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第2話

 優くんは誰かに殺された。

 それをニュースで知った。

 私は涙を流しながら、でも心の何処か信じられなかった。

 明日ひょっこり戻ってくるんじゃないかって。

 またいつも通り、私をからかってくるんじゃないかって。

 そう思っていた。


 時は無情で...。


 今日は優くんのお葬式の日。

 沙希も浩平くんも喪服に包まれて表れた。

「亜季...。」

「ん?沙希?どうしたの?」

「亜季...無理しなくていいから。」

「私は大丈夫だから、それよりも沙希は...大丈夫?」

「...ん。」

 私たちは嘘をつく。


 私は優くんが死んだ事を認めなかった。

 沙希は優くんが死んだ事、強がっていた。


 浩平くんはそんな私たちを気遣って明るく振る舞っていた。


 時間は残酷。


 冷たくなった優くんが私たちの目の前に表れる。

 眠ったまま動かなくなった優くん。


 私は目を合わせられず、涙が溢れてきた。

 そのときだった。

 ドタドタドタと誰がが上がり込んできた。

「てめぇ!何寝てんだよ!いい加減起きろよ!」

 怒鳴り声が聞こえる。

 誰?なんて振り替えると、それは栗山君だった。

 最近学校を辞めて、仕事を始めたらしい彼の身なりは綺麗な物とは言えなかった。

 作業着のまま表れた栗山君は

「お前なぁ!また俺とケンカしたかったんじゃねーの?こんな所で何やってんだよ!早く起きろや!」と棺桶を蹴りあげ、

「ちょっと君。」と優くんの親戚の方に取り押さえられた。

「優うぅぅ!!!俺と遊んでくれんじゃねーのかよ!!!」

 騒ぎ立てる栗山君の一言にしーんと静まり返る。

 その瞬間、浩平くんの目からポロポロと涙が溢れた。

「優ぅ、何勝手に死んでんだよ。ふざけんなよ...。」


 お葬式は栗山くんのが入って来たことによって、いったん仕切り直しとなった。

 ザワつく開場。

 私は耐えきれず、この場をあとにする。

「亜季どこいくの?」お母さんが声をかけてくれた。

「...うん、ちょっと。」

「...そう、早く帰ってきてね。」それだけいって深く追及はしなかった。


 私の気持ちはドン底の中。

 けれど、空は憎いほど晴天。

 冬の肌寒い風を浴びながら、私は当てもなく、ただ外に出る。

 気分を変えたかった。...あの場所から逃げ出したかった。

 ちょっとジュースを買ってこよう。

 そしたらまた気分も変わる、なんて考えが甘かった。


 何も考えられない私はまるで亡霊。

 気がつけば、フラフラと街をさ迷っていた。

 灰色のビルが立ち並ぶ街並、同じ景色に私は遭難した。

 いや、今思えば×××に誘われていたのかもしれない。


 ここはどこ?

 ザワザワザワ...と人混みの中、十字路にたどり着く。

 信号機が青に変わった瞬間に人々は歩き出す。

 その中で、不可解なまでにフードを深く被った、子供が目に入った。


「フフ...お姉ちゃん。どこいくの?」

「...え?」

 私は振り替える。

 フードを被った少女は私のほうへよってきて

「だーかーらー、お姉ちゃんどこ行くの?」と、キラキラした目で私に問い掛ける。

「...別に。」

「何が悲しいの?」

 何言ってるの?この娘。

「あのね、私今忙しいの、ごめんね。」

 さすがに耐えきれなくなり、この場から離れた。

 ポツンと置いていかれた少女はただ、私を見つめていた。

 私は目を合わせず、当てもなくビルの森の奥深く進んでいく。

 少女は蜃気楼のように見えなくなっていた。

 内心ほっとした。

 あの娘、まるで私の心の中を見据えているようだったから。


 何処をさ迷ったのだろう。

 気がつけば、見慣れた公園。

 ここで優くんが、コーヒーを買ってくれたんだっけ。

 ...あのときの私はバカだったな。

 なんて思い返しながら、自動販売機で優くんが好きだったコーヒーを買い、ベンチに座るとそれを飲むことが出来ず、横において、ため息をつく。


 私の事を怒ってくれた優くん。

 それも今となっては、手に届かない思い出。


 はあ...。

 そっか、優くん、しんじゃったんだよね。

 ...私たちを置いて。

 この先どうすればいいんだろう。

 私は、私たちは...そんなに強くないよ。

 ポロポロと涙がこぼれ落ちてきた。

 そのとき私の上から影が重なった。

「お姉ちゃん、助けてあげようか?」

 え?

