2-2 「開戦」
ウィークリー31位まで上がってました。ブクマ&評価ありがとうございます!
30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。
今回ちょっと長めです。
ーオリガ王国 オリガ王城 演習場
アマルティア姫の模擬戦が終わり、これから軍事演習が始まろうとした時、城外から一人の守衛が駆けて来た。
「ブルーノ騎士団長!!」
それは息を切らしながら駆けてくるスタンプさんだった。
「て、帝国軍がオリガ王国に進軍して来ました!既にリョーリカの街を通過し、間もなくこの王城にも帝国軍がやってくるでしょう!」
近くに居た騎士団、傭兵共々ざわめきが起きる。
すると、先程まで模擬戦をしていたアマルティア姫が、さっきの石の魔道具を手に取り、声を上げる。
「皆さん静粛にっ!帝国軍が責めて来ました。軍事演習は現時点を持って終了し、ここオリガ王国王城と首都オリガの防衛依頼に移行します!
どうか皆さんの御力をお貸しください!」
そう言ってアマルティア姫の凛とした声が場内の演習場に響いた。
そして、次の瞬間傭兵全員が騒然となる。
「て、帝国が!?」
「な、何でこんな小国に...!」
「嘘だろっ!逃げるぞっ!」
騒ぎ出した傭兵達は散り散りとなり城外へと消えていく。
すると後ろのヤスに肩を掴まれる。
「おいっ、俺達もズラかるぞっ!」
「何故だ?」
「聞いて無かったのか?帝国軍が攻めてくるんだぞ?オリガ王国全軍と傭兵合わせても勝てるわけが無いっ!」
「世界の戦争を止めるには、先ずは発言権が必要だ。これは国のトップ...国王と接触するチャンスだ。」
「はぁ?何言ってんだ、死んじまったら意味ねぇだろう!それにあんたや俺の能力じゃあ帝国軍に勝てっこねぇ!」
え?なんでヤスは私の能力の事を知ってるの?
「いいか?俺の能力は”姿を消し、この世の理から外れる事が出来る”逃げ隠れするには最強の能力だが、戦闘には全く不向きだ。
それにあんたのその”食べ物を生み出す能力”だって兵站には使えるかもしれないが、そんな間もなくこの戦争は一日で終わる。
帝国ってのはこの世界でそれぐらい圧倒的な軍事力をもった存在なんだよ!」
そう言ってヤスは両手で私の肩を持ち、説得する。
え?”食べ物を生み出す能力”?何でそうな...って、カロリーメイドの事を言ってるのか!
「我の能力はそんな能力では無い。一人でもやる。お前は逃げろ。」
そう言ってヤスの腕を剥がし、騎士団の方へ向かう。
「あ、おいっ!待てよっ!」
ヤスがやれやれといった感じで着いてくる。
「仕方ねぇな...折角見つけた”日本人”だ。ここで失ったら後味悪い。
いいか?ヤバくなったら俺の能力で全力で逃げるぞ?」
そう言ってヤスは歩きながら自分の能力の細かい説明をする。
ヤスの能力は”姿を消す事”だった。
しかしそれは単純に見えなくするというレベルでは無く、この世の理を外れる事が出来る。
有り体に言ってしまえば、この世から一時的に存在を消す事が出来るそうだ。
但し幾つか条件があり、視認されている相手からは消える事が出来ず、消えた状態で相手を攻撃したり干渉する事が一切出来なくなるらしい。
しかし、一旦消えれば、大声を出そうと相手の目の前で手を振ろうと、相手は全く気付かないそうだ。
そして、その効果はヤスに触れている物、人にも効果を及ぼすらしい。
確かに逃げ隠れするには最強の能力だ。だが相手にも干渉出来ないとなると攻撃も出来ない。
不意をついての一撃は出来ても、戦争となると周りに囲まれて終わりだろう。
