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「初めての戦争」【挿絵】

30話程書き溜めているので、一月は毎日投稿予定です。

挿絵(By みてみん)

黒騎士の中の人です。




〈 ハイデガー視点〉

ー オリガ王国 マスグレイブ帝国国境


 ワシはマスグレイブ帝国前線指揮官の任を預かる、ハイデガー=フォン=ゲゼルだ。


 此度の戦争はオリガ王国への奇襲作戦。

 オリガ王国は我が祖国と比べれば国力は10分の1程度で、軍事国家である我が国の敵ではない。

 そしてワシの息子ヴァルターの初陣にして、英雄となる為の踏み台だ。


 帝国騎士団の門を叩いたばかりのヴァルターには時期尚早との反対意見もあったが、本作戦の指揮官の権限で無理に押し通した。これは確実に勝てる戦争だ。落ちてる金を拾わない手は無い。


 親馬鹿だと言われて仕舞うかもしれんが、息子には幼い頃からワシの軍のコネを使い、剣術、魔術の家庭教師を付けており、特に魔術に才を見出した息子は、魔術で世界最強と言われる帝国魔導師の中でも中位以上の腕前を誇る。


 ワシの率いる軍は魔道兵10、騎士20、弓兵30、歩兵300。

 それに対し、オリガ王国の常駐戦力は、騎士10、歩兵50、後は傭兵が50前後であろう。

 しかし、傭兵は祖国に対する忠義も無い、金目当ての荒くれ者共だ。マスグレイブ帝国騎士団が攻めて来たと分かれば、金よりも命欲しさに一目散に逃げ出すだろう。


 さらに今回は周到な作戦もある。

 正面からの”正統な攻城戦”に見せかけ、ヴァルター率いる騎士達10人を遊撃隊として国王の討伐に向かわせている。


 オリガの奴らは門の防衛で手一杯で、城内部の防衛は手薄になっているだろう。まぁ完全防備したところで、帝国騎士団の敵ではないがな!


 頭を抑えてしまえばこの戦争は1日で蹴りが着く。初陣で一日で国を攻め落としたとなれば、ワシの息子の名声は天に登り、全帝国軍人の誉れである皇帝直属騎士団カイザーグランツへの道筋が切り開かれるであろう...

筈だった。



 どうしてこうなったのだ?



「ほ、報告しますっ!オリガ城遊撃隊が一人を残し、全滅!ヴァルター隊長も死亡したとの事です!」


 それは攻城戦の先触れからの報告だった。


「馬鹿な!本作戦は奇襲の上、帝国騎士団10人を向かわせたのだぞ?奴らの何処にそんな戦力があるんだ!?」


「それが…城内の帝国騎士団は全て一人の騎士風の男にやられたとの事です。」


「ブルーノの奴か?」


 いやしかし、オリガ国王騎士団長ブルーノ一人だけで帝国騎士団10人の相手を出来るとは到底思えない。


「いえ、相手は全身黒ずくめのフルアーマー一人との事です。オリガ城の騎士とは装備が違う為、傭兵と推察されます!」


「傭兵!?一人の傭兵に我が帝国騎士団10人がやられたと言うのか!?」


「し、信じ難くはありますが...。」


 騎士団が傭兵にやられるなどと言う事は、通常では考えられない。何故なら傭兵は騎士団に入る実力は無く、だからといって一般兵になる気概の無い自堕落な者がなる職業だ。


 恐らく罠もしくは、暗器の様なモノで不意をついたのだろう。


「で、その生き残った遊撃隊員は、他に何か言っていなかったのか?」


「生き残った騎士は恐慌状態に陥っており、無手の黒騎士に槍を刺された等訳の分からない事を叫んでいましたが、その騎士が言うには、その黒騎士がこの戦場に向かっているとの事です。」


「すぐに魔道兵に知らせ、その黒騎士の魔導観測を行え!」





 暫くして、先程指示を出した兵が戻って来た。


「例の黒騎士と思われる者がこちらに向かっているのが、魔道兵の観測魔法にて確認できたとの事です。」


「で、そいつの装備は?」


「そ、それが...。鎧以外は何も装備しておらず、無手との事です。」


 丸腰だと!?


 …そうか成程、分かったぞ。帝国騎士団がただで全滅するとは思えん。恐らく奴の剣と盾を破壊する事に成功したのだろう!