 目の前に先ほどの少女がたっていた。

 少女は無邪気に微笑み

「もーお姉ちゃん、勝手にどっか行かないでよー!」

 と膨れる。

「あ、貴女、なんでここにいるの?」

「お姉ちゃんの行くところだったら私わかるよ。」

「え?」

「ふふ、冗談。でもね。私と出会えるチャンスを失ったら貴女、永遠に救える気会を失うわよ。」

「え?え?なんのこと?」

「...ふふ、こっちのこと。いいから付いてきて!」

「え?ちょっと!まだ話は終わってない!」

「お姉ちゃん!こっちだよー!」なんて言って、急にはしりだす。

 ちょっと待ってよ!なんなの?この娘!

 私もこの娘を追いかけるよう走り出した。


 どれだけ走ったのか解らない。けど、気がつけば、私が拐われたオバケ倉庫にたどり着いた。

「こっちこっち!」と私を手招きする。

「ちょっとぉ!こんな所入ったら危ないでしょ!」


 オバケ倉庫はキープアウトの黄色いテープが貼られていた。

 この娘を追いかけるため、それをくぐり抜け、中に入った。


 嫌な空気が立ち込めていた。

 ゼーハーゼーハー肩を揺らし、息を吸い込む。

 呼吸が整うと私はまた現実に戻された。

 床に血の後が残っていたからだ。

 また私は悲しくなり、涙が溢れてきた。

 するとそこで立ち止まり

「...ここでお兄ちゃん、殺されちゃったんだね。」と私に声をかけてくる。

「...貴女に、貴女に何がわかるのよ。」と溢れ出す涙を手で拭うと

「お姉ちゃん、...お兄ちゃん助けたくない?」と声をかけてくる。

「...死んだ人は生き返らないんだよ。」

「...本当に?」

「本当だよ。もう帰ろ?ね?」

「...付いてきて?」

 この娘はフードを深く被り直すと、さらに奥に進んでいく。

 何よ、いったい...。

 私は一刻も早くこの場から離れたかった。

 ちょっと前までは。


「お姉ちゃん、これ。」

 え?


 目の前には小型の暗黒が浮かんでいた。

 埃が舞う、淡い景色にコールタールを落としたような、純度の高い黒。

 あまりにも不自然な光景に、気持ち悪さすら覚えた。

 暗黒の空間はブイィィィンと異様な音をだし、揺らめいてる。


 そんな私の反応を楽しむように微笑みながら、この娘は

「お姉ちゃんブラックホールが地球に存在するってしってた?」

 と解説を始める。

「知るわけないでしょ。え?え?何?これ?」

「だから、ブラックホールだって。その先にはホワイトホールがあるのは知ってるよね。何処に出るか知ってる?」

「だから解らないって!」

「ふふ、答えは過去に行けるの。」

「え?」

 そのしぐさは大人びて見えた。

「この中に入れば、もしかしたらお兄ちゃん助けられるかもしれないよ?」

「...。」

「信じるも信じないもお姉ちゃんの勝手だけどね。あと、この現象はあと数時間で消えちゃうよ、理由は解らない、でもそういうものなの。よく考えてね。」

「え?え?ちょっと!ちょっと待ってよ!」

「...。じゃあね。また今度会いましょう。」

 さらにフード深く被るとカッカッカッと走りだし、倉庫をあとにする。

 私はこの娘を追いかけることは出来なかった。

 もしかしたら、彼女はこの世界の住人じゃない。そんな気がしたから。


 しん、と静まり返ったここは肌寒さを肌で感じるほど、冷静だった。

 私は一人乗り残された。

 ビォオオ...と風が舞う。

 でも気にしない。

 私は永遠を思わせる黒に釘付けだった。


 ただ純度の高い黒を眺める。

 本当にあれは過去にいけるの?

 そもそも、あれはブラックホールなの?

 もし、あの中で私は迷ってしまったらどうなるんだろう。

 今の私じゃなくなったらどうなるんだろう。

 なんて嫌な予感ばかり浮かんでくる。

 そもそもさっきの娘、あったばかりなのに信用できるの?


 どうなの?

 よく考えろ!私!

 蠢くの黒を睨み付ける。


 私はどうする。どうしたい?

 ...でも迷っていても始まらない。


 どのみち、この世界に優くんはいないんだよ。私は認めなくちゃ。

 先の未来を想像できる?

