。危ない危ない。


「ゴホン...。アマルティア、気になるのは分かるが、食事が冷めてしまうぞ。」


「あっ...これは失礼致しました。それでは頂きましょう。」


 そう言ってアマルティア姫はナイフとフォークを手に取る。


 私は兜のリンパ節付近にある分離部を押して、兜の顎部を外し、食事を始める。

 国王とアマルティア姫は兜を外すものだと思っていた為か、最初驚いた様子だったが、さっき私が言った”食事中に言葉を発する事が出来ない”を気にして話し掛けては来なかった。


 本当の理由は顎の部分を外してしまうと、変声機能が失われてしまうからだけど。




 朝食を終え、兜の顎部を装着し直し、国王にこれからの事を話す。


「で、帝国の事だが...。

 黒紅石の価格カルテルを帝国と結ぶのはどうか?」


「価格かるてる...?」


 あ、カルテルは上手く翻訳されない見たいだ。

 商会はあっても企業は無いよね...。


「価格カルテルと言うのは、黒紅石の最低価格を帝国と握り、両国で完全に流通を制御する事だ。」


 現代では、独禁法に抵触するが、知ったこっちゃない。ここは価格戦争で本当に戦争が起きてしまう世界なのだ。


「うむ...。確かにその様な協定が結べれば、両国の利となろう。が、帝国がオリガ王国の様な小国とそんな協定を結ぶとは思えん...。」


「それについては既に検討済みだ。これから我等が帝国に行き、話を付ける。」


「な、なんだと?黒騎士殿が単騎で帝国に乗り込むと言うのか...?

 如何に黒騎士殿と言えど、それは流石に無謀としか...。」


「いや、白昼堂々と乗り込む訳ではない。

 帝国に”潜入”する。

 ヤスは潜入のスペシャリストだ。ヤスと二人で潜入し、然るべき人物と話を付ける。」


「黒騎士殿がそこまで言うのであれば、彼もまた特別な技能を持っているのだろう...。

 分かった...帝国のスパイとは言え、ガレノスの意見を聞いて先に均衡を崩したのは第三国から見ればコチラ側だ。価格カルテルは今回の問題の落とし所として悪くない。」


 国王はヤスの方をチラリと見てから、首を縦に振る。

 

 やはり、思っていた通り、この国の国王は非常に宥和(ゆうわ)主義な人物だ。

 軍国主義の帝国とは真反対だ。


「では直ぐにでも発ちたい。足を用意して貰えるか?」


「分かった。直ぐに目立たない馬車を用意させよう。暫く部屋で待たれよ。」


 私達が食堂を出ると国王は侍女に慌ただしく指示を出していた。






ーオリガ王国 オリガ王城 客間


 私はこの世界で初めての長旅に向けて準備を行っていた。

 具体的にはカロリーメイドダガーを量産していた。

 

「しっかし便利な能力だな、それ...。」


「まぁね。ただ製品化されている味しか出せないのよね...。

 流石に飽きそうだから、少しでも種類を増やしたいんだけど。」


 私がカロリーメイド メープル味をアイテムボックスに入れながら答える。


「ん?そんなのカロリーメイド マンゴー味とか適当に念じれば出てくるんじゃないのか?」


「うん、それはもう試した。

 だけど何て言うか...”バグる”のよね。

 どうやら”武具錬成”で錬成できるものは私のイメージの範囲内のみらしく、食べたことの無い食べ物の味覚ってのはイメージが難しいからか、とんでもない味のカロリーメイドが出来上がったわ。」


 具体的には”砂の味がするカロリーメイド”が出来上がった...。


「ふーん、そういうもんなのか。」


 すると、そこで扉がノックされる。


「馬車の用意が出来ました。城門までお越し下さい。」


 ハンナの声だ。






ーオリガ王国 オリガ王城 城門


「では、くれぐれも道中気を付ける様に。

 スタンプもキチンと黒騎士殿とヤス殿を送り届けるのだぞ!」


 国王がわざわざ門まで見送りに来てくれていた。

 因みにスタンプさんには、御者(ぎょしゃ)として帝国まで送ってもらう。

 国王に「ガレノスのスパイの件もある、黒騎士殿が信用をおける兵を一人指名してくれ」と言われていたのだ。

 

「ハッ!国の英雄の国を挙げた大任。スタンプこの命に替えても必ずや成し遂げて見せます!」


 スタンプさんは手綱を握りながら、鼻息荒く答える。

 ブルーノさんに聞いた話によると、救国の英雄をサポート出来るこの任務をオリガ王国の兵士中が渇望していたらしい。

 ブルーノさんも行きたがっていた。いやいや、ブルーノさんが居なくなると誰がこの国を守るんだ...。


「黒騎士様...必ず帰って来て下さいね...!」


 アマルティア姫が神妙な面持ちで声をかけてくる。


「あぁ、約束しよう。」




 そして、帝国への馬車での旅が始まった。


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