 つまり奴はもう戦うことは出来ないが、気力でここまで辿り着いたと言った所か…。


「どうやら奴はここに死に場所を求めている様だ。歓待してやれ!非文明人の奴は気付いていないだろうが、我が国の優秀な魔道兵は既に奴を補足している。まずは魔道兵に詠唱待機させ、射程圏内に黒騎士が入った直後、遠距離攻撃魔法を一斉に撃ち込んでやれ!」





 黒騎士が目視出来る頃、ワシの指示通り魔道兵による攻撃魔法が放たれる。

 10人の魔道兵による10個の炎が一つの大きな塊になり、黒騎士目掛けて向かっていく。


 はっ!まるで投石器の岩の様な大きさだ。これでは骨も残らないであろう!

 息子の仇だ。死ねっ!黒騎士っ!


 が、それは黒騎士に着弾する数m手前で、”見えない壁”に遮られるかの様に掻き消えた。


「な、な!どうしたんだ?何が起こった!?」


 そして、再び詠唱を終えた魔道兵が今度は水魔法で作った弾を黒騎士に放つ。


 流石は帝国軍の優秀な魔道兵だ。不測の事態にも冷静に対応し、切り替え、今度は違う系統の魔法を叩き込んでいる。


 なっ!ま、またしても水の弾が奴の手前で弾けて消えた!


「な、何故だ...!」


 な、なんだあれは?対抗呪文なのか?

いやしかし、10人の魔道兵の魔法を1人でレジストするなど不可能だ。


「弓だ!物理的な攻撃ならば魔法と違ってレジスト出来まい!」


 そして30人の弓兵が弓を構え、一斉に矢を射る。   

 それは雨の様に黒騎士に降り注ぐ。


 が、またしても黒騎士の数m手前で弾かれ、勢いを失った矢は地面に突き刺さった。


 な、何なのだあれは?風魔法で弾いている様な素振りはない。まるで”見えない何か”に当たって弾かれているとしか、思えん!




 ギャアァァァ!!ワァアァァァ!!!


 次の指示を考えていた時、前方の魔道兵や弓兵の方から叫び声が聞こえ、ワシは慌てて状況を確認させる。


「何が起こっている?」


「じ、地面から生えてきた槍に刺され、次々に魔道兵や弓兵が串刺しに...!」


「な、なんだと!?」


 な、何なのだこれは?魔法なのか?

 いや、そんな魔法は聞いたこともない。


「歩兵は何をしている!突撃だ!黒騎士を囲んで数で圧倒せよ!」


「そ、それが...地面から生えてくる槍に怯え、隊列が瓦解しています!」


 くそっ!これだから愛国心の低い徴兵共は!


「ワシの親衛隊で騎馬を組み、突撃せよ!」


「ハッ!捻り潰してご覧に入れましょう!」


 すぐ傍に控えていた親衛隊隊長のグスタフが小気味よい返事を返す。


 帝国騎士団は、基本的には志願兵で構成されており、愛国心が高く、戦意旺盛で、この様な混乱にも乗じない敢闘精神を持っている強者ばかりだ。

 さらにこちらには騎馬がある。馬なしの黒騎士1人に騎士10人+騎馬隊は過剰戦力な気がしないでもないが、奴はそれだけの相手だ。容赦はしない。


「これで今度こそ黒騎士は終わりだっ!」







〈黒騎士視点〉


 え、ちょっと待って!何でいきなり私襲われてるの?

 向こうの騎士団の人に、指揮官の人と話がしたいから先触れとして伝えてねって言ったよね?


 先触れも出した、手には武器も持ってない、しかも一人で歩いて出向いて...。


 そりゃ騎士団のムカつく奴は一人倒したけど、決闘で倒したんだから、合意の上じゃない?




 この世界のコミュニケーションの難しさを嘆いている間もなく、私に向かって次の魔法が飛んでくる。

 火の弾の次は、今度は巨大な水の弾か...。


『 インビジブルシールド!』


 私は”透明で巨大な盾”を空中に設置する。

 これは、この世界の管理者アポステリオスからのチート”武具錬成”で手に入れた能力だ。

 この盾は透明な金属で出来ており、”完全魔法耐性”を持ったタワーシールドだ。

 まぁこの盾が無くても、”この鎧”があれば何とも無さそうだけど...。

 でもビショビショになりたくないじゃん?

