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護衛の人は不要です

 やると決めたからにはしっかりと。がルリアのモットーである。


「それで? 魔女はどこに居るんですか?」


「……」


 三ヶ月後の交流試合に間に合わせるのが絶対条件ならば、場所によっては今すぐにでも出発しないといけない。

 そう思ってした質問に返って来たのは気まずそうな沈黙だった。


「……え、もしかして、分からないとか?」


「"東の最果ての町"の周辺に住んでいるであろうという事しか分かって居ません……」


「東の最果ての町……騎獣でも一月はかかるじゃないですか!? しかも、周辺って……」


「彼等は総じて人里から離れた場所に住んでいるので、細かい場所までは特定出来ませんでした」


 魔女や魔法使いはその姿を見るのすら珍しい。

 滅多に人前には現れず、現れたと思っても次の瞬間には居なくなっている。

 そんな存在の大体の居場所が特定できているだけでもいい方なのだろう。


「あー、まぁ、それなら仕方ないです。分かりました。そういう事なら、一番脚が速くて一日の移動距離が長い騎獣をこちらで見繕います」


 馬よりも速い速度で移動が可能である騎獣はしかし、その種類によっては一日に一時間程しか走れないモノも居る。

 自分の所有する騎獣で今回の旅に一番向いているモノを考えながら言ったルリアにササラも頷きを返す。

 

「かかる費用は諸々こちらから出させて頂きます。貴女が今飼育している騎獣達の世話もこちらで請け負いますので、注意事項などを書き出しておいて貰えると助かります。まぁ、出来るのは基本的な世話だけになりますが……」


「それでいいですよ。幸い、今居るのは殆どが調教済みの子達ですから、世話自体は騎士団に居る騎獣達とあまり変わらないですし」


「そうですか。後は……そうですね、我が隊から二人程腕の立つ護衛をお付けしましょう」


「要りません」


「え?」


 即答であった。

 スッパリと断りの言葉を口にしたルリアにササラが僅かに驚いた顔をする。


「護衛は要りません。魔女を探しに行くのは私と、サラウィルの子供……隊長さんだけで十分です」


「いや、しかし……女性である貴女と今の隊長だけではいささか不安ですし……」


「多少の自衛の手段なら持っていますし、連れて行くのは肉食系の騎獣になるのでその子に護衛もお願いします」


「肉食系の騎獣?」


「はい。騎獣……と言うか魔獣にも肉食系と草食系がいるんです。まぁ、騎獣となるのは比較的大人しい性格の子が多い草食系が主ですが、それでも極稀に肉食系の騎獣がいます。隊長さんが今なっているサラウィルが一番よく見る肉食系の騎獣ですね。で、その肉食系の隊長さんと一緒に行くのなら、こちらも肉食系の騎獣を用意しなければいけません」


「そう言えば、騎獣を初めて扱う時に絶対に同じ飼育小屋で飼育したり、同じ隊で駆けさせてはいけない騎獣達がいると教わった気が……」


「ええ、その通りです。まぁ、弱肉強食がこの世の摂理ですので。いくら訓練を受けた騎獣だからと言っても本能まではどうする事も出来ません。下手に肉食系の騎獣と草食系の騎獣を一緒に置くと美味しく頂かれてしまうので気をつけて下さいね」


「分かりました。それで、騎獣に護衛をお願いするというのは一体……」


「そのままの意味ですよ。肉食系の騎獣は私もそんなに持ってはいないので必然的に一緒に行く子は絞られますが、なんにせよ肉食系の騎獣を連れていれば草食系の騎獣を連れて行くよりは身の安全に繋がります」


「成る程。しかし、それでも安心とは言えません。せめて一人だけでも護衛に……」


「嫌です。要りません。一応人間の隊長さんと一緒ってだけでも嫌なのに、更に他の人もなんて御免です。隊長さんはまだ姿が魔獣だからいいですけど、護衛の人は人間の姿でしょう? 無理です。嫌です。要らないです」


「……」


 完全拒否である。

 そもそも人間の姿じゃない“護衛の人”とは一体どんなだ、と思わずササラは思ってしまった。

 ここで無理にでも護衛をつけると言えば、それじゃあいっその事その護衛が魔女を探せばいいと言い出し兼ねないので口を噤む。

 それが出来たなら態々彼女を連れて来てはいないのだ。


「……分かりました。では、魔女探しには貴女とウィード様の二人で行って貰います。くれぐれも気を付けて下さい。他に何か質問はありますか?」


「あーえっと、隊長さんの中身はどうなんですか?」


「中身? あぁ、精神的な事ですか? それなら幸い……と言っていいのかは分かりかねますが、まぁ私達にとっては幸い、ウィード様のままです。こちらの言っている事は理解出来ていますし、記憶障害などもなさそうです。ただ、話す事は出来ません」


「そうですか。つまり、見かけだけがサラウィルの子供なんですね……」


 とっても残念そうに肩を落とすルリアと、器用に“何とも言えない顔”をしているウィードにササラはほんの少し、旅の行く末が心配になったのだった。

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