第4話
遊園地というイベントが終わり、じゃあ次はどこいく?
なんて誰も居ない放課後の教室に集まり、いつも連中と話している時の話だった。
沙希と亜季が椅子に座り、俺と浩平は机にすわる。
ケラケラ笑い、下らない話から沙希が
「もう8月だよね!やっぱり夏祭りみんないく?」と話題をかえる。
すかさず浩平がのってきた。
「そりゃあ、勿論いくでしょ!花火みたいもん。優は?」
「え?俺?あー、まあ、いいんじゃね?」
なんてふてぶてしく答えると沙希が頬杖をつき
「なにそれ!つまんない反応。もっと楽しそうにしたら?」と俺をジト目で睨み付ける。
それをなだめるように
「ちょっと沙希...、優くんはいつもこんなだから。」とあわてて言うわけ。
「...おい、亜季、それフォローになってない。」
「え?ええ!ちゃんとフォローしたのにな。」
なんていつも通り夕闇のシルエットの中、青春を謳歌しているとだ。
ガラガラと扉が開く。
「こぉらぁ!まぁたお前らか!」
げ!鈴木じゃねーか!
鈴木樋爪。
この学校の数学教師。くそムカつくやつ。以上。
鈴木が俺の方へ近づいてきて、
「こら、風上、またお前か。こんな時間まで残って何やってんだ?他の生徒はみんな帰ったぞ!」
「いや、俺らもすぐ帰りますんで。」と、鈴木を無視するように鞄を持ちガタッと立ち上がると、
「おい!まて!風上ぃ!」
「...なんすか?」
鈴木はニタァと笑い
「お前なあ、下級生も巻き飲んでるんだってな。いいかお前、優秀な生徒を悪の道に引っ張るんじゃないぞ!」
きっと優芽ちゃんの事だろう。
別に何もしてねーし。
無視して教室を出ようとすると、
「なんだぁ!その顔わぁ!お前、先生のことなめてんのか!」と俺の肩を掴む。
「はあ?いや、俺いつもの顔ですけど。」
「その態度がなめてるって言ってんだよ!わかってんのか!」
さっきは顔って言ってたじゃねーか。
さすがに頭にきたが、それを代弁するかのように、沙希がガタリと机をたち
「ちょっと先生!」と声をかけた時のこと。
「まあまあ、鈴木先生、このぐらいでいいじゃないですか?」
鈴木をなだめたのはちょうど通りかかった、担任で美人の吉川先生だった。
「ちょっと、吉川先生、自分の生徒だからって甘過ぎませんか?こんなねぇ、遅くまで残ってる奴なんてロクな奴になりませんよ!」
「まあ、いいじゃないですか?生徒を我々の世代のモノサシで図ってるだけではダメですよ。この子等にはこの子等の主張があるから。」
「でもね!吉川先生!」なんて声を張り上げる鈴木を無視して
「ねぇ、みんな反省してるでしょう?」と笑顔できいてくる。
ので、沙希のやつ、一番に
「はぁーい!反省してまーす!」なんていう。
「この子等も反省してるようですし、言いでしょ?」というと
「グッ!覚えておけよ!」と捨て台詞を吐き、何処かへいってしまった!
直ぐ様、俺は吉川先生に
「あの、先生、すみませんでした。」と頭をさげると、
「いいのよ。さ、皆さん帰りなさい。」と手をパンパン叩き、俺たちは解散した。
●●●
「にしても!本当鈴木むかつくよねー!優もさぁ!あんなこと言われて悔しくないの!」
「は?あんなのいつもだろ?相手にすんなよ!」
「そうだけどー!ああー!ムカつく!あいつなんなのよ!」
下校中、沙希は髪をぐちゃぐちゃに掻きながら、完全にキレていた。
「ちょっと、浩平邪魔!こんな所にいないでよ!」と浩平に蹴りを入れるとそれをかわし、
「は?俺に当たんなよ!」と沙希から少し距離をとっていた。
そんないつもの景色を眺めながら、頬を掻く。
「ほんと、何やってんだろうな、あいつら。よく飽きねーな。」と亜季に投げ掛けると
「え、あ!うん!そうだね。」なんて気のない返事が返ってきた。
ん、どうした?
