君と僕の距離
「この世界では、互いにぶつかり合うことなどないんだよ。互いに重なり合ったりはするけれど、それは決して、ぶつかっているのではないんだよ。
人間の姿をした赤いオーラと青いオーラが、すれ違う瞬間は、一瞬だけ紫のオーラのようになるんだ。面白いよ。
同じように、青いオーラと黄のオーラが、すれ違う瞬間は、一瞬だけ緑のオーラになるんだよ。
それに、僕らには、数十メートルも跳べる飛脚がある。背中には、白い羽根が生えていて、少しだけど、宙に浮かぶことも出来るんだ。
思ったものが、瞬時に出てくるし、もし、君が助けを求めたら、その場に瞬時に、行くことも出来るんだ。
あと、数十年の我慢だよ。あと数十年我慢すれば、自由になれるんだ。
そしたら、一緒になろう」
僕は、彼女にそう言い聞かせたが、彼女に僕の話しは通じていないようだ。
なぜなら彼女は、今、13才。これから、まだまだ先の長い人生がある。若さと好奇心の溢れた生命力。
僕の話しなんかより、この世の楽しみだけに全身全霊で溺れてしまうのかな…。
心配だった。僕は、彼女の30年後に、タイムスリップしてみた。
…やはり、思った通りだ。彼女は、孤独地獄に堕ちていた。
彼女がいる世界の空は、低く、一面暗黒の雲に覆われていた。太陽も月も見えない。しかし、視界はハッキリしている。完全な闇では、なさそうだ。
どうして、こんな世界になってしまったのか、解明する必要があった。
僕は今、巨大な大学の施設の駐車場に立っている。
駐車場の敷地に、服を着たままのマネキンが寝ている。顔は、《しゃれこうべ》だ。声を掛けても、返ってくる言葉は見当がつく。
たった今、自転車で通り過ぎた女性も、能面のような表情だった。
犬を散歩している高齢の女性の頭部には、驚くことに2本の小さな角が生えている。犬は、萎縮して小さくなって歩いている。その犬の小さな黒い目と合ったから、お辞儀をした。分かってる。分かってるよ。可哀想に。
僕が望んでいた世界は、こんな世界じゃない。
どうしてこんな事になったんだ。
彼女に、彼女に光を取り戻してあげなければ。
どうしよう…。
どうしたらいいんだ…。
大変だ。みんなの想念が、世界を暗くしている。
このままだと、この世界は、いずれ虚無の世界に飲み込まれてしまう。