表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

エピローグ

 

「沙美、明日は?」

「う~ん……、寝てる」

 

 寝る前には、必ず明日の確認が入る。そんな、変わらない日常が戻ってきた。いつものように風呂上りの髪をバスタオルで拭きながら、母さんに返事をして自分の部屋に戻る。

 明日は土曜日。約束も何も無い。だいたい、こんな腫れぼったい目じゃ、どこへも行けないし、これが明日直る予定もない。

 あたしが最後に見た人。ナディーヌ。ぼやける視界の中のナディーヌは、必死になって笑おうとして失敗していた。涙がぼろぼろ零れていた。

 

「もう……会えないん、だよ、ね…」

 

 生きているけど、会えない。あの世界には行けるけど、その時代にナディーヌは居ない。生きていない。

 

「お姫様、冷静に…見れるか………ん?」

 

 自分の机の上に、装丁がしっかりした本の山。1、2、3、4、5冊の見知らぬ本。

 間違いなく、あっちの世界のもの。

 

「あ~、おっさん達に心配かけちゃったんだ」

 

 小説好きのあたしの為に、元気になれるよう届けてくれたんだろう。

 無意識に一番上の本を手に取り、ベッドに転がり込んだ。

 

「っ…?!!」

 

 題名は「私の友達サミへ」。

 慌てて起き上がり、ページをめくった。

 

『この日記は、私の最初のお友達、サミ貴方への手紙です。

 これは、私が死んだ後、長様達に預かってもらいます。

 そうすれば、いつか貴方に渡せると、貴方がこれを読んでくれると聞きました。

 

 日記と書いてありますが、私の毎日を書いても貴方に呆れられてしまいますから、何か素敵な事があったら、ここに書こうと思います。

 

 サミ、貴方は、元気かしら?

 私を覚えているかしら?

 貴方の毎日が幸せである事を、異世界から祈っています ナディーヌ』

 

 目の前がぼやけて読みづらい。

 涙が、ぼたぼた落ちてくる。

 喉がヒリヒリする。

 そんな事を一切無視して、とにかく急いで目を通そうと、物凄い斜め読みを始めた。

 所々に挿まれた、家族の絵姿。

 子供達に囲まれ、王様と一緒に笑っているナディーヌ。

 

「絵師さん……ナディーヌの綺麗さ…描き、きって……ない、ヨ…」

 

 日記には、こんな小さな絵を描くのは不本意だったらしい絵師に、我侭を言ったと書いてあった。

 その絵のナディーヌをそおっと触る。

 

「子供…3人、だったんだ、ね」

 

 男の子一人に、女の子二人。

 きっと王様は、目に入れても痛くないどころか、最高に幸せだぞっていう状態だったに違いない。だって、女の子の二人とも、ナディーヌにそっくりだ。

 

「男の、子は、御父さん、似、…っ?!!」

『サミ、聞こえるか?』

 

 頭の中に、少し前に聞いた声が反響する。

 部屋を一通り見た。誰も居ない。

 

『サァミ、元気~?』

「エテ…さん?プランタンさん?」

『サミさん、声だけですが300年ぶりですね』

『え~、この間影から見ていたよね~?』

『あの時は、挨拶をする訳にいきませんでしたからね』

 

 イヴェールさんの優しい声。

 

『通じておるようじゃな。凄いのぉ強大な魔法使い』

 

 変わらないオトンヌさんの声。

 

『その肩書き、止めて下さいって言ったじゃないですか。私は、ローランですっ!

 サミさん、声は、はっきり聞こえていますか?』

『お嬢ちゃぁん、俺の声はどうだぁ?』

『サミ、泣いてるだろ?』

 

 おっさん達。

 

「ローラン、ちゃんと聞こえてる。

 ファビさん、傍に居るのと変わらない感じだヨ。

 ディックさん……っ、だって日記が……」

『それが、ナディーヌとの最後の約束じゃ。しかと届けたぞ』

「………会いたい、の、にっ…」

 

 ぼたぼたと、手に落ちてくるものが止まらない。

 

『ナディーヌは、見事に生き抜いたぞ。次は、お主じゃな』

 

 涙、止まった。速攻止まった。

 えっと、そりゃぁ、あのナディーヌ。間違いなく見事に生きたに違いないヨ!胸はって思えるヨ!

