出会い
むかしむかし。
ハミングバードという精霊の一族に、リアという女の子が生まれました。
海のように青い髪に、翡翠の目をした愛くるしい女の子です。
同じ日、あるお屋敷の一角で、人間の男の子が生まれました。
男の子の名前は、トラウム。
お屋敷のご主人様と奥様の初めてのお子でした。
同じ日に生まれた二人ですが、人間の子どもが20年近くかけて大人になるのに対し、精霊は大人になるまで5年しかかかりません。
二人が生まれて5年後のある晴れた日。
リアは大人の精霊として、ハミングバードの一族を離れ、ひとりで生活をすることになりました。
大人になったハミングバードという精霊の一族は、やがて番をみつけるまで一人で暮らすという決まりがあるのです。
住み心地のいい場所を求めてふわふわ漂っていたリアは、トラウムが暮らすお屋敷に目を止めました。
トラウムの暮らすお屋敷は広く、庭も樹木が生い茂っていたので、精霊には住みやすい場所でした。
案の定、お屋敷にはすでにたくさんの精霊たちが暮らしていましたが、ハミングバードの一族はまだいなかったので、リアはここでしばらく暮らすことにしました。
住む場所が決まれば、とにかく綿密な調査が必要です。
ハミングバードは、光を浴び、歌を歌うことで成長する精霊です。
日当たりのいい場所と気持ちよく歌える場所がどこにあるのか、お屋敷中を探しました。
リアは、特に精霊としての力が強いため、毎日歌を歌って体から力を逃がしてやらないと、力がたまりすぎて疲れてしまいます。
そのため、気持ちよく歌を歌える場所を探すのに力が入ります。
お屋敷をあちこち探険していたリアは、いくつか素敵な場所を見つけました。
中でも気に入ったのは、中庭にあるどっしりとした幹を持つクヌギの木です。
リアは木の枝に腰掛けると、ハミングバードに伝わる歌を歌い始めました。
「ハミングバードのおつかいは それはとても楽し
いちごにミルクに月見草 ぜんぶあなたのため」
リアが歌うと、木々は気持ちよさそうに枝を揺らし、リアの体からは光の粒がはらはらとこぼれました。
光の粒は、精霊の力そのものです。
たっぷりと体からこぼれる光の粒を見て、リアは自分の力がますます強くなっていることを悟りました。
その時です。
樹の下から、不思議そうな声が聞こえました。
「誰か、いるの?」
木の下からリアのほうをまっすぐに見ていたのは、澄み渡る空のような青い目をした少年でした。