 この世界にドライヤーはないし、髪の毛を乾かす魔法とか便利な魔法は使えないのよね...。


 ってどうでもいい事を考えてたら、次は空から矢の雨が降ってきた。


『 インビジブルシールド!』


 これもまたさっきの盾で対処する。

 別に魔法攻撃でなくても、これは金属で出来たタワーシールドなので、矢位でどうにかなるものではない。


 でも、そろそろ”覚悟を決め”なければならない。

 何とか今はインビジブルシールドが通用しているけど、もしかしたら次の魔法は防げないかもしれない。さらに鎧でも防げないと多分死ぬ。いや確実に死ぬ。

 

 何せ私の身体は単なる10才児なのだ。生命力もただの10才児程度しかない。

 この武具錬成能力の代償だ。

 それに念の為、王様から帝国兵の殲滅許可も取ってきた。ならば、”分からず屋達”に教えますか!


 ってか、そもそも戦争を仕掛けてきたのは向こうからだから!


『 ロードオブランス!』


 そして、私はさっきとは違う武具錬成を発動させる。

 これは鋼鉄製の槍を地面から垂直に時速200kmで出現させる、と言うのを繰返しながら対象の所まで”槍の道”を作る魔法だ。


 もちろん対象との間に他の兵が入れば、巻き込まれる。


 私は先ず最大の脅威である魔法使いを狙って、ロードオブランスを連発した。




 魔法使いと弓兵を全て倒し終わったと同時に、重装備に身を固めた騎馬達が私に向かって駆けてくる。

 これはロードオブランスではダメだ。ロードオブランスは特性上、槍をこちら側から順番に出していかなければならない為、相手に到達するまでに時間がかかる。

 騎馬では避けられてしまうだろう。

 ならばと、次の武具錬成を発動させる。


『ソードオブパニッシュメント! 』


 すると、騎馬の真下から馬諸共騎士を大剣が貫く。

 これはバスタードソード大の鋼鉄の剣を地面から時速200kmで出現させる武具錬成だ。

 さっきから時速200kmって何だよ!?ってツッコミたくなるかもしれない...。いや特に数字に意味は無いよ?時速200kmっていったら新幹線の平均時速位だから、新幹線の先にバスタードソードをくっ付けて、それにぶつかられたらそりゃぁ死んじゃうよね?

 つまりそういう事( 適当)だよ。




 近づく騎馬達から順番に串刺しにしていく。

 そして、最後の一人の騎馬がこちらに近付いて来る。他の騎士よりも兜の装飾が豪華だ。恐らくお偉いさんなのだろう。


『 ソードオブパニッシュメント!』


 今までと同じ様に騎馬に剣が突き刺さるが、それと同時に騎士が馬上から飛び上がる。

 そして、馬が串刺しになり、騎士がそのまま慣性でこっちに向かって飛んでくる。


 え、馬越しとはいえ、あれを避けたの!?

 帝国騎士団は化物かっ!


 そう一瞬呆気に取られたが、直ぐに切り替えて、次の武具錬成を構える。


 しかし、騎士はこっちに向かって飛んでくるとそのまま土下座の様な姿勢で地面に着地して叫ぶ。


「責任を持って兵を撤退させますので、どうか命だけはお助け下さい!!」


 ”下馬ジャンピング土下座”誕生の瞬間であった。


 魔法の剣が背中を掠った様で背中の鎧は壊れ、背中が丸出しで、まるでびんぼっ○ゃまの様になっている。

 さらに土下座と相まってかなり情けない状況だ。


「......あぁ。わ、分かった。直ぐに兵を引き上げよ。」


 私は呆気に取られ、暫く動けなかったが持ち直し、何とか言葉を絞り出す。

 いやもうこんな完璧な土下座を見せられたら、戦意何て無くすよ?


「ははーっ!寛大なご配慮、誠にありがとうございますっ!!」


 そう言って更に深々と頭を下げ、後ろの一般兵に声をかけていく。

 既に戦意を無くしていた一般兵達は、安心した様に自国の方へ帰っていった。




 戦場には沢山の死体と頭の整理が追い付かない私だけが残された。


「終わったの...?」


今話は第17話の内容となっています。

次話から第1話となります。

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