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第8話

 サアサアと霧雨が降り注ぐ。

 私と村田くんは正面から向き合った。

「よお、久しぶりだな。めぐみ。何年ぶりだ?相変わらずコイツと一緒にいるんだな。」

「...うん、何度別れてやり直した事か。村田くん、お久しぶり。村田くんも変わらないね。」

「そっちこそ。...で、俺が言いたいこと、わかるよな。」

「うん、でもけんちゃんは渡さない。」

「それはコイツのためか?」と親指でけんちゃんを指す。

「ううん、私のため。私、やっぱりこの人じゃないとだめなんだ。」

「そうか...。」

「うん。」

 私たちは目を反らずただこの場から動けずにいた。

 でも、私の覚悟は決まっている。

 私は弱い女だ。

 でも、誰かを守りたいと思った時だけ強くなれる。

 そして、一人でいると、自分のたち位置が明確にわかってしまう気がした。

 だから譲れなかった。

 だから、ある意味けんちゃんが必要。どれだけ暴力を振るわれても。

 これは私のため。そう言い聞かせた。

 でもこの村田くん。

 きっと私を許してくれはしない。

 まるで獣を相手にしているかのようなオーラは私たちを掴んで離さない。

 村田くんはゆっくり口をひらいた。

「なあ、けんじ...。お前は俺からめぐみを奪ったよな。俺にタイマン申し込んだよな。あのときの気持ちは健在か?」

「...え?」

「え?じゃねーよ!」

 瞬時にけんちゃんを思いきり殴る。

 ゴッと鈍い音が響き渡った。

「あ、ああ...。すみません!すみませんでした!許してください!」

「よお!謙二、お前変わっちまったなあ!昔のお前は何処にいったんだよ!」

「...あんなのハッタリでした。これが俺っすよ。」

「お前にめぐみは任せられねぇよ。」

 けんちゃんの胸ぐらを掴み、そのまま顔を殴り付けた。

「すみません!すみませんでした!」

「あー!すみませんじゃねーんだよ!殴り返してみろよ!」

「ひい!ひい!」

 何もしてこないけんちゃんに更に苛立ちを感じたのか

「てめぇ!いい加減にしろ!」と壁に投げつけた。

 ガンッと大きな音が響き渡る。

 それを見下ろす村田くん。

 まるで悪魔のようにみえた。

 けれど、このままじゃ、けんちゃんが殺されちゃう!

 そう思うと、ガクガク振るえる体を無理矢理動かし駆け出した。

 私は空かさずけんちゃんに覆い被さる。

「めぐみ、なんの真似だ。」

「村田くん、もういいでしょ?けんちゃんはあと時のけんちゃんじゃない。」

 私は村田くんを睨みつけると

「めぐみ...。お前はそれでいいのかよ。」と悲しそうな声で私に問いかける。

 私は何も言えず、ただ地面を眺める。

 たぶんこのまま行けば地獄に行くだろう。


 でも、私は止まらなかった。

「私はけんちゃんと生きていく!そう決めたの!」

 村田くんの目を睨み付けるようにいい放つ。

 すると、村田くんはただ顔を下に向けた。

 そして、悩んだあげくサングラスを外し、それを胸ポケットにいれる。そして

「...わかったよ。これは俺のけじめだ。一度だけチャンスをやる。」

 とうっすら目に涙を浮かべて言い放った。


 え?


