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権理通義

青白い光が文字と数字を作った。

「この国では、生まれた時、核を埋め込む。なかなかの優れもので、財布と、身分証明の代わりになる。それを表示させるのが、この腕環だ。お金の単位はモエ。」

「萌え…。」

「そうだ。モエと言いながら、右手で左手の腕輪を撫でてみろ。」

ジロウは「萌え」と言いながら、右手で撫でると、リンと鈴の音がした。

0と表示されている。

「その字は本人しか見ることができない。が、0と表示されているだろう?」

「はい。」

「つまり、君の所持金は、0モエ…0円ということだ。血族間、夫婦間ならば、金銭は移動できる。また、商品購入した際には、国から特別に貸し出される箱のような物に、この腕輪を当てると、支払いもできる。現金というものは流通していない。」

「何気にハイテク。」

「ん?ハイ?」

「いえ、文明が進んでるなって。」

姫はフッと嬉しそうに笑って「この国は個人情報にはうるさくないからな。」と言った。

「もう一度腕輪を撫でて。」

ジロウは言われた通りに腕輪を撫でた。

「級や、段と表示が出ないか?」

「あ、はい。10級って。」

「10級!?」

テルと姫がジロウの腕を掴んだ。

「ほんとだ。10級だ。」

「マジか…」

「でも、でも、300くらいあるよ。」

テルが数字を指差しながらフォローするように言った。

「ん?何?勇者って。」

「…勇者だな。」

「勇者って?」

「勇者は勇者だろう。」

「勇者って何をするの。え?ミス?」

テルは、ジロウの腕を掴んだまま、ジロウと姫の顔を見比べた。

「ミスなわけないだろう。」

姫は真っ赤になっているジロウと、真剣な顔をしているテルを見比べて、爽やかな笑い声をあげた。

テルはジロウの手を握ったまま、勇者という文字を凝視している。

ジロウは耳まで真っ赤になって早口でまくし立てた。

「似合わないのは、分かってます。」

「いや、すまない。違うんだ。」

「勇者って何!?」

テルはジロウの腕を振りながら聞いた。

「勇者っていうのは…そうだな、とっても強くて悪いヤツを魔王っていうとしたら、その魔王に立ち向かう勇敢な人のことを言うかな。」

ジロウが語尾にかけて声が小さくなりながら説明すると、テルは驚いたように口に手を当てた。

「倒すの?」

「そりゃ、倒しますよ。いたら。でも…。」

でも、この国には魔王なんていないんでしょう。と言葉を紡ごうとしたが、テルが姫に向かって言った。

「手加減しなさいよ。」

「どうだろう。」

姫は腕を組んで、そっぽ向いて見せた。

「まずは、手合わせしとく?自分の実力知るために。」

「どういうこと?」

「え?魔王と戦うんでしょ?審判いる?」

「シン、待ちなさい。」

流石に、姫が助け舟を出した。

「まず、シンが誤解していることから話そう。私は、人間ではない。そして、強い。つまり、ゲームでいうところのラスボスに当たるのが私であろう。そういうわけで、シンの発言につながる。」

ジロウは口をパクパクさせた。

「とはいえ、今は君に私を倒す気がないことも知っているから、安心せよ。私も君と戦う気はない。もし、後々戦いたくなったら、いつでも申し出よ。」

ジロウは何度も頷いた。

「あえていうならば、魔王は私だが、魔物のようなもはこの世界にもたくさんいて、それを専門に倒す組織がある。」

「姫が倒すんじゃなくて?」

「まあ…倒せないことはないだろうが、チームを組んで、チームで戦った方が、強いからな。」

姫が曖昧に返事をすると、テルが顔の前で否定するように手を振った。

「姫って大雑把だから、そこら辺全部消し飛んじゃうのよ。しかも、そこには半永久的に草木も生えない砂漠になっちゃうの。」

「大雑把じゃない。大技なだけだ。」

唇を尖らせながら、姫が可愛らしく否定した。

ジロウは、絶対に戦うことはしないと心に決めた。

「さて、話を戻そう。級とは、いわゆるゲームにおけるレベルのこと。この国では、十級から九段までと、九段以上と、級なしに別れている。九段以上は五十人に満たない。彼らは国の重要な役職について、とても実力も権力も絶大だと思ってもらっていい。級なしは、人口の三分の一程度。」

ジロウは、学校で質問や発表する時のように、手を挙げた。

姫は、話をやめ、ジロウの言葉を待った。

「先ほどからちょこちょこ出てくる三分の一って?」

「この国は、レベルで全てが決まると思ってもらっていい。このレベルはおおよそ、神通力…平たく言うと、魔力によって変わってくる。もちろん、知力や体力、善行や悪行などの複合要素だが、神通力を持っていない人間もいる。他にも、罪人として、神通力を取り上げられた者もいる。神通力があるものとないものの差はハッキリ分かっていないが、遺伝的要素が強いと考えられている。さて、この神通力がないものたちは、『シヨク』と呼ばれ、主に農業や林業、水産業など、神通力を使わない仕事に携わり、着るものなどの生活物資は配給によって賄われている。神通力がない者たちは、お金も持っていない。基本的に学校にも行かないし、計算ができない者、文字が読めない者も少なくない。君が先ほど、私の家かと尋ねた家は、庄屋と呼ばれ、国から派遣された神通力を持つ者が、村を管理し、統治している。付け加えていうと、国から神主と呼ばれる神通力を持った者も派遣されている。」

