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ウィードと私

「私の名前はルリア・シーリン。ご存知の通り"騎獣士"を生業にしています。歳は十九で家族は居ませんがアマト姉様が家族の様なものです」


 話をしようとルリアは言った。自己紹介からやり直そうと。

 けれど、ウィードが今話せる言葉は彼女には理解出来ない。

 どうするべきなのかと悩んでいれば苦笑したルリアと目が合った。


「言うのが遅くなってしまって申し訳ないのですが、私、ウィードの言葉が分かるんですよ」


ウ?(え?)


「数日前に行った湖で水面にウィードの人間(本来)の姿が映ったじゃないですか? あれから何故かウィードの言葉が分かる様になったんです」


()(え?)? (は?)?』


 それは、つまり、あの、誰にも分からないだろうと思っていたからこそ出来た、発声練習も、独り言も、全て、彼女には何と言っているか分かっていたという事で……


ギャウワァ(死にたい)……』


「あー、元気出して下さい?」


 疑問系で慰められた。

 だが、これはいい事だ。どうにかしてウィードという"人間"に情を抱かせる事が出来る。

 

ワフゥ、(あー、)ウワフ(ウィード・)ギャオン(シルナンだ。)ギャウガウワウウ(王国騎士団第三護衛隊)ガウワウン(隊長をやっている。)ガウワンワフゥ(歳は二十三だ)


「二十三で隊長って、凄いですね」


『……』


 本当に言葉が分かっている……

 驚きに目を見開くウィード。

 改めて表情豊かな魔獣だとルリアは笑った。


ウー、(あー、)ギャガウワオン(護衛隊の殆どが)ガオンウワンガルル(見習いからの叩き上げ)ガウフゥ。(だからな。)ワウンガオ(実力があれば歳)ギャウン。(は関係ない。)ワフゥガウガウ(護衛隊隊長より上の)ガルオンギャウ(地位に就くなら)ゥワフンガウワウ(爵位が必要になるがな)


「騎士の人達も色々とあるんですね」


 それからは色々な事を話した。

 好きなモノ、嫌いなモノ、魔獣に騎獣、自分の事や自分の周りの者達の事。

 ただ一つだけ、ルリアの過去については聞くことも話す事もせずに、それでも二人は夕方になりアマトが夕食の為に呼びに来るまで話していた。


「では姉様、お世話になりました」


 翌朝、空が白み始めた時刻にルリアとウィードは見送りに来たアマトへ頭を下げた。


「もう少しゆっくりしていけばいいのに」


「旅の途中なのです。少し、先を急がなければいけません」


「そう、気を付けてね」


「はい。また来ます」


 別れを惜しむ様に手を握った二人。


 どのみちゆっくり出来る旅路ではない。

 当初は泊まる予定ですらなかった。

 だからルリアの言葉はとても正しい事なのだ。

 けれどウィードはふと思った。

 彼女達はお互いの存在をとても大切に思っていて、そして、今回は久しぶりの再会だったのだ。

 それなのに、こんなに早く別れてしまってもいいのかと、そう思ってしまった。

 それはこれまでのウィードであったなら先ず考えない事だった。

 何よりも自分が元の姿に戻るのが優先で、 なるべく先を急ぎたいと思っていた頃のウィードなら、絶対に持ち得ない考えだった。


『……』


 静かに、自身の変化を噛み砕き、飲み込んだウィードは小さく息をつく。

 悪い変化ではないのだろう、きっと。


「ウィード君」


 ルリアとの別れを済ませたアマトがウィードを抱き上げる。


「ルリアの事をお願いね。きっと、また二人で訪ねてちょうだい」


『ガウ』


 しっかり頷いたウィードにアマトが嬉しそうに笑った。

 ルリアに似た笑顔にウィードは眩しそうに目を細める。

 彼女達は血の繋がりこそなくとも、確かに"家族"なのだと思える笑顔だった。


「行きましょうウィード。旅はまだまだ始まったばかりです。先を急がないと交流戦に間に合いませんよ」


ワゥ(あぁ)


 アマトの家を後にしてギルの背に乗った二人は朝日が登り始めた空を行く。

 二人の纏う空気がそれまでと違う事に気付いたのか、ギルが嬉しそうに鳴き声を上げ力強く羽ばたいた。

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