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騎獣士さんは結構強いです

「だから、あなた方に渡すお金など持ち合わせていないと言っているんです」


「おいおい、嬢ちゃんからぶつかっといてそれはないんじゃねぇか?」


『……?』


 ウィードを眠りから覚ましたのはルリアと知らぬ男の言い合う声だった。


「あれは明らかにあなたがわざとぶつかって来たじゃないですか」


「はぁ? 俺が悪いってのか?」


「そうは言ってないですよ。だから謝ったじゃないですか。それで終りでいいでしょう? 見たところ怪我もないようですし、何故私があなたにお金を払わないといけないのですか?」


 心底面倒だと言わんばかりのルリアの声が頭上から聞こえる。

 ウィード自身はルリアが着ているローブにスッポリと納めれ、彼女の両手で抱き抱えられている状態だ。


『……』


「優しい俺達が、ぶつかって来た嬢ちゃんに対して有り金で許してやろうって言ってんだぜ?」


「だから、それが可笑しいんじゃないですか」


 人間の時よりも鋭くなった嗅覚を使い周りの匂いを嗅げば、沢山の人間の匂いとそれに伴う生活の匂いがした。

 どうやらルリアの言っていた村に着いているようだ。

 そして、聞こえてきた会話から状況を察するに、男にわざとぶつかられたルリアがそれに対する詫びとして金を要求されている、と言ったところだろうか。


『……』


 未だ頭上で繰り広げられる言い合いに、さてどうしたものかとウィードは思案する。

 ここで自分が出て行ったところで事態は何一つ改善されないだろう。

 寧ろ悪化する可能性が大いにある。

 だからと言って何もしないのは護衛隊の隊長としても、一人の男としても許せない。

 誰か周りの人達が間に入ってくれればいいのだが、どうやら進んで面倒事に首を突っ込む趣味の人は居ない様で、ルリアと男達との言い合いは一向に終わる気配を見せない。

いい解決方法が思い浮かばず思わずため息をつけば、丁度ローブの中を覗いたルリアと目が合った。


「起きましたか? すみません、これからちょっと揺れますんでしっかり掴まってて下さいね」


 そう言ったルリアがウィードを抱いていた両手の内、右手を離す。


『!!』


 急に不安定になった体にウィードが思わずルリアにしがみつけばそれを確認したルリアが動いた。


『!?』


 ローブの中からだと外で何が起こっているのか分らないが、ルリアが動いたその直後に男のうめき声が聞こえ、その後も右へ左へと激しく揺れたかと思えばまた、今度は別の男のうめき声が聞こえて来てそしてそのまま走り出す。


『……』


 走り出した事で僅かに翻ったローブの下から一瞬見えた光景は、蹲っている二人の男と、その男達の周りで唖然とこちらを見ている村人達の姿だった。

 振り落とされないように必死にしがみつきながらも、ルリアが一体何をしたのか気になったウィードがローブの中から彼女を見上げれば、そんな彼の意志が伝わったのかウィードを見たルリアが苦笑する。


「後から何をしたか教えてあげますよ。取り敢えず一度村を出ましょう。小さい村なのでこのまま居ると見つかってしまいます」


『ガウ』


 そうしてそのまま走り続ける事数十分。

 ルリアとウィードは村を出て少し行った所にある森の中へと入っていた。

 迷いのない足取りでどんどん森の奥へと進むルリア。

 ローブから出されはしたがそれでもルリアに抱えられたままのウィードがどこまで行くのかと疑問を抱いた矢先、森の中とは思えない程拓けた場所へと辿り着いた。


『……』


「驚きましたか?」


 キョロキョロと興味深そうに周りを見渡すウィードにルリアが尋ねる。


「ギルは大きいですからね。なるべく目立たないように人目に付きにくい場所で乗り降りするんですよ。今回はここがその場所です」


 ルリアのその言葉通り、拓けたその場所の中央付近にギルが居た。

 巨体を丸めて眠っている。

 ウィードを下したルリアがギルの元へと歩き出す。


「飛ぶ時もなるべく高い高度で飛んで貰ってるんですよ。今回のこの旅はなるべく目立たない方がいいかと思いまして」


『ギャウ?』


 ルリアの後をついて歩いていたウィードがその言葉に首を傾げた。


「だって国王様達にはあなたの事は秘密なのでしょう? ギルの様な大型の、しかも肉食系の騎獣は珍しいですからね。それに加えてその背にサラウィルの子供なんて乗っていたら直ぐ国王様の耳に入ってしまいますよ。そうなってしまうと下手すればあなたの事がバレてしまいます。だからなるべく人目につかない高い高度で飛んで貰ってるんです。まあ、その代り普通なら半日は飛べるギルも四時間程しか飛べないんですけどね。こればっかりはしょうがないです」


『……』


 意外にしっかりと考えられている事に内心感心していれば、それまで寝ていたギルがのっそりと起き上がった。


「やあギル。起こしちゃったね」


 甘える様に顔を近づけて来たギルを撫でたルリアが持っていた荷物の中から包装された生肉を取り出す。


「ほら、ご飯だよ」


 ポン、と投げられたそれを器用にキャッチしたギルが美味しそうに食べている姿にウィードは思わず唾を飲み込んだ。


「ん? 隊長さんもいりますか? あれ、そういえば隊長さんのご飯の事をササラさんに聞くのを忘れてましたね。私と同じ物でいいんですかね? それともサラウィルが食べる物と同じ方がいいですか?」


『……』


 その質問にウィードは答えに詰まってしまった。

 まぁ、答えられたところで伝わりはしないけれど。

 取り敢えず、目の前でギルが食べている肉が非常に美味しそうに見えてしまった事はウィードの心の中で無かった事にされた。

 これから先の主食が生肉になってしまうと人間に戻った時に思わぬ弊害が生じそうだったからだ。


『ギャウワウ』


 試しにと新しい生肉を取り出してウィードの前に差し出したルリアに拒否を示せば苦笑される。


「やっぱりご飯は普通のがいいですか。なら、こっちですね」


 持っていた生肉をギルへやり、新たに取り出したのは干し肉と果物だった。


「あ、私があの男の人達に何をしたか、でしたね」


『!』


 干し肉をウィードへ渡し果物をナイフで切っていたルリアが突然思い出したとばかりに声を上げた。

 アムアムと干し肉を食べていたウィードもすっかり忘れていた。

 少し気を抜きすぎかもしれないと切り替える為に一度頭を振り、姿勢を正してルリアと向き合う。


「まぁ、大したことじゃないんですよ。ただ小さい頃から護身術を習っていたのでそれを生かしただけです」


『キュワウ?』


「正確に言えば、男の人なら悶絶するほどの急所を一発蹴り上げただけです」


『ギャウ!?』


 笑顔で言ったルリアにウィードは思わず防御の態勢をとってしまったのだった。

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