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当人達の預り知らぬ所で

「ご無事ですか、レオルド様?」


「ああ」


 襲って来た男達の最後の一人を倒したササラが問うて来るのに答えながら、レオルドはため息を吐き出した。


「ウィードが居なくなってから急に増え出したな」


「ウィード様が不在の事は公にはしていないので、大方エーデルリース様辺りがご丁寧にも皆様にお話下さったのでしょう」


「まぁ、そうだろうな。だが、ウィードさえ居なければ俺を殺れると思っているのなら考えが甘いな」


「そうですね。護衛隊はなにも、ウィード様だけではないというのに」


「俺が選んだ者達だ。弱い訳がなかろうが」


 王子、王女につけられる護衛隊はそれぞれの王子、王女が自ら選び勧誘する決まりである。

 その人数や選出基準に決まりは特になく、護衛隊の質でその主たる王子、王女の人を見る目や人の上に立ち統率する力の有無が見定められているともされる。

 第三王子のレオルドの護衛隊は二十人余り。

 他の王子、王女達の護衛隊からすると少ない人数である。

 その構成メンバーも少々異質で、殆どが爵位持ちの者から構成されている他の護衛隊とは違い、レオルドの護衛隊は平民出の者が半数以上であった。

 他の王子、王女からは白い目で見られる事も多かったが、護衛隊の隊長達と王宮付きの騎士隊からの代表者数名で争われる交流戦は二年連続でレオルドの護衛隊隊長であるウィードが優勝した。

 それ以前の交流戦も上位の成績を残しているのだから、レオルドの人を見る目は確かなものである。

 そんな彼が選んだ護衛隊の者達は隊長が居ないだけで機能を失うほど無能ではない。

 隊長であるウィードがルリアと共に王都を発ってから20日余り。

 その間にレオルドが襲われた回数は数十回。新記録達成である。


「まったく、エーデルリースの口の軽さには驚かされるな」


 レオルドが溜め息を吐き出し呟いた。


「ウィード様達が戻って来るまで何事もなければいいのですが……」


「何事もなかったとして、どのみち交流戦でウィードが優勝してしまえばエーデルリースの婚約者にされてしまう。それを阻止しない事には俺達に平和は戻って来ないだろうな」


「もういっその事、ルリアさんとくっついてくれませんかね、ウィード様」


 ササラの言葉にレオルドが瞬く。


「なぁササラ、ルリア嬢の性格はどんなだ?」


「性格、ですか? そうですね、私も二回しか会っていないので詳しくは分かりませんが。まぁ、負けん気は強いでしょうね。レオルド様に殴りかかりに行くくらいですから。後は、頭も悪くはないのでしょうが、考えるより先に体が動くタイプでしょうね。あぁ、それと好きな物事に対して向けられる笑顔は中々に可愛らしかったですよ」


「負けん気が強くて頭もいい。それに笑顔は可愛い、か」


「あの?」


 うんうん、と頷くレオルドにササラが困惑気味に問いかける。


「いけるかもしれんぞ、ササラ!」


「は? 何がですか?」


「ルリア嬢とウィードだ」


「いけるかもと言う事は、二人が恋仲になると?」


「あぁ。ウィードはそこいらに居る女らしい女より、自立した気の強い女が好みだ。流石に顔の好みまでは知らんが、ルリア嬢の性格はウィードの好みに合うだろう」


 なんせ俺を殴り飛ばした女だからな、と笑って言ったレオルドにササラは心の底からそうであって欲しいと思わずにはいられなかった。

 だってそうなってくれた方が一番()()()物事が片付くのだから。


 どちらにしろ、二人が無事に、尚且つウィードが人間の姿で交流戦に間に合う様に戻って来てくれない事には何も解決しないし、もしウィードとルリアが恋仲になっていたとして、果たしてそれでエーデルリースが納得して諦めるのかと問われれば些か答えに窮してしまうのだが、それでもエーデルリースとの婚約を断る理由にはなるだろう。

 そう上手く事が進まない事を重々承知の上で、それでもササラは物事が一番()()()()()進んでくれる事を願った。


「まぁ、取り敢えず、」


 ニッコリと微笑んだササラにレオルドが嫌な予感を覚えた。


「レオルド様は暫くの間街に行かず王宮で大人しくしていて下さい」


「あ? 何故だ?」


「何故もなにも、あなた様が街へ行く度に襲われるのですから当然ではないですか。毎度毎度、襲われると分かっててついて行かなければならない護衛隊(私達)の気苦労も分かって貰いたい」


「何も襲われるのは街に居る時だけではないだろう」


「ええ。けれど街に居る時に襲われるのが八割以上なのもお分かりでしょう?」


「……」


「ウィード様が戻って来るまで街へ行くのは禁止です。いいですね?」


「……あぁ、分かった」


 ニッコリと、それはそれは爽やかな笑顔で言われた言葉に、いくら王子と言えども否やとは言えないレオルドであった。

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