亜季が少し浮かない顔をしていたので、
「亜季、大丈夫?」なんて聞いてみた。
「ん?なに?優くん、どうかした?」
「どうかした?って、亜季。お前疲れてんじゃないの?」
「え?そんなことないないよ。」にこりと笑う。
そう?...まあ、いいけど。
帰り道、何時ものように話ながら歩いていると、十字路、誰かがたっていた。
よく見るとフードを被った少女がこちらを見ていた。
「あ!」
「ん、どうした?亜季?」
「え?ううん、なんでもないよ。」
「そう?」
「うん、気にしないで。」
「あ、ああ、でもあいつお、前のほうずっと見ているぞ。」
「え?」
「フフ...。」
すると先程の少女、トテトテ近づいてきて
「おねーちゃん!帰ろ?」と亜季に抱きついてきた。
え?な、なに?もしかしてコイツも...。優芽ちゃんみたいな奴か?
「ちょっ!ちょっと!由依!もう!」と亜季は焦っていた!
ぽかーん。
「え?え?あ、亜季?、お前そういう趣味あったの?」
「え?あ!違うって!」
「えー、おねーちゃん!私の事遊びだったの?」
うるうるした瞳で亜季の事を眺めている。
「もう!ちょっと、いい加減にしてよ!ちょっと!優くん!これは違うからね。」
「お、おお。」
「この娘は知り合いの子供でちょっと、家で預かってるの!」
ニタァーと少女は笑う。
あ、ああ。この娘の冗談ね、まじ!びびったよ...。
「あ、そうなの?まー、お前も大変だな。」
「そ、そんなことないよー。じゃ、私はこの娘と帰るから。また明日ね。」
「おー、ま、まあ、気を付けて帰れよ。」
と声をかけると亜季の奴、少女の手をギューと強く握って帰っていく。
「いたい!いたいって!ちょっと、亜季!ちょっと、からかっただけでしょ!」
「ふふ...、話は帰ってからきくね?」
亜季の額には怒りのマークが見え隠れしていた。
お、おお...。ブラック亜季、始めてみた。
浩平と沙希のほうを振り向くとキョトンとしていた。
「...まあ、俺たちも帰ろうか?」
「ああ、そうだな。」と浩平がいった。
...それにしてもあの女の子...。まさかな。
俺も浩平たちの後を追う。
●●●
私は帰宅後、一緒に自分の部屋に入ると、ボンっと鞄を投げ捨て
「ちょっと、由依!あんな所で待ってなくてもいいでしょ!」とフードの少女に怒鳴り付けた。
由依は
「ふん、貴女の帰りが遅いからでしょ。こっちは待ちくたびれたわ。」
「っていっても!あんなことしなくたっていいでしょ!あー、優くんに変な風に思われちゃったー!」
「...お兄ちゃんはあんな事で気にしたりしないから。」
「それは貴女の世界での話でしょ。」
「...さあ、どうだか。」といいながらクローゼットの中にある毛布にくるまる。
この少女、風上由依。自称優くんの妹。
そして私を過去へ連れてくれた張本人。
7月の遊園地の日。
優くんたちと別れてから近くの公園で待ち合わせした。
そして彼女はこういった。
「お久し振り、亜季、何過去ぶりかしら。」
「...やっぱりあのときの。」
「ええ、そうよ。貴女の思ってる通りよ。まあ、私が来たというよりは貴女が過去の終着点に来たというべきかしら。」
「どういう事?」
「そうね。最も簡単に言うと、これが最後のチャンスってことよ。この過去でおにいちゃ...、いえ、風上優矢を救えなければ、永遠に未来はないってこと。」
「...なんで?」
「貴女の行いが世界にばれたからよ。世界は時系列を正すため辻褄を合わせる事に、必死になってる。だから出逢いがむちゃくちゃになったの。...そして、12月3日に必ず、誰かが死ななければならない。"世界"は人口の数字を調整しているの。」
「...。」
「解らないって顔ね。でもいいわ、話を続ける。世界は私たち人間、いえ、すべての生物を数字でしか見ていない。今この時代、この時間、この瞬間に必要な数字で世界は動いている。で、12月3日何処かで新しい命が産まれる。だから誰か生きている人間に死んでもらわなければならない。...風上優矢は強制力の犠牲者に偶然選ばれたのよ。」