「ここでは、私ね。」

テルが自慢げに笑った。

「婿殿には神通力があるので、残りの三分の二ということになる。どちらが幸いかは、決められぬ。この三分の二の人間には、二つの死の危険がある。一つは、婿殿の世界や、三分の一の人間と同じ、外傷や病気、老衰による死。もう一つは神通力を使いすぎてしまう死。つまり、魔力が無くなっても死ぬ。神通力と体力は密接に関係している。婿殿が寝て起きて、体調が万全であれば、現在のMAXは300だと思ってもらっていいい。例えば、この周りを1周走ってくれば、数値は多少減少するし、レベルが上がってくれば、MAXの数値は、上がってくる。」

「300が0になったら死ぬってことですね。」

ジロウはブレスレットを眺め唾を飲み込んだ。

「まあ、そう怯えたような顔をすることはない。まず、数値が下がってくれば、体力と同様に動くことも辛くなる。神通力を多少回復させる丸薬もある。誰か助けを呼べば、悪人でない限り、助けてくれるさ。レベルの方は、ゲーム好きの婿殿ならば、説明は不要だろうが…勉学に励んだり、武道に励んだり、善行を積んで、生きていれば、初段までは、それなりに勝手にレベルが上がる。このレベルと、職業によって、つける仕事が変わってくる。」

「じゃぁ、10級は…。」

「そうだな平たく言うと、12歳以下程度だ。段位がなければ、仕事に就くことはできぬ。」

「いや、待てよ。良いかもしれん。婿殿には、しばらく学校に通ってもらいたい。」

「学校?」

ジロウはかすかに眉間にしわを寄せ、姫はそれに気づいたが、見ないふりをした。

「神通力を持つものは、全員学校に通う。この村のように農業に従事しているものの中でも、神通力を持つ子がいる。神主が神通力を測定し、国に報告し、学校に通う手続きをとる。4月入学が一番多いが、9月にも入学が認められる。異界の者も学校に1人や2人程度だがいる。」

「学校に通わなければ?」

「一般的には、神通力を没収する。」

「死ぬってことですか?」

「ああ、それは大丈夫だ。神通力を没収し、農業などに従事する。逆にいうと、子ども以外で、神通力がある者は、農業などには従事できない。かといって、3級以上なければ学校は卒業できないし、仕事に就くこともできない。でも、神通力を持っているとはいっても、どうしても3級以上になれない者もいる。そういう場合には、何度も話し合い、神通力を没収し、農業などの職を紹介することもある。」

「では僕も?」

「いや、婿殿は、私の婚約者で異界人だ。家庭教師をつけて、学校卒業扱いにする予定だった。もちろん、他の選択肢として、神通力を没収して、農林漁業への従事や、学校に通うという選択肢がある。」

ジロウは、再び「学校。」とつぶやいた。

「無理に行く必要はない。婿殿は結婚に迷っているであろう。しかも、私の方も反対の声が強くなっている。強引に結婚するより、しばらく学校に通いながら、私のことを知ってもらうのも良いかもしれん。学校は基礎から丁寧にこの世界のことを教えてくれるのに、うってつけというだけだ。家庭教師でも、十分間に合う。」

姫も、学校でのクラスメイトの、ジロウに対する扱いは知っていた。

ジロウは学校と聞いて、思い出すのは、テルとの出会いで、高校時代の思い出が全て忘れ去られていることに気がつき、眉間のシワを深くした。

「無理に行く必要はない。」

テルも重ねて言った。

「あ、いえ、行きます。学校。」

ゲームも最初に揃える武器や手札が肝心で、なあなあに初めてしまうと、やがて他者と差が生じる。

この国のトップと繋がりを持ち、最高の環境でゲームをスタートさせた。

その後は効率的なレベル上げが必要になる。

効率的なレベル上げをするには、チュートリアルのようなものが必要で、この世界では、学校がそれに当たる。

まずは、好きも嫌いも置いておいて、この世界を知ることから始めなければならないと、ジロは割り切った。

姫が「ほう。」という、少し驚いたような、関心したような表情を見せた。

「では、1つ宣託を。」

「はい。」

ジロウは、居住まいを正した。

「学校では、すこぶる親切にしてもらえる。」

「はい?…それは、うちの子はいい子的な…?」

「言ったであろう。レベルの上下には、善行、悪行も関係する。」

ジロウは、神通力が無くなると、死ぬということにばかり頭が行って、レベルの上げ方については、聞き流していた。さらに、姫の言葉に引っかかった。

「ん?レベルの上下?下がることもあるんですか?」

「なくはない。法律を犯したものは、裁判によって下げられることがほとんどだが、それ以外でも悪行を繰り返せば、常に相手を不快にさせていれば、レベルは下がる。」

善行悪行がレベルに絡んでくるなんてと、ジロウは口をあんぐり開けた。

「姫様が作ったんですか?」

「いいや、この世界の理だ。」

姫は口の端だけでヒールな笑顔を作った。

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