 きっとつまらない。それに私は、優くんに何も言えてない。

 優くんは私を助けてくれた。今度は私が助けなくちゃ!

 もう後悔して生きていくのは嫌だ!

 今決断しなくちゃ!


 ゴクッと唾を飲み込んだ。

 覚悟を決め、黒の空間を睨み付ける。

 徐々に空間が狭くなっていく。

 あ!ちょっと!まって!

 私は駆け出した。

 黒の空間は私が来るのを待っていたかのように入口が大きくなった。


 私はすぐさま手を伸ばした。

 ジジッと電磁波が波打つ。

 そして磁石みたいに空間に引きずりこまれる。

 私の上半身は暗黒空間に飲み込まれた。

 中は真っ暗。押し入れの中みたい。でも重力の音が聞こえる。

 怖い...。

 それが正直な感想。

 まだ逃れられるかもしれないと、私は足を上下にバタバタ動かした。

 でも一度始まった補食は止まらない。

 グイグイ体が空間に押し込まれ、足ごと飲み込まれた。


 ブイイイイ!!!と音がする。

 その音を聞いていると、とても頭がいたくなった。

 そして辺り一面暗黒。息はできない。

 瞼を閉じると白い閃光が見えた。

 目を開くと暗黒。


 何これ?私、どうなっちゃうの?

 経験したことのない出来事に、私は異様な恐怖を覚える。

 これ、私、死んじゃうの?

 怖い!

 誰か助けて!

 誰か!


 お母さん!沙希!浩平くん!

 誰か!...助けて。

 ...優くん。

 助けて。


 ...優くん!


 ...そうだ!優くん!

 私優くんを助けるんだ!

 だからこんなところで負けてられない!


 ぐっと息を飲む。ただ胸に燃え上がる思いを抱いて、奥へ奥へ進んでいく。

 肌で感じる重力がじょじょに狭くなっていく。

 突然の激痛の中、私の体は押し潰される。

 その瞬間、キィイイイ!!!と耳鳴りが聴こえる。

 強烈な目眩の中意識を失った。


 ●●●


 チュンチュン...。

 鳥が鳴いている。

 朝?

 ここは?

 徐々に意識がはっきりしていく。

 目が覚めれば、そこはオバケ倉庫だった。

 なんだ、いつものオバケ倉庫か。

 私は地面に顔をつけたままゆっくり体を起こす。

 そして体についた砂を払い、ゆっくり立ち上がった。


 それにしても今日は暑いな...。

 本当に冬?

 ...。


 あ!

 そうだ!

 今日は何日?

 私はすぐさま携帯をみた。


 朝の7時20分。

 7月1日。

 ...本当に過去に来ちゃった。

 本当に?

  しゃあ、優くんは!

 優くんは生きてるの!

 私はすぐさま立ち上がり、オバケ倉庫を後にする。


 あれから50分ぐらいかけて、優くんの家に向かった!

 優くん!優くん!優くん!


 何度も転けながら、よろけながら優くんの家の前についた。

 ゼーハーゼーハー息を切らしている。

 呼吸が整う前に私はすぐさまチャイム。押した。

 ピンポーン。

 ...しーん。

 誰もでない。ジワリの涙が溢れる。

 不安だけが全身をよぎり、もう一度チャイムを押した。

 ピンポーン、誰もでない。

 ...やっぱり優くんはいないのかな。

 そんな予感を感じる。

 でも諦められない。私はもう一度押してしまった。

 ピンポーン。

 ...やはり誰もでなかった。


 ...やっぱり優くんは。

 諦めのため息と同時に涙が溢れる。


 優くんはいないのかな...。


 そのときガラリと窓が開く!


「くぉら!誰だ!ピンポンピンポンうるせーなぁ!」

 そこにはいつも通りの優くんがいた。

「優くん、だ..。」

 その瞬間、涙が溢れだした。

「は?亜季?お前なにやってんの?つーか喪服?は?誰か死んだの?」

「優くん。...優くん。」

「だーかーらー何とか言えって!」

 飽きれた優くんが窓を閉めた。

 ダッダッダと階段から降りてくる。

 私はただ泣いていた。


 そう、私はこの日から始まったのだ。


 ●●●


 私の意識は今にもどる。

 回想終了。...なんてね。


 キンコーンカンコーン

 授業が始まるチャイムが鳴る。

 私は屋上を後にする。


 私は絶対優くんを救う。

 私は優くんを殺した犯人を許さない。


 物語は始まったばかりだ。


 第3話に続く。

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