 んでもね、でもね、何ですか?この一般小市民に、洒落にならないドでかい壁?あたし、ナディーヌの次っ?!比較対象にならないじゃん!!

 

『楽しみじゃのぉ』

 

 う"っ……。

 

『あれから、ナディーヌは一度も泣かなかったぞ。最後に笑えなかったのが唯一の後悔だったと、いつも苦笑していたからな』

 

 そうだ、あたしも笑えなかった。きっとナディーヌに、心配をかけてしまった。二度と会えないのに…。

 

『サミさん、ナディーヌには何人もの友達が出来ましたが、それでも日記を書く事が、一番の楽しみだと言われてましたよ』

 

 ナディーヌ……。

 

「せ、誠意努力致しますです……ので、あの……広ぉ~いお心と、長ぁ~~い目で、ぜひぜひ見守ってやって下さいっ!」

 

 前回の旅で発生した宿題が、今だ全部クリアされていないのに、どんどん宿題が溜まっていく。必死になって頑張らないと……間違いなく終わらない。終わらないのに、追加分増殖中。

 でも、あたし、ナディーヌの友達だから。努力をしない訳には、いかない。

 

「あの、日記、ありがとうございました!」

 

 手の中にある日記は、保護している魔法書と違い、どうやって保存したのか不明な新しさ。

 頭の中で、長さん達の笑い声が響く。ほんの数時間前に聞いていた声。でも、時は300年経っている。

 

『ねぇ、ねぇ、サァミ、いつ、こっちへ来るの?』

「あー、それは、強大な魔法使い殿次第なんですけど」

『強大な魔法使いぃ~僕、早く会いたいな』

『サミさんまでっ……ローランでお願いします!

 それで、召還ですが、サミさんのご都合がありますから……いつとは……』

『だってぇ~サミは、ローラン次第って言ってたよ』

 

 おっさん達とプランタンさんの会話が続く。

 おっさん達は、お城でのあたしの立場や、都合を妖精さん達に説明している。

 その言葉を聞きながら、鼻をかんで涙をごしごし拭いた。

 

「あの~この魔法って、ディックさんがやっちゃダメだって言ってたヤツだよねぇ?」

 

 異世界のあたしと会話する為に、あたしの魔法を肩代わりするとか言っていた。しかも、ファビさんやディックさんも会話に加わっている事を考えると、三人分加算されている。

 

『強大な魔法使い殿が帰ってきた時に、ギュスターヴが書いた「異世界と会話する方法」という開発途中の術書をお渡ししました。

 ギュスターヴから、渡してくれと頼まれていたものです』

 

 なるほど~、興味持っていた術をそのままにしとかない、ギュスターヴさんの研究熱心な所を思い出す。

 

「あれ?研究書って、完成していなかったの?」

『帰ったばかりの私に、長様方々は本を押し付けて直ぐに完成しろと、脅……いえ、お願いされまして……』

 

 あぁ、長さん達、脅したんだね。間違いなく脅したんだね~。

 

「それで、ローランの術力っていうのか、それ、大丈夫?肩代わりするって言っていたよね?」

『はい、大丈夫です』

『流石、強大な魔法使いだ。ギュスターヴが必死になって実現しようとしてたのに、全然発動したなかったんだぞ。この術を実現するには、相当な術力が必要みたいだな』

 

 エテさんが、しみじみ言う。

 

「……ローラン、凄いね。

 んでも、ギュスターヴさん、何で必死になっていたんだろう?」

『お主と、ナディーヌを会話させる為じゃ。わらわ達が手伝おうにも、なぜか異世界に力を飛ばせなくての。どうしようも無かったのが、悔しかったのぉ』

 

 ギュスターヴさん、ありがとう、ありがとう。一緒に努力してくれた、長様達もありがとう!