私もヤスに自分の能力を掻い摘んで話した。
”魔法”が詠唱省略で使え、遠くから相手を攻撃出来る事、この鎧は魔法を無効化出来る事。
転生者と言うのは間違い無いだろう。
ここまでの短いやり取りを見ても、ヤスはかなりのお節介焼きで良い奴だ。
だけど、全てを話すにはもう少し信用が必要だ。
「何だそれ!強いな!だが帝国軍はきっと数も多い、無理はするなよ。」
「分かった。」
そして私達はアマルティア姫と騎士団の所へ着く。
「お二人は力を貸してくれるのですか?」
不安そうな表情で問いかけてくるアマルティア姫。さっきは気丈に振舞っている様に見えたが、やはり戦争は怖いのだろう。
「微力ながら力添えしよう。」
「ありがとうございます!それでは作戦はブルーノから説明致します。」
アマルティア姫がそう言うと、後からブルーノ騎士団長がやってくる。
「貴殿らの助力痛み入る。
さて、今回の作戦はここ首都オリガの防衛戦だ。
この首都には門が北と南二つあり、情報によると相手は南門から攻めてくる。
我々騎士団と諸君ら傭兵で南門を防衛し、残りの騎士団で城の防衛にあたる。
なので取り敢えず南門へ行ってくれ!」
「分かった。」
「あ、武器なら貸し出すので、そこの騎士に好きなのを言ってくれ。」
「不要だ。我は魔導師だ。」
「魔導師!?...あ、いやすまん、フルアーマーの魔導師何て初めて見たからな...。
しかし、それは助かる。 魔導師は数が少ない上、歩兵10人以上の戦力になる。期待してるぞ!
後こちらでギルドに申請を出しておくので二人のギルドバングルを預からせてくれ。」
ブルーノさんにギルドバングルを渡し、南門へ向かう。
南門に向かう途中で、ヤスはアイテムボックスから鉄の剣を取り出して装備した。
「これを使うか?」
そう言って私はヤスに、ゴブリンを倒した時の戦利品のオリハルコン製の棍棒を渡す。
お、重い...。
「この色...これオリハルコンじゃないのか!?」
ヤスは大人の男なだけあり、ひょいと棍棒を持ち上げる。
「あんたが使わないならありがたく、使わせてもらおう。」
そう言ってヤスは先程の鉄の剣をアイテムボックスにしまう。
ーオリガ王国 首都オリガ 南門
南門に到着すると、数名の騎士団と50人ほどの衛兵が陣を敷いていた。
中央に目立つ装飾の兜を被った男性が立っていたので声をかける。
「我等はブルーノ騎士団長の命でここへ来た傭兵だ。」
「傭兵...!逃げずに残ってくれた者もいたのか!今は一人でも多くの戦力が欲しい。助かる。
私は南門の防衛隊体調のフッサールだ。
君達はスタンプの小隊についてくれ。」
フッサールさんはそう言うとスタンプに手を上げて合図を送る。
あぁ、スタンプさんだ!
さっきとは違い大分落ち着いている。
「やぁ、僕はスタンプだ。君は魔導師らしいね、期待してるよ!」
そう言うとスタンプさんは、街の外を指さす。
ブルーノさんが他の兵に先回りで伝達したのだろう早いな。それだけ魔導師の戦力に期待されているのだろう。
「っと、もう時間が無い、帝国軍はすぐそこまで来ている。弓兵は居ないから、先ずは君の魔法で遠距離攻撃を仕掛けて貰えないか?
その後打ち漏らした帝国兵を僕達歩兵で叩く。」
何と...弓兵も居ないんだ...。弓兵無しに防衛戦とは...。
まぁいい、最初から自軍には期待していない。
「「来るぞーー!!」」
兵士達の声と同時に街の外側から土煙が上がる。
帝国軍が隊列を組んで進軍してくるのが見えた。
「くっ、そんな馬鹿なっ!!300はいるぞ!
