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同郷の彼に再会しました

「ルリア……?」


 突然自身の牧場の敷地に降り立ったドラクラクにサンスは驚きに目を見開き、そしてその上から降りてきた人物を見て震える声で彼女の名を呼んだ。


「……サンス?」


「っ!」


 呼ばれた自身の名にサンスは弾かれた様に駆け出した。

 何度もつんのめって転びそうになりながら、縋る様に伸ばした手の中にその存在を閉じ込める。


「ルリア!!」


 サンスが覚えているよりも随分と大きくなったその体を、確かめる様に抱き締める。


「ルリア……あぁ、ルリア。夢じゃないよな? 本物だよな? 良かった。本当に、良かった……」


「サンス、あなたも無事で良かった……」


 暫くグズグズとお互い泣きながら良かった良かったとその無事を喜んた後、体を離したサンスはルリアの顔をまじまじと見つめた。


「サンス?」


 じっと顔を見つめてくるサンスに首を傾げたルリアのまだ涙が残る目の下をスッとなぞる。記憶に在るよりもずっと鮮やかな紫の瞳と艶やかな黒い髪。

もう二度と見ることは叶わないと思っていた、気高い一族の色だ。


「そうか。アマトも無事なんだな、良かった。それにしても、ルリアは王都の近くで騎獣士をやってるのか。肉食の騎獣も育てられるなんて、流石は"純血"だな」


「……そんなことないよ」


 一頻り再会を喜んだ二人は今、サンスの家でくつろいでいた。

 数年前に望まぬ形で別れさせられた後の、絶望の中をもがく様にして生きてきた互いのこれまでを語り合い、近況を話して一息ついたルリアがでも、と言葉を発する。


「サンスに会えて良かった。私は"騎獣士"だから彼等の病気については専門外で、王都に居る獣医に診てもらったりもしてるけど、やっぱり少し不安だったから……"薬師"のサンスになら安心して任せられるわ」


「……結局、見習いのままだけどな」


「でも、アーモン先生に付いて各村を回っていたでしょう? 先生もサンスの薬師としての腕は褒めていたし」


「俺は本当は"騎獣士"になりたかったんだ。なのに親父が"薬師"だったからって皆も俺は薬師になるもんだって思って勝手にアーモン先生の助手にするから仕方なく勉強してただけだよ」


「そうだったんだ……」

 

 一概に"獣遣いの一族"と言っても皆が皆魔獣の調教を行っていた訳ではない。

 魔獣の調教を行う"騎獣士"、魔獣の怪我や病気を診て治療する"獣医"、獣医と共に行動し必要に応じて様々な薬を煎じる"薬師"、魔獣の生態や特徴を調べて記録に残す"研究者"、あらゆる事柄において一族と外との繋ぎ役をする"仲介者"、家畜や農作物を育てる"農家"、子供に読み書きなどを教える"教師"、他にも様々な職に就いている者達が村々を行き来して協力しあいながら生きていたのだ。

 

「最近になってやっと、自分の牧場が持てたんだ。俺もいつかはルリアみたいに肉食の魔獣も調教できる様になりたいもんだな」


「肉食の魔獣は私でも難しかったよ。そもそも私が教えて貰ってたのは草食の魔獣の調教の仕方の更に初歩的な段階までだったから、最初の方は草食の魔獣を調教するのでさえ苦労したし」


「そうなのか。……けど、あのドラクラクはいいな! 素晴らしい個体だ。オスか? 見た感じまだ若いだろう?」


「そう、男の子。二歳だよ。ギルって名前なの」


「名前をつけてるって事は何処かに卸すつもりはないのか?」


「うん。産まれたばかりの頃から私が育てたから、誰かに売り渡すつもりはないよ」


「そっか。……なぁ、後で見せてもらってもいいか?」


「いいよ。好きなだけどうぞ」


 新しいお茶を、と席を立ったサンスを見送ってルリアは小さく息をついた。

 "薬師"の話をした時のサンスから感じた強い拒絶と嫉妬心。

 "騎獣士"に対する憧れは、獣遣いの一族として産まれた者ならば誰でも抱くモノだ。けれど、人にはそれぞれ個性があって、向き不向きがある。

 サンスが薬師に選ばれたのは、彼が言っていたような父親のせいではない。

 ルリアが騎獣士に選ばれたのだって、彼女が"純血"だからではないのだ。

 "血"は、ただその人を形作る要素の一つであり、その人の生き方を決めるものではない。

 彼の、純血に対する強い憧れは子供の時から片鱗を見せていたが、一族が滅ぼされてからは更に拍車がかかった様だ。


「残念だなぁ……」


 ポツリ、とルリアは呟いた。

 ひどく悲しそうな声だな、と自分で苦笑して見える範囲にある自身の髪を1房摘まんだ。


 ルリアは、獣遣いの一族の騎獣士だ。

 胸を張って言える。

 けれどそれは、髪が黒いからでも、瞳が紫だからでもない。

 獣遣いの一族の村で産まれ育ち、その誇りを胸に生きてきたからだ。

 例えルリアが騎獣士ではなかったとしても、それでもルリアは自分は獣遣いの一族だと胸を張る。

 帰る場所すらなく、一族の内どれだけが生き残っているかも分からないけれど、それでもルリアは最後の一人になろうと、一匹の騎獣すら従えてなかろうと、この身一つであったとしても、胸を張る。私は獣遣いの一族のルリア・シーリンだ、と。

 アマトだってそうだろう。彼女は職で言えば"研究者"だ。それに髪も瞳も一族の色を持ってはいない。

 それでも彼女は言うだろう。自分は獣遣いの一族のアマト・ハーベルだ、と。


 それは、彼女達にとって"血"というものが然程重要ではないからだ。

 けれどサンスは違うのだろうと、ルリアは溜め息を吐き出した。

 彼は"血"に拘り、"職"に拘り、"色"に拘っている。

 獣遣いの一族とは、"純血"で、"騎獣士"で、"黒の髪に紫の瞳"を持った者達である、と。


 もう一度小さく息をついたルリアは、沈みかけた気持ちを持ち直させる為に、シャラナスが話してくれた今回の調査内容について考えを巡らせた。

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