「この瞬間だけ見なかった事にする。何処にでも行きやがれ。ただ、次見つけた時は覚悟決めろよ。」

「...村田くん。ありがとう。」

 私はただその一言を告げ、急いで走り出した。



 ●●●


「本当にこれでよかったの?」影から現れたのは風上優矢だった。

「...悪いけど俺はめぐみの味方だから。そう決めたから。邪魔するなら俺が相手になる。」

 するとその後ろから横山が現れた。

「...そうか。村田、お前の覚悟はよぉ分かった。でも、それで"すまない"事は分かってるよな。」

「...ああ。」


 俺が腐りきる前に止めてくれた女。それが吉川めぐみだった。

 ドラッグを止め、喧嘩をやめ、コイツと一緒になるつもりだった。

 でも、俺の過去がそれを許してくれなかった。

 変わろうとする俺を気にくわなかった連中が、めぐみを傷付けた。

 どんな理由があろうとら俺とめぐみの間に確執が生まれたのは事実だった。


 その時、横から現れたのは、謙二。

 今と違い、喧嘩っぱやいが、ストレートな男だった。

 コイツもめぐみに惚れていた。


「村田くん。俺とタイマン張ってくれ。もし俺が勝ったらめぐみを俺に譲ってくれ。」

「は?お前、何言って...。」空かさず殴りかかってくる。

 ケンカは唐突に始まっていた。


 勝敗は余裕で俺の勝ち。次の日も、また次の日も何度も立ち上がるコイツに俺はある種の敗北を感じた。

 めぐみも謙二にひかれていたのを知っていた。だから謙二に譲った。

 それが一番いいと思っていたんだ。


 その後謙二がクズになっていくのは風の噂で知っていた。

 不幸な出来事が続いたらしい。


 久しぶりにあっためぐみの体に痣みたいなものがあった。

 でも俺は信じたくなかった。

 ただ、目を反らしていただけだった。

 手を差しのべられなかった。

 闇の世界で生きている俺は、ある種の後ろめたさを感じていたからだ。


 俺は変わらない。

 謙二はダメになった。

 でも、めぐみは強くなった。

 もう俺の知ってるめぐみじゃない。

 だから、俺の横をすり抜けて行って正解だ。


 俺も覚悟を決める。


「横山、わかった。何処にでも連れていってくれ。」

「...村田、お前は馬鹿だよ。」

「...俺は自分の信じた道しか進めなくてね。」

 迎えの車が到着した。


 俺はそこに乗り込んだ。

 これで良かったのだろうか?

 いや、これで良かったんだ。

 そう思うことにした。


 ●●●


 駅の改札口を抜け、一番高い切符を二枚購入すると、宛もなく私たちは遠くへ向かう。

 未来なんて見えない。明日どうなるかなんて分からない。

 でも隣で振るえるけんちゃんを見ていると、私がなんとかしないと、そう思えた。


 隣に誰かが座る。

 そのたびに見つかったんじゃないか?って顔を確認してしまう。

 ただのおじいさんだった。


 次の駅に着くたび、誰かが椅子から立ち上がり、誰かが座る。

 さすがに馴れてきた時のこと。

「あら?誰かと思えば先生じゃないですか?」

 え?誰?と振り替えるとウチの学校の制服を着た生徒が隣に座り込んできた。

「貴女、ウチの学校の生徒よね。」

「ええそうですよ、先生私の事お忘れになったのですか?桐子ですよ?青島桐子。」

「え?」

 あお...しま?

「青島桐子。」

「え?あ、ああ。青島さんね。所で、こんな時間まで何をしているの?」

「あら?今時、生徒はこのぐらい出歩くのはザラですよ。今帰宅するところです。それより先生顔色が優れないようですけど、大丈夫ですかぁ?」

「え!ええ。それより貴女もう遅いんだからちゃんと帰るのよ!」

「ふふ、そんなこと言われなくてもわかってますよぉ。それより先生?」

「な、なによ。」

「先生こそ明日ちゃんと学校に来てくださいね?」

 桐子と名乗る生徒は立ち上がると、次の駅で降りていった。


 急に雨が強くなってきた。

 そんな気がした。


 私達は終点の駅を降りて、辺りを見渡す。

 大丈夫!誰もいない。けんちゃんの手を掴み、改札口を抜けて走り出す。

 そして出口がみえた。

 きっと先には未来が待っている。そう思い込み走り続けた。

 が、しかし、先程の不良達とは事件の違う、明らかに裏の世界の連中に囲まれてしまった。

「...なんですか?」

「何ですか?じゃないでしょ。この男、かくまって逃げて来たんでしょ?お見通しだから。」

「渡す気はありませんから...。」

「...ってことは、アンタも共犯だから。覚悟してね。」

 ゾロゾロと彼らが近づいてきた時だった。


 ドンッ!


 誰かが私の背中を押した。

 そのまま体勢を崩し、地面に膝をついた。

 振り替えるとガクガク震える、けんちゃんだった、

「め、めぐみ!ゴメン!」

 そう言うと反対方向へ走り出した!


 呆然と走り去る姿を眺めていた。

 え?...なんで。

 なんで私を置いて逃げるの!

 けんちゃん...。


 その背後から彼らのボスらしき男が現れた。

「あ!畑山さん!お疲れさまです!」

「おう。」それだけ告げると私の前に立ち、

「先生、実に残念ですね、あんな男信じるからいけないんだ。」

 と冷徹に言い放つ。

 私は放心状態のまま、連中に身柄を拘束され、事務所まで連れていかれた。


 私何をしたんだろう。

 そう思うと目に涙が溢れてきた。


 そのときだった。

「ぐわあああ!」

「畑山さん!」

 メキメキと骨の折れる音が聴こえる。

 そして見たこともない歪な暗黒空間が、駅に存在した。

 その暗黒空間は獰猛の生き物のように暴れまわる!

 そして畑山と呼ばれる男に食らいつき、片腕を飲み込んだ!


 な、何これ!

 これは現実?

 私は今起きた出来事についていけず、ただそこに立ち尽くした。

 その時「キャアアア!」と、畑山が暗闇に潰されてる姿を見た一般人が叫ぶ。

 その叫びになんだなんだ、と人だかりができた。

「え?うそ。マジかよ。」

「これメールしよ!」と一般人は他人事で写メを取り出したり、動画を録りはじめる。


 その人混みの中、異質を放つ存在がいた。

「あら?先生顔色が優れないようですけど、大丈夫?」

 ツカツカと前に現れたのは、青島桐子だった。


 第9話に続く。

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