「...ちょっと、いい?」
「...ええ、どうぞ?」
「聞きたいことが二つある。一つ目なんだけど、どうして貴女はそんなこと解るの?」
「...私はその"世界"という不透明なものに選ばれた存在だから。」
「え?」
「まず!私は死ぬことができない。いいえ、解りやすく言うと死んでしまったら私は今から8年前の4月20日に強制的に無意識の暗黒空間で戻される。」
「暗黒空間?」
「解りやすくいうとブラックホール、あれを作り出したのは私であり、私が無意識の状態でも発動することができる。
今ここで見せたほうが早いわね。」
と片手を伸ばすと手のひらにジジッと電子の粒が集まる。
そして、徐々に空間が広がり、例のブラックホールが生まれた。
「...すごい。」
「まあ、と言っても私の暗黒空間は今じゃ役にもたたないけどね。」
「え?どうして?」
「さっきも言った通りよ。今じゃこの力なんて、ただの芸にしかすぎない。この空間に足を踏み入れた所で体が圧縮されるのがオチね。ただ、この力が使えるのはウソじゃない。信じてもらえたかしら?」
「...わかった、正直理解し難いけど、信じるしかないよね。じゃあ、二つ目、あ、貴女は優くんの...なに?」
「フフ、可愛い質問ね。私は風上由依、正真正銘、風上優の妹よ。」
「そんなこと...。優くんから一度も聞いたことがない。」
「...ふふ、まあ、そうでしょうね。本来、貴女たちの世界での私は八年前、交通事故にあって死んだわ。 風上優は自分のせいだと、部屋に塞ぎ混んだ。 それが初めての引越しね。」
「...。」
「まあ、それはあくまでこの世界の話で、私は別のパラレルワールドからやって来たっていえばいいのかな、私が事故にあったとき、世界は私と契約した。私の世界では、本来死ぬはずだった私を庇ってお兄ちゃんが死んだことになってる。」
「え?」
「私はあの時の事、よく覚えてる。確かに私は轢かれた。でも意識がなくなる瞬間に何か視線を感じた。あれはきっと"世界"の視線だと結論付ける事にしたわ。
意識が戻ると轢かれたいた私は無事、変わりにお兄ちゃんが事故にあっていた...。4月20日のあの瞬間、私が生きている4月20日のパラレルワールドに連れて来られたの。」
「...うん。」
「そして4月20日は私の始まりの場所、私が死ぬたびにお兄ちゃんが轢かれた忌々しい時間から始まるの。
...だからかな。私はずっと謝りたかった。お兄ちゃんに謝る方法を探していた。ある日、私は無意識に出した、暗黒空間に気付いた。
意識的に出す暗黒空間と違って、無意識下の暗黒空間は別のパラレルワールドにいくことのできるの。その時の私はただ、お兄ちゃんに私の存在に気づいてほしかった。そしてごめんなさいって、謝りたかった。でもそれも叶わない事を知った。」
「...。」
「まず、私の存在をお兄ちゃんが"風上優矢の妹"と認識した時点で、世界は私たちを引き剥がす強制力が働く。
何故なら、私はこの世界では死んだ事になってるから。
もうひとつ、風上優は12月3日に殺される事になっているから。」
「...うん。」
「途方にくれた時だった。私は何度も過去に遡り、風上優の行動を遠くから見ていた。そして貴女の存在に気付いた。
私だけじゃお兄ちゃんは救えない。多分これが最後。悪いけど貴女に拒否権はない。悪いけど12月3日まで、共に行動してもらうわ。」
「...。私は。」
私はあの時、ただ頷いた。
●●●
なんだけど...。
「ちょっと、由依!オヤツ散らかさない言ったでしょ!」
「えー、そのぐらい片付けてよー。亜季。」
「貴女が片付けなさいよ!」
今、由依は私の家に住んでいる。お母さん説得するのとても大変だったけど。まあ、12月までの間ということで、納得してもらった。
で、客室を使えばいいのに、由依ったら私の部屋のクローゼットが気に入ったみたい。
そこを自分の部屋にして、毛布にくるまりながらノートパソコンで動画を見ている。
その図々しさに頭がくる。
本当にこの娘、優くん救う気あるのかな!
なんて思うのであった。
第5話に続く。