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第6話

 今日は夏祭り。

 ドンドンと太鼓の音が聴こえる。


 ガヤガヤと人込みの中、亜季は「リンゴ飴を買ってくる!」といったまま、見失ってしまった。

 沙希と浩平は金魚すくいの勝負で夢中になり、こちらに気付いていない。


 俺は優芽ちゃんと二人きり。

 優芽ちゃんは頬を膨らませて

「おい、風上優矢、なんでお前と一緒に歩かなきゃなんないんだよ!」と後ろに腕を組ながら俺を睨みつける。

「おい!そりゃ!俺の台詞だ!」

「なんだと!話を聞いていればいい気になって!このお!」と俺の太股に蹴りを入れてくるわけだから、直ぐ様かわして、ポコンと頭を殴った。

「いったー!何すんのよ!」

「けっ!すぐドガドガ蹴りやがってよ!バチみたいなもんだ!」

「明らかに人為的だろ!」

 とケンカをしていると、

「あらあら、ケンカはダメですよ。」と浴衣姿の吉川先生が現れた。

「あ、はーい!ケンカやめまーす!」なんて俺がいうとムッとした優芽ちゃんが

「せんせい!コイツ絶対やめる気ないですよぉ!さっきだってポカポカ殴ってきたし!」なんて告げ口する。

「ば!ばか!あれはぁ!お前が蹴ってくるからだろ!」

「さぁー!私しらなーい!」

「しらなーい!じゃねーんだよ!このヤロウ!吉川先生に変に思われたらどうすんだ!」

「そんなのお前の都合だろ!こっちには関係ない!」

「なんだと!このガキぃ!」

「いーだ!」と俺達のやりとりを聞いていた吉川先生がクスリと笑い

「二人とも仲がいいのね?」なんていう。

「そ、そんなわけないだろう!わ、私が仕方なく仲良くしてあげてるんだ!感謝しろよ!」

「誰がするか!」と頬っぺたを引っ張ると

「痛い痛い!いーたーいー!」と手をバタバタさせて言うわけ。

 その姿を見て先生がクスリと笑った。

「若いっていいわねー。」

「いや、先生だってぜんぜん若いって!」

「えー、そんな事ないわよぉ。もー最近、すぐ疲れちゃってね。10代の頃が懐かしいわ。」なんて口元に手をあてて、クスクス笑うと

 優芽の奴

「ババアじゃん...。」とボソリと呟いた。


 一瞬あたりが氷ついた。


 ...ま、まー話を変えよう。

「そういえば先生なんでこんなところに?なんかイメージと違って。」

「え?私だってお祭りではしゃぎたいわよ。もー、たまには先生だって事忘れたいわ。」

「そーですよねー。よかったら一緒に回りません?」

「そうしたいのはヤマヤマなんだけど、今日は連れがいてね。」と頬を赤く染める。

 チッ!男連れかよ。

 すると遠くから金髪のチンピラ風の男が

「おーい!めぐみー!早くしろよー!」と声が聞こえてきた。

「あ!けんちゃん!ちょっと待っててね。」なんて吉川先生が黄色い声をあげた。

「じゃあね、またあとでね!」というと、けんちゃんと呼ばれた男は不貞腐れながら

「いつまでも待たせてんじゃねーよ!」と吉川先生を小突く。

「ご、ごめんね。」

「ったくよぉ!」とズカズカ歩いていった。


 一瞬浴衣から肌が見え、痣みたいなものが見えた。


 ...それにしても吉川先生の彼氏。

 金髪によれよれの服装。

 そして支配的な、口ぶり。

 そして先生の痣。

 なんか嫌な予感がするな。


 まー、他人に首突っ込むのも変な話か。

 吉川先生がいいっていうなら、それはそれでいいじゃん...。

 俺が首を突っ込んだ所で相手にされないだろうし、何か相談してくれるまで、結局は野暮だ。

 今のことは忘れよう。

 ガヤガヤと人混みの中、彼氏さんと吉川先生は奥へ奥へと消えていった。


 それにしても亜季のやつ、どこいったんだよ。

 俺達は子供たちがはしゃぐ屋台を過ぎ去り、キョロキョロ辺りを見渡しながら歩いていると、ご立腹の優芽ちゃんが未だにブツブツ呟いていた。

「フン、あんな女、男に騙されて死ねばいいんだ!」

「お前さあ?何そんなに怒ってんの?」

「別に怒ってなんていない!」

「...なに?吉川先生のこと嫌いなの?」

「あんなビッチ女好きな奴いるか!ってか!お前!あのビッチ女にデレデレし過ぎ!もー!一緒にいたコッチが恥ずかしかったぞ!」

「あー?そんなの人の勝手だろ!別にどうこうしようって考えてた訳じゃねーんだからいいだろ!」

「な!なに!お前、あのビッチ女どうこうしようと考えてのか!」

「んな訳あるか!人の話を聞け!」と髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜると

「わー!なんて事するんだ!髪がボサボサになるだろ!」と指で髪を整えながら俺を睨みつけてくる。

 ...器用な奴だな。

 それにしても、吉川先生女子の間じゃ全然人気ないんだな。

 あんな美人で、世話好きの良い先生、他にいないと思うんだけどな。


 そのとき、ブルブルとポケットの中が振るえる、

 ん?なんだ?

 携帯電話を取り出すと、沙希からメールで今どこー?