リョーリカの街を襲った部隊に別部隊も合流したのかっ!?」
こちらは、騎士5、軽装備の歩兵50に対し、帝国軍の歩兵は300はいた。更には重装備の騎士や弓兵も居る。
圧倒的な戦力差だ。
そして、私は自軍の木製のバリケードに身を隠しながら、左手だけを出し、魔法を唱える振りをする。
ここではまだ敵に姿を晒したくない。この黒鎧は目立つからね。
『ウインドカッター!』
見えない風の刃が、先頭の歩兵二人を切り裂く。
『ウインドカッター!』
間髪入れずに次の魔法を放つ。
さらに、連発する。
本当はもっと連発出来るが、無詠唱魔法を隠す為、発動する時に魔法名を言う事にしているので、1回/2秒程のペースに落ち着いている。
だがそれでも帝国軍の隊列は崩れ始めている。
「す、すげぇ!帝国軍がバラバラになってくぞ!」
「な、何て詠唱速度だ!」
「ば、ばかおめぇ、よく見ろ!黒騎士さんは詠唱してないぞ!呪文だけだ!」
「詠唱省略で魔法を撃てるのか!?」
「ブルーノ騎士団長が隠してた秘密騎士らしい!」
などと自軍はある事ない事で、かなり盛り上がっている。
「黙れ!矢が来るぞ!」
突如フッサールさんが叫ぶと空から数多の矢が飛来する。
『インビジブルシールド!』
すると、見えない盾に弾かれて、矢が自陣の目前で力なく自然落下する。
やはり、対魔法用の盾だけど、元は金属で出来たタワーシールドだから矢位は防いでくれるのね!
「矢が何かに弾かれたぞ!」
「黒騎士様の魔法だ!」
またも盛り上がる自陣。
遂に私の呼称が”様”付けになった...。
矢の雨が収まると、私はまた魔法を連発する。
しかし、さっきの矢の雨の間に帝国軍が突撃してきており、10人ほどの帝国兵がすぐ近くまで迫ってきていた。
「お前ら!仕事だぞ!黒騎士様にばっかり任せてねぇーで俺らでも門を守れるところを黒騎士様に見て貰えっ!」
フッサールさんは私が傭兵って知ってるよね?
あ、これ便乗して指揮を上げるつもりだ。
「「「うおぉぉぉーー!!」」」
フッサールさんの策略により、見事に指揮が上がり、鬨を上げ、帝国兵に剣を振るうオリガ兵達。
バリケードと人数差を駆使し、帝国兵を蹴散らす。
が、ここで私は違和感を感じる。
帝国兵の進軍が止まったのだ。
確かにウインドカッターは帝国兵にとって脅威だろう。
だが数の利は向こうにあるのだから、ウインドカッターは大人数相手には撃てないので、今の様に突撃し切り込めば活路が見いだせるかもしれない。
なのに突撃したのは一部で、奥の大部隊は様子を見る様に進軍が途絶えたのだ。
この場が停滞することにより、帝国に利はあるの...?
帝国の目的はこの国の侵略...だとすると狙いは国王...この街に門はここと...いやもう一つあるじゃないか!北門だ!
となると帝国の目的は北門からの遊撃隊による国王の撃破...南門は布石ね!
アマルティア姫が心配だ。いくら強いといえ、帝国もそれ位は知ってそれ以上の戦力を遊撃隊に投入しているだろう。
「フッサール隊長、帝国軍の動きが妙だ。国王が心配な為、我は一旦城に戻りたい。」
「分かった。帝国軍の数も貴殿の働きで、大分減らせた。ここは我等に任せて、国王を頼む!」
「健闘を祈る。諸君らには戦女神の祝福を与えよう。」
『インビジブルシールド パーマネント!』
私はパーマネントで、兵士達の頭上に不可視の盾を設置した。
流石に少し眠気が来る。
魔力は残り半分といったところだろう。
しかし、スタンプさんも居るしここの兵士を見捨てる訳にもいかない。
「この祝福でここは聖域となった。この陣に入れば、矢と魔法の攻撃から身を守ってくれるだろう。」
「おぉ、そんな事まで出来るのか!」
そして、私達は兵士達の謝辞を背に受けつつ王城へと向かった。
ヤスが空気...ヤスはこの後活躍する...はず!