 

「ローラン、あのさ何日もそっちへ行くんじゃなくて、たまに一時間ぐらい、そっちへ行くのってのは難しい?」

 

 直接お礼が言いたい。もう、ギュスターヴさんには無理だけど、長さん達には、本の分も合わせてお礼を言わなくちゃいけないヨ!

 

『………そうですね。その方が隠しやすい』

 

 あー、あたしって、あの腹黒王様から今だ隠れなきゃいけない存在でした。

 

「その時に、色んなお話を聞かせて!ファビさんが、お話してくれるって言ってた御伽噺とか、ローランや、ディックさんの小さい頃のお話とか、300年前のお話とか……少しづつ、聞かせて欲しいな」

 

 お礼と合わせて、宿題もクリアしなくちゃいけない。

 そう、会う機会があれば安心する。おっさん達は、間違いなく生きているって思える。日記を読んでいて、おっさん達の存在までもが不安定に感じた。そんな事は無いって実感したい。そして、300年前は過去だって、ちゃんと心も理解しなくちゃいけない。

 まだまだ、ナディーヌみたいに頑張れないから、少しおっさん達や長様達から力を借りる。情けないけど……それから、レベルアップを図ろうと……うん、頑張るヨ!

 まずは、お話を聞いて涙が出なくなる事が先決だ!

 

「あたしの時計、まだ動いているよね?今何時?」

『7時34分だ』

 

 ディックさんのそっけない声。凄い、一回だけさらっと読み方を言っただけなのに、ちゃんと覚えている。んでも、時間合わせてないから、ずれまくりだ。

 

「なら、明日の……6時ぐらい…いいかな?」

 

 それで、今の一時間ぐらい前、9時頃になる。

 

『分かりました。楽しみにしていますね』

 

 ローランさんが、嬉しそうに言ってくれる。あたしも、凄く嬉しい!

 

『おやすみだな』

 

 ディックさんの声もだ。

 

「うん、また明日!おやすみ」

 

 頭の中で、みんなの声が、ばらばらにおやすみの挨拶を伝えてくる。そして、プツリと音が消えた。

 明日は大変だ。

 9時までに、宿題も寝る支度も全部終わらせなくちゃいけない。

 あ、そうだ人形!オトンヌさんに見せなくちゃって、あれ…高そうだよねぇ?自分が頭に思い描いた人形は豪奢な衣装を着ていたし、大きさも結構あった…あれ、あたしの小遣いじゃ買えないぞ。

 ごめんなさいオトンヌさん、Webから印刷したのを見せて、我慢してもらおう。そうか、あの世界なら、誰か見たままに作れる人が居そうだ。お願いしよう…って、それもお金がかかるじゃん。やっぱり、印刷したので我慢してもらおう。

 最後に偽装工作。部屋にあたしが居なくても分からないようね。うん、抱き枕に、あたしの代わりをしてもらおう。

 手から零れ落ちた日記を拾う。

 また、泣きそうになるのを必死になって我慢する。

 ベッドの端にある本棚に、一つ一つ入れる。

 これは、あたしの宝物。ちゃんと、ゆっくり、一頁づつ読む。

 目の前が、霞んでいく。修行、足りなさすぎ。長さん達に笑われないよう、楽しい事だけを思い出すんだ!

 

 部屋の明かりを消した。

 

 今日も楽しかった。

 きっと明日も楽しいに決まってる。

 おやすみなさい…みんな。

 

これで、サミちゃんの、300年前のお話は、終わりです。

そして、サミちゃん一人称の話も終わりです。

寝物語の先の話が、どうしても、サミちゃんが主役じゃないもんで…かといって、一人称にもしずらい内容なものですから、寝物語で三人称神視点のお話に、この話を馴染ませようかと……f('';)コソクダ…。

んでも、これからもサミちゃんは、ギュールズ(覚えてます?この異世界の国の名前…)に関わっていきます。


次回は、寝物語。

色々な人の小話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