友達
空色の目をした少年は、お屋敷でうまれた子どもトラウムでした。
リアは木からゆらゆらと降りていき、トラウムの目の前に立ちました。
ふたりはともに5歳でしたが、すでに大人である精霊のリアとは異なり、トラウムはまだ子どもでした。
身長も、リアのお腹のあたりまでしかありません。
小さいなぁとリアは思い、そのふくふくとした真っ白なほっぺたに手を伸ばしました。
するとリアの指が触れたとたん、トラウムは顔を赤くして後ずさりました。
「お、お姉さん、だれ?」
空色の目にじっと見あげられて、リアはきょとんと目を丸くしました。
「あなた、私が見えるの?」
リアが尋ねると、トラウムも不思議そうにうなずきました。
「見えるよ?」
当たり前のように言うトラウムに、リアは驚いて、他の精霊が見えるか尋ねました。
けれどトラウムは不思議そうに首をかしげるばかりです。
「他の精霊?……ここには、僕とお姉さんしかいないよね?」
「人間なのに、精霊が見えるの……?それも、私だけ?」
ふつう人間には、精霊の姿は見えません。
もうずっと昔には精霊の姿が見える人間もいたそうですが、それは遠い昔のことだとリアは一族の長老からきいていました。
本当に小さな赤ん坊なら、今でもときどき精霊の姿が見える子どももいるようですが、幼児といえる年齢になって精霊が見える子どもの話なんて、リアは聞いたことがありませんでした。
見た目よりも、心が幼い子なのかな、とリアは思いました。
それにしても、たった一人の精霊だけが見えるなんて、珍しいことです。
不思議な人間だなぁ。
それがリアの、トラウムへの初対面の印象でした。
リアが考え事をしている間も、トラウムはじっとリアを見ています。
リアは自分を熱心に見つめるトラウムが無性に愛おしくなり、そのお日様のようなふわふわした髪を撫でました。
「ねぇ、人間の子。私はハミングバードの精霊、リア。あなたの名前は?」
「リア?……僕の名前は、トラウム。5歳です!」
「5歳なの?じゃあ私と同じ年だね」
リアは、トラウムの前に膝をつき、視線を合わせました。
トラウムは目を丸くして、
「同じ年齢?お姉さん……リアも、5歳なの?そんなに大きいのに?」
「精霊は、人間とは年の取り方が違うから。5歳までにひといきに大きくなって、これからはあまり大きくならないの。きっとすぐにトラウムのほうが大きくなるよ」
リアはほんの少しの羨望を混ぜて、トラウムの目を覗き込みました。
トラウムは恥ずかしそうに眼を伏せ、
「だったらいいな」
とつぶやきました。
リアはそんなトラウムから目が離せません。
もっとトラウムとおしゃべりしたい。そんな気持ちで、胸がいっぱいです。
リアはふわふわした気分で、言いました。
「きっとすぐ、あなたは大きくなるわ。……ねぇ、トラウム。私のお友達になってくれる?」
「え、うん。いいよ!」
トラウムは照れくさそうに、けれど大きくうなずいてくれました。
リアの胸は、ますますふわふわ楽しい気分になりました。
リアはそっとトラウムの額に自分の額を合わせると、
「約束だからね」
と言いました。
それは精霊の友情の契りでした。