 なんて返事が来てた。

 あたりを見渡すと綿あめ売りのおっさんがみえたので


 綿あめの所。と返すと


 あー、そう!わかった!ちょっとお願いがあるんだけどぉ、まだ勝負決まらないんだよね!花火の席とっておいてくれない?


 なんて返信がきた。

 うわ!うぜーな。おれはお前のパシリかよ。まーいいけど。


 わかった。

 とそれだけ返信した。


 ●●●


 俺達はまだ少し空いている花火開場で待っているときのこと。

「それにしても、モグモグ、風上優矢、モグモグ、お前は亜季先輩の事、モグモグ、どう思っているんだ?」

「あのなあ、喋るか、食うかどっちかにしたらどうなんだ?」

 するとゴクンとイカ焼きを飲み込み、

「じゃあ、お前は亜季先輩の事どうおもうんだ?」と聞き返してきたから

「いや、妹みたいなもんだけど?何か?」なんて素っ気なくいうと

「...ふーん。」なんて、少しそっぽ向いて答えた。


「何だよ?」

「...いや、別に、ただ、お前が亜季先輩狙ってるんなら、やめたほーがいいって思っただけだ。」

「はあ?なんでだよ?」

「お前なあ、亜季先輩の人気知らないからそういう風にいえるんだ!亜季先輩はこの学校のクイーンなんだ!お姫様なんだ!うちのクラスの女子だって殆どの奴が憧れてるんだぞ!お前ごときがどうこうなる相手じゃない!」

「そう言われるとムカつくな。」

「って言っても事実だからな!お前は無難な所で落ち着けばいいんだ!」とエヘンと腰に腕をおき胸はって答えるもんだからくそムカついた俺はポコンとコイツの頭を軽くなぐった。

「いったー!なにするんだ!風上優矢!」

「ん?別に。なんかムカついたから殴った。」

「おまえな!ムカついたら頭殴るのか!さいてーだな!」

「別に、お前しかしねーよ。そんなこと。」

「え?」

 コイツの顔が少し赤くなる。

「え?じゃねーよ、何とか言えよ?」

「あ、うん、まあ、...うん。」といって林檎飴を舐め始めた。


 ...うんじゃねーよ。


 俺も何か気まずくなり、みんなを待っていた。

 それにしてもみんなおせーな。

 取り合えずメールでも送っておくか、と、ピコピコ携帯をいじくっているとだ。

「あれー!優じゃん!何やってんのー!こんなところで!」

 振り替えるとそこにいたのは栗山だった。

「は?お前こそなにやってんだよ?」

「え?何?祭りにきてそれ聞く?ぶはは!」なんて笑い出す。

 くそムカつくな、こいつ。

 すると俺の服の裾を誰かが掴む。

 ん?なんだよ?

 優芽ちゃんだった。栗山にビビって服の裾を掴みながら後ろに隠れた。

「ぶはは!栗山ぁ!お前嫌われてるな?優芽ちゃんお前の事怖いって!」

「は?うるせーって、んなことねーから。」と笑顔で少し優芽ちゃんに近づくと、さらに隠れる様子に少し焦ってる栗山がさらに笑えた。

 すると

「おー、優、お前こんな所で何してんの?」と横山のおっさんまで現れた。

「いや、祭りにきて遊んでるだけっすけど?」

「おお!そりゃそうか!」とガハハと笑いながら俺の背中を叩く。

 うわ!うぜーな!

「で、話は変わるんだけどよぉ、なんか金髪で、汚ねー格好したチンピラみなかった?」

「え?さあ?」

「そう?まー、いいわ。もし見つけたらお教えてくれよ!名前は岩下謙二っつー男で、まあ、なんつーの?畑山さん怒らせちまった馬鹿でさ。今探しているんだよ。」

「岩下...謙二?」

「そう、岩下謙二っつーバカ。まー、見つけたらよろしくな!」と横山のおっさんは何処かへ向かった。

 その後を栗山のバカがついていく。


 ふいー、やっとどっか行ってくれた。二度とこっち来んな。

 仲間だと思われるだろ。と頭をポリポリ掻いているとだ。

 優芽ちゃんがクイクイっと服の裾を掴む。

「ん?なんだよ?」

「...いや、岩下謙二ってもしかして、ビッチ女の男か?」

「は?いや、さすがにそんなこと...。」

 そういや、ボサボサの金髪にヨレヨレの服。

 吉川先生もけんちゃんって呼んでたような...。


 まさかな...。


 俺は優芽ちゃんの顔を覗きこむと、何かに巻き込まれるんじゃないかって不安そうな顔をしていた。

 だから、髪をくしゃっと撫でて

「大丈夫だから!気にすんなって!」と言うと

「わあー!やめろー!風上優矢!」と騒ぎだす。

 いつもの優芽ちゃんだ。


 ただ、内心俺は一波乱ありそうな嫌な予感を感じていた。


 ●●●


 横山と栗山は屋台の焼きそばを食べながらもう一人を待っていた。

「よお、悪いな、少し送れたわ。」

 やってきたのは、村田というドレッドヘアーの男だ。

「で、どう?謙二は見つかった?」

「...いや、まだ、つーか本当にこの辺にいんのか?...事務所の金持ち逃げしたんだぞ。遠くへ逃げたんじゃねーか?」

「いや、それはない。...あいつはめぐみを、いや、自分の女を捨てて逃げ出だせない。」


 花火が上がった。

 ドォーンと鳴り響いては消えていく。


 男三人はただ、シルエットになり、眺めていた。



 第7話に続く。

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