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後悔しました。やった後に。

「我々ではウィード様への適切な接し方も世話の仕方も分からない。けれど王城仕えの騎獣士に指示を仰ぐ事も出来ない。そこで白羽の矢が立ったのが貴女だったのです、ルリアさん」


「はぁ……」


 にっこりと笑顔で言われた言葉に曖昧に頷いて返す。

 はっきり言って、なんてはた迷惑な話に巻き込んでくれんだこの野郎である。

 国王様に報告してよお願いだから。王位争いなんて知らないよそれどころじゃないでしょ。一般人巻き込むなよ馬鹿じゃないの? そもそもやっぱり全ての原因は色ボケ王子にあるじゃなか。私全く関係ないじゃないか。もうヤダ。お家帰りたい。


「他の騎獣士を当たって下さい」


 言いたい事は山ほどあるけれど、何とかそれらを飲み込んでそう告げた。


「騎獣士がそうそう居ないのはご存知でしょう? 貴女を見つけるのにも丸一日かかったのですから」


「なら後三日くらいかけたらもう一人くらいは見つかるかもしれませんよ?」


「そんなに猶予は無いのです。今回の件をそうそう何時までも隠し通せる訳でもないですし、三か月後に予定されている王家主催の騎士団の交流試合にウィード様は参加する事になっています。新しい騎獣士探しに時間を取られ、それに間に合わなかったら全てが明らかになり、レオルド様は元より、第三護衛隊の者達全てが何かしらの罰を受ける事になるでしょう。誠に勝手ながら、一番最初に見つかった貴女に行って貰うのが我々としては今用意できる最善策なのです」


「私にとっては最悪の策なので、今すぐ別の案を望みます」


「そんなものありません」


「私無関係じゃないですか!! 何で巻き込まれないといけないんですか!?」


「無関係だからこそ、巻き込めるのです。貴女は騎士団に騎獣を売っていますが、それ以上の繋がりはない。他の王子達に情報が流れる可能性が低いのです」


「知らないですよそんな事!! てか、これ私断ったらどうなるんですか!?」


「断れるとお思いで?」


「うわ、そんなに驚いた顔で言われるとは思わなかった! 断るって選択肢は最初からないのか、そうですか、こんにゃろう!!」


 自棄になり叫んだルリアの前にスッとショートケーキが置かれる。


「……」


「どうぞ、ほんのお詫びの気持ちです。甘いの、お好きでしょう?」


「……」


 ショートケーキを見た瞬間に動きを止めたルリアに笑顔のササラが言葉をかける。

 あ、これ確実に買収だ、とルリアは思った。

 てか、なんで私が甘い物好きな事知ってるんだろうこの人? 

 あぁ、でも今何か食べたら確実にリバースするんだよなぁ……でもでも、美味しそうだなこのケーキ。食べたいなぁ。あぁ、けど食べた途端に目の前のこの人の笑顔はより一層“いい笑顔”になるんだろうなぁ。

 

「……」


「どうされたのです? 食べないのですか?」


「……いや、」


 難しい顔でショートケーキを睨み据えるルリアをササラが笑顔で追い詰める。

 何とも言えない空気が漂い始めた部屋にノックの音が響いた。


「失礼致します。レオルド様がお見えです」


 そう言って扉を開けた騎士に続いて入ってい来たのは、他の者と身なりからして違う燃えるような赤い髪に群青色の瞳を持った美青年であった。

 

態々(わざわざ)ご足労頂いたのですか!? 言ってくださればこちらから伺いましたのに……」


 ササラが慌てて立ち上がり礼をする。


「気にするな。お前はともかく、騎獣士殿はそう軽々と城には来れないだろうが。俺が出向くのが一番いいと思ってな」


「お気遣い感謝します」


「それで? そちらの女性が騎獣士殿か?」


「あ、はい。そうです。騎獣士のルリア・シーリン様です」


「ほう」


「……レオルド、さま?」


「ん?」


 それまで黙っていたルリアが壊れたブリキの玩具の様な緩慢な動きで“レオルド様”と呼ばれた青年を見た。


「初めまして、騎獣士殿。俺はこの国の第三王子、レオルドと言う。今回は俺達のごたごたに巻き込んでしまって申し訳ない。だが、出来れば是非ともご尽力頂けると嬉しい」


「第三王子、レオルド様……」


 自身の前に立ち、洗練された所作で挨拶をした青年が名乗ったその名を噛み砕く様に復唱したルリアがふいにスクツと立ち上がり、僅か二歩の距離を詰め、レオルドの目前へと迫る。


 この時の自分の思考はそれはそれはとち狂っていたのだと、後にルリアは後悔するのだが、そこはそれ、よく言う『後悔先に立たず』と言うものである。

 取り敢えず、この時のルリアは先程心の中で決めた『レオルド様に会ったら一発ぶん殴ってやる』という事柄を実行に移すことで頭が一杯だったのであった。

 

 その結果、


「ふざけんな、この色ボケ王子!!」


「ツッ!?」


 ゴッ!! という鈍い音を立ててルリア渾身の右ストレートがレオルドの左の頬に直撃したのだった。


「レオルド様っ!!」


「お前!!」


 一瞬の静寂の後、途端に騒がしくなる室内。

 床に倒れたレオルドは助け起こされ、レオルドを殴ったルリアは取り押さえられた。


「ふざけんな色ボケ王子! 自分のやった事の責任くらい自分でとりやがれっ!! 他人を巻き込むな!!」


「……ふ、ふふ……ははははは!!」


 取り押さえられてもなお怒り心頭で叫ぶルリアを暫く唖然と見ていたレオルドが突然笑い出す。


「レオルド様?」


 突然笑い出した主に護衛隊の騎士が困惑気味に言葉をかけるが当のレオルドは笑いながら再びルリアの前に立った。


「なかなか面白いな、お前! 大人しそうな顔をしているのにやるじゃないか!!」


「うっさい。顔は関係ないでしょう。何で私が巻き込まれないといけないのよ……」


「まぁ、確かにお前の言う事にも一理ある。俺だって可能であれば自分で魔女の元に行きたいさ。彼女はなかなかお目にかかれない程の器量の人だったからな」


「……」

 

 そりゃ魔女だもの。そこらの娘と比べられる程の器量ではないだろう。

 てかお前、会いに行ったらまた口説くつもりだろう。ふざけんなよ。

 とは思ってももう口には出来なかった。

 何故なら、レオルドの後ろで絶対零度の笑みを浮かべたササラが腕組みしながら立っていたから。

 ササラの姿を視界に入れた瞬間に正気に戻ったルリアの顔はみるみる青ざめていく。

 そんなルリアの様子には気付かずに、レオルドは話を続ける。


「だがな、俺は王子だ。そう簡単に好き勝手動ける立場ではないんだよ。それにウィードは今や魔獣の姿。俺ではとてもじゃないが手に負えない。だから騎獣士殿、あなたの力が必要なのさ……って、どうした騎獣士殿? 顔色が悪いぞ?」


「……いえ。お気遣いなく」


「そうか? いや、しかし、」


「レオルド様」


 ようやっとルリアの顔色の変化に気づいたレオルドが心配そうに言葉をかけようとするがササラがそれを遮りスッと扉の方を指し示した。


「隣の部屋にて傷の手当てを致しましょう」


「ん? ああ、そうか、殴られたのだったな。分かった。騎獣士殿、また後で来る」


「あ……はい……」


 なす(すべ)なくレオルドを見送ったルリアが漸く解放される。


「さて、ルリアさん」


「……はい」


 ニッコリと笑ったササラにルリアは死を覚悟した。


「この国の王子を殴ったのです。それなりの覚悟はできていますよね? 勿論」


「はい……」


「まぁ、今回の件に関して言えば全ての元凶はこちらにあるのですが、それでも王子を殴ってしまったのです。極刑は免れないでしょう。けれど、こちらとしても貴女に居なくなられるのは非常に困る事態です」


「……」


「私が言いたい事が分かりますか?」


「……」


 一連の出来事を、その小さな体をオロオロさせて見守るしか出来ていないサラウィルの子供(護衛隊の隊長)に一度目を向けてから、ルリアは大きく息を吐く。

 どちらも面倒だが、選ぶなら……


「分かりました。護衛隊の隊長さんを連れて魔女の元に行きます」


「貴女の勇気ある選択に感謝を」


 白々しく礼をとるササラに、感謝も何も王子を殴った罪で極刑か、呪いを解く為に魔女の元に行くかの二択を笑顔で迫ったのはお前だろう、と、自分がやった事でそうなってしまったのは頭の片隅に追いやってルリアはやけくそ気味にショートケーキを頬張った。

 

 今まで食べて来たどのケーキよりも美味しいソレに思わず顔が綻んだのはご愛